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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
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  7話 婚約者とデートする悪女

ヴィクトリアは朝から、いや正確にはルシフェルと海を見に行くと決まった時からドキドキ、ソワソワしていた

そして今日は待ちに待ったルシフェルとの初デート

海に行くという事で髪は三つ編みにし、サファイアの髪留めをしてシンプルに仕上げた

ドレスは白のワンピースに、薄いブルーのショールを羽織り、髪留めと同じサファイアのネックレスをする

「本当にお綺麗ですヴィクトリア様」

メイド達が褒めてくれるが、ヴィクトリアは緊張していて震えている


「ヴィクトリア様、ルシフェル様の馬車が到着致しました」

ドルフェスが彼女の部屋のドアをノックし、ドア越しにそう伝えに来る

「あ、ありがとう」

ヴィクトリアはドキドキと胸が高鳴る気持ちのまま、急ぎ玄関ホールへと向かう

呼び鈴が鳴り、ドルフェスが扉を開けるとルシフェルが姿を見せる

優しく爽やかな笑顔をヴィクトリアに向ける彼は、すでにメイド達の憧れの的となっている


ヴィクトリアはドキドキしながら、ルシフェルのエスコートで馬車に乗り込む

「今日も綺麗だ」

ルシフェルは隣に座り、愛する婚約者を抱きしめこめかみにキスをしてくるので「あ、ありがとうございます」顔を赤くしながら

「あの・・ずっとこのままで海に向かうのですか?」

ドキドキしながらヴィクトリアが尋ねると、ルシフェルは笑って「そうだよ」と答える


夜会の時は夜だったし、緊張で軽くパニックも起こしていたが、今こうして改めてルシフェルに抱きしめられていると、恥ずかし過ぎて顔が赤くなるどころではない

それでも彼の温もりを感じながら、漸く会えた嬉しさに恥ずかしさと緊張も伴ってジッとしている


「・・・ヴィクトリア、この前のカフェでの事だけど」

唐突にルシフェルはカフェでの事を話しに持ち出し、ヴィクトリアを嬉しそうに「はい?」抱きしめられながらルシフェルを見る

「他の男と会うのは、やめて欲しい」

彼のその言葉にズキッと胸が痛んだ

「あの、すみません。ティナも一緒だから良いだろうと思ってしまって・・・嫌な思いを、させました」

ルシフェルは、悪女ヴィクトリアのした事を忘れないだろう


(どうしよう・・・ルシフェル様を傷つけた?あの時もすごく怒ってたもの)

ルシフェルは今にも泣きそうな愛する婚約者の頬に触れながら

「前にも言ったが、俺は嫉妬深いんだ。あいつがヴィクトリアを可愛いという度にイラつく」

そう言いながら辛そうに笑う

「自分でも愚かだと思うよ」


ルシフェルは何度も(のめり込んでは駄目だ)と自分に言い聞かせて来た

記憶が戻り、何時あのヴィクトリアが現れるか判らないのだから

だが、今のヴィクトリアに会う度、愛する気持ちは抑えられなくなっていく

ルシフェル自身、今のままの彼女を失いたくないと強く思う程、不安に苛まれていく事になる


「そんな事は・・・そう思ってくれて嬉しいです」

そう言うとヴィクトリアは、ルシフェルに誓う様に

「私はルシフェル様が好きなので、絶対に裏切ったりしません。約束します」

(二度と彼を傷付けたくない)

真剣にそう伝えてくる彼女を、ルシフェルはより一層愛しく思い、不安は募る



二時間近くの馬車での移動、途中休憩を挟んで漸く海が見えて来て、海岸線に沿って馬車は走りその景色を二人は楽しむ

馬車は高級リゾートホテル『コウスリストン』で止まり、ルシフェルの手を借りヴィクトリアは馬車を降りる

「懐かしいな、よく子供の頃遊びに来ていた場所です」

ルシフェルはヴィクトリアの腰に手を当て、コウス海岸付近に建設されたリゾートホテルの中へ入る

上品でシンプルな建物の中は、観光客で賑わっていた


「部屋を取ってありますから、このホテルのプライベートビーチで散歩出来ますよ。少し休憩してから歩きますか?」

このリゾートホテルは宿泊(部屋を借りた)者のみ、プライベートビーチが利用出来る

ヴィクトリアは嬉しそうに頷き、記憶を無くしてから初めての遠出にドキドキする

受付を済ませた御者が、ルシフェルに部屋の鍵を渡す

「部屋は最上階なので、眺めは良いと思いますよ」

ルシフェルはそう言うと、ヴィクトリアを部屋の中に入れる

部屋はビップルームなのでとても広く、バルコニーからは綺麗な海が見える


「わあ、素敵なところですね!!何だか気を遣わせてしまったみたいで申し訳ないです」

まさかこんな立派な部屋を用意してくれているをは思わず、申し訳ないと思うヴィクトリア

「私、その、ただ海を見に行くだけだと思っていたので。こんな素敵な場所を用意して下さって、ありがとございます」

嬉しそうにはしゃぐヴィクトリアに、ルシフェルは彼女を後ろから抱きしめる

「あ、あのルシフェル様?」

ドキドキしながら、抱きしめられヴィクトリアは固まる

『あいつ、手が早いから二人きりの時は気を付けて』

トーマスの言葉が過ぎり、ドキンッと心臓が飛び跳ねるヴィクトリア

「・・・喜んで貰えて良かった」

ルシフェルは彼女から離れ、バルコニーに向い景色を眺める

「折角だから、プライベートビーチを散歩しようか」

優しく、でもどこか辛そうに笑うルシフェルにヴィクトリアは頷く


プライベートビーチを散歩しながら、ヴィクトリアは自分に寄り添ってくれるルシフェルに目を向ける

ルシフェルは相変わらず優しい笑顔を向けてくれる

(何だろう?何となく、ルシフェル様の様子が変な気がする・・・)

仕事か何かで辛い事でもあったのだろうか?それでもこうして自分の為に時間を割いて海に連れて来てくれたのだろうか?


「あ、あのルシフェル様」

ヴィクトリアは何か話題をと思い

「トーマス様の誕生日パーティーに誘われたのですが」

その言葉にピクッと口元が歪むルシフェルを見て、ヴィクトリアは躊躇いながら

「その、プレゼントの事なんですが・・・」

「あいつへのプレゼントなら、そこら辺の石を拾って、くれてやれば良い」

ボソッと辛辣に告げるルシフェルに(わぁ、ティナと同じ事を言ってる)


「あ、いえ、その・・」

ドキドキしながら赤くなるヴィクトリアを、怪訝な表情で見るルシフェル

「ル・・・ルシフェル様と一緒に選んで、二人でプレゼントしたいのですが」

彼女のその提案にルシフェルは驚いたが「そうですか」考える素振りを見せ

「あいつへのプレゼントというのが気に入りませんが、ヴィクトリアと一緒に選ぶのは嬉しいです」

一緒に選んでくれる事を了承してくれ、ホッとする


「でも、何が良いでしょう?」

尋ねるヴィクトリアに

「あいつの為に考えるという事が無駄なんですけどね。まあ、ヴィクトリアの為なので考えておきます」

ルシフェルはそう約束し、ヴィクトリアを引き寄せ「今は俺の事だけ考えて」そう優しく笑う彼に、ますます顔を赤くしながら

「そ、それはもちろん!!ま、毎日考えてます・・・」

軽くパニックを起こしながら答える


ゆっくり散歩を楽しみ、ホテルの敷地内に並んでいる地元の人達が開いている露店でお土産を見ていると、十歳位の男の子がヴィクトリアの傍に寄って来る

「・・・お姉さん、このネックレス買って下さい」

身形からして、現地の子供だろう。ここは観光地の為、観光客相手にこうやって物を売って日銭を稼ぐ子供が多い

「こらっ!!貴族様相手に話し掛けるな!!客を見極められないなら、お前は出禁にするぞ!?」

ホテルの関係者か、こういう子供に商売をさせている男なのかが、怒鳴り声を上げ男の子に注意する

怒られた子供は怯えて、ヴィクトリアに「ごめんなさい」頭を下げ行こうとするので「あ、待って!!」思わず声を掛け呼び止める


注意した男は慌てて

「申し訳ありません、一般客か貴族様かまだ見極められない子供でして。今後気を付けますので、どうかお許しを」

頭を下げ謝って来るので「いえ、その、折角だからそのネックレス見せて貰えるかしら?」男の子に優しく笑い掛けるヴィクトリアに、二人は驚く

男の子は不安そうに男に確認してから、美しいヴィクトリアの傍に寄って来てネックレスを見せる

「貴族様の喜ぶものはないかと・・・木彫りのネックレスしかありませんので」

男も申し訳なさそうにそう伝えるが、ヴィクトリアは木彫りのネックレスに興味を持つように見定める


虹色の綺麗な木で出来たネックレスを見つけ「これ、綺麗ね」手に取ると男の子は嬉しそうに

「それ虹の木って言われてるんだ・・・です。この海の近くにしかない特別な木なんだ・・・です」

「そうなの?それなら、これを貰うわ」

ヴィクトリアがポーチから財布をと取り出そうとしたら「それが気に入ったの?」後ろで見ていたルシフェルが、男の子に値段より少し多くお金を渡す


「こんなに!?ありがとう!!」

男の子はお礼を言って嬉しそうに去って行く

「どうもすみません。あいつには、ようく注意しておきますので」

男が何度も頭を下げるので

「いいの、あの子を叱らないであげて。あの子なりに一生懸命売ろうとしただけなんですから、お願いしますね」

美しいヴィクトリアが男にそう懇願するので、男は顔を赤らめ「まあ、お嬢様がそう言うのであれば・・・」頭を下げて去って行く


例え相手が子供でも、貴族の怒りを買えば厳しく罰せられる

子供達が特産品を売り歩く事が出来なくなる可能性も生じ、最悪このホテル内での露天での商売自体まで禁じられてしまう可能性だってあり、そうなれば観光客相手に商売をしている住民達の死活問題になってしまう

だからこそ、絶対に貴族には声を掛けるなと売り子の子供達は厳重に注意を受けている


万が一間違って声を掛けても、お優しい貴族様なら自分達を哀れんで買ってくれると思ったと、出来るだけ下手に愛想を振りまく処世術も教え込まれている

あの男の子は、ヴィクトリアが露天を物珍しそうに見ていた為、一般客と勘違いしたのだ・・・何故なら普通、貴族は露天になど目を向けないから


「すみません、お金を払って貰って」

「構わないよ。それより本当にそれが気に入ったの?木のネックレスだけど」

笑うルシフェルに、ヴィクトリアはサファイアのネックレスを外しポーチに入れ、代わりに木彫りのネックレスをつけようとするので、ルシフェルがつけてあげる

ネックレスをつけて貰いヴィクトリアは「ありがとうございます」とお礼を言い、フフフと嬉しそうに笑って

「初めてルシフェル様に買って貰ったネックレスですもの、大事にしますね」

「!!」


驚くルシフェルは

「・・・それならもっと高価な物をプレゼントをしますよ」

そんな木彫りのネックレスが初めてのプレゼントとは嫌過ぎる

けれどヴィクトリアは

「良いんです。ルシフェル様に貰った物が、私の宝物なので」

そうやって、嬉しそうに当たり前に嬉しい事を言うヴィクトリアにズキンッと胸が痛むルシフェル


(その言葉が、今は本心なのは判っている)

以前のヴィクトリアなら、現地の子供が話し掛けて来たらどうするだろう?木彫りのネックレスなど歯牙にもかけないだろう

嬉しそうに虹の木彫りを見つめているヴィクトリアに、確かに彼女が身に着ければ、木彫りのネックレスでも素敵に映えるだろう

ルシフェルは嬉しそうに自分に笑顔を向ける彼女に笑い返す



二人がホテルのカフェで軽食を取っていると、何となく周りの客達からの視線が気になり、周りを窺うと皆ヴィクトリアのネックレスを見ている(気がする)

(・・・そうだろうな。侯爵令嬢が木彫りのネックレス、違和感しかない)

ルシフェルは溜息を吐き

「ヴィクトリア、気持ちは嬉しいがそろそろそのネックレス、外してくれないか?」

美味しそうにパンケーキを食べているヴィクトリアは「どうしてですか?」と聞き返してくる


「・・・可笑しいからだ。さっきつけていたネックレスをして欲しい」

そう頼むが、ヴィクトリアは木彫りのネックレスを触り

「可笑しくないですよ?この白のワンピースに合ってます」

(確かに合ってはいる。白のワンピースに虹色は・・・しかし素材が問題だ、木だぞ)

「もっと良いのを買おう。近くの宝石店に行こうか?」

「宝石は沢山あるから要りません。ルシフェル様は気を遣い過ぎです」

嬉しそうに木彫りに触りながら「私には、これで十分なんです」その仕草が愛おしい


(周りの目が気にならないのか?)

ルシフェルは物凄く気になるが、ヴィクトリアが良いと言うのならそれで良いのだろうか?

(木彫りのネックレスをプレゼントした伯爵子息・・・今度はそんな噂が流れるな)

自嘲するルシフェル



食事の後、部屋のバルコニーでゆっくり海の景色を見ながら寛ぐ二人

「夕日が綺麗なので、それを見てから帰ろうか?」

「はい」

ヴィクトリアは浜辺で遊んでいる子供達を見ながら

「ここでルシフェル様は子供の頃、遊んでいたんですね。どんな子供だったんですか?」

興味津々に尋ねる

「どんなと言われても・・・まあ、トーマスと泳ぎの競争をしたり、砂の砦を作ったり・・あいつとはよく競っていたな」

今、海岸で遊んでいる子供達と対して変わらない

ただ、変わった乗り物や、クルーザーで島を一周など、観光客の為の開発で色々建物が出来ていて、景色は大分変わってしまってはいるが


「ヴィクトリアは?」

と聞いてから、しまったと思うルシフェルに「大丈夫ですよ、記憶が無くても私は幸せですから」ヴィクトリアは笑う

(寧ろ記憶が無い方が幸せだわ。ルシフェル様を苦しめた、悪女だった時の事など知りたくない。ルシフェル様は今の私を愛してくれている、それだけで十分ありがたいもの)

だから彼女は決心している

(私はルシフェル様を絶対に傷付けたりしない。だから行動には気をつけないと・・・悲しませないように)


『彼を傷付けない、不安にさせない、大事にして、愛されたい』

それが愛するルシフェルにしてあげたい、ヴィクトリアの精一杯の想い

けれど残念な事にルシフェルはヴィクトリアを愛せば愛する程、不安が募り苦しむ事になる



穏やかに時間が過ぎ、夕焼けに照らされた海を見ながら散歩をする

日中とは違い子供達は姿を消して、恋人達だけが二人の世界に入り込んでいる

静かな浜辺を歩きながら波の音が心地よく聞こえる

「ここは本当に素敵な所ですね」

嬉しそうにヴィクトリアは、この時間には誰も泳いでいない海を眺める


「連れて来てくれて、ありがとうございます」

「気に入って貰えたなら良かった」

ルシフェルもヴィクトリアが喜んでくれ、連れて来た甲斐があった

夕日に照らされ綺麗に映る海の景色に感動するヴィクトリア

「素敵・・・」

彼女の美しいその姿を見つめ、ルシフェルは呟く

「・・・もし、貴方の失った記憶が甦って、以前の彼女に戻ってしまったら・・・俺はここの海を見て、今のヴィクトリアの事を思い出すよ」

振り向きながら自分に笑顔を向ける愛しいヴィクトリアに、ルシフェルも笑顔で答える


そろそろ帰ろうかとホテルに戻ると、お土産の売店で少し騒ぎが起こっていた

客の一人がヴィクトリアを見つけ「ほら、あれです!!あの虹色のネックレス!!」彼女のネックレスを指す

「あれは、当ホテルでは取り扱ってない品物です。ここの特産品でして、ここの住民が加工して売ってる物ですので」

ホテル側の店員が、群がっている客達に説明する


ヴィクトリアが子供から買ったネックレスは素材が木材の為、高級志向のホテルには合わないとその特産品を売店に置く事を許可しなかった

その為に何とかその木材で加工した特産品を買って貰おうと、ホテルの敷地に露天を出したり、地元の子供達が一生懸命、一般客を相手に売り歩いていた

ヴィクトリアはルシフェルを見て「ほら、やっぱり変じゃないでしょう?」皆欲しがってる、と嬉しそうに木彫りに触る

その後、ヴィクトリアがしていたそのネックレス欲しさに、手に入れようと令嬢達は躍起になる


後日談だが、ヴィクトリアが出掛ける度にそのネックレスを身につけた事で爆発的に人気が出て、品薄状態になり入手困難になってしまう

何故なら森林保護法で伐採が難しくなり、価値が高騰したからだ

後にこの虹のコウラカスは、その木を伐採出来る権利のある領主の手腕によって、この土地でしか栽培出来ない希少価値のある高価な木材だと宣伝し、その木で加工された品は高級品扱いとなり、そのお陰でここの住民達の生活が潤う事になる


チェックアウトを済ませ、帰路に着く馬車の中で

「今日は本当にありがとうございました、凄く楽しかったです」

ルシフェルに抱きしめられながら、嬉しそうにお礼を言うヴィクトリア

「それにこんな素敵なプレゼントまで貰えて」

木彫りのネックレスを嬉しそうに触る彼女を愛おしそうに見つめ、頭にキスをすると

「今度、もっと他に良い物をプレゼントするよ」

愛おしい婚約者の手を握り

「指輪を買おうか?」

「指輪ですか?」

「ああ・・つまらない婚約指輪は要らないと言われたからな。代々ティアノーズ家当主の、その伴侶が受け継いる指輪があるからと」

ルシフェルは正直に悪女ヴィクトリアに言われた事を伝えると、ヴィクトリアはズキッと胸を痛め

「良いですね、二人の指輪。欲しいです」

ギュッとルシフェルの手を握り返す


(私はどこまで嫌な女だったんだろう。どれ程彼を傷付けてきたんだろう?こんな優しい人を)

こういう時、ヴィクトリアは心底以前の自分が嫌になる


「今度、トーマス様のプレゼントを買いに行く時に、一緒に指輪も買いに行きましょう?」

ヴィクトリアが嬉しそうにそう提案すると

「逆だな、指輪を買いに行くついでに、あいつのプレゼントも買うんだ」

ルシフェルがムスッとしながら言うので、ヴィクトリアは笑いながら「凄く楽しみです」抱きしめてくれるルシフェルに寄り添いながら、沢山傷付けて来ただろう彼の優しさにが本当に嬉しかった


屋敷の門の前に馬車が止まり、ルシフェルはヴィクトリアにキスをすると屋敷まで送り、今度は手の甲にキスをして名残惜しそうに帰って行く

アメニがヴィクトリアのネックレスに気が付き

「ヴィクトリア様、それは?」

「ルシフェル様が買ってくれたのよ」

虹色の木彫りを大事そうに握り締める

「それは良かったですね」

アメニも嬉しそうに微笑み、疲れて帰って来ただろう主人を浴室へと案内する


ヴィクトリアはゆっくりと気持ちよくバスタブに浸かりながら、今日の事を思い出し思わず笑みがこぼれる

(本当に幸せな一日だった)と




マカリスターの夜会の帰りから、ルシフェルはずっと考えていた・・・これからどうするかを


『少しでも愛して貰えるよう、努力しますね』

彼女が自分に伝えてきたその言葉から全てが変わった


そう言うならと、マカリスター伯爵の夜会に誘ったら彼女は嬉しそうに喜んだ

気心の知れた夜会だと知り、不安そうにする彼女に傍を離れずに護ると伝えると、涙目で嬉しそうに見つめてくる

好奇の視線に震えながら、俺にしがみ付いてくる


そんな彼女がどんな反応をするか知りたくて、背中に腕を回し腰に手を当てた

嫌がるかと思ったら顔を赤らめるので、ドキッとして思わず腕が疲れたからと、くだらない言い訳をしてしまった


ミディアルと話している時に彼女の顔が曇り、そして何故だか疲れたからと不安な筈だろうに俺の傍から離れた

俺が心配して傍に行くと驚いた顔をし、迷惑ではないかと聞いてくる

緊張しながら俺とダンスを踊り、褒めると俺のリードが上手だからだと嬉しそうに言ってくれる


休憩室から様子が可笑しくなり、問い詰めると彼女は涙目で告白してきた

その全てが愛おしく、堪らずに彼女にキスをした

彼女の表情、仕草、思いやり、その全てが愛おしい


ヴィクトリアを失いたくない

いつか記憶が戻って、以前の彼女に戻ってしまったら・・・それが怖くて堪らない


『あまり、のめり込むな』

その言葉をどれだけ口にして、言い聞かせて来てももう遅い

(無理だ)

ヴィクトリアは俺の全てだから

これから先、ずっとずっと押し潰されそうな不安に苛まれ、苦しんでいくしかない

そう、それが俺の覚悟だ

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