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第二話 動できない勇者

広大な草原が広がる世界。その中に、ひときわ目立つ巨大な城があった。

ここは「王都レグナス」。この世界で最も栄えた都市であり、異世界転生した私が今いる場所だ。


「こ、怖い……やっぱり俺には無理だ……」


目の前で、ひとりの青年が膝を抱えて座り込んでいる。

彼の名はレオン・アルバート。この世界の「勇者」だ。


——の、はずなのに。


勇者って言うから、もっと逞しいイメージをしていたけれど、目の前のレオンはまるで試験前に追い詰められた学生みたいな顔をしている。

彼の髪は金色に輝き、青いマントが風に揺れているけれど……その姿はまるで戦士ではなく、逃げ腰の少年だった。


「レオン、何がそんなに怖いの?」


私が優しく問いかけると、彼は震える声で答えた。


「だって……俺が失敗したら、この世界のみんなが魔王に滅ぼされてしまう……。それを考えると怖くて、体が動かなくなるんだ……」


「……なるほどね。」


彼の気持ちはよくわかる。プレッシャーが大きすぎて、行動できない。

まるで、私のクライアントたちみたいだ——。


脳は、リスクが大きすぎると「危険」と判断して行動を止める。

それは、人間に備わった「防衛本能」だ。でも、このままでは彼は一生動けない。


私はゆっくりとレオンの隣に座った。


「レオン、今の状態はね、脳が『危険信号』を出しているだけなの。」


「……え?」


「脳はね、未来のことを考えすぎると不安になって、『何もしない方が安全だ!』って結論を出しちゃうの。」


「た、確かに……俺、戦う前に『もし負けたらどうしよう』ってずっと考えてしまう……。」


「そう、それが原因。でもね、大丈夫。」私は微笑んだ。「実は、それを解決する方法があるの。」


「レオン、目を閉じてみて。」


「え……?」


「いいから、やってみて。」


レオンは少し戸惑いながらも、ゆっくり目を閉じた。


「今から、成功した未来を思い浮かべてみて。」


「成功……?」


「そう。魔王を倒して、みんなに囲まれて『おめでとう!』って祝福されているシーンを想像するの。」


レオンの表情が少し変わる。


「……見える……かも。」


「よし、そのまま。その成功した未来の自分が、どんな気持ちになっているか感じてみて。」


「……嬉しい……誇らしい気持ち……みんなが笑ってる……!」


「うん、その感覚をしっかり覚えて。」


成功のイメージを持つことは、脳にとって強力なプログラムになる。

脳は、強くイメージしたことを『現実』だと錯覚する。

つまり——成功した未来を鮮明に思い描けば、脳は「自分はできる」と認識し始めるのだ。


レオンが目を開けた瞬間、彼の表情が変わった。


「なんか……さっきより、できる気がする……!」


「そう、それが『脳の力』よ。」私はニヤリと笑う。「このイメージを繰り返せば、レオンの脳は本当に『できる』って信じるようになるわ。」


レオンは立ち上がり、拳を握った。


「……やってみる! 俺、絶対に魔王を倒す!」


彼の青い瞳が輝きを取り戻した——。



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