またきたよ
自分の父親が亡くなって、その心の整理をつける意味で書いたものです。 少し変な表現をしていますが、普通に書くとすごく悲しくなってしまうので、こんな風にしてみました。
ショシュウ （初秋）
あひゃひゃひゃひゃひゃ、またきたよ
しばらくぶりだね、こんどはどこだね？
どこだろう、ぶつぶつがいっぱいあるさ
ぶつぶつのあるとこかね、そこはトンネルのようかね？
ちがうさ、トンネルじゃなくてフウセンみたいさ
フウセンかね、ああ、そこはクウキをだしいれするところだよ
だいぶんくるしそうさ
クウキのだしいれができないとくるしいもんだ
そうかね？
そうさね
そんなもんかね？
そんなもんさね
そういやそんなきがしてきたさ
このまえはどこだったね？
やっぱりフウセンみたいだったけど、ぶつぶつはなかったさ
そこにおおきなミズタマリはあったかね？
フウセンのはんぶんはミズタマリだったさ
ああ、それはタベモノをこまかくするとこさね
なんだかあんまりタベモノもこなかったさ
そりゃあ、そうさ、ずいぶんといたかったろうからね
でもおいらもイゴコチがわるかったさ
イゴコチがわるかったかね？
ずいぶんわるかったさ
それでどうしたね？
がんばったさ、がんばったけど、さいごはきりとられたさ
そりゃあ、ナンギなことだったね
ナンギっていうか、すっきりしたさ
それでまたなんできたね？
いくところがないからさ、ほかにいくところがあればそっちにいくさ
でも、ほかにもっといいところもあったろうね
そりゃあ、あるさ、あるけどそういうところはなかなかよりつけないのさ
でも、おなじところもたいへんだろうね
そりゃあ、たいへんさ、あんまりゲンキがないものさ
ゲンキがないんじゃかわいそうじゃないかね？
そりゃあ、そうさ、かわいそうだけど、そういうもんさ
そういうもんって？
そういうもんなのさ、つよいあいてにはかなわないさ
そうかね？
そうさね
で、こんどはどのくらいいるんだね？
そとのけしきがモモイロにそまるまでさ
じゃあ、ずいぶんといるね、まだそとはミドリだよ
そのうち、かわるだろうさ
かわるけど、ミドリのつぎはアカやキイロだね
そうかね？
そうさ、それがようやくすぎてマッシロになるのさ
そうだったかね？
そうさ、そのあとだからまだまださきさ
でも、ジカンはながれるもんさ
あっというまかね？
あっというまさね
そうかね？
そうさね
そんなもんかね？
そんなもんさね
ずっとどこかにかくれているわけにはいかないのかね？
なんでさ？
そうすりゃどこにもいかずにすむんじゃないかね？
そりゃあ、そうさ
そうしなよ、おとなしくしてなよ
そうしたいけど、どうもそういうショウブンじゃないのさ
ショウブンって？
おいらにもどうにもできないってことさ
それでもやっぱりおとなしくしていたほうがいいよ
どうしてさ？
どうしてもさ
そうかね？
そうさね
そんなもんかね？
そんなもんだね
じゃあ、できるだけおとなしくしているさ
それがいいね
それがいいかね？
ぜったいいいよ
ぜったいいいかね？
ながければながいほどいいね
じゃあ、イタミもながくなるのさ
イタミもながくなるのかね？
そうさ
イタミはいけないね
すこしだけならいいさ
すこしだけならって、どれだけがすこしだけなんだね？
そりゃあ、きにならないほどさ
きにならないほどかね？
でも、それができないのさ
できないって？
きにならないほどにおさえることさ
ショウブンってやつかね？
そうさ、ショウブンってやつさ
でもジカンはまだあるっていうのに、ずいぶんいたいたしいようだよ
それはオタガイサマさ
オタガイサマかね？
そうさ、オタガイサマさ
でも、あんまりがんばるときりとられちゃうんじゃないかね？
そうさね、そういうこともあるかもさ
そうなったら、イロのうつりかわりもみれんね
そうだね、みれんさ
みれんとつまらんね
つまらんさ
ショトウ （初冬）
しばらくぶりだね
あひゃひゃひゃひゃ、そうさね
ずっとおとなしくしてたかね？
ドリョクしてみたさ
ドリョクしたかね？
もちろんしたさ
もちろんかね？
もちろんさ、ところでまわりは、アカかね、キイロかね？
みすごしたね
おいら、みすごしたのかい？
そうさね、みすごしたね
じゃ、いまはなにイロなのさ？
いや、ハイイロさね
ハイイロかね？
そう、ハイイロさね
マッシロはどうしたさ？
すこしおくれているね
じゃあ、まったほうがいいかね？
もちろんさ、でもずいぶんひろがったね
そりゃあ、ひろがるさ、そういったショウブンなのさ
まったくもっていろんなショウブンをもってるね
そりゃあ、もってるさ、もってなきゃやってられないのさ
なんでね？
なんでねって、そうしないとまたきりとられてオシマイさ
やっぱりきりとられるのはいやかね？
いやじゃないけど、ずっとずっとそこにいるほうがやっぱりいいのさ
やっぱりいいかね？
いいのさ
でもあっちこっちにひろがるとめだつだろうね？
そりゃあ、めだつさ
またジャマがはいるね？
そりゃあ、はいるさ、あっちもヒッシさ
おめえさんもヒッシかね？
もちろんヒッシさ
そんなもんかね？
そんなもんさね
いたかあないんかね？
そりゃあ、たしょうはいたいさ
きにならないほどかね？
いや、すごくきになるほどさ
すごくきになるほどかね？
そうなのさ、それがショウブンだからさ
オタガイたいへんだね
ショウブンだからしかたがないさ
でも、モモイロはみせてあげたいね
そりゃあ、できればみせてあげたいさ
ちょっとはむりしても、みせられないもんかね？
そりゃあ、そうできればそうしたいさ
むりなんかね？
そりゃあ、それがいいならそうするさ
もちろん、それがいいね
じゃあ、できるだけそうしてみるさ
そうしておくれ
できるだけそうするさ
バントウ （晩冬）
おい、おい、きこえるかね？
あひゃ、ひゃ・・・
どうしたね、なんかあったかね？
いやはや・・・
どうしたね？
なんとも・・・
いったいどうしたね？
どうにもこうにも・・・
どこにかくれているんだね？
そういうわけじゃ・・・
だからいったいどうしたんだね？
きられちゃっ・・・
ああ、そうかい、きられたかね？
そうさ・・・
ゲンキがないね
な・・・
それでいまはどこだね？
つぶつぶのあっ・・・
それはもうないね
ないさ・・・
だいじょうぶかね？
わからな・・・
いたくはないのかね？
いや・・・
どうしたね？
・・・
やすむかね？
・・・
みえるかね、そとはマッシロさね
リッシュン （立春）
なんだかさわがしいね
・・・
きこえるかね？
・・・
たいへんかね？
・・・
そうらしいね
・・・
あっちもたいへんみたいだね
・・・
ジブンのことでていいっぱいかね？
・・・
いいわすれてたんだけどね
・・・
マッシロのあとはまたちょっとミドリになるんだ
・・・
モモイロはそのあとさね
そ・・・の・・・あ・・・と・・・
そうさね
・・・
もうすぐさね
・・・
春 （ハル）
優しい朝日が注ぎ込む窓から見える景色は淡い桃色で彩られていた。 凍り付くような冬の寒さに耐えた桜の芽はふっくらとしたつぼみとなり、心地よいぬくもりの春のそよ風を受け、花を咲かせた。 それは誰もが心待ちにしている春の景色であり、誰もが心を奪われる風景だった。
病室の中では七十過ぎの男性が寝台に横たわり、重そうなまぶたをかすかに開いてその桃色の世界を心に焼き付けるかのように見ていた。 右目から一滴の涙がこぼれたが、それを拭う余力はなかった。 何か言い出そうとしてか、男性は軽く口を開けたが、一言も言葉は出なかった。 そして、音もたてずに男性は目を閉じた。 その目が開かれることは二度となかった。
私の父親のいた病室からは桜が見えませんでしたので、写真を撮って見せてあげたのがその時の私にできた精一杯でした。 ありがとうございました。
