第五話 SNSで超拡散された!
「ちょ、待て、待って!」
「あ?」
ちょっと駆け足して通り魔さんと横並びになる。
通り魔さんはスマホで何かの操作をしていて、私からは見えない。
「うし、これでいいか」
「何したんだ?」
「ん? お前の芋砂シーンとプレイヤー発言シーンを投稿した。ほら、拡散始まってるぞ」
「はぁ!?」
画面を見せられ、確かに拡散が始まっている。
すぐに2桁RTに達し、ものの数分で4桁RTに達した。コメントもとんでもない数が付けられている。
「読んでみるか。えー、『政府の秘密組織!?』『良い方の宇宙人か??』『プレイヤーだ(ドヤ』『俺のとこにもきてくれよ!!』――」
「もういいやめろ」
通り魔さんがくつくつと笑い、私をバカにしたような目をする。
あのとき話を振ってきたのは通り魔さんじゃん……。
「笑えるwwwお前いつから政府の秘密組織とか宇宙人になったんだ?www」
「笑うな! 私は普通に日本人だ!」
「だよな、わかってるw」
わかってると言いつつも笑うのをやめない。
そこで、本題を思い出した。
「あ、そうだ。装備返せよ! 私のグラランと盾!」
「え? くれたんじゃねぇの?」
「誰がやるか。グレランと盾はそれしか持ってないんだって」
「いや、でもお前が使ってんの見たことねーけど……」
確かにその通りなんだが!
「てかこれから一緒に行動するだろ? なら、俺が持っててもいいんじゃないか?」
「は?」
え、なんて?
「私と通り魔さんが一緒に行動する?」
「ああ。だって、お前、家に帰れねえだろ? 俺は一人暮らしだし、来いよ。そんで配信者としてやっていこーぜ!」
ノリが大学生なんだけど、このおっさん。
「……まぁ、確かに家には帰れないけどさ」
「だろ? 野宿するか? 俺の家来るか?」
「ん〜〜〜〜」
空を仰ぎ、考える。
確かに家には帰れない。こんな格好で帰れない。
かといって野宿するのも嫌だ。お風呂には入りたい。だけどもう満喫とか、行けないかもしれない。このおっさんの家に行けば、風呂トイレはあるはずだ。
「思ったんだけど、どこに行っても私たちがプレイヤーであることは隠せないんじゃない?」
この格好で家に帰り、私服で出かければすぐに露見する。あいつか〜ってなる。きっとそう。
だから、どこの家に帰っても結局一緒なのでは?
「俺の家は一軒家だし、周りに田んぼしかねーから問題ねーと思うぞ」
「え、どんな田舎?」
「ここ奈良だが?」
それもそうだ。
ママとパパ、直樹にはあとでlioneでも入れておこう。
「で、車でこっちに出てきてたんだが……車が壊れてんな」
「どれ?」
「そのランボルギーニ」
「え、マジ?」
「マジマジ」
ランボルギーニ乗ってるの!?
しかもそのランボルギーニはペシャンコになっている。
「電車――は動いてないよな。歩くか」
「近いん?」
「20kmくらいだな」
ダメだ。こいつの家に行くのは却下しよう。
「そういえばさ、通り魔さんが解放したイオンって生きてる人いたの?」
悲鳴は聞こえていたけど、途中からそれさえ聞こえなくなったのだ。生きてる人、いるのかな?
「いなかったぞ。一応全フロア見て回ったんだがなぁ」
「イオンに行こう。で、ちょっとずつ解放していって、間借りして、を繰り返していけばいいんじゃない?」
「お! いいなそれ! 採用!」
イオンとかなら食料も服もありつつ、人がいない。条件が整っている。
それを何度も繰り返していけば、どこに行っても同じことができるはずだ。
方針が決まればあとは早かった。
まずイオンに移動し、本当に人がいないのか確認する。人がいないのを確認したら、まず従業員専用通路から行ける宿直室に向かった。
宿直室にはシャワーや台所が完備されており、生活するには問題ない。
水道電気ガスを使えるかどうかは置いといて……。
「マジでこんな空間あるんだな」
「この辺りの掃除が終わるまでは、ここを拠点にしよう。出入り口もすぐだし、食べ物とか服を取ってくるのも手間がかからない」
「そうだな。遂に俺もこんな豪邸に住めるように……」
「豪邸じゃなくてイオンな。じゃ、着替え取ってきてシャワー浴びるわ」
「おー」
服屋を巡り、パジャマに始まり明日から服、そして予備の服も、これまたカバン屋から持ってきたバッグに詰め込んでいく。
「お、おぉ……」
ひらひらしたスケスケのティーバック。
両端を広げて持つ。
「こ、こんなの付けんのかよ」
一応、一応入れておこう。何かの拍子に必要かもしれない。上下揃っていることを確認して、バッグに入れていく。
下着はいくつあっても困らないからな。
普段はパンツ系を履いている。でも、たまにはスカートやワンピースもいいかもしれない。
帽子もオシャンなキャップなんかをバッグに詰める。
肝心のバスタオルやタオル、化粧水やスキンケア用品も用意すると、相当な量になった。
途中でカバン屋に2回ほど行ったし、バッグはすべてで4つもある。しかも、これらをすべて持てるほどに力持ちになっているようだ。
前までならこんなに持てなかったのに。
「あ、そうだ。パパの安否確認と、ママに無事ってことと帰らないってこと言っておかないと」
Lioneで伝えると、パパからも現在は避難していると返ってきた。家に帰れるようになるのはいつかわからないけれど、近いうちに帰るって。
直樹はもう家に着いているらしい。
ママも私が帰ってこないことを不安になっていたらしいけれど、私からの Lioneがあって、いまからシャワーを浴びるそうだ。
「私もシャワー浴びるかぁ」
宿直室に戻り、荷物を置く。
「うおっ、帰ってきたのか」
「ああ、そうだよ――!?」
通り魔さん!?!?
「なんで裸なんだよ!?」
慌てて顔を両手で覆う。指の隙間から見える大きく立派な棒を見つめてしまった。
「いや、お前どんだけ時間かけてんだよ。もう1時間以上経ってるんだが? これでも結構待ったんだからな」
「いや、でも、裸で彷徨くなよ……!」
「もしかしてお前、見たことねーの?w」
「ねーよッ! さっさと仕舞えバカ!」
「とか言いながらガッツリ見てんじゃねぇよwww」
「……っ」
指の隙間越しに、通り魔さんと目が合った。
「彼氏とかとしたことねーの?」
「い、いたことねーし」
「あー、まぁお前暴言吐くしなぁ」
「……」
「俺も初めて会ったときは、無愛想で何考えてんのかわかんねー可愛くないやつって思ったけど」
「なんだよ」
「可愛いとこあんじゃんwww」
「バカにしてるだろ! 殺す! 通り魔さん殺す!」
咄嗟にミーティアを装備すると、虚空から出現する。
「してねーって。んな危ないもん仕舞えよ」
「……おう」
なんだよ、まったく。
「ほら、お前もシャワー行けば?」
お前お前って、私の名前はお前じゃないっつーの!
「ムカつく」
「はあ??」
「シャワー浴びるから、外で見張りしてて」
「ああ、わかったよ。……女心はわかんねーな」
通り魔さんを追い出し、ドアのところで見張りをしているのを確認すると、服を全部脱いだ。
「あ、そうそう。温水出るの時間かかるから気をつけろよ」
通り魔さんが顔だけ覗かせ、そう言った。
目と目が合う。
「あ、すまん」
「〜〜〜〜〜っ!!」
全部、見られた。
慌ててしゃがんで体を隠す。
通り魔さんを睨んだ。
「……いい体してんじゃん」
「死ね!」
「いやマジですまん! わざとじゃないんだ!」
咄嗟に装備したミーティアを構え、発砲した。
気が動転しているからか、狙いから大きく外れる。
「あっぶ……! やめ、やめろ! 俺が悪かった! てか全部見えてるぞ!」
〜〜っ!
「次見たら殺す。絶対殺す!」
いま撃っても当てられる気がしない。
シャワー室のドアを力強く閉めた。