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捻くれ者は静かに暮らしたい。  作者: 飽多諦
第一話 鬼憑き四葉
17/17

捻くれ者は、母の日からは逃げられない。

時は昼前。具体的に言えば10時半。

僕はなるたけ迅速に買い物を終え、帰路につき。ようやく自身への嫌悪感から開放されることに安堵にも似た、開放感を覚えていた。

春にもかかわらずに、僕の肌にジリジリと焼き付く日が、行く道は憎たらしかったが、今は僕への嫌悪感を焼き消す神の火に思えた。あぁ神よ。感謝します。

と、神に大して嘘を付いていると、前方から歩いてくる人影が目に付いた。

黒葉四葉だった。

僕はここで声をかける様な人間でもないので無視を決め込む。つまりはあくびをするフリをして、彼女が僕の目についていないことを主張する。こうすれば、彼女も僕のことを放っておいてくれるだろうと思っての算段だ。が、やはり僕はどこまでも甘かった。

「―――こんにちは狐野君。」

彼女はニコニコと話しかけて来やがった。そう言えばこいつは、こんなやつだったと、誰よりもクラスのはぐれ者をほっとかない奴だったと、僕は今更ながらに思い出す。

「・・・よぉ。」

彼女は視線を僕の手元に移してから言う。

「狐野君は、今買い出しの帰りってとこ?」

「まあな。」

彼女は、僕が一人暮らしであることを、既に知っている。先日、学校に弁当を作ってきた際に、彼女に、「それは狐野君が作ったの?」という話題から派生されて、聞き出されたのである。おそらく彼女を尋問官として雇えたところは、かなりの量の情報を得ることになるのだろう。

「で、お前は何してんだ?」

「・・・あぁ。うん。散歩・・・かな?」

彼女にしては珍しく、口を濁した。僕が訝しげな視線を向けると、彼女はしまったといった顔をした。本当に珍しい。自分で自分を演じてきた彼女なのに、クラスの、いや、学校中の人間全員を黙せるほどに、自身の本心を他人に悟らせない術に長けた彼女が、ここまで自身の本心を露呈してしまうとは。

やはり一番に思い浮かぶ原因は、―――母の日だ。

思えば、彼女も母親との関係は、良好でなかったように思う。

おそらく彼女も、母の日に、僕と似たような感情を抱いてしまっているのだろう。

僕はそういう時に、自身の異常性を認識してしまう時には、一人で過ごすことを望むのだけれど、彼女の場合はやはり、多人数で和気あいあいと過ごすことを望むのかも知れない。だからこそ、和気あいあいとした空気を、僕では提供することはできないけれど、僕は柄にもなくこう言う。まあ、僕も何も考えず言ったとは言え、悪意がなかったとは言え、流石に不躾だったように思うし、その侘びとして、僕はこう言う。

「―――よかったら、僕の家で、飯でも食っていくか?」

すると彼女は、至極驚いたような顔をした。まあ、確かに柄にもないことをしてしまった感はあるのだが、そこまで驚くこともないだろう?

「不服か?」

「い、いや・・・珍しいなぁと思って。まさか狐野君から、何かに誘われるだなんて。」

まあ確かに、僕が誰かを誘うなんて、滅多にないのだが。ほんの一ヶ月で、よくも僕の傾向を推察できたものだと、中々人を観察しているのだなと、少し感心した。伊達に学年の人気者をしていないということか。

「まあ、僕も一人で寂しいんだと、思ってくれればいいよ。ちょうど食材も、数日分を確保してある。」

そう言って、僕は丸々と太ったレジ袋を、目の高さに掲げる。

すると彼女は、少し思案するような顔する。まあ、僕以外は誰もいない部屋にあがろうと言うのだ。年頃の女の子としては、警戒せずにはいれるまい。

そうして僕はおおよそ5分待った。流石に長いかとも思ったが、もし僕らが逆の立場であったのなら。恐らく僕もそうしただろうと、黙って待った。

そして彼女は顔を上げ、言う。。

「―――そうだね。お言葉に甘えて、お邪魔させてもらうとするよ。」

「・・・そうか。」

「突撃!狐野君の昼ごはん!ってね!」

あの一件以来、彼女から少しは、黒葉四葉らしくないところも、見れるようになった。人はいつも誰かを演じているとは言うが、それでも個性というものは、少なからず出るのだから、その演ずる中にも、その人間の本質はあるのだ。そしてここ最近は、彼女にもそれが、彼女の本質のようなモノが、見えるような気が、僕はしている。

「・・・何年前の番組だよそれ。今の小学生、分かんねぇぞ?」

中学生なら、ギリギリわかってくれると信じている。

僕は改めて我が家へと、歩を向けた。黒葉四葉もそれに合わせてついてくる。恐らく彼女は、僕が歩を早めても遅らせても、それに合わせて付いてくるのだろう。彼女はそういう人間だ。

「奥さん、今晩のメニューはなんですか?」

と、彼女は軽口を叩いてくる。よくもそう話題を吐き出し続けられるものだと、少し感心する。

「誰が奥さんだ。僕は男だ。」

鬼だって、男女で区別できた筈だ。

「え?でも、「狐野君は嫁にしたい」って聞いたよ?」

「誰だ。んなこと言ってる奴は。僕が直々に説教してやる。」

んなアニメの萌えキャラみたいな扱いにされても困る。別に僕の見た目は、中性的とも女性的とも言えないしな。

「木通さん。」

「・・・。」

あんの野郎・・・。

ていうか、いつの間に仲良くなったんだよ。お前ら。まあ、僕と違って、彼女は社交性が高いから、それこそ生まれた時から年を得る事に得られるスキルポイントを、全て自身の社交性につぎ込んでいるとでも思える程高いから、誰とでも、それこそ、僕も含めた学年全員と、仲良くなってしまっているのかも知れなかった。リアル友達100人状態である。

「で、結局何つくるの?」

「・・・パエリア。」

「え!?」

彼女は心底驚愕したような顔をする。さっきよりも驚いてるんじゃなかろうか。

「・・・嫌いだったか?」

っだとしたらマズったな。またスーパーに行って、食料を買い直してくるという選択肢もあるが、それだと食事にするのは、三時以降になってしまう可能性がある。そこまで他人を家で、それも一人暮らしの男の家にとどまらせるのは、それも自身が誘ったことで待たせるのは、忍びない。

「いや、ちょっと意外だったっていうか、狐野君って、パエリア作れるの?」

「そりゃあパエリアと呼べる程度のものならば作れるけれど・・・?」

「ああ。お嫁にしたいって言う木通さんの気持ちが分かってきたよ。」

「だから、僕は男だと何度言えば・・・」

そんな風に、彼女と談笑しつつ、帰路についている時だった。もっと詳しく言うならば、この前最中に運び込まれたらしい公園に、差し掛かった時だった。

彼女を見かけたのは、そんな時だった。


―――遠坂顧とおさかかえりに出遭ったのは。


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