孤島の楽園にて(承)九瀬亮視点
グループ小説第二十五弾「サバイバル企画」です。
「あーあ、美砂のパパ行っちゃったなー」
陽向が残念そうに言う。まるで、加賀上の親父さんに会いにここへ来たような口ぶりだ。
「あんたね、パパに会いに来たわけじゃないんだから……」
加賀上が俺の思ったとおりのことを口にする。
「だって美砂のパパって、バラエティにとんでておもしろいじゃん」
加賀上の言葉に、陽向が口をとがらせて反論する。お前は子供か、ってついつっこみたくなる。
加賀上美砂、菱河陽向、神崎小百合、そして俺、九瀬亮の四人は、社長令嬢である加賀上の親父さんが経営する無人島のホテルにやってきた。
社長令嬢の加賀上と加賀上の親父さんと共にリゾート開発をしていた祖父を持つ陽向、両親が加賀上のところで働いている神崎……。この三人は親同士の付き合いのようなものが成立してるからここへ来られる理由も分かる。けど……。
何で、親も祖父母も加賀上家と全く関係のない俺までが招待されたのかが、理解できない。この三人といつも学校生活で行動を共にしてる人間なら呼ばれる理由も分かるけど、残念ながら俺はこの三人とは行動を共にするほど仲良しでもない。なのに何故俺はここに呼ばれたのだろう。しかも、神崎の看病までさせられるし……。
俺がそんなことを考えているうちに、他の三人は少し歩き始めていて、神崎が振り返って俺に叫んだ。
「九瀬君、速く来ないとおいていっちゃうよー?」
今、ちょっと背筋に悪寒が走った。俺って、かわいい言葉を使う女子はどうも苦手みたいで。クラスメートは羨ましがっているけど、俺はかわいい言葉を使う女子に好かれることが極端に嫌いだ。だから、神崎も俺の中では苦手なタイプ。
「あぁ、今行く」
俺はそう言ってから特に走ることもなく三人とは少し離れて歩き出した。
加賀上は俺たちを、島にあるいろいろな施設に案内してくれた。カフェテリア、お土産屋、屋台の並ぶ、お祭り騒ぎの通りなど、一日ではとても回りきれない程たくさんの施設があった。自分の友達と一緒に来られなかったのが少し残念だったけれど、それなりに楽しめた。ただ、たった半年しか営業されないこの島の施設は、庶民の俺にはちょっと豪華すぎる面もあった。そして、天気が悪くなっていたのも気になっていたけれど。
「ぷはぁー、疲れたー」
加賀上が長いすに腰掛ける。……俺たちは、何でも売っていそうなデパートのミニバージョンみたいな店に来ていた。陽向と神崎は、洋服店を見に行っていた。
「お前、ちょっと買いすぎなんじゃないの? 第一、何でお前の買った荷物を俺が持たなきゃいけないわけ」
俺は加賀上の隣に腰掛けながら、彼女が買った袋の山を見せて言った。俺は、さっきから加賀上の荷物係になっていた。
「だって男はそんなに買い物なんてしないじゃない? 私達は年頃だからおしゃれとかしなきゃいけないから色々と買うものがあるのよ。それで商品を見るのに両手いっぱいに荷物抱えてちゃ、商品がゆっくり見られないじゃない。だから、お願いしたの」
はいはい、あんたの理屈には負けたよ。……俺は、一応筋は通ってるものの、感謝くらいしたらどうなんだって突っ込みたくなる加賀上の言葉に半ばあきれて溜息をついた。
ふと窓に目をやると、さっきよりも天気が悪くなっていた。このままいくと、嵐が来るかもしれない。
俺はそう思って加賀上に言った。
「なぁ。天気も悪くなってきたし、そろそろホテルに戻らねぇか? なんか、嵐が来そうだし。別にまだ日にちはあるんだからさ、また別の日に改めてショッピングすりゃいいだろ」
俺の言葉に、それまで洋服店を覗きに行っていた二人が戻ってきて、神崎が子供みたいにいじけて頬を膨らませながら言った。
「えー、まだ遊び足らないんだけどー」
……神崎、頼むからその語尾延ばしたりするかわいい子言葉を使うのをやめてくれ、背筋に悪寒が走るから。
俺は心の中で神崎に言うが、もちろん本人が気づくわけがない。神崎の言葉に対して俺と同じく荷物係にされている陽向が反論する。
「俺はもうこりごりだよ、荷物係になるためにここに一緒にきたわけじゃないもん。俺としては、よっくり温泉にでも浸かってゆっくり過ごしてたいんだ」
お前は爺さんか。
思わずつっこみたくなったが、やめておいた。そんなことしたら俺の長年培ってきた知的キャラが崩壊する。
「天気が悪くなったで思い出したけど、私達の泊まるホテルの地下に核シェルターがあるの。ついでだし、見に行く?」
加賀上が言った。核シェルター? そんなもん何の目的で作ったんだ。ここは観光地で、戦争してる場所じゃなかろうに。
俺の疑問は、加賀上が言わずとも教えてくれた。
「いつか日本が戦争を始めた時に国家のお偉いさん達とその家族を安全な所に保護しておくときのために作ったんだって。さすがに観光地で夏場にしか使われない無人島に爆弾なんて落としやしないと踏んでね」
……。一つ聞いていいか、加賀上。お前の親父さん、一体どこまで色んなこと考えてリゾート経営やってるんだ?
俺の心の呟きは見事に無視される(←ま、当たり前か)。 そして俺たちはホテルへと引き返した。
「へぇー、核シェルターの中って結構広いんだなー」
俺たちは薄暗い核シェルターの中を歩き回っていた。何で薄暗いかっていうと、加賀上が核シェルター内の照明のつけ方と照明をつける器具がどこにあるかを教わっていなかったからだ。
「きっと高校生が、核シェルター(こんなとこ)に興味を持つなんてパパは考えもしなかったからでしょうよ」
加賀上はそう言ったけど、それじゃあ何でこのホテルの地下に核シェルターがあるなんて知ってたんだ?
俺がそれを聞くと、加賀上はいつものプライドの高そうな顔で笑って
「私の個人的趣味でね、パパの経営しているリゾート地全ての構造や施設、施設の内容なんかは把握しているからよ」
と答えた。まったく。それくらい暗記力があるならもうちょい世界史のテストの点数あってもいいんじゃねーの?
以前彼女の世界史のテストの点数を見てしまって、その瞬間一時間ほど口が利けなくなったことのある俺はふとそんなことを考えた。
そのことを皮肉っぽく言ってやろうと俺が口を開きかけたちょうどその時。上で大きな音がした。
「!! なんだ!?」
陽向が慌てた声で言う。その声で神崎も慌てて俺の腕にくっついてきて甲高い声で叫んだ。
「こわいよー!!」
俺はそれとなく神崎の腕を自分の腕から引き離し、彼女の傍をさっと離れる。気軽に触らないで下さい、俺たちは恋人同士ではありません、それに急に触られたら鳥肌立つからやめて下さい。あ、ついでにその甲高い声も頭が痛くなるからやめて下さい。
俺は思わず心の中で呟いたけど、口に出すことはどうにか思いとどまった。さすがにそれはちょっと失礼だもんな。
加賀上は神崎とは正反対に落ち着いていた。彼女は冷静に言った。
「大丈夫よ。きっと、コックが皿を大量に落として割っただけでしょ」
いや、さっきの音は皿の割れる、ドンガラガッシャンって音とは程遠かった気がしたけど……。そんなことを思っていると、本当に大きな音に混じって大量の皿の割れる音も聞こえてきた。……。なんか、冗談とかドッキリ企画では済みそうにない展開になってきたぞ、こりゃ。
と、その時俺は気づいた。あのいつもプライドが高くて頑固で人を見下した感を漂わせてる加賀上が震えていることに。最初は、俺の目が節穴になったのかと思った。けど、目をこすってみても頬をつねってみても、彼女は本当に震えているらしかった。
どんなに強がっていても、本当はあいつも怖いんだ。……俺はそう感じた。そりゃそうだろ、いきなりそれこそ爆弾が落ちてきたかのような大きな音が連続して上から響いてくるんだから。
俺は、ちょっと気に食わないけど加賀上の近くへ寄っていった。後ろからの陽向と神崎の視線を痛いほど感じながら。
俺は、加賀上の後ろへ回ると他の二人には聞こえないくらい小さな声で彼女に耳打ちした。
「大丈夫か? 震えてるけど」
すると、加賀上も小さい声で返してきた。
「大丈夫に決まってるでしょ。これは、ただの武者震いよ」
おし、それでこそ加賀上。……声はちょっと震えてるけど。俺は内心少しほっとしながら他の二人にも聞こえるように言った。
「とりあえず、このでっけえ音が鳴り止むまでここで待機していよう。音が止んだら上に上がってみよう」
陽向が少しこわばった顔で聞いてくる。
「ここで待機って……。ここは大丈夫なのか?」
俺はにんまり笑って言った。
「大丈夫に決まってるだろ、俺たちは最新式の核シェルターの中にいるんだぜ? 大地震が来ようと、大嵐が来ようと、核爆弾が落とされようと壊れやしねーよ。……だよな、加賀上?」
後半、後ろを振り返って加賀上に向かって言ってやる。彼女はいつもの自信を取り戻したのか、強気の表情に戻って力強い口調できっぱり言った。
「当たり前じゃない、ここはパパが世界で注目されている科学者を集めて作らせた最新式の核シェルターだもの。大丈夫に決まってるでしょ!!」
結局、大きな音が止んだのは夜が明けたあとだった。俺たちは恐る恐る核シェルターから出た。そこで俺たちが見たのは……。
建物がほぼ消し飛んで見渡す限り土だけになった変わり果てた島の姿だった……。
核シェルターのことを思いつくのに時間がかかり、「起」の部分が投稿されてからだいぶ時間が空いてしまいました。
サバイバル、というジャンルを初めて書いたのでなんか新鮮でした。自分の今書いている小説がひと段落したら、長編小説バージョンのサバイバル小説を書いてみたいです。