捻くれ者、俎板の上に乗せられる。
翌日、僕は昼休み、体育倉庫裏に呼び出された。
・・・まあ、理由というモノは、想像するまでもない。だけど僕は、大人しく行こうと思っている。それがこの世界で、この腐りきったこの世界で、奴らと一緒にならないためには、必要なことだと思ったからだ。痛いのは御免だけど、痛いだけで済むなら、奴らと一緒にならないためなら、安いものだ。
従って、僕は今、重力に則って、地に付している。
―――床冷てぇ。
このまま地面の硬さを感じていたかったが、向こうはまだ気が済んでいないのか、僕の襟首を掴み、僕の体を持ち上げ、
殴った。
「これが黒羽さんの痛みだ」と。頬を殴られた僕は、重力に従って、2m近い高さから叩き落とされた。
―――いってぇな。
こいつ喧嘩慣れしてねぇな。僕じゃなかったら、頭蓋骨割れてるかもだぞこれ。まあ、爽やかイケメンの陸上部員様は、喧嘩なんてしないってことなんすかね。さーせんした。と、皮肉を言いつつも、大人しく殴られてようとも思いながらも、体は言うことを聞かなかった。さっすがにムカついた。と、聞いてくれなかった。
つまりは、殴り返した。
この僕が。しかし、理性がほんの少しだけ働いてくれたのか、僕は奴の顔じゃなく、腹を殴っていた。流石に大事になると、あの女が陰でほくそ笑んじゃいそうでムカつくしな。
・・・まあ、殴っちゃったもんは仕方ないし、僕の意見も述べてやることにしよう。
「僕が付き合ったとしたら、お前は良かったのか?」
「―――!?」と、爽やかイケメン様は、その顔を軽くお崩しになられた後、こう仰られた。
「良かった・・・・!!!」と、ギリギリと聞こえそうな程、歯を食いしばりながら。
・・・全然良くねぇじゃねぇかこのクソ偽善者。と、呆れ半分苦笑半分で、俺は言う。
「だったら、さっさと傷心の黒羽嬢を口説いてきなされよ。女の子は、傷ついてる時に励ましてもらうと弱いって聞きますけれど?」
「・・・そんな・・・弱みに漬け込むようなこと・・・」
「じゃあ、その弱みに漬け込んだ男に、盗られても良いののかよ?」
「・・・・・・!!!」ギリギリと、歯を噛み締めながら、奴は何も喋らなくなった。
「・・・チッ」
ああもうくそ。焦れったいなぁ。こいつ死ねばいいのに。なんで僕がこんな目に。どれもこれも全部、あの女の所為だ。
「とっとと、逝ってこい!」そう言って僕は、奴の後ろに回り込み、校舎側に蹴り飛ばすと、奴は未だに歯噛みしながらも、校舎の方に、向かっていった。
さて、一人消化完了っと。
「―――さぁ、次来いよ。次。」
そう言って僕は、校舎の反対側に向き直り言った。
するとどうだろう。十人くらいが、追加でやってきた。あぁもう。モテ過ぎだろうがあんの八方美人。そして奴ら、なんたることか、十人纏めてかかってきやがった。
・・・容赦ねぇな、おい。
そして一人の拳が、眼前に飛んできた。しかし僕はそれを甘んじて受け入れる。すると、残りの9人も、一回ずつ僕を殴りつける。その度に体に鈍痛が走り、顔は苦痛に歪んだ。そして彼らは、全員で一発ずつ殴っても満足しなかったのか。10人がかりで、全身くまなく殴られた、蹴られた。踏み躙られた。まさにまな板の上の、カツオの切り身である。10人がかりで叩く叩く。
・・・いってぇな。
こりゃ五限以降はサボりかなぁ・・・。痛みの渦の中、意識が薄れてゆく。しかし、薄い薄い意識の中で、僕と、奴らの間に入る影が一つ。「やめて!」という声と共に。しかし、途端に僕の意識は、そこで途絶えた。今日は、財布持ってきてなくて良かった・・・。