表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

井戸の底で、笑い声が返ってくる

作者: 夜宵 シオン
掲載日:2025/07/10

その村には、古い言い伝えがあった。


 「あの井戸は、覗くと笑われる」


 私は、都会から越してきたばかりの中学生。

 祖母の家の裏手にある、蓋つきの井戸がそれだった。


 「何があるの?」と聞いても、祖母は笑ってはぐらかす。

 地元の子たちも「見た人は、変になる」なんて話すだけ。


 夏のある夜、蝉の声がやんだあと。

 私はひとりで、井戸を見に行った。


 蓋は簡単に開いた。

 覗き込むと、冷たい空気が顔に触れた。


 深い、深い闇。


 耳を澄ますと、水の滴る音が聞こえる。


 そして――


 「……くくっ」


 何かが、笑った。


 私は慌てて蓋を閉じた。

 家に戻っても、胸の鼓動が止まらない。


 翌朝。目を覚ますと、母が不思議そうに言った。


 「昨日、ずっと笑ってたでしょ?」


 「笑ってないよ」


 「だって夜中じゅう、部屋から声がしてた。

  ……あんたの声で、ずっとくすくす笑ってた」


 それから、私の影が笑うようになった。


 動かないはずの影が、口元だけわずかに動いている。


 笑っている。


 三日後。再び井戸を覗いた。

 私は確かめたかった。自分の中に何が起きているのか。


 すると今度は、井戸の底に“私”がいた。


 水面に、にやりと笑う自分の顔。


 いや、水じゃない。底に立っているのだ。


 そしてこう言った。


 「今度は、こっちから行くね」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
夏の朝から井戸水のようにひんやりするお話でした 最後の井戸の中の「自分」が行くと告げたとき、私の想像では二人の居場所が入れ替わるイメージが浮かびました
2025/07/11 05:14 甘口激辛カレーうどん
シンプルで好き
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ