捻くれ者の捜索。
黒羽四葉が消えた。
その事実は、僕を焦らせるには、十分すぎた。
―――人を殺してしまってはいないだろうか、と。自分と同じ過ちを犯してしまってはいないかと。自身の憎しみを、撒き散らしてしまってはいないかと。
故に僕は、彼女を探し回った。走り回って、探し回った。流石に裸のまま探すのははばかられたので、忌々しく忌々しい、鬼の力を使い、制服を作ってから、彼女を探し回った。走り回った。街中を探し回った。
しかしあの膂力だ。今頃は、街の外に出ていてしまっても、おかしくはない。
見つけてももう、手遅れな可能性が、―――人を殺してしまった可能性が高いだろう。
それ程に鬼とは凶暴で凶悪なものである。伝承に基づいて、そうなのである。
なら僕は、とんでもないことをしてしまったのかもしれない。たくさんの人を間接的に、人を僕が、殺してしまったのかも知れない。また殺してしまったのかもしれない。
だとしたら、無意味だな。こんな行動も。黒羽四葉を探すことも。
でもそれは、僕の足を、止める要因にはならない。
心当たりはない。でも探さない理由にも行かなかった。これ以上罪を、重ねるわけには、行かなかった。
とりあえず、彼女と僕に接点のある場所から、当たってみることにした。
彼女は僕に恨みを持っているはずなのだから、僕と彼女に関係している場所にいてもおかしくはないと思ったからだ。彼女が殺人衝動の元に動いているのなら、人通りの多いところにいるだろうとも思うが、この時間だ。深夜2時を回ったところだ。人通りのあるところがあるとも思えない。故に、まず僕は彼女と僕に接点のあった二箇所の内の近いほう、つまりは、学校に趣いた。
彼女はそこにいた。皆さんは拍子抜けしてしまうかもしれないが、彼女はそこにいた。―――あの校舎裏にいた。彼女が僕に告白し、振られてしまったあの校舎裏だ。いや、いたというより、倒れていたという方が、わかりやすいかもしれない。彼女はそこで倒れていた。倒れてしまっていた。僕はそこに駆け寄り、抱え上げる。顔色が悪かった。土色だった。恐らく、恐れていたことに恐らく、彼女は鬼に魂を売ってしまったのだろう。そしてその鬼に、体の中の鬼に、魂を食われている。現在進行形で食われている。でも、―――まだ、助かる。
僕はこの幸運を、不運中の幸運を、神に感謝しながら、牙を剥いた。その剃刀のような牙を剥いた。そして突き立てた。黒羽四葉の首筋に、突き立てた。
にじみ出て来た彼女の血液に、理性を奪われそうになりながら、僕の中で暴れる、鬼を抑えながら、僕は彼女の中の鬼の気、便宜上、僕が鬼気と呼称しているものだけを吸い上げた。一滴残らず、吸い上げた。
すると彼女の顔色は、少なくとも土色とは言えないほどまでに回復した。―――よかった。
おそらく彼女は、人を殺してはいない。彼女の攻撃手段は、殴る蹴るなどであるはずなのに、彼女に返り血が見られないからだ。つまり彼女は、まだ帰れる。人間の輪の中に帰れる。―――よかった。
僕は、罪を重ねずに済んだらしかった。
だがしかし、そんな安堵の中、新たな問題が浮上した。
―――こいつどうしよう。
黒羽四葉に、現状意識はない。つまり、こいつは家に帰れない。時間は2時半。路上に放置するには、いくらなんでも憚られる。送って行こうにも、僕は彼女の住所を知らない。
かと言って
「男が独り暮らししてる家に置くのもなぁ・・・・。」
結局、彼女をそこらの安い、極力安いホテルに預けて、家に帰るのだった。
勿論、書置きもした。
『殺すなら、僕だけにしろ。』と。
こうして僕は、狐野剃刀は、『黒羽四葉鬼人化事件(仮)』を、落着させた。