第五話 旅の途中で人生を変える——道行く人々へのコーチング
「陽菜さん、本当に俺と一緒に旅をしてくれるんですか?」
レオンが、馬の手綱を握りながら私を見た。
「もちろん。」私は微笑んだ。「レオンと一緒に旅をすれば、この世界の人たちを直接見て、助けられるでしょ?」
「……ありがとうございます!」
私は、勇者レオンの旅に同行することを決めた。
魔王討伐の旅——でも、私にとっての目的は違う。
この世界には、“戦うこと”以外の問題を抱えている人たちがいる。
「恐怖で行動できない人」
「未来に希望を持てない人」
「成功する自信がない人」
この世界の人々に**“脳科学”を使ったコーチングで、「行動を変える力」を与えること**。
それが、私のやるべきことだ。
旅の途中で出会った商人——「どうせ俺には無理だ」
レオンと私は、馬を引きながら街道を進んでいた。
そんな時、道端で座り込んでいる一人の商人を見つけた。
彼はみすぼらしい服を着て、荷馬車の荷物を見つめてため息をついている。
「どうしたんですか?」私は声をかけた。
「あぁ……旅の商人です。でも、全然商品が売れなくて……。もう商売なんてやめたほうがいいんじゃないかって。」
(出た……“行動できない人”パターンね。)
私は隣に座り、ゆっくりと話しかけた。
「あなた、どんな商品を売ってるの?」
「これです……。」
彼は、木箱の蓋を開けた。中には立派な皮のバッグやベルトが入っている。
「いいものじゃない。」私は手に取った。「品質もいいし、ちゃんと手入れされてる。でも、どうして売れないの?」
「そりゃあ……俺には商売の才能がないんですよ。街の他の商人と比べたら、俺なんて……」
「なるほどね。」
(この人、“自己否定”のクセがついてる。)
「ねえ、あなたは“売れない”と思ってるけど、売れない本当の理由を考えたことある?」
「え?」
「“才能がない”んじゃなくて、“売る方法を知らない”だけじゃない?」
「……」
「ねえ、あなたの商品を見て、どういう人が買うと思う?」
「そりゃあ……貴族とか、上流の人たちですよね。でも、そんな人たちは俺みたいな商人からは買わないですよ。」
「それ、本当にそう?」
私はニヤリと笑い、スキル【脳科学コーチング】発動!
「“どうせ買わない”って思ってるなら、そもそも売る努力もしてないんじゃない?」
「……!」
「あなたは、自分で“売れない”って決めつけて、チャンスを逃してるのよ。」
商人の目が揺れた。
「で、でも……」
「じゃあ、一つ試してみない?」
私はレオンの服の端をつまんだ。
「レオン、このベルト、ちょっと借りるわね。」
「えっ!? は、はい。」
私は商人のベルトと、レオンが着けていた普通のベルトを並べた。
「どっちがかっこいい?」
「そりゃあ、こっちのベルトのほうがいいに決まってますよ。」
「でしょ? じゃあ、なぜ売れないの?」
「……」
「答えは簡単。“価値”を伝えてないからよ。」
「……!」
「例えばこう言ったら?」
『このベルトは、王都の職人が作った特注品。上質な革と細工が施され、耐久性抜群。しかも、貴族の間で流行っているデザインです。』
商人はハッとした。
「……そうか。俺は、ただ“ベルト売ってます”って言うだけで、商品の良さを伝えてなかったんだ……!」
「そういうこと!」私は笑った。
「人は、“価値を感じたもの”にお金を払うのよ。 それを伝えられなければ、どんなにいい商品でも売れない。」
商人は立ち上がった。
「……やってみます! 俺、もう一度売り方を考えてみます!」
「うん、その調子!」
「これ、受け取ってください!」
と商人がいい銀貨10枚を受け取った
こうして、“どうせ売れない”と思い込んでいた商人の意識を変えることに成功した。




