myuzの十題噺「靴下」「ウォーターカッター」「縫い針」 「マヨネーズ」「蓮華」「可能性」「ギア」「妖刀」「仙人」「部長」
塔の番人リゼルの1000ユニーク記念作品です
この話とはなんら関係性はありませんが、よければ
リゼルも読んでやってください。
この世には、一般人には知り得ない、裏の世界が存在する。
その世界へ干渉する術は一つだけ。『妖刀』を所持している事。
日常が壊れるのは、あまりにも突然すぎて。いつしか日常は非常識になっていて。
この朝も……いつもと変わらない一日だと思っていたのに。
いつもの様に、出勤時間一時間前に会社について、早めに仕事にとりかかって。
「おはよう、智樹。」
「うわ。毎日毎日早く来過ぎだろ、お前。」
「早起きは三文の得ってね。」
「早過ぎるんだよ。まだ30分前だろ。」
いつもの様に、仲のいい同僚と挨拶を交わして。
「おはようございます。」
「おはようございます。いつも朝早いですねー。」
いつも通りの一日が始まるはずだったんだ。
うちの会社は基本的にゆるく、勤務時間は8:00~20:00となっているが
自分の仕事を全部片付けてしまえば早めにあがることが出来る。
僕はいつも早く出勤し、自分の仕事をさっさと片付ける事にしている、
この日も、自分の仕事を片付けた後、
靴下を履かないことで有名な鈴木部長の仕事を少し手伝い、6時に退社して。
帰り道のスーパーで食材と飲み物を買い、アパートの自室へとのんびり帰宅。
―そしてその時、僕は非日常と出会った。
自室のドアの目の前に、老人が倒れていたんだ。びっくりするよね?
「だ、大丈夫ですか!?」
とりあえず近寄って肩を叩きながら声をかける。
「…ど」
「ど?」
「…同情するなら、マヨネーズをくれ……」
「マヨネーズ!?え、えっと……はい、どうぞ!」
丁度買ってきた物の中に入っていたマヨネーズを渡してみる。
すると、老人はカッと目を見開き、
「マヨネェズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
と叫びながら包装を一瞬で破くと、一気に吸い上げ、マヨネーズを飲み干した。
正直びっくりしすぎて何もツッコめなかったけれど、気にしない。
「えっと……落ち着きましたか?」
「あぁ、ありがとう若者よ。お前さんは命の恩人じゃ。」
「いやホント、無事でよかったです。家の前で人が倒れてたんで何事かと……」
老人はすっかり元気になったようだ。マヨネーズすごい。
「わしはマヨネーズ仙人。助けてくれた例じゃ、お主にこれを贈ろう。」
マヨネーズ仙人って何だ。マヨネーズでもくれるのか。
と思ってたら小さな箱みたいな物を渡された。
「あ、どうも。」
「それは、妖刀『縫い針』。全てを貫き、縫い止める妖刀じゃ。」
「縫い針……ですか?」
裁縫とかに使う、アレだよね?あんなの渡されても……それに妖刀って何の事だろう。
「うむ、縫い針じゃ。じゃあの、若者よ。」
そして、手元から視線を戻したときには、既に老人はいなかった。
僕は、とりあえず無くなってしまったマヨネーズを買いにスーパーへと戻った。
いや、戻ろうとした…。
戻ろうとしたら、道路で人が戦ってたんだ。
異常な力を使って。
「おもしれぇじゃねぇか……妖刀「蓮華」。狩りがいがあるぜ。」
金髪の青年がそう言うと、対峙している茶髪のイケメンは短く
「ほざけ。」
と答える。
金髪の人は何ももっていないのに対し、茶髪の人は蓮華の花を持っている様だった。
茶髪が花を振るう度に、巨大な蓮華が道路に咲く。
咲いたときに飛び散るアスファルトが物の見事に細切れになっている様子から、
花びらが非常に鋭利な事が伺える。なんて怖い攻撃。
恐怖の蓮華攻撃を華麗なステップで避ける金髪の人。
「それじゃ、そろそろ俺の妖刀も見せてやるよ。」
金髪の人がおもむろに胸につけた蒼いブローチに触れる。
「妖刀『ウォーターカッター』、起動。」
瞬間、男の足元にあった水たまりから、水が「伸びた」。
「…なっ……」
茶髪の男は心臓を水に貫かれ、倒れる。
血は流れなかった。そして、まるで何もなかったかの様に、消えた。
僕は恐怖のあまり、声すら出せなかった。
目の前で人が倒れた。死んだ。それはあまりにも唐突すぎて。
「よぉ。さっきからそこで見てるけど、お前もやるか?妖刀、持ってんだろ?」
「ひぃっ!!!!」
怖かった。ただひたすらに、怖かった。
「……お前、もしかして初めてか?」
「……。(ブルブル)」
「ったく……あのじじぃ共、また何の説明もしなかったのかよ……」
何を言ってるかは分からない。だけど、多分僕は殺されるんだろう。
殺人現場を見られたんだから。
「どっから説明するかねぇ。とりあえず、勘違いしてると思うから言っとく。」
なにを勘違いするってんだ。
「さっきの奴は死んでないぞ。」
「……へ?」
「この世界じゃ死なねーよ。ゲームみたいなもんだからな。」
「ゲーム?」
「お前、『妖刀』持ってるだろ?それがこの世界へ来る条件。
まぁ、『仙人』って呼ばれてる奴らは別格で、来ないこともできる。」
「仙人って……そういえばあの人確か。」
マヨネーズ仙人。
「で、この世界では戦闘により、勝てば相手の妖刀を奪う事が出来るんだよ。
戦闘は同意の上以外無効だ。この世界は仙人共に監視されているから不正も出来ない。」
「妖刀を奪って、どうするの?」
「仙人共にイイ値で売れる。場所は商店街裏の雑貨店『ギア』だな。
負けても妖刀を奪われて元の世界に飛ばされるだけだ。実際は死なない。
それと、『ギア』で妖刀は買い戻せる。また参加したい場合は高値を払って買えばいい。」
「……つまり、よく分からない技術で運営されている……サバゲー?」
自分でも不思議なことに、落ち着いていた。
あまりにも異常な事が起きすぎて、理解出来ていないのかも知れない。
慣れすぎて、自然に受け入れてしまっているのかも知れない。
僕が物事を考えるときの基準は、「可能性」だ。
自分でも金髪さんを信じるのは、かなりの賭けだと思う
だけど、普通なら即、口封じに殺されるだろう。
でもそうされなかった。なら信用できる「可能性」は高いんじゃないだろうか?
普通はあり得ない、人が「消える」という現象を目の当たりにして
異世界が存在する「可能性」が否定できる訳がない。
……だから、信用することにした。
「そんなもんだ。……お前も、勝負してみるか?」
「…やってみる。」
死なないと分かればやらないはずがない。
元々もらった物だし、戦闘とかカッコイイし!
「じゃぁ俺は一旦『ギア』でさっきの『蓮華』を換金してくる。
お前は自分の妖刀の説明書でも読んどけ。すぐ戻る。」
「……分かりました。」
マヨネーズ仙人にもらった箱を開けてみる。
正に縫い針な形の妖刀と説明書が入っていた。
【妖刀『縫い針』取扱説明書】
この妖刀は貴方の意思通りに動きます。飛びます。
また、あらゆる対象を縫い付ける事ができます。
更に、めっちゃ刺さります。地面も貫けます。
以上です。楽しい妖刀ライフをお過ごしください。
「……適当過ぎる!」
一人ツッコミしてしまった。虚しい。
「本当に意思どおりに動く……楽しい……。」
なんかめっちゃ楽しかったけど、金髪さんが来たから遊ぶのをやめる。
「うし、じゃあ始めるか。」
「……はい!」
「……っと、忘れてた。この世界から出たい時や入りたい時は、
『ギア』に行けば 自分の妖刀を預かってもらえるからな。期待してるぜ、新入り。」
「やるからには本気でいきます!金髪さん!」
「はっ、上等!」
……無理!
「おらおら!逃げてるだけじゃ始まんねーぞ!」
「攻撃が速すぎます!」
「マッハ3だからな!」
音速の三倍らしい水の砲撃。どうやら狙いをつけて撃つまでにラグがあるらしく、
走っていれば当たらないみたいなんだけど……体力がもたない!
「一か八か!妖刀『縫い針』縫いつけて!」
足を止めて、縫い針を投げる。縫い針は狙ったとおりに
金髪の足元の水たまりを貫く。お願い、成功して!
「動きを止めたな、馬鹿め。……エンドだ!」
……。
……何も起こらない。
「……不発だと!?くそ、もう一回!」
「本当にできた……。」
「……何をしやがった?」
地面を通して自分の手元に縫い針を戻す。
そして見せつける様に針の先を金髪に向け、誇るように言う。
「水たまりを地面に『縫いつけた』。それが僕の妖刀『縫い針』の能力みたい。」
「ちっ、……この水たまりは使えないってか。なら―
「逃げられないよ。」
「……動けねぇ!?」
影縫い。有名な技だけど、実際にも有効みたいです。
「次は敵じゃなくて会いたいです、金髪さん。」
「まさか負けるとはな……また会おうぜ、新入り。」
銀色の針が、金髪さんを貫いて、この世界から排除する。
「…あ、そろそろ帰らないと…明日会議だ。遅れたら部長に怒られる~」
あの人何で靴下履かないんだろう。そう思いながら僕は
商店街裏の雑貨店『ギア』に足を運び、この世界を抜けだした。
―― 一ヶ月後
あの日から、僕の日常に、新しい遊びが加わった。
「お前らが『影縫』と『水神』か。」
「タッグ勝負を挑ませてもらうぜ!」
それは、
「頼むぜ、新入り!」
「任せて、金髪さん!」
あの日会った金髪さんと一緒に、
「な、動けねぇ!?」
「っやべぇ!」
妖刀世界(仮)で遊ぶこと。
「や、やめろ……うわぁぁぁぁ!」
「駄目だ……強すぎr……」
誰にでも、そんな非日常が起こる「可能性」は存在する。
「よくやった、新入り。」
「もう少し撃つまでの速度あげられませんか?金髪さん。」
もし、偶然にでも妖刀世界に迷い込んだ人がいたら
「んー、練習はしてるんだけどなー。
「相手がこないだみたいに速攻型だったらちょっときついです……。」
是非、楽しんでいってほしいな。
「ま、それはそれで楽しいだろ?」
「まぁ、そう……ですね!」
こんなに、楽しいんだから!
感想等いただければ嬉しいです。
……よくよく考えると「ギア」のお題が殆ど生きてない。