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第二話 半年後

第二話 半年後


 半年が経った。

 高校3年生だった私は大学1年生になり、自宅から日々大学に通っている。銃を出したり装備を着て楽しむのが日課だ。

 そしてプレイヤーの中で有志が集まり、北海道に展開する自衛隊を陰ながら手助けする部隊を組織した。そんな彼らは現在、ロシアのサハリンから南下してくるゾンビたちを相手に戦っている。


「みんな凄いなぁ」


 私にはとても無理だ。あんな最前線で戦うなんて。



 あれからいろいろ調べることとなり、どうやら、サービス終了の瞬間までプレイしていた人、に対してインベントリが開けるようになったらしい。

 プレイヤー全員に与えられたものではなかった。そして、最後の瞬間までいたプレイヤーの数は89人。たったの89人だ。

 これでは日本を守ることはできないし、もちろん協力的じゃない人もいる。私みたいな。


 そこで、政府が作った『ゾンビが上陸してくる想定地点及び避難区域』を参考に、北海道の稚内と長崎県の対馬を防衛しようということになったのだ。

 しかし、いざ戦闘が始まってみると、海外のフィードバックもあるためか結構善戦している。対馬においては自衛隊とヤクザが共同戦線を張っているのだから、驚きだ。

 だからプレイヤーは稚内に戦力を集中することにした。

 稚内行きを決めたプレイヤーは23人。とても少ない。だけど、装備が整っており、倒し方を熟知している精鋭部隊だ。

 現地では3人もしくは4人でチームを作り、行動しているらしい。


「げっ、グロ画像送ってくるなよクソ」


 そのチームの一つには、キッズとプギャーがいる。

 盾と呼ばれる、銃と盾がセットになった装備はPVEではとても重要で、生存率が爆上がりする。

 そしてアサルトライフルはメインアタッカーだ。一つの目標に対してのDPSはゲーム内トップを誇る。


 そう、PVPでは使用率1%にも満たないアサルトライフルは、PVEでは使用率90%以上なのである。


 逆にスナイパーライフルの使用率は0%にまで落ちる。一発の威力は高くても、連射ができないから有象無象に対して効果がない。

 ボス戦にしたって、取り巻きゾンビがポップするのだ。ボス一体を相手にすればいいわけではない。


 だからあの二人が強く誘われて、私があまり誘われなかったのだ。


 その二人からゾンビの画像が送られてきたりする。今日の成果だとかなんとか……。


「本気でやめて欲しい……ちょっと見てみたくはあるけどさ……」


 送られてきたのはヘッド級ゾンビ「シェルフ」だ。それもノーマル。最高ティアで最高強化のアサルトライフルがあれば3秒で溶ける。

 そう、ただの雑魚である。

 ただ死体は消えないらしく、一つ一つ処理しなければならなず、一応倒した証明として写真を撮って部隊駐屯地に送るようだ。


 23人の駐屯地って、少ねー……。


「ん」


 緊急警報だ。

 最近、はぐれゾンビがぽつぽつ湧いているらしく、一体でも現れれば緊急警報が鳴らされる。

 この警報が鳴った場合、市民は避難し、駆除が完了するまで屋外に出てはならないのだ。この半年の間に決まった法律のうちの一つである。

 まぁでも、2週間か3週間に一度はあることだ。もうみんなも慣れて、まずSNSで出没場所を確認し、その付近にいれば急いで離脱する。そうでなければ、行動を変えることはない。


「んー……? おかしいな。出現場所多くない?」


 少なくとも6か所ではぐれゾンビが現れている。こんな奈良の市街に、これほど現れるのは珍しいというか、初めてだ。


 SNSを巡回していると、弟から連絡が入った。


『やばいたすけて』


 たったそれだけ。

 それ以降、何もない。何度も何度もLioneを送る。返事はない。


「え、え? 嘘。え?」


 ゾンビに遭遇した?

 ありえなくはない。だって、6か所に出現しているのだ。


 今日は土曜日。弟は高校生で野球部の練習で学校にいるはずだ。ママは一階で昼寝、パパは土曜出勤で会社にいる。

 かくいう私は、今日も自室で装備を身に着けて銃を出し、ポーズをして鏡の前で自撮りしていた。


 心臓がうるさい。

 ドクドク、バクバク。


 手に持っているミーティアを見つめる。


「これなら……倒せる。みんなもやってる。倒せないなんてことはない。でも……」


 ミーティアを強く握る。

 これで何度ゾンビを倒したかわからないほど倒した。PVPでプレイヤーをキルしたことも数え切れない。私はアサルトライフルも持っているけれど、スナイパーライフルでPVEに参加していたピーキーなプレイヤーだ。一体一体倒していき、いつも貢献度は最下位だった。

 そんな私が、ゾンビに勝てるだろうか?

 いや、勝てるはずだ。

 だって、相手は一人のはずだから。


「それに、このミーティアなら、どこに当ててもワンショで倒せる」


 ミーティアの単発攻撃力は4781ダメージ。雑魚グールのHPは300程度だから、オーバーキルにもほどがある。一番ダメージの低い足に当たっても、3割減で3000ダメージは出る計算だ。


 みんなの報告によれば、間違いなく倒せる。


「プギャーとキッズに相談――」


 なんて、時間はあるのだろうか。

 そうしている間に、こうしている間にも弟が命の危機に陥っているかもしれないのだ。


「……行こう」


 逮捕されたっていい。


 弟が、直樹が助けられるなら。



 鏡の中に映る不安気な私。

 そんな私を振り払って、階段を降りる。


「楓? コスプレなんかして、それで直樹を助けられるとでも思ってるの? 所詮オモチャでしょ。もう警察に通報したから、待ってればいいのよ。いつものことじゃない」


 落ちついているママが、いまだけは鬱陶しい。


 確かにママの言うことは正しいかもしれない。

 警察に通報したならすぐに警察が駆け付けて、ゾンビ対策警察法第一条:住民がゾンビに襲われている、またはその恐れがある場合のみ発砲を許可する、というものが作られたから、それに則って拳銃を使ってゾンビを倒すことだろう。


「でも――」


 スマホの画面に映る、次々と新着で上がって来る目撃情報。その数は尋常ではない。


 ドン!


 不意に玄関で物音がした。何かがぶつかったような、殴られたかのような音だ。

 玄関モニターでママが確認する。


「きゃぁあ!!」


「ママ!? どうしたの――ッ!?」


 グールだ。一番雑魚のグール。私のミーティアで撃っても、もう一つ持っている武器、ショットガンのアトラスでも対処可能だ。ショットガンの拡散される一つ一つの弾のうち、たった一発でも当たれば倒せる程度の敵だ。


「……やるんだ。やるしか、ない」


 どんどん増える目撃情報。遂に自宅に現れた雑魚グール。


 間違いなく、メスガツがこの町にいる。

 もし本当にいるなら、警察だけで対処できるとは思えない。日本中がこの様子なら、自衛隊の応援も望めないだろう。だって、北海道と九州で部隊が展開しているし、ゾンビが現れてから自衛隊員の数は一気に減った。危険が多いからだ。

 だから、私がやる。

 私がやるしかないんだ。



「ま、待ってッ! 楓! 行かないで! 絶対開けちゃダメ!」


「大丈夫。私には、これがあるから」


『速報です。本日13時過ぎ、各都道府県の各地域に、メスガツと呼ばれる、ゾンビを生み出すゾンビが多く投下されたとのことです! 国民の皆様には、くれぐれも自宅、もしくは職場や学校等から出ないようにしてください! このあと総理官邸から緊急記者会見が始まります!』


 テレビの声に納得しながら、私はアトラスを構え、窓から索敵をして外に出た。

 ひとまずこの家の周りにいるのは、あの一体だけだろうか。

 玄関のほうへぐるりと周り、遂にリアルグールと対面する。

 私を認識したグールが少しずつ近付いてくる。移動速度は早くない。普通の人が歩くより遅いくらいだ。正直、一般人でも金属バットなんかで倒すことができる。


「……っ」


 唾を飲み込み、アトラスをグールに向ける。

 距離は目測4メートルほど。

 外れない。

 外れるわけがない。

 私たちプレイヤーには、システムアシストとも呼ぶべきものが備わっている。

 そして、各プレイヤーたちが検証に検証を重ねた結果を、私は知っている。だから、アトラスをこの距離で外すことはない。


 後ろに誰もいないことを確認し、私は引き金を引いた。



 ズパァ――ン!


 見事命中し、グールを仕留めた。

 音は想定していたよりも大きかった。けれど、無事倒せた。



 早く、直樹のところへ行かなくちゃ。

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