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捻くれ者は静かに暮らしたい。  作者: 飽多諦
第一話 鬼憑き四葉
5/17

その者、遥か高き孤高を夢見て。

翌日、僕は学校に行っても、僕は襲われなかったし、黒羽四葉が、僕に話しかけてくることもなかった。

昨日の威嚇が功を奏したようではなかった。

何故なら、今日僕は、確かに黒羽四葉から話しかけられることはなかったが、それとは別のアクションが、いや、厳密には、前々から見られていた様子があった。

授業中だろうが、休み時間だろうが構わず僕を、尊敬の、―――畏敬の眼差しで見つめてくるのである。恐怖でも否定でもなく、尊敬の、畏敬の眼差しである。僕はそれを、勘違いだろうと思っていた。もしくは憐憫の感情からくるモノだと思っていた。

でも違った。明らかに、明確に、違っていた

これは明らかにおかしい。普通の人間であれば、あんな物を見れば、恐れおののき、僕をクラスから排除しようとしようが、社会的に抹殺しようとしようが、おかしくないのである。

しかし現実は小説よりも奇なりて、僕は彼女から恐怖に類する感情を受けてはいないようだ

おかしい。

僕はほんの少しだけ湧き出た安堵の感情への嫌気とともに、ため息をついた。

別に彼女に、信仰の兆しは見えない。つまり彼女は僕を、鬼を、オカルトを崇拝する人間でもなければ、化物を、人と異なるものを歓迎するものではないはずだ。クラス内ヒエラルキーのトップに君臨するような女であるしな。

では何故か。なぜ黒羽四葉は、僕に恐怖していないのか。恐れに怖れていないのか。なぜ畏れ、敬っているのか。

と、僕は何も語らぬ帰路に、住宅街の道路に、問を投げかける。

―――わからん。

そういえば、今読んでいた本には、こんな一文があった。

円に加わるものは誰しも、誰よりも、点に憧れている。と、

「・・・あ。―――本、忘れた。」

なんたることだ。家で読もうと思っていたのに。

取りに行くのもめんどくさいなぁ。でも取りに行かないと、家で暇だしなぁ。つまり逆説的に、今取りに行く暇も手もあるということか。

僕は来た道に振り返る。

「―――取りに行くか。」

そうして僕は、歩を進めた―――はずだった。

その筈だったのに、なぜだろう。

僕は今来た道を見ているのだが、何故かそれとともに、本のことを思い出さなければ進んでいたはずの道も、一緒に見えていた。

―――胸部と背中の鈍痛とともに。

「か・・・っは!?」

何が起きている。何が起きている?何が起きている!?

思考しようにも、肺が潰れ、呼吸ができず、思考もまとまらない。

でも、肺が潰れた程度なら、―――肺が潰れた程度なら、僕は、僕は大丈夫だ。非常に気持ち悪く、それこそ本当に死にたいくらいに憎たらしいが、僕は、肺が潰れたくらいなら死なない。それよりも、状況の把握を・・・・!!

僕は周りを見渡した。

見たところ、僕は現在、来ていた道を進んだ先の突き当りに、何故か砕けて、その先の庭に、簡単に入れそうになっている石の塀だったもの、つまりはその残骸に、鉄骨に背中を預けていた。

ッ・・・・・!?車にでも轢かれたのか僕は!?

しかしそんな思考をする余裕も、すぐに無くなった。失われた。お亡くなりになられた。最近の延命治療は、中々貧相であるらしかった。

何故なら、喧騒が、―――住宅街の人々の気配が、無かった。失われてもいない。無かった。最初から無い。無だ。

閑静な住宅街であるとは言え、人が50m程度を一秒未満で飛行して、塀に、石に激突するほどの轟音が響いたとなれば、誰かがカーテンや窓を開け、叫び声を上げても無理はない。不思議ではない。というか当然で、道理であるはずだ。

なのに聞こえない。感じない。

―――何も。

・・・いや、聞こえた。

足音が、―――一つだけ。

そう、一つだけ。一つだけだ。

そしてその一つの主は、見知った顔だった。

おかしい。不可解だ。異常だ。アブノーマルだ。

そして―――不快だ。そんなアブノーマルな存在である自分が、こんな異常と遭遇してしまう自分が、不快だった。

僕は、人間だった筈なのに・・・・。

―――これも報いというものか。

あの時の、あの時の狂った僕への、―――罰。

だったらその罰は、償わなきゃなぁ。償って、いかなくちゃなぁ。

僕は、僕と同じく異常の仲間入りを果たしてしまった優しい者に、これから僕と同じ過ちを犯そうとしてしまっているバカ悪女へ、治ってしまった、万全に戻ってしまった体で立ち上がりつつ、口の端から垂れている血を拭い、鮮血を想起させるであろう、禍々しい赤色と化した瞳を向け、同意を求めた。

「なぁ・・・・黒羽四葉。」

人が持つにはあまりに凶暴な、濁った赤に輝く双眸と、人の額にあるはずのない、その一本の芯を天に向け、その鬼は、黒羽四葉は、咆吼した。

高く高く天高く。―――遥か高みへと、届くように。

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