それは死に至る病
乾いた風が俺の前を通り抜けた。
目の前には、荒廃した街が広がっている。
足元に落ちている岩石に、赤黒い液体がべっとりとこびりついている。
恐らくは、誰かの頭を砕くのに使われたのだろう。
この状況では、あらゆるものが武器になる。
そこにルールなど存在せず、生きるか死ぬかの単純明快な世界だ。
俺はヒーローに憧れた。
弱い人々を守り、悪を倒す。
そんな完全無欠の正義の味方になりたかったのに。
いろんなことから逃げて、周りの人にも、自分にも言い訳ばかりして。
何もわからずに、ただがむしゃらに走った。
その道がどこに続いているのかも知らずに。
理想ばかりじゃ何も変えられない。
でも、理想を追わなきゃ自分では無くなってしまいそうだった。
いつだって、自分が大切だったんだ。
俺、加賀美翔一には超能力がある。
人並外れた力を出せたり誰も聴き取れない言葉が聴こえたり。
だから、スポーツテストや体育大会では毎回ヒーローだった。
そんな順風満帆な人生を超能力のおかげで送っていた俺だが、ここ最近はちょっとその超能力の悩まされている。
それは声、だ。
頭の中に誰かの声が響いてくる。
それは聴き取れそうで、聴き取れない。
飯食ってる時も、寝てる時も絶え間ないものだから、いい加減辟易している。
ああ、まただ。
「こっ……き……よ」
勘弁してくれ……。
今は授業中なんだぞ。
テストにでるって言われてるとこなんだよ……。
「あ……し……る……よ」
瞬間、それは起こった。
俺の目の前の生徒が震えだしたかと思うと、灰になったのだ。
「え?」
起こっている出来事に、理解が追いつかない。
だって、人間は灰になんかならないから。
気がつくと、教室中に灰が散乱していた。
俺以外の人間がいなくなってる。
みんながいたはずの場所には灰に埋れた制服があるだけ。
「な、なんだよこれ!!!!! なんでみんな灰になってんだよ!?」
応える声があった。
「ウウウウウゥゥゥゥゥゥ………………」
声の方を向く。
そこには、目を覆いたくなるほど醜悪な、怪物がいた。