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第5章

第5章:




兵士エルハンは、行列の真ん中でぼんやりとした表情で歩みを進めていた。汗ばんだ手で槍をしっかりと握りしめ、不安げに辺りを見回していた。森の巨大な木々の間から微かな光が差し込んでいたが、そこに温かさは感じられなかった。どこかから低く唸るような音が響いていた。それが風の音なのか、森そのものが発している音なのか、彼には分からなかった。




“何か言いましたか?”


エルハンは隣の兵士に問いかけたが、その兵士は彼の質問を聞いていないかのように無反応だった。その兵士は無表情のまま、ただ前を見つめて歩き続けていた。




エルハンは震える手で額の汗を拭いながら、独り言のように呟いた。


“ただ緊張しているだけだ…そうだ、きっとそれだけだ。”




だが、その不安はどうしても消えなかった。森は彼を飲み込もうとしているかのように、深い闇を吐き出していた。




夜が訪れた。暗い空の下、兵士たちは小さな火を囲んで集まったが、エルハンにはその炎ですら冷たく感じられた。彼は火を見つめながら、自分の中に湧き上がる奇妙な感覚について話そうとしたが、言葉が喉に詰まったように出てこなかった。首を振るたびに、どこかから視線を感じるような気がした。




その瞬間、耳元で低くざらついた囁き声が聞こえた。




“エルハン…”




エルハンは驚いて振り返ったが、そこには誰もいなかった。彼は荒い息を整え、席を立ち他の兵士たちに言った。




“少し離れて用を足してきます。”




兵士たちは無関心に頷いたが、その顔には奇妙な無表情さがあった。エルハンはゆっくりと兵営を離れ、森の中へと足を踏み入れた。彼の足取りは重く不安定で、地面の落ち葉がブーツの下でカサカサと音を立てた。




森は静寂だった。いや、あまりにも静かすぎた。エルハンは自分が異世界に迷い込んだような気分に陥った。森を抜けようとする彼の耳元で、再び囁き声が聞こえた。




“エルハン…戻っておいで…”




彼は叫び声を上げながら後ずさりした。額から滴る冷や汗が視界を曇らせた。彼は自分の名前を呼ぶ声から逃れようと必死に走り出した。しかし走れば走るほど、森は深みを増し、方向感覚はどんどん失われていった。




“お願いだ…俺を放っておいてくれ!”




彼は木の蔦の下に身を潜めて震えた。目は真っ赤に充血し、手には短剣が握られていた。しかし短剣を抜いた瞬間、空気は一層重く不気味なものに変わった。エルハンは短剣を強く握りしめながら、森の闇を睨み続けた。




どれだけの時間が過ぎたのか分からなかった。彼は次第に疲弊し、目の前には幻覚が現れ始めた。微かに聞こえる子供の笑い声、兵士たちのすすり泣き、そして未知の言葉で囁く声が耳を打った。




“やめろ…もうやめてくれ!”




彼は膝をつき、頭を抱え込んだ。その瞬間、背中に誰かが軽く触れる感覚があった。エルハンは身体が硬直し、ゆっくりと後ろを振り向いた。そこには誰もいなかった。




安堵の息をついて前を向き直したが、そこには吊り下がる何かがあった。彼は恐怖に満ちた声で叫んだ。




“あれ…俺…?”




目の前には無残な姿で吊るされた自分自身がいた。血まみれの顔、裂けた衣服、そして虚ろな瞳が彼を見つめていた。




“違う…違うんだ!”




エルハンは振り返って逃げ出そうとしたが、身体は麻痺したように動かなかった。その時、木々の間からコツコツと歩く音が聞こえ始めた。その音は近づくことも遠ざかることもなく、一定の調子で響いていた。








しばらくすると、耳元で生々しい声が囁いた。






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“エルハンはいい子だね…さあ、戻ろうか?”

「アスカリオンの書」を読んでくださった皆様、誠にありがとうございます!この物語が皆様の心に響くものとなっていることを願っています。ぜひコメントやご感想をお寄せください!皆様の応援や反応に基づき、第6章の公開を決定したいと思います。どうぞよろしくお願いいたします!

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