表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

短編集

裏切りの応援

作者:

「えっ… あ、うん」


 彼女は少し驚いたように、そしてすぐに戸惑ったように目を伏せた。

私は指先に、ほんのわずかに彼女の体温が残っているのを感じていた。

その熱が胸の中でじんわり広がり、息が詰まりそうなほどの高揚感を生んだ。


「期間限定の、イチゴのタルトがあるみたいだよ。一緒に頼まない?」慌てて指を離し、何事もなかったかのように平静を装いながら言った。


「あ、タルト!いいね。じゃあそれにしようかな」


 彼女はすぐに笑顔になって、その明るさに私の心も少しだけ落ち着いた。

内心では、こんな簡単なやり取りでも、自分の感情がジェットコースターのように乱高下していることに呆れていた。

彼女にとってはただのメニュー選びに過ぎないと思う。

私にとっては、彼女と同じものを共有することが、特別な意味を持つ瞬間のように感じられた。


 店員さんが注文を取りに来るまでの間、私たちはたわいもない話をした。

最近観た映画のこと、彼女の大学の課題のこと。

私は彼女が話すたびに、いつも相槌を打ちながら、言葉の端々から彼女の考えや気持ちを読み取ろうとしてしまう。まるで、彼女という謎めいたパズルのピースを少しずつ集めているように感じていた。

飲み物とタルトが運ばれてきた。真っ赤なイチゴが、白く泡立てられたクリームの上に美しく並んでいた。


「わあ、すごく綺麗」


 彼女は目を輝かせ、すぐにフォークを手に取った。

彼女が美味しそうにタルトを口に運ぶ様子を見ているだけで、私はもう十分に幸せを味わっていた。


「綾も、早く食べて」


 勧められて私も一口食べてみる。

甘酸っぱいイチゴの風味と、優しいカスタードクリームの味が口いっぱいに広がった。


「美味しいね」私がそう言うと、彼女は嬉しそうにうなずいた。


「ねえ、聞いてよ、綾」

そして、彼女は突然、私を真剣な目で見つめてきた。少し戸惑う私に構わず、彼女は言葉を続ける。


「この前、サークルの先輩に告白されたんだ」


 その言葉を聞いた瞬間、タルトの味が一気に消え去った。

頭の中が真っ白になり、唯一聞こえるのは、自分の心臓が激しく打ち付ける音だけだった。


「そう、なんだ……」


 絞り出すように、私はそれだけを言った。

笑顔を保てているだろうか?声は震えていないだろうか?

私はドキドキしながら聞いてみた。

彼女は、少し困ったような顔をして、俯きながら話を続けた。


「うん。すごくいい人なんだ。優しくて、頼りになるし、何より私のことをすごく大切にしてくれて。私、どうしたらいいか分からなくて」


 彼女の言葉は、まるで鋭い刃物のように、私の胸を突き刺す。

大切にしてくれるか。私が、どんなに彼女を大切に思っていても、それを伝える言葉を持たない限り、ただの「友達」でしかない。


 私は、彼女が誰か別の人に愛されること、そしてその愛を受け入れることに、心の底から怯えていた。


「...美羽(みゆ)は、どうしたいの?」


 彼女の名前を呼ぶとき、想像以上にかすれた声が出ていた。


「私…正直、よく分からないんだ。先輩のことは素敵だと思うし、惹かれる気持ちもある。でも、何かが違う気がして」


 彼女はフォークをカタンと皿に置き、まっすぐ私を見つめてきた。その瞳には迷いと、ほんの少しの期待のようなものが揺れているように見えた。


「ねえ、綾。もし…もし私が先輩と付き合ったら、綾は…嫌かな?」


その問いは、私には重すぎた。私以外の誰かを選んでもいいか、と聞かれているみたいで、すごくつらかった。


 私は一瞬でいくつもの言葉を頭の中で並べて、全部打ち消した。「嫌だ」なんて言えるはずがない。

そんなわがままをぶつけたら、彼女を困らせてしまう。私は、彼女の幸せを願う「親友」でいなきゃいけない。

唇をきつく噛みしめて、精一杯の「友達」の笑みを顔に貼り付けて、言った。


「そんなこと、ないよ。美羽が選んだ人なら、きっと素敵な人だよ。私、応援する…から」


 その言葉を絞り出すたびに、胸が締め付けられた。

私にとって、これが世界で一番残酷な嘘だった。

心の中で、何度も「嫌だ」と叫んでいたけれど、それでもその言葉を彼女に届けなければならない。


 美羽は、私の返答を聞いて、安堵したような、しかし少し寂しそうな表情を浮かべた。

彼女の瞳が、どこか遠くを見つめるように見えたその瞬間、私の心は完全に凍りついた。


「そっか... ありがとう、綾」


 その言葉を聞いて、私の胸はさらに重くなった。

彼女が微笑んだその瞬間、私の心も一緒に壊れてしまうような気がした。

彼女の安堵と寂しさが混じった表情。その奥には、私の心に刻み込まれた痛みがあった。


 それは、私の選択が正しかったのか、間違っていたのか、最後まで教えてくれなかった。

ただ一つ分かったのは、私の心臓が、応援という名の裏切りによって、深く、深く凍りついてしまったということだけだった。

この作品ををお楽しみいただけましたか?


もし「他の作品」や「応援したい」と感じていただけましたら、ぜひブックマーク登録と、ページ下部にある【評価する】ボタンから評価ポイントをいただけると、とても励みになります!


このような話を書いてほしいなどリクエストがあれば書きたいと思います。


皆さんの応援が、次の話の執筆を進める力になりますので、どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ