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捻くれ者は静かに暮らしたい。  作者: 飽多諦
第一話 鬼憑き四葉
10/17

黒羽四葉はまたしても、捻くれ者の前に現れる。

空は赤く燃え、僕の肌を焼いていた。そして僕に鬼の力を使うことを強要する。

―――夕暮れ時らしかった。

僕の最も憂鬱な時間の一つであり、夜が待ち遠しい僕としては、とても楽しみと言うか。安息とも言える時間である。サラリーマンの、もうすぐ定時みたいな、そんな感じ。

・・・何故僕は、夕焼けの中にいる?

僕は放課後、最中と連れたって、帰路についていた筈である。

僕は慌ててあたりを見渡す。

点々と配置された、ブランコ、滑り台、ジャングルジム。名前は知らないが、車の侵入を遮るための、ホッチキスの芯のような見た目をしたもの。

それぞれから伸びる影が、昼に比べては、あまりにも長く伸びた影が、闇の訪れを暗喩しているように思える。

そして肩甲骨から下からには、硬い感触を感じられた。僕の自重と共に、僕の表層細胞を破壊するそれを、僕は少し恨めしく感じてしまった。

公園だった。夕暮れ時の公園のベンチに、僕は横たわっていたらしかった。

「起きた?」

と、左を向いて、公園を見渡していた僕の頭の右側から、声が降った。僕がさっきからスルーしていた存在だった。

いやだってお前あれだぜ、頭が接しているところは、ベンチにしてはやけに柔らかく、暖かかったんだぜ?頭を右に向ければ、白く薄い布地とか見えちゃうんだぜ?その下に見える筈のT-shirtとか見えないんだぜ?寒くないのかよこいつ。

この状況を認めたくない。認めてしまったが最後、僕の平静は崩れ去り、取り乱すだろう。従って、僕は緊急回避行動を行った。とりあえず彼女から離れようと、爆弾に乗っけていた頭を、腰を中心にした遠心力と共に振り上げたのだ。

「「あだ!?」」

・・・まあ、そりゃそうだわな。彼女は僕を見下ろしてたんだから、そりゃそうなるわな。

まあ、平たく言えば、僕と彼女の額が、衝突した。

ゴンという鈍い音と共に。

必然的に、僕の体は、ベンチから転げ落ちた。まあ、僕の頭は爆弾から解放されたのだから、結果オーライ。結局取り乱してんじゃねぇかという皆様のツッコミは、一切受け付けない。

「あ~・・・・・」

と、件の爆弾女は唸りながら、右手で額を抑え、左の手のひらをベンチに向け、首を擡げていた。そしてそこから必然的に除く、白い、しかしさっきとは日の当たり方の違いなのか、違う眩さを見せる項に、エロスを感じたが、目を逸らす。危ない危ない。

「なにすんだよ~。」

と、彼女は、恨めしそうに僕を睨みつける。

例え、その視線に、彼女の体質に関する恨みは含まれていなくとも、やはり彼女から向けられる恨みの視線からは、やはり心にクるものがある。故に僕は、彼女から目線を逸らすしかなかった。

すると彼女は、何かに気づいた様な様子をみせ、バツの悪そうな顔をした。

やはり彼女は察しが良すぎて、優しすぎる。

僕はその優しさに、少なからぬ感謝をしつつ、立ち上がる。

「さ、帰ろうぜ。」

そういい僕は、僕はベンチの脇に置いてあった学生鞄を拾い上げ、肩に担ぎ上げる。

すると彼女は、「うん。」と頷きつつ、ベンチを立ち、ホッチキスの芯に向かって歩き始める。

それに合わせて、僕も歩き始める。

会話はない。

あるのはただ静寂のみである。

実際僕は、こんな静寂が、嫌いじゃない。ただただ一人で、思考に没頭出来る、この時間が、僕は嫌いじゃあなかった。

でも、それでイイのは僕だけだ。今、僕がその傍らに立たせてもらっている少女は、そうは思わないのかも知れない。もし、今僕と隣だって歩いているのが、彼女ではなかったのなら、僕は構わずに口のチャックを閉めてしまうのだけれど、今、僕が隣に立っているのは、他ならぬ、木通最中だった。

故に僕は、口のチャックを閉じずに、頑張って話題を探すのだけれど、人と関わることが得意ではない、むしろ嫌いとすら言える僕には、提供できる話題を、記憶のどこかから拾い上げることは、日の沈まないウチにはできなかった。

気づけばもう、日は沈み、黄昏も越え、夜の帳が、空から架かっていた。

世界で唯一、僕に安寧を寄越してくれる光は、今日に限っては、僕と彼女の間の気まずさを、的確に照らしているように思え、僕は頭上を睨み上げる。

しかしそんなことをしても、彼女と僕の間にある気まずさのようなものを、月の光が隠してくれるわけでもなく、消してくれるわけでもなく、唯唯間と時間だけが流れ、僕たちはその時間に合わせて、歩をすすめるのみとなった。なるはずだった。

しかしそうは問屋が卸さなかった。

万物流転。世界は毎時毎秒変わり続ける。つまり必然的に、この静寂も、何かによって破られる。

今回はそれが、足音だった。人間の足音ではない。鬼だった。―――黒羽四葉だった。

「「―――!?」」

最中も僕と共に、驚愕の声を上げる。

予想していたとは言え、やはり彼女の何かは、まだ解決を見ていないようだった。

僕は思わず、彼女の全身を穴を開けるように観察する。

幸いなことに、返り血は見られなかった。僕はその事実にほっとしていたが、僕はそこで、ハッとし、僕の傍ら、右側に視線を向かわせる。

木通最中がいた。

彼女は、あの鬼の正体が、黒葉四葉であると推察できた上で、驚いているようだった。

当然だ。クラスの、学年の人気者が、あんな化け物になって出てきたんだから。そして彼女は、その化け物に敏感なのだから。そしてそれにエンカウントしてしまったのだから。

彼女は、黒羽四葉は、僕への報復として、木通最中を殺害しようとしているのかもしれない。

僕はそんな物騒な、考えたくもない状況を想定してしまう。

しかし、想定してしまったからには、動かないわけには行かない。

僕は右足を一歩踏み出し、一歩前に出、最中への道を塞ぐように、右腕を軽く持ち上げ、彼女を、黒羽四葉を見据える。

彼女の目には、瞳が見られなかった。

故に彼女の目線から、彼女の意図を推測することはできないが、故に彼女は、自身の意思ではなく、本能で動いていると推察できた。厄介だ。これでは、最中には手を出さないでくれと、懇願することもできない。

どうする・・・・!?と、僕が頭を絞っている時間を、彼女は待ってくれなかった。

彼女は、先日と同様、アスファルトを蹴り、僕に突っ込んできた。もしかすると最中に向かって突っ込んでいたのかもしれないが、その間には、僕が立っていたので、必然的に僕に向かって来ることになるわけである。

最中に危害を加えさせる訳には行かない。

故に僕は腰を落し、両腕を交差させる、自身の意思でもって、自身の腕を交差させる。すると彼女の腕は、拳は、僕の両腕の交差点に飛び込んできた。

紅い雨が重力を押しのけて、彼女の体の前面に飛んでいく。吐き出されるし、飛び散っていく。

つまりは僕の両腕の交差点は、吹き飛び、僕の胸部には、大穴が出来ていた。ちょうど人間の腕の太さ程度の円柱形のモノが、僕の両腕と胸部を、強制的に繋ぎ止める、楔となっていた。

「・・・が・・・は!?」

僕の喉を通り、口から微温く紅い液体が、流れて言った。

僕のYシャツが、赤く染まった。また制服作らなきゃならなくなってしまった。

「ッあ”ぁ”ッ!!!」

そう叫びつつ、僕は意図的に、自身の再生力を強めた。するとどうだろう。僕の身体が再生していくにつれて、黒羽四葉の腕は、僕の再生した身体に圧迫され、固定されていった。

「・・・がぁ”!?」

しかしそうなると、彼女は当然抵抗してきた。その円柱形の物を、僕から解放しようと、僕の傷口を刔る。

「あ”が・・・!?」

痛い。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

黒羽四葉は、そうとも知らずに、僕の傷口を弄り回す、こねくり回す。

そしてその動作に合わせて、ほのかに光が反射するアスファルトに、紅い雫がはたはたと落ちる。

僕は思わず、最中に目を向ける。彼女はやはり、その顔を途轍もなく青くしていた。

やはり、このまま、木通最中の近くに、鬼というものにあまりにもセンシティブな彼女の近くに、鬼そのものを2匹も置いておく訳には行かなかった。

「ッあ”あぁ”あ”あ”あ”ああああああああああああああああああああああああああああ!?」

従って、僕はそう叫びつつ、彼女の腕を、胸に孕んだまま、空高く跳躍する。

この街を障害物なしに一望出来る高度も、風が傷口を突き抜ける痛みによって意識できない。

目指すは、先ほどの公園。

あそこなら、場所も開けているし、人もいないだろう。いたらいたでも、今や怪異そのものである僕と、怪異の憑いた人間を、普通の人間には、視認できないだろうという算段である。

しかし、その算段は、脆くも崩れ去る。やはり計算なんて、慣れないことはするものではなかった。

「―――あ”pぁ”!!」

と、奴は、黒羽四葉は、ノイズの混じった声と共に、僕が孕んだ右腕を、思い切り引き絞り、体を捻り、振り切った。

「ッガ!?」

当然、その行動は、エネルギーから僕の痛みへと変換される。そしてその痛みから、行動から、僕の傷口は当然拡がった。つまりはすっぽ抜けた。僕がだ。そして奴は、やつ自身を中心とした、遠心力をもって、僕を思い切り振り回したのだから、僕の身体は、その遠心力に従って、地面に垂直に、恐るべき速さで飛行した。飛行と落下を同時に行っていた。

そして飛行と落下という状態にあれば、いずれは必ず物理法則に則って、接地という未来が待っている。常識を超えた超常、いや、異常の存在こそが僕たちであるが、最近は科学信仰が強いのかなんなのか、僕は物理法則には逆らえない。

従って、僕は接地、というか激突した。地面に。硬い硬いアスファルトに激突した。

まあ、僕の強度は、体の強度は人間とさして変わらないので、当然上空20mから地面に重力+鬼の膂力で叩きつけられれば、柘榴の実の様に弾けるわけで。

「ガあ”あ”ぁ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!?」

気持ち悪い。

痛みがない。

体の背面から三分の二が弾けているのに、欠損しているのに、痛みがない。まるで麻酔を射たれたかのような、あの心地の悪い痺れのようなものしかない。

胃も欠損しているので、吐き気を催すこともできない。

こんなことに吐き気を催すこともできないことが、自身が人間ではないことを突きつけられるようで、気持ちが悪い。というか死にたい。自身の心臓を握りつぶして死んでしまいたい。でも、それはできなかった。まず僕は心臓を握りつぶそうが死なないし、というか、今も心臓の大半を欠損していたけれど、すでに治っていたし、最中への、恐らく僕の全ての時間を使っても、償いきれないのだろうけれど、それでも最中への償いを終えるまでは、僕は死ぬことはできなかった。

死んでも死なないし、死んでも死ねない。それが僕、狐野剃刀だった。

とりあえず現状、最優先ですべきことは、最中を逃がすこと、現状から離脱させることだ。彼女にまで、力を使わせるわけには行かない。彼女は、誰よりも高校生の少女らしい彼女を、これ以上、こっち側に引き込むわけには行かないのだ。

従って、僕は体の重心を、前方に傾け、アスファルトを踏みしめる。砕くほどに踏みしめる。体を前方に、いつの間にやら接地していた、黒羽四葉に、飛ばすために。

僕は跳んで飛んだ。

黒羽四葉にむかって、およそ5m程度の彼女との距離を飛行した

彼女は当然、僕に向かって拳を振りかぶる。僕の腹部に、その拳を突き刺す。

当然だろう。だからこそ、こうしたのだ。

またしても、血飛沫があがり、僕の体には、風穴が空いた。

最近僕の身体、穴あけられてばっかだな。

「あ”がっ!?」

またしても僕は、うめき声を上げる。その痛みのあまりに、小さく短い悲鳴を上げる。

だけど僕も、うめき声を上げる為に、自分の体に風穴を開けてもらったわけではない。

僕は思い切り首を伸ばし、やつの首筋に噛み付く。

すこし流れ出た血に、頭の中が真っ白になる感覚に襲われるが、こらえる。

ここでこれを飲んでしまえば、彼女は鬼憑きではなく鬼そのものになってしまう。従って、またしても僕は、今回も奴から、鬼気のみを吸い上げる。今回のことから、これではまた再発する危険があると分かってはいるけれど、昨日のことから、これが応急措置程度のものにはなることが分かっている。従って、僕は暴れる彼女の抵抗をすべて受けつつ無視し、鬼気を思い切り吸い上げる。

「あ”がpぉ”あ”か”あ”ああ”ああああpあgああああああああkあああああああpあああああ!!!」

それでも彼女は暴れる。僕に抵抗する。まるで駄々っ子のように、お母さんに携帯ゲーム機を没収される、小学生のように。ならばこそ、僕は心を鬼にしなければならない。いや、もう鬼か。もう僕の心は、鬼なのか。

そんな僕の皮肉と共に、黒羽四葉はまたしても、住宅街の夜に眠った。


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