ラスボス令嬢のスローライフ
「婚約破棄だ、エレイン!!」
それが前世で最後に受けた言葉だった。わたしはそのあとに事故に巻き込まれて死んだ。そして異世界のラスボスに君臨した。
死神が異世界をメチャクチャにしていいと一方的に契約を結んできたので、まあいいかとわたしは条件を飲んだ。
世界を支配する者として召喚された、わたしは次々に街や村を落とした。
自分があまりに強すぎて抵抗できる者がいなかった。……いや、いたにはいた。勇者が。
けれど、わたしの力の前に勇者は滅びた。それから、わたしは更に躍進。ほとんどの地域を支配した。
三ヶ月もしない内に、わたしは異世界を手に入れた。世界中の人たちから反感を買うかと思いきや、そうでもなかった。
どうやら、異世界はもともと悪い王様に支配されていたようで、前よりはマシになったと、そういう声が広まっていた。
わたしは何故か崇め奉られた。
人類がそう望むなら、それでいい。これ以上、無駄な命を削る必要はないと思っていたからだ。
ここまでこれば十分。
わたしは、全てを手に入れたこの異世界でスローライフを送りたい。
だが、少しすると新たな勇者の噂が耳に入った。
新しい勇者の名は『シア』というらしい。
そのシアは、しばらくして、わたしの目の前に現れた。
「……見つけたぞ、エレイン」
「お前が噂の新米勇者シアか」
フードを深く被っていて素顔は見えない。
「顔を見せろ、勇者」
「分かった」
静かにフードを脱ぐ勇者。その素顔が露わになり、わたしは心底驚いた。
「お前……女か」
「そうだ。支配王、お前こそ女だったとは」
「そっちの方が意外だったぞ。新米勇者……。それで、死にに来たか?」
もし向こうからやってくるのなら、わたしは勇者を倒そうと思った。面倒だからだ。
「確かに、私はエレインを倒しにきたはずだった。だけど気が変わった」
「なら、何をしに来た」
「エレイン、いずれ命は奪わせてもらう。今は見極めたい」
「なにを見極めるつもりだ」
「あなたは、確かに極悪非道の支配王だ。けれど、世界を良い方向に進めて今は、むしろ平和になったほど。かつて世界を手に入れた王様は、邪悪でとても民から支持されるような存在ではなかった」
そういうことか。この勇者は今までの勇者とは違い、わたしを半分は認めているようだ。でも、それでもわたしは異世界をどん底に陥れたラスボスであることは間違いない。多くの命も奪ってきた。
彼女が勇者なら、わたしは魔王だ。
「なら、どうする」
「今後はエレイン、あなたを監視する。もし、極悪人以外を狙うのなら、その時は容赦しない」
「そうか。勝手にするがいい」
興味はなかった。
どのみち、コイツは新米勇者。それほどの力はないはずだ。いつでも捻りつぶせるだろう。だから、特に気にせず放置することにした。
だが、それは間違いだったかもしれない。
勇者シアは、以降ずっとわたしに付き纏うようになった。
城内歩けばピッタリくっついてくる。
ええい、煩わしい!!
ウンザリしてきた、わたしはテレポートで街へ。勇者から逃げた。
街を歩くと直ぐに声を掛けられた。
「おぉ、そこの貴女。なんと美しい」
「……そなたは?」
「僕は侯爵のコリンです。突然ですが、結婚してくれませんか!」
本当に突然すぎる。
けど、わたしの美貌に惹かれたのなら仕方ない。やんわり断って立ち去った。
「お待ち下さい!!」
「待ちなさい、エレイン!」
コリンという侯爵と……勇者シアが現れた。って、なんでいるの……。いつの間に追いついたの。
……ああ、もうスローライフさせてッ!
以上、短編版です。
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