ねこ
猫の夢を見た。
夢の中、私は多分私本人で、現実のものとは違う自分の部屋にいた。
一人暮らしで、どうも、猫を飼い始めたばかり、という雰囲気だった。
猫は、真っ黒ではなかったが、かなり黒かった。ほんの少し灰色がかっていたという感じの黒だ。
猫らしく警戒していて、新米の飼い主になどなかなか近寄ってはくれなかった。
部屋の隅にばかり潜む猫を、私は無理に構おうとはせず、淡々と日常をこなした。
やがて猫は環境に慣れたらしい。
部屋の隅ではなく真ん中に堂々といることもあれば、いつの間にか足元に忍び寄ってすり寄るようにもなった。
撫でろとばかりに足にへばりつく猫に、私はしぶしぶの体で手を伸ばす。猫の毛はふかふかしていて、思ったより長毛のようだった。
夢に猫が出てきた、と思い出したのは、朝のうちだった。
現実では私は猫を飼ったことがない。
いい夢だった、と回想を終わろうとして気付いた。
あれは猫だった?
猫には耳がなかった。尻尾も。
猫らしい声で鳴くことも、のどを鳴らすこともなかった。
形も不鮮明で、黒い塊に、瞳だけが光っていたことを思い出した。
あれは猫ではない。
夢の中で、猫としか認識しなかったあれは、何だったのだろう。