64話 母の秘密を知る悪女
いつもより早く起きる為に目覚ましを掛けたヴィクトリアだが、その音にルシフェルまで起こしてしまった
「・・・ヴィクトリア?」
ルシフェルがまだ眠たそうに起きるので「ごめんなさい、起こしてしまって」ヴィクトリアはそう謝り「ルシフェルはもう少し寝ていて」彼の額にキスをして寝室から出て行く
そのまま自室に向うとアメニがすでに部屋の前で待っていてくれた
昨日、遅くに帰って来た父ランドルに思い切って話があるので時間を割いて欲しいと頼むと、早朝で構わないなら部屋に来るよう言われた為に目覚ましを掛け、頑張っていつもよりも一時間程早く起きたヴィクトリア
「ごめんなさいね、アメニにも早起きして貰って」
「いいえ。いつもこの時間帯にはすでに起きておりますので、お気になさらないで下さい」
顔を洗い着替えを手伝って貰うヴィクトリアは申し訳なく思うが、アメニは寧ろ朝が苦手な主人がこの時間によく起きれた事に感心する
着替えが終わり急いでランドルの自室に向おうと部屋を出ると、着替えているルシフェルが立って居た
「ルシフェル?どうしたの・・・?まだ早いのに・・・」
ルシフェルもヴィクトリアが部屋を出た後すぐにに着替え、彼女が出て来るのを部屋の外で待っていた
「・・・どうしたのって、それはこっちが聞きたいんだけど」
わざわざ目覚ましを掛けて朝早くに起きたヴィクトリアの行動に、何も聞かされていなかったルシフェルは不振に思ったからだ
「ごめんなさい、昨日はルシフェルが話す前に寝てしまったから・・・」
申し訳なさそうにヴィクトリアはルシフェルに
「少しお父様と色々聞きたい事を話たくて。この時間だったら少し話せるから、早く起きただけなの。だからルシフェルには寝ててって言ったでしょう」
「その話に、俺は居ない方が良いって事?」
「別に構わないけど・・・少しでも寝てる方が良いんじゃないかと思って」
自分にとっては大事な話だが、ルシフェルにとっては大事な睡眠時間を削ってまで付き合う様な事ではないから
「いいよ、もう。目が覚めたし」
ルシフェルはヴィクトリアと一緒にランドルの部屋について行く
ヴィクトリアは彼を抱きしめ「ごめんなさい、きちんと話ていれば良かったわね」そうすれば心配させて彼を起こさずに済んで、ゆっくり寝かせてあげれていたのにと悔やむ
ルシフェルとしても確かにその通りだと思うが、大事な婚約者が父親に話す内容も気になる
二人でランドルの自室を訪れると、ランドルはすでに支度を済ませ待っていた
「何だ、ルシフェルも一緒なのか」
ルシフェルの姿を見て顔を顰めるランドル
(俺が一緒だから、婚姻の儀の話だと思っているんだろうな・・・)
ランドルの表情にルシフェルは黙ってヴィクトリアの後ろに立つ
「昨日、おばあ様からお母様のドレスを形見に貰いました」
ヴィクトリアがそう伝えるとランドルは「そうか」とだけ口にするので、その素っ気無さにヴィクトリアは溜め息を吐く
「お父様は、お母様の形見の物を何かお持ちですか?」
娘のその問いにランドルは怪訝そうに
「エメルトリアの形見というか、彼女の部屋ならそのままにしてあるだろう?」
『えっ!?』
思わずヴィクトリアとルシフェルは同時に驚きの言葉を発する
「お母様の・・・お部屋・・・?」
その瞬間、ヴィクトリアは他の事を聞くのを忘れてしまう
「お母様のお部屋、そのままにしてあるんですか!?」
その部屋に入りたいと頼むと「ああ、構わない。ドルフェスに言っておくからあとで・・・」ランドルがそう言い終わる前にヴィクトリアは部屋を出てドルフェスを呼んでいる
部屋に残されたランドルとルシフェルだが
(この人は、どうしてそんな大事な事をもっと早くヴィクトリアに言わないんだ!?)
ルシフェルは腹立たしく思い、ランドルを責める様に
「どうしてそんな大事な事を、今までヴィクトリアに黙っていたんですか?」
憎しみにも似た感情で尋ねると「黙っていたとは心外だな、聞かれなかったからだ」彼のその答えにルシフェルは思う
(この人は仕事に関しては有能でも、父親としては最低だな・・・)
あまりにも酷いランドルの父親としての対応に、ルシフェルはヴィクトリアが不憫で仕方がない
「別荘の場所を聞かれた時や、さっき母親の形見を貰った話をした時にでも、幾らでも話す機会はあった筈だ!!貴方はヴィクトリアが、自分の娘が、どれだけ母親を恋しがっているか判らないのか!?」
それなのに聞かれなかったからとは、怒りを抑えながら責めるがランドルは黙ったままだ
「・・・他にもヴィクトリアに言わなければいけない事があるんでしょう?彼女から聞いて来ない事を良い事に、黙っている事が!!」
ルシフェルはそう指摘するが、ランドルはただ黙って何も言わない
「・・・俺は、幼いヴィクトリアを一人にし寂しい思いをさせた貴方を許せない。貴方のヴィクトリアへの愛情は・・・溺愛とは違う・・・歪んでいると思っています」
流石に言い過ぎだとは思うが、その所為で悪女ヴィクトリアが生まれ、今のヴィクトリアが苦しんでいるのは事実だ
ただ、ルシフェルにしてみればそのお陰でヴィクトリアと婚約出来ているのも事実なので複雑な心境ではある
何故なら悪女ヴィクトリアが生まれず、今のヴィクトリアのまま成長したなら、間違いなく侯爵以上の地位の者と婚約していただろうから
ランドルはルシフェルの言葉に「お前の言う通りだ、反論は無い」そう呟く
(だが、まだ話す時期ではない・・・)
ランドルは一瞬目を閉じたのをルシフェルは気付いたが、それ以上は言わずにいた
(言い過ぎだと、俺に対して不快感を抱いたか?でも、俺は貴方の言い成りにはならない)
ランドルが自分をヴィクトリアの夫に選んだ理由を、実はルシフェル自身もよく判っていない・・・自分を思い通りに操れるとでも思っているのだろうと考えている
ルシフェルは溜め息を吐きランドルにエメルトリアの部屋を尋ね出て行くと、ドルフェスが向いの左隣の部屋のドアの前に立っていた
近づくとドルフェスが頭を下げ
「申し訳ございません。エメルトリア様のお部屋は、いくら旦那様でも、ご主人様の許可がないとお入れする訳には・・・」
ルシフェルは許可を貰えなかったので、彼の隣に立ってヴィクトリアが出て来るのを待つ
エメルトリアとランドルの部屋は階段を隔て西側に有り、ヴィクトリアとルシフェルはの部屋と寝室は東側の部屋を使っている
(西側の通路は用事が無いから行く事がなかった・・・)
ルシフェルは溜め息を吐き、責める様に
「・・・ドルフェスも母親の部屋の事を知っていて、ヴィクトリアに黙っていたのか?」
「黙っていた訳ではありませんが・・・その、ヴィクトリア様は普段の生活に差し障りがなく、奥様の部屋を忘れているという事を、念頭に置いておりませんでした」
ドルフェスはヴィクトリアが記憶を無くしているのは人の事だけで、屋敷の中も忘れているとは思っていなかったのだ
ダンスも食事マナーも読み書きもきっちり覚えていて、屋敷内も自身の部屋や食堂、入浴室等、日頃使用する場所を知っている素振りだったから
けれど屋敷内はヴィクトリアが覚えていたのではなく、食堂も浴室もアメニが教えたからだった
それを知らないドルフェルは、ヴィクトリアが記憶に無いのは人の事だけだと思い込んでいた
そしてエメルトリアの部屋は、彼女が亡くなってから十二年もの間ずっとメイド長のマーズ・レストが部屋の掃除をする時以外は開かずの間になっていて、彼女以外は立ち入れなかった為にアメニもその部屋の存在を知らなかった
エメルトリアの部屋を知っているのは、彼女が生前まで使えていた使用人達だけだが、悪女ヴィクトリアにより殆どが辞めてしまい、ドルフェスとマーズとサージスとわずか数名の使用人しか居ない
そしてこの屋敷の使用人達はランドルに気を遣って、一切エメルトリアの話題は口にしないので、その為に彼女はこのティアノーズの屋敷では忘れられた存在みたいになっている
ルシフェルは成る程と納得し、ヴィクトリアが何処までも可哀想に思えてくる
ヴィクトリアもきっと父の事だから、母が亡くなってすぐ部屋は無情にも全て不要だと片付けられたと思っていたのだろう・・・けれどランドルはずっと妻の部屋をそのままにしていた
(・・・少なくとも多少の愛情はあったのだろう)
彼の性格上、不要な物を何時までも置いておくとは思えない
『俺だってエメルトリアを愛している』
以前、馬車の中で聞いた彼の言葉を思い出し「ランドルは自分の妻を愛していたのだろうか?」思い切ってドルフェスに尋ねるルシフェルに、答えに窮し「それは・・・私では何とも・・・」ドルフェスもランドル夫婦の仲が良いとは思っていないが、それを自分の口から言うのは憚れると思ったのだ
腕時計を見やり、ルシフェルは母親の部屋に居るヴィクトリアに「ヴィクトリア、そろそろ食堂に行こう」ドア越しに声を掛けるとドアが開き、泣きながらヴィクトリアが出て来た
「・・・ごめんなさい、朝食は二人で食べて。私はまだここに居たいから・・・」
その姿を見てズキッと心を痛めるドルフェスを無視し、ルシフェルはヴィクトリアを抱きしめ
「判った。見送りもいいから、気の済むまで居たら良いよ」
そう言って優しく笑い、額にキスをして一人食堂に向う
ドルフェスは身に摘まされる思いで、部屋に誰も入らない様ドアの前に佇む
食堂では明らかに怒っているルシフェルと、その彼を気にせずに食事を取るランドル
使用人達はあまりにも殺伐としたこの雰囲気に、この場に居ないヴィクトリアが今すぐ来てくれないものかと願いながら給仕をする
食事を終えランドルが席を立ち食堂を出ようとした時に「ヴィクトリアは母親の部屋で泣いていましたよ」ルシフェルは怒りの目を向けてそう言い放つ
(母親の部屋?)
その言葉の意味をエメルトリアの部屋を知らない使用人達はよく判らなかったが、食器を片付けながら(それはつまり無くなった奥様の部屋?)と解釈する
ランドルは一瞬目を閉じ、黙ったまま鞄を取りに自室に戻って行く
ルシフェルも席を立ち自室に戻るとアメニが待っていて、ルシフェル一人だったので怪訝そうに「旦那様、ヴィクトリア様はご一緒では無いのですか?」近づきながら尋ねる
「ああ、ヴィクトリアは・・・母親の部屋に居る」
ルシフェルはジッと窺う様にアメニを見て言うと、彼女は驚いた様に
「はは・・おや?それは・・ご主人様の、お亡くなりになった奥様の事ですか?」
「そうだ」
頷くルシフェルにアメりは動揺しながら「あの、奥様のお部屋は何処なのでしょうか?」三年以上もこの屋敷に働いていたが、エメルトリアの部屋を知らず衝撃を受ける
「ランドルの部屋の向い、左り隣の部屋だ。ドルフェスが立っているから判るよ」
ルシフェルがそう教えると、彼女は主人に頭を下げ急ぎ向う
(・・・アメニも知らなかったんだな)
彼女なら知っていれば教えていただろうと、ルシフェルは怒りが治まらないままに鞄を取りに自分の部屋に入る
時間を少し遡り、ヴィクトリアはドルフェスに母親の部屋のドアの鍵を開けて貰いドキドキしながら中へと入る
部屋は朝だというのに雨戸とカーテンによって真っ暗だった
電気を付けて部屋に入ると全ての家具に白いシーツが被せてあり、一応は定期的に部屋の掃除をしているみたいで埃はそれ程被っていない
ドルフェスは窓を開け空気の入れ替えをして、ヴィクトリアに頭を下げ部屋を出て行く
ドキドキと胸を高まらせ(お母様の部屋・・・お母様が過ごしていた部屋・・・)ヴィクトリアは何処から手を付ければ良いか判らず、部屋を見回す
(お母様・・・)
窓近くに被されている白いシーツを剥ぎ取ると、木材で出来た自分の机より少し小さい母の机に触る
(お母様はこの机に座って、手紙を書いていたりしたのね・・・)
ヴィクトリアも母の真似をしてイスに座り、そして横に備えてある引き出しをそれぞれ開けてみる
一番上の引き出しは鍵が掛かっていて、開けられなかった
(どこかに鍵があるのかしら・・・?)
二番目の引き出しを開けてみると中の物はそのままにしてあり、ヴィクトリアは胸打つ
「お母様宛ての・・・手紙」
取り出して差出人を見ると女性からの手紙もあるが、男性からの手紙もある
そして「おばあ様からの手紙だわ・・・」母はきちんと仕分けして手紙を保管していた
奥に綺麗な缶の入れ物を見つけ、それを取り出して蓋を開けると、それにも手紙が入ってありヴィクトリアはドキッとした
(お父様からの、手紙・・・?)
ドキドキと心臓が波打ち、思わずその手紙を全部取り出すと全て父からなのかを確認する
父からの手紙を前にヴィクトリアはその手紙の内容が気になる
(・・・私がルシフェルから貰った手紙は、夜会の誘いの時位だけど・・・)
よくよく考えてみれば、自分達は恋文など送りあった事が無いと気付くヴィクトリア
(だって・・・何となくすぐに同棲したから・・・)
この手紙はもしかしてと思いドキドキするヴィクトリアは
(どうしよう・・・中を読んでは駄目かしら・・・やっぱりマナー違反よね・・・でも・・・)
どうしても好奇心に逆らえない・・・ドキドキしながら一番上の手紙を取り出す
(お父様は・・・お母様にどんな手紙を送っていたのかしら・・・)
親の恋文を娘が読む恥ずかしさと罪悪感を抱きながら手紙の内容を読む
しかし父ランドルの母に宛た手紙を読み、次第に青褪めるヴィクトリアの目に涙が零れる・・・そこへ
「ヴィクトリア、そろそろ食堂に行こう」
ルシフェルが声を掛けて来て慌てて手で涙を手で拭うが、溢れてきて押さえれない
仕方なくそのままドアを開け、自分はまだここに居ると伝える・・・とても父と顔を合わせる気になれなかったし、食欲も無い
ルシフェルは泣いている自分を優しく抱きしめ、優しい言葉を掛けてくれ額にキスをして食堂に向う
彼のその優しさに、ヴィクトリアは堪らずにそのまま部屋の中へと戻り母の机に顔を伏せて声を殺して泣き出す
(・・・お父様が少しでも・・・ルシフェルみたいに、お母様を・・・愛してくれていたら・・・)
娘として、あまりも父が母宛に送った冷たい手紙の内容を知ってしまい、酷く心を痛める
(読むんじゃなかった・・・こんな、手紙・・・)
こんな手紙を受け取った母はどんな気持ちで読んだのだろう?それを思うと心が痛む
一頻り泣いて少し気持ちが落ち着くと、びっしょり濡れた机や自分の顔を拭く物はないかと部屋を見回し、ティッシュ箱を見つける
(これもこのままなのね・・・)
十数年物のティッシュ、大丈夫だろうか?と思いながら一枚取り出すと茶色くなっていた
(・・・・)
流石にこれで涙を拭くのは嫌なので机を拭く事にして、ポケットに入れてあるハンカチで涙を拭き鼻をかむ
ヴィクトリアは父の他の手紙を缶に仕舞いながら、読んだ手紙だけは自分が持っていようと決めた
次の三番目の一番大きな引き出しには何も入っていなかった
(鍵は何処にあるのかしら・・・?二番目の引き出しには無かったのに・・・)
立ち上がり今度はクローゼットの中を開けてみると、クローゼットの中は沢山のドレスが仕舞ってあり、上の棚にはぎっしりと宝石箱が置かれていた
(お母様のドレスに・・・これは宝石箱?)
取り出して机に置いて中を見てみると、高価な様々な宝石、指輪にネックレス等がきちんと整理されている
(手紙の仕舞い方でも思ったけれど、お母様はとてもきっちりした性格なのかしら)
少しだけ母の事が知れた様で嬉しい
宝石箱と一緒に高価なオルゴールも見つけ、ネジを巻き開けてみると『我が心の安らぎ』が流れてきた
「!!」
(この曲、このオルゴールから・・・聴いた?)
「いたっ!!・・・・」
その事を思い出したヴィクトリアは、その瞬間ズキッと頭というよりは脳に痛みを感じ思わず頭を抱える
鼓動が激しく波打つのを感じながら、ズキズキと痛む頭を擦る
(なに?・・・この痛みは・・・)
オルゴールの音色を聞いて過去に聞いた事を思い出し、一瞬記憶が戻るのでは?とそう感じた瞬間痛みを伴った・・・けれどそれだけで記憶は戻らなかった
もし記憶を取り戻せたら、自分と悪女の時とどちらの記憶を思い出すのか?また、それによって悪女の影響は?自分の今の記憶は?そのまま覚えていられるのか?不安で仕方が無い
(記憶を無くしてからの、大事な思い出を忘れずに覚えている・・・そんな都合の良い事は起こらない事は判ってる)
だからヴィクトリアはルシフェルにどれだけ愛され、ティナ達沢山の大切な友人が出来たか、大切な事を日記に付けている
例え失った記憶が戻り、その反動でルシフェルや友人達との大切な思い出を忘れてしまっても、その日記によって思い出せる様に
(ルシフェルやティナ達との大切な思い出を、無かった事にはしたくないもの)
ヴィクトリアはオルゴールの中を確認すると、ロケットペンダントと折り畳まれたカードが入っていた
(ロケットペンダント?・・・なんだか素敵)
ペンダントを取り出し(私も、ルシフェルの写真を入れて持っていようかしら・・・)そんな事を考え開く
(・・・だれ!?)
金色の髪にオレンジの瞳の容姿端麗の男性が優しく笑っている写真に、ズキンッと胸を痛める
(お父様じゃ、無い)
ペンダントの中には知らない男性の写真が入っていて、よろよろとシーツを被せたベッドにそのまま座りもう一度写真の男性を確認する
(これは・・・この人がお母様の・・・?)
最後までは言いたくない、ドキン、ドキンと激しく心臓が打ち付け動揺しながら閉じる
頭がパニックになり、段々と悲しくなってくる
「ヴィクトリア様・・・少し休憩されませんか?朝食もお取りになっていませんし、早めの昼食に致しましょう?」
そこへアメニがドア越しに心配そうに声を掛けてくれ、部屋から出る
ドルフェスはすでにアメニに部屋の鍵を渡し仕事に戻って行て、ずっとアメニが一人で部屋の前に佇んで居たのだ
食堂でアメニと二人で黙々と食事を取っているヴィクトリアの姿に、使用人達は心配に思いながら黙って給仕に勤める
本来なら主人と使用人が同じ席で食事などあり得ないが、一人で食事をするのは辛く、アメニも自分の所為で食事していなかったので、ヴィクトリアは申し訳なく思い同席して貰った
母の部屋はヴィクトリアにとって懐かしいと感じる事は無く、衝撃的で辛いものだった
(お父様の手紙・・・あの内容についてお父様に真意を聞こう・・・そう思ったけど、ペンダントの写真を見たら・・・お母様に他に好きな人が居たのは明らかだわ・・・)
ヴィクトリは思わずナイフとフォークを置いてしまう
(お母様・・・)
母は父を裏切っていたのだろうか?それともただ愛した人の思い出でとして、大事に保管していただけなのだろうか?別荘が逢瀬の場所だったのか?そんな考えが巡るが、自分には記憶が無い
例え記憶が有ったとしても、そもそも幼い子供の記憶ではそこまで過去を鮮明に覚えているだろうか・・・
フォークを置いたまま食事を取ろうとしない主人に、心配そうにアメニが
「ヴィクトリア様、食欲が無いのでしたらデザートになさいますか?」
無理に食事を進めず、デザートなら食べられますか?と聞いてくれる彼女にヴィクトリアは首を振り
「いいえ、もういいわ・・・食欲がないの、ごめんなさい」
殆ど手付かずの料理に、折角作ってくれたサージス達には申し訳ないが食べ物が喉を通らない、吐きそうになるのだ
食堂を出て再び母の部屋に戻るヴィクトリア
部屋の外にはドルフェスの代わりにアメニがイスに座って待機している
イスに座らせたのはヴィクトリアで、アメニは「必要ないです」と断ったが、立たせたままでは安心してゆっくりと部屋に居られないからと言うので大人しく従った
(ご自分は食事も喉をとおらない程、精神的にもお辛い様なのに・・・)
それでも自分を気遣ってくれる優しい主人に感謝するが、周りの仲間の使用人達が働いている間、ただジッと椅子に座ってドアの番をしているので居た堪れない気持ちでいっぱいになるアメニ
ヴィクトリアはロケットペンダントも自分が持っていようと思いながら、添えられていたカードを手に取る
カードには
『エメルトリアへ愛を込めて 貴方と運命の絆で結ばれていながら引き裂かれた事が、心底残念でならない どうか俺の貴方を深く愛する気持ちだけは、心の片隅に留めて置いて欲しい アルヴィレオ・ウェンヴィッツ』
「ウェンヴィッツ・・・?」
思わず声が出てしまい、慌てて口を押さえロケットの写真をもう一度見てみる・・・何処となくアルフレドに似ている気がする。髪の色も瞳の色も同じだ
(えっ?え・・・?どういう事・・・?お母様の浮気・・・・想い人って、アルフレド様のお父様の・・・兄弟とか?)
衝撃の事に途轍もなくショックを受け、ヴィクトリアは眩暈がした
堪らずに母の部屋を出て鍵を掛けると自室に戻り、アメニに「一人にして」そう告げて鍵を掛けてベッドに横になる
母とウェンヴィッツ一族の誰かが不倫関係だなんて絶対にあり得ないと否定し、ヴィクトリアは泣きたい気持ちになる
けれど、アルフレドとアルヴィレオ・・・名前が似ている点でどうしても嫌な考えを巡らせてしまう
ズキンズキンと心を痛めながら、母は一体どういう人なのか?それが判らず苦しむヴィクトリア
(お母様・・・)
ヴィクトリアの目に涙が零れる
(お母様には聞きたい事がたくさんあるけど・・・それはきっとお母様にとって、誰にも話したくない、自分の胸に仕舞って置きたい事だったのよね?・・・だからお祖母様にも、きっと誰にも言わずに亡くなった・・その気持ちは判る。でも・・・その事で、後から知ってしまった娘の私が傷付く事、苦しむ事を考えて欲しかった・・・)
ポロポロと零れる涙をティッシュで拭きながら、母の部屋で見つけた父から母宛の手紙、ロケットの写真とカードの存在を考えながら、あまりにも衝撃的過ぎて心が張り裂けそうな程の苦痛に
(もう・・・あの部屋には行かない。でも・・・)
唯一、気になるのはあの鍵の掛かった引き出しだ・・・あの中に何が入っているのか?それがどうしても知りたい
(あの中にはもっと辛い、何かが隠されている気がする・・・)
それでも知りたいと思う一方で、怖いから止め様かという気持ちも抱く
ただどうしても気になるので落ち着いたらドルフェルに鍵の事を尋ね様と思い、そのまま泣き疲れて眠ってしまう
一時間程眠っただろうか、ヴィクトリアがフッと目を覚まし、泣き腫らした目でボーっと横になっている
(今・・・何時だろう・・・?)
時計を見ると三時を回っている
(ドルフェスに鍵の事を聞かないと・・・)
気分はとても重いが部屋を出てアメニに、ドルフェスに母の机の鍵を知らないか聞いてきてと頼む
ヴィクトリアは母の部屋に戻り、何処かに鍵はないかと机の本棚やもう一度丁寧に引き出しを見てみる
クローゼットの引き出しにも宝石箱が有りそれを取り出すと、アメニがメイド長のマーズを連れて来る
マーズはアメニに部屋の外で待つよう指示して中に入ると、ヴィクトリアに
「奥様の机の鍵をお探しだそうですが、鍵は見つからず、ずっとその引き出しは開けられないままにしているのです」
「無理に開けては駄目なのかしら?もしかしたら大切な物が入っているかもしれないもの、確認したいわ」
大抵、鍵の付いた引き出しには誰にも見られたくない物を入れる
けれどヴィクトリアは、自分の鍵付きの引き出しにはルシフェルに貰った宝物を仕舞っている
だからもしかしたら母も自分と同じ様に、大切な物が仕舞ってあるのでは?と考え直したのだ・・・勿論、不安の方が大きいが
「どうしてもと仰るのでしたら、ご主人様に許可を貰ってからでないと」
マーズがそう言うと、ヴィクトリアは溜め息を吐く
「またお父様の許可が必要なのね・・・どうせ好きにすれば良いとしか言わないのに」
仕方がないので部屋を出るとヴィクトリアが鍵を掛け
「・・・忙しいのに手間をかけたわね」
俯きながらマーズにそう告げるとアメニに「暫く一人になりたいから」そう言い自室に戻って行くので、心配そうに主人の後姿を見守るアメニ
自室に戻りヴィクトリアはベッドに座り、新たに見つけた宝石箱を開けるとブローチや髪飾りや指輪の高価な宝石が入っている
ヴィクトリアが母親から受け継ぐ遺産は法の下に色々と面倒な手続きがあり、本来は遺産の一部を相続税として国に献上しなければならないが、それらはランドルが権力を駆使して免除され遺産は全て受け継いでいる
なのでティアノーズにあるエメルトリアの全ての所有物はランドルではなく、そのまま娘のヴィクトリアの物になっているが当人は知らない
そもそもランドルは悪女だった頃のヴィクトリアには絶対に妻の部屋に入る許可を与えず、また彼女も母親を恋しがる事はしなかった
だから母の形見でもある宝石やドレスが無事だったのだ
もし部屋に入る事をランドルが許していたら、宝石やドレスは売り飛ばされて悪女の道楽に使われていただろう
そんな事は思いも考えもしない今のヴィクトリアは、ただ自分の物になっている高価な宝石を見ながら思う事は(お母様がつけていたのね・・・どれがお気に入りだったのだろう?)位だ
ヴィクトリアは宝石に大して興味は無いが、それでもこれは母の形見なのだから特別な宝物
自分の机の鍵のついた引き出しにロケットのペンダントとカードを大事に仕舞い、持って来た宝石箱は母の部屋に元に戻すとしてヴィクトリアは考える
(お父様ときちんと話をしなければ・・・お母様に出した手紙の内容・・・あれは明らかにお母様の・・・)
心を痛めながらベッドに横になる
(アルヴィレオ・ウェンヴィッツ・・・その人がお母様の想い人なのは間違いない・・・)
ヴィクトリアなりに色々と考えを巡らせるが、心が苦しくなり、頭も痛くなる事ばかりで考えが纏まらない
(もう・・・何もかも嫌になってきた・・・少しでもお母様の事を知りたいと思ったけれど・・・何も知らないままの方が良い様な気がする・・・)
母の事はもう探らずにそっとしておこう、その方が良いと考える
母と父は政略結婚で決して仲の良い夫婦ではなく、自分の事も愛してはくれていなかったのかもしれない・・・そう考え胸が痛む
何故なら母には他に好きな人が居たから、そう結論付ける
夜、少し早めにルシフェルと一緒にランドルが帰って来てヴィクトリアと使用人一同は驚く
「ただいま」
ルシフェルがヴィクトリアの頬にキスをすると、ヴィクトリアは「お帰りなさい」と元気の無い声で二人を出迎える
「ヴィクトリア、話があるから部屋について来なさい」
ランドルはそう言うと自室に向うので、ヴィクトリアは戸惑いながらルシフェルを見る
「行っておいで」
彼は優しく笑い掛け階段を上がり右の廊下へ向い、ヴィクトリアは父と共に左の廊下を歩く
ランドルの部屋に入ると彼はヴィクトリアに机のイスに座らせ、自分は立っている
「・・・今朝の事だがな、お前に母親の部屋の存在を伝えなかったのは悪かった」
そう謝る父にヴィクトリアは戸惑いながらも
「いえ・・・私も・・・聞かなかったので」
本当は『その通りだわ、酷い!!』と責めたかったが、優しい彼女は父を傷付けるだけだと判っている
ランドルは深く溜め息を吐き「俺とエメルトリアの政略婚はな、俺の方から申し出た事なのだ」急にランドルが、母との婚約の話をしだしてヴィクトリアは驚く
「当時、公爵の後ろ盾が欲しかった俺は、エメルトリアとの婚約を彼女の兄に取り付けた。多額の結納金を払ってな」
当主には適齢の令嬢が居らず、分家の令嬢を娶った事を黙って聞いているヴィクトリア
ランドルは机の引き出しから、自分達、親子三人で写っている写真を見せる
「お前が生まれた時に撮った写真だ・・・それ以降は撮っていないが」
母が赤ん坊を抱っこしてイスに座り、その横に今より若い父が立っている写真だった
「この女性が・・・お母様・・・」
金髪に紫の瞳の美しい女性が赤ん坊を抱き、優しく自分に笑い掛けてくれている様だった
ヴィクトリアはやるせない気持ちで最初で最後の家族写真を見つめ、そんな娘を見ながら
「エメルトリアと結婚した事でホルグヴィッツと親戚関係を持ち、数年後にお前が生まれ・・・望む事は全て叶った」
ランドルは表情を曇らせる
(あの時は、生まれて来たのが男だったら良かったと思ったが)
「だからエメルトリアに・・お前の母親には、役目を果たしたのだから好きにしたら良いと、自由を与えた」
その言葉にヴィクトリアは泣きそうに震える
「お父様の言う好きにとは、自由とは・・・浮気の事ですか?」
その質問にランドルは驚いた様に娘を見て「そうだ・・・知っていたのか?」誰に聞いた?と尋ねるので、ヴィクトリアはズキッと胸を痛め
「お父様が、お母様に宛てた手紙を一通、読みました」
素直に手紙を読んだ事を告白すると目を見開いて驚くランドル
「人の手紙を読む事は許されませんが、どうしても好奇心に逆らえなくて・・・それについては申し訳ないと思っています」
けれどと、ヴィクトリアは辛そうに
「あの手紙を読んだ時は、あまりの酷い内容に泣いてしまいました。いくら浮気をしていたにしても、あれは酷いです。お母様が可哀想過ぎます!!」
泣きながらヴィクトリアは父を責める
「あんな、突き放す様な手紙を受け取ったお母様が、どんな気持ちであの手紙を読んだのだろうと思うと、悲しくなりました!!お父様は・・・残酷過ぎます!!」
そう訴えると、ランドルもそうなのだろうなと頷き
「・・・エメルトリアが俺に宛てた最後の手紙にも、その事に触れた恨みが含まれていた」
顔を歪ませ「エメルトリアにも、お前にも、ずっと傷つけて来たのだろう・・・だが、それでも・・・」ランドルは娘を真っ直ぐに見つめ
「お前達を大事にしているつもりでいたんだ・・・何不自由なく、贅沢をさせ、好きな様にさせて来た・・・それでお前達を幸せにしていると、そう思っていた」
その言葉にヴィクトリアは目を瞑る
(そんな事で、愛情を注いでいるなんて・・・)
「お父様の・・・その愛情は・・・ただの自己満足でしかないでしょう?」
ヴィクトリアは真っ直ぐに父を見据え訴える
「私もお母様も、ずっとずっとお父様は私達よりも仕事が大事なのだと、寂しい思いをして我慢して来たんです。私はお父様に愛されていない、拒絶されているのでは?と思ったりもしました・・・」
そう、嫌われているのでは?と悩んだりもしていた
「馬鹿な事を、お前は俺の大事な娘だ!!」
ランドルがそう言うが、ヴィクトリアは「大事なのは、跡取りを得る為の道具だからですか!?」その言葉に凍りつくランドル
「そんな事は・・・だが、お前の夫がティアノーズを継ぐ事は決まっている」
ランドルが珍しく娘に対して動揺した様に答える
初めて娘に面と向ってはっきりと「道具なのか?」と聞かれ、彼自身ズキンッと心を痛めた
ランドルは幼い頃からティアノーズの次期当主候補の一人として、厳しい英才教育を受けてきた
ティアノーズ繁栄の為に尽力を尽くせ、持てる能力、得られる権力は貪欲に手に入れろと教えられて来た
それの所為で彼は何をするにも価値の有無で行動する様になり、ティアノーズに仇なす者は、例え親族であっても容赦なく排除して来た
利用出来る者は利用し、自身が利用される場合は必ずそれ以上の見返りを要求し、常にティアノーズの地位を高める事に全力を注いでいた
そう、家庭を顧みる事無く仕事に没頭し、そのお陰で侯爵一の権力を守って来たと自負し満足していた・・・一族を守る事は、家族も守っている事と同等だと信じていたから
けれど、今目の前に居る娘に自分に『道具なのか?』と尋ねられ、確かにそう聞かれればそうなのかもしれないとランドルも思う
ヴィクトリアは、娘は大事だし、愛してもいる・・・けれど一族の為の道具にしているのでは?と聞かれてしまえば、違うとは否定出来ない
結局、彼にとっては何が一番大事か?それは、幼い頃から洗脳の様に叩き込まれた英才教育の所為でもある『ティアノーズの繁栄』なのだ
けれどランドル自身、自分の気持ちの変化を判っていない
もし、本当にヴィクトリアを道具にしようと考えているなら迷わず、今引っ切り無しにヴィクトリアとの婚約が申し込まれている地位の高い、公爵の元に嫁がせる事を考える筈だからだ
それこそアルフレドとの婚約を取り付けようと躍起になり、例えヴィクトリアが嫌がってもルシフェルとの婚約を破棄し、アルフレドとの婚約を無理矢理成立させるだろう
けれどそうはせず、公爵達からの婚約の申し出を一掃し、たかだか次男の伯爵子息であるルシフェルとの婚約を破棄せずに居る
その理由はただ一つ、ヴィクトリアがルシフェルを愛しているからに他ならない
ランドルはティアノーズの繁栄より、娘の幸せを優先している時点で道具としては扱っていないが、本人はまだその事に気付いていない
「・・・それは、お前もティアノーズの当主の娘として、政略婚は覚悟しているだろう?」
ランドルが娘にそう言い聞かせると、ヴィクトリアは目を伏せて「それは判っています・・・ごめんなさい、酷い聞き方をして」そう謝る
「ただ・・・お父様がルシフェルが私を愛してくれている様に、お母様を愛してくれていたら、きっとお母様も幸せだったのにと・・・」
いつもあの別荘でたった二人だけで過ごしていたと思うあの場所で、母はきっと父が来る事を待っていたのでは?と思っていた
『我が侭を言ってはいけない』『寂しいと言ってはいけない』『お父様の仕事の邪魔をしてはいけない』『会いたいと思ってはいけない』
(あれはお母様が、自分自身に言い聞かせてきたのかもしれない・・・)そう思うと涙が溢れる
「エメルトリアには、他に想っている相手が居た」
ランドルは目を伏せ
「私がどれだけ愛そうとも、幸せではないだろう。寧ろ放っておいて好きにさせてやる方がずっと幸せだろう?」
その言葉にズキッと胸を痛めるヴィクトリア
「・・・お母様の想い人・・・アルヴィレオ・ウェンヴィッツとはどんな方なのですか?」
思い切って聞いてみると、ランドルは(やはり)と
「お前は、どうしてその男を知っている?やはりエメルトリアは別荘で奴と会っていたのか!?お前もあいつと会っていたのか!?」
思わず娘に詰め寄る父親に「違います!!お母様に宛てた・・・カードにその名前があったからです」ヴィクトリアはそう説明する
「私の思い出した記憶では、私達はずっと別荘で二人きりでした。誰も尋ねて来ず、二人でずっと過ごしていました!!」
それがどれ程に寂しかったかとヴィクトリアは父に訴え、娘のその言葉にランドルは娘から離れ項垂れる
「・・・そうか」
ランドルとしては、その別荘で妻が浮気相手と密会しているものと思っていた
けれどそんな妻を責める事はせず、好きにしたら良いと黙認していた・・・それが妻の望みで、奴と会って幸せならそれで良いと思っていたから
「・・・アルヴィレオ・ウェンヴィッツは、エメルトリアの学生時代の恋人だった男だ。だがエメルトリアを裏切り、他の公爵令嬢と結婚し、その後エメルトリアは私と結婚した・・・それでも、あの二人はお互いにまだ未練があったのだとばかり思っていた」
ランドルの説明に肝心な事が無かったので「まさかその人は、アルフレド様のお父様なんて事は、ないですよね?」震える声でヴィクトリアが尋ねると、ランドルは顔を上げフッと笑い
「アルフレドがお前に執着していると聞いた時は、親子揃って好みが同じかと笑ったな。そして・・・」
口元を歪め「どちらも想いを成就出来ずにいる所までそっくりだ」皮肉めいた父の言葉に凍りつくヴィクトリア
「・・・アルヴィレオはエメルトリアを愛し、裏切った。そして奴の息子は、エメルトリアにそっくりなお前を愛しているが、結ばれる事はない。そうだろう?」
(アルフレド様が・・・お母様の恋人だった人の・・・息子・・・)
その事をアルフレドは知っているのだろうか?父の残酷な言葉にも胸が痛み震える
これ以上は冷静に話は出来ないと思い、ヴィクトリアは部屋を出ようとすると「・・・ヴィクトリア、お前宛にエメルトリアからの手紙を預かっている」その衝撃の告白に足を止め、驚き父を見る
「だが、その手紙は、お前の婚姻の儀の日取りが決まった時に渡して欲しいと手紙で頼まれている。そして、女性は結婚すれば家庭に縛られ自由でなくなる。出来ればお前には、二十歳を過ぎてから婚姻の儀を迎えさせてあげて欲しいとも書かれていた」
母が父に宛てた最後の手紙の内容に驚くヴィクトリア
「・・・お母様の、手紙・・・今受け取る事は出来ないんですか?」
懇願する様に父親を見る娘にランドルは「約束だから、まだ渡す事は出来ない・・・黙っていた方が良かったか?」そう尋ねる父に、ヴィクトリアは首を振り
「いいえ、お母様が私を気に掛けてくれていたと知って、それがとても嬉しいです」
自分は母に愛されていないのでは?そう思っていた彼女にとってその手紙の存在はどれ程嬉しい事か・・・泣きながらにっこりと笑う娘に、ランドルは思わず抱きしめ
「俺も、エメルトリアも、お前を愛している。お前は私達の大事な娘だ」
父のその言葉に、ヴィクトリアは心から救われる
「私も、お父様とお母様を愛してます」
あまりにも不器用過ぎる父に何度も傷ついてきたが、それでも彼なりに大切にしてくれていたのだ
寝室に入ると、ルシフェルは居なかった
ベッドに座り、今日の事を整理しながら母とアルヴィレオの事を思い、頭を抱える
(別荘ではずっと二人きりだとお父様に言ったけれど、それは絶対とは言いきれない。でも、おばあ様も誰かと会っている様子はなかった言っていた・・・)
ベッドに横になり
(やめよう・・・私がいくら考えても何も判らないわ・・・ただ・・・)
アルフレドは知っているのだろうか?もし知っているなら何処まで知っているのか知りたいが、知らない場合は、下手に聞いて彼を傷付ける恐れもあるから簡単には聞き出せない
(どうやったら上手く聞きだせるかしら・・・)
出来れば手紙でなく、直接会って聞き出したい所だがと考える
(・・・お母様は私を愛してくれていた、もうそれだけで十分だわ・・・お母様とアルヴィレオと言う人の事はこれ以上考えるのはやめよう・・・)
今日は散々泣き腫らしたので疲れてしまったヴィクトリアは、そのままウトウトと眠気に襲われ目を瞑るとガチャっとドアが開きルシフェルが入って来る
ルシフェルが入って来たので起き上がるヴィクトリア
そんな彼女の横に座り優しく抱き寄せ「大丈夫か?」心配そうに聞いてくれるルシフェル
「・・・今日は色んな事で泣き疲れたわ」
正直にそう言うとヴィクトリアはベッドに入るので「そうか」ルシフェルも一緒にベッドに入ると、ヴィクトリアは彼に寄り添い
「お父様に何か言ったの?」
父がいつもより早く帰って来て、あんな話をしたのはルシフェルに何か言われたからだろうと思い尋ねると
「ああ。ヴィクトリアの事を本当に大事に思っているなら、母親の事で言わなければいけない事があれば、隠さずに伝えてあげて欲しいとね」
「そう・・・」
ヴィクトリアは愛する彼の胸に顔を埋め
「ありがとう」
自分の事を大事にしてくれ、頼りになる彼にそうお礼を言うとそのまま安心した様に眠りに落ちる
ルシフェルは自分の腕の中で安心して眠る愛しい婚約者を護る様に抱きしめながら、自身も眠りに就く




