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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

氷雪の牢獄に閉じ込められたものの末路

作者: モモル24号



 気がつくと私は雪の降り積もる真冬の氷雪の牢獄に閉じ込められていた。同じ牢獄でも八寒地獄とは違い、雪の壁が外気の冷たい空気を遮断してくれる。猛吹雪に晒されるより温かく、体温は維持出来ていた。閉鎖された真っ暗な氷雪牢で得られるのは水だけ。


 氷雪牢には身一つで放り込まれたものの、重ね着していていたのら幸運なのか。それでも寒い。私は身動きも取れず縮こまる。雪に含まれる水分を頼りに、泥を喰らい、ひたすら寒さと飢えに耐えている。


 ────ああ、死肉が食いたい⋯⋯腹を満たすためだ、食えるものなら何でもいい。


 この際だから新鮮さを求めたり、質を求めたりは贅沢は言わない。飢えて枯れ死ぬよりはマシというもの。


 雪の下⋯⋯静寂の夜を幾つ越えたのだろう。穴蔵で冬籠りをする獣達のように、私は深く眠りについていた。冷たい雪の中で、時間の流れはゆっくりとしていたように思う。


 私の周りにたくさんいたはずの他の仲間たちの気配はもうない。いまは氷雪の牢獄に私は一人。あまりにも孤独だ。この白く厚い雪の毛布に包まれ、暖かな春が来るのをいまかいまかと夢の中でも待っていた。



 ある日────遠くから奇妙な音が響き始めた。サラサラな粉雪が固まって、ギュムっと、踏みしめる雪面から、独特な不規則な音が発せられる。


 凍れる私の世界⋯⋯静寂が無作法に破られ、微かな振動が伝わってきた。


 ザッ────


 ザッ──⋯⋯


 

 音はだんだんと大きくなり、近づいてくる。おそらく、私をこの氷雪牢へ縛り付けたものに見つかってしまったのだ。



 閉じ込められた私の頭上で、雪が次々と削られる気配がする。


 荒い呼吸。


 何かが確実に私へと近づいてきているというのに、私は動けない。私の解放者は、この謎の何か雪を掘り進む、冬のもぐらしかいない。


 何度となく氷雪の牢獄からの解放を夢見たことか。現実は非情だ。私は身を固くし、邂逅の時を待つ。


 寒さと飢えが続くとしても、いつか暖かな日差しが舞い込むと信じていた。これが眠りの続きならば良かった⋯⋯⋯⋯



 サクッ────



 ────待ち望んだ光が、望まない形で差し込んだ。私を包む雪の層が割れて、私に冷たい外気が触れる。そして光を遮る見慣れない巨大な影が、私の上に覆いかぶさった。



 防寒具に身を包み、マスクで覆われた顔からは表情まではわからないが、人間の男だ。彼は私を見て、隠しきれていない邪悪な瞳を歪めたのがわかった。



 ゴワゴワとした感触が私の身体に触れる。自力で動けない私は抵抗する間もなく、氷雪の牢獄から引き剥がされた。冷たい監獄の寝床から離れる感触は、これまで経験したことのない断ち切られるような痛みを伴った‥‥。


 


 最後に青い空、眩しい光が一面銀世界を輝かせる美しい光景が見れて良かった。無情で恐ろしいこの男は、氷雪牢から攫った私を無造作に真っ暗でゴワゴワした袋へ詰めた。


 狭くて暗い空間。そこには姿が見えなくなった仲間達が一緒だった。懐かしさや嬉しさを感じたのは束の間。私も皆も静かに揺れている。攫われた私たちはこれからどうなるのか、誰も知らないのだ。


 人間の男は一人だけではなかった。他にも何人かいた。私達を残酷に切り刻み、どうやって食べると美味いのか、私達に聞こえるような大きな声で相談している。


 袋で縛られ狭い空間に集められた私達を嘲笑うように⋯⋯。


 雪の下の静寂の世界は終わった。私は冷たく寂しいはずの氷雪の牢獄こそ救いの場だったと僅かに残された時間の中で知る事になるのだろう。


 

 どこか遠くへ運ばれた私たちは、見慣れない場所に広げられた。ここが私たちの運命が決まる場所。


 私たちは売られたのだ。


 雪のように清らかな私たちを、好色な目で見つめる人間たちが見つめる。そして嬉しそうに身に纏う衣を少し剥ぎ、次々と買って連れ去ってゆく。


 実演と称して残酷に切り刻まれ見せしめにされた仲間を見たせいか、誰一人声を上げない。ここは私達の断頭台なのだ。仲間達との別れを惜しむ間もなく、私も買われ籠へと押し込まれた。


 悲しみのあまり意識を失った私に、冷たい水が浴びせられる。驚く私を無視して、私を買った雑な女が、身重な私を処刑台の板の上へと乗せた。


 私を切り刻むため、処刑道具は既に用意されている。怯える私の恐怖を煽るように、女は私の身体を叩くように触った。どこから刃を挿し込もうか、悩むふりをしながら、身につける皮を一枚、また一枚とじっくり剥いでゆく。


 寒さを凌いでくれた外皮を剥がされ、身体が分断される感覚の中で、残酷な女は私をどうやって焼けた鉄の板で痛めつけ、熱湯で茹で殺し、切断した私の身体を保存するかを口にする。


 恐怖に耐えかね泣き叫ぼうとする私に、女は容赦なく雑に研がれた鉄の包丁を、私の身体へと突き立てた⋯⋯。



 女の住処の、曇り硝子の窓の外から、また雪がチラつくのが見えた。あの静かで安らかな日々は、もう戻ってこない。


 私の生命は、ろくな調理方法(生命の捌き)を知らない女の元で終わるのだった。

 お読みいただきありがとうございます。冷蔵庫の肥やしにして、夏場に腐敗臭漂うゾンビと化さないように願います。

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― 新着の感想 ―
捕食者の側から見れば食欲をそそるのでしょうが、被捕食者の側からすれば恐ろしくて尚且つ痛い。 視点を転じれば何もかもが一変しますね。 もっともその「私」にしても「ああ、死肉が食いたい」と言っていたので、…
料理をされる立場になったら たまったものじゃないですね。 活け作りとか、 豆腐に逃げ込んだどじょうとか。
 うまいですがアクの強い話ですね。(笑)
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