6話 婚約者の友人と会う悪女
ルシフェルとの約束の為、ヴィクトリアは彼と出掛けるデート場所で頭を悩ましている
「やっぱり、今話題のオペラかしら・・・でもルシフェル様は退屈するかもしれない」
今話題のオペラは悲恋の物語で、女性の間では人気だが男性の受けがあまり良くないらしい
執事のドルフェスの話しだと、最後ヒロインの恋人である男性が死ぬらしいのだ
彼曰く
「あの女が元凶です。自分の所為で恋人が死んだのに、なに他の男と幸せになっているのか!!」
普段冷静沈着な彼には珍しく「全く不愉快だ!!」と憤慨していた
(あの女とはヒロインの事ね・・・誰と見に行ったのかしら?そっちの方が気になる)
因みに女性陣(メイド達)は『自分の為に死んでくれたのよー!?素敵じゃなーい!!』である
(高尚なデートなら、クラシック音楽も良いかも)
楽団のパンフレットを見たり、お芝居の広告を見たりしながらヴィクトリアは悩む
一応、ルシフェルの友人であるトーマスに手紙を出し、彼の好きそうな催しや、よく出掛ける場所等を尋ねてみた
そしてその手紙の返事が届いたのは、次の日の昼頃だった
手紙の内容は
『ヴィクトリアからの手紙、凄く嬉しかった。貰った手紙は、俺の宝物の一つにするね』
出だしからこんな内容で、ちょっとヴィクトリアは怖かった
『ルシフェルとのデートの相談なら、会って話そうよ』
流石にこの提案には困った・・・幾ら彼がルシフェルの友人だからといって、二人で会うのは気まずい
(・・・どういうつもりかしら?)
自分が悪女だったから、こんな風に誘っているのだろうか?不安を感じながら読んでいく
『ティナも一緒だから心配しなくて良いからね。彼女もヴィクトリアに会えるの喜んでるから』
その内容にホッとする。トーマスは軽い性格で子供っぽいが、一応伯爵子息としての礼儀は弁えている
(ティアナベル様も一緒なら、大丈夫よね?日程を決めて会いましょう)
トーマスから、ルシフェルの事が色々聞けるだろう・・・それがとても楽しみだった
さっそくヴィクトリアはドルフェスに、明後日出かける為に護衛の騎士を手配して貰い、それからアメニにその日は休暇を取らせた
「ヴィクトリア様、ありがとうございます」
嬉しそうにお礼を言うアメニに
「その日はサージスに頼んで、またお菓子を沢山用意して貰うから」
「いえ、そんな事をして貰っては申し訳ないので」
気を遣わないで下さいと言うアメニに、ヴィクトリアは
「いいのよ、その日はお父様も私も居ないのだもの。お菓子を沢山作って貰って、皆にもゆっくりして貰うわ」
(私が償える事は、それ位だもの・・・)
以前、使用人達を虐げていた悪女ヴィクトリアの存在は恐怖でしかなかった
でも今のヴィクトリアは使用人達を大事にし、ティアノーズ家の屋敷の雰囲気はガラッと変わった
前は主人に怯え、びくびくしていた使用人達だったが、今は楽しそうに笑顔で各々の仕事をこなし明るくなった
何より嬉しいのは「いつもありがとう」と優しく笑って労ってくれる、ヴィクリアの笑顔を見る事だ
トーマス達との約束の日、護衛に現れた女騎士カレンと再会する
もう一人の護衛であるラインハルト・ゼルノヴィッツは、金髪の髪に赤い眼で細身だが鍛えられた身体つきの青年
「この度、侯爵令嬢ヴィクトリア様の護衛を任されました、ラインハルト・ゼルノヴィッツです。どうぞよろしく」
「ゼルノヴィッツ・・・でしたら、公爵様ではありませんか!!その様な方が私の護衛だなんて・・・」
困惑しながらラインハルトを見るヴィクトリアに、彼は自分が任務に就く事になった経緯を思い出し溜息を吐く
最初、ヴィクトリアの護衛に副団長のギュスター自身が当たると言い張ったが、けれど団長が認めず、しかもその団長自身が護衛に当たろうとした
するとギュスターは『自分が、美女ヴィクトリアに会いたいだけでしょう?』と、職権乱用を理由に揉めて団長と対立
それを見ていたレイモンドが『見っともない・・・・』と呟き、その一言で別の者に護衛を任せる事になったのだ
そして公爵の身分を持つ、ラインハルトに白羽の矢が立った
「本当に、何処へ行くにも護衛を就けないと駄目なのかしら?騎士の方に申し訳ないわ」
馬車の中、ヴィクトリアは溜息を吐く
「絶対という訳ではないですが。ティアノーズ侯爵様は、それだけヴィクトリア様を大事にされておられるのでしょう」
カレンは慰めるが、本来、令嬢に騎士を護衛に等付ける事はない
普通は屋敷で雇っている使用人、もしくは傭兵等を用心棒として護衛に就ける
オルテヴァール王国において、騎士レベルを護衛に就けるのは、王族・公爵・侯爵・伯爵の当主とその家族位なので、ティアノーズ侯爵当主の娘であるヴィクトリアが騎士を護衛として要請するのは間違いではない
この国は身分制度を徹底していて、権力第一主義国なので、貴族を怒らした民間人が、例え貴族に非があったとしても最悪極刑になる事もある
「護衛を就けるにしても、毎回騎士の方を呼ぶというのが・・・」
(これは一度、お父様と話し合わなければいけない)そう考えるヴィクトリア
約束の高級カフェに着き、カレンとラインハルトはヴィクトリアの邪魔にならないよう少し離れた席に座る
予約席にはすでにトーマスが座っていて(トーマス様一人?どういう事!?)少し不安を抱えながら、彼の所へと向かう
トーマスはヴィクトリアの姿を見つけ、無邪に満面の笑顔を向ける
「ヴィクトリア、やっと来た!!」
嬉しそうに立ち上がり、ヴィクトリアの椅子を引いてくれる
「あ、ありがとうございます」
席に座ると、トーマスは嬉しそうにヴィクトリアを見つめ
「ほんと、ヴィクトリアは可愛いなあ。あっ、なに飲む?お酒でも構わないよ?」
悪戯っぽく言いながらウェイターを呼ぶ
「紅茶のケーキセットを」
ヴィクトリアが注文すると「ティナはね、買い物をしてて少し遅れるんだ」にっこりと笑う
(そう、なのね)
ティナが後から来ると聞いて少し安心するが、出来れば早く来て欲しいと願う
「もうすぐ俺の誕生日だからね、プレゼントを選んでくれてるんだよ」
嬉しそうに言うトーマスは「俺の誕生パーティーには、是非ヴィクトリアにも来て欲しいな」人懐っこく誘う
「はい。招待して貰えるなら、喜んで」
ヴィクトリアもにっこりと笑って頷く
友達のいないヴィクトリアには、誰も誕生パーティーに呼んではくれないだろう・・・だから素直に嬉しかった
「うーん、ヴィクトリアは本当に素直だよね。可愛いし、美人だし、ルシフェルが独占したくなる気持ち判るよ」
楽しそうに笑ったトーマスは、次の瞬間少し訴えるような眼をして「だから、もうルシフェルを裏切ったりしないでね?」と忠告してくるので、その言葉にドキッとするヴィクトリア
「・・・友達として、頼むね」
笑った彼の気持ちが、ヴィクトリアにはズキッと重く圧し掛かる
(この人は、本当にルシフェル様の事を思ってくれているんだ)
だから忠告してくれている、その気持ちが嬉しかった
ヴィクトリアは頷き「はい、絶対に裏切ったりしません・・・その、好きなので」最後は顔を赤くしながら言う
その言葉にトーマスは
「あはは、やっぱりめちゃくちゃ可愛い!!その表情、さいっこう!!」
と笑い出すので、そんな彼を見て
(もしかして、か、からかわれただけ?!)
顔を赤らめる彼女に「本当、からかい甲斐あるわあ」涙目になっているトーマスは「ごめんごめん、ちょっとは緊張ほぐれた?」と聞いてくる
からかわれたヴィクトリアは、恥ずかしさで
「トーマス様は、何処まで本気か判りません」
俯きながら(もう、この人は!!)と思いながらも、内心少しホッとしている
(きっと本心なのよね、ルシフェル様を傷つけないで欲しいと言う事は)
この無邪気な婚約者の友人を、ヴィクトリアは好きなる(もちろん友人として)
しかし、二人のこの状況を目の当たりにして、あまり良く思っていない者がいる・・・カレンだ
ここは高級カフェ、つまり貴族も贔屓にし利用している場所
そして今居るこの場所は貴族専用の為、当然周りに居る客は貴族のみで、その貴族達が聞き耳を立てているのが、ヴィクトリア達・・・二人の会話
悪女ヴィクトリアはその容姿、身分もあって上位の貴族だけでなく、下位の貴族もでも悪女ヴィクトリアの噂は耳にしている
トーマスも下位の令嬢達に人気のあるルシフェルの友人である為、それなりに顔位は知られている
(※けれど、カレンは学園を卒業しすぐに騎士に入団し社交界に疎いのでルシフェルとトーマスの事は知らない)
(貴族は噂好き。しかも貴族の間で知られている二人が楽しそうにお茶をしていれば、密会だと思われても仕方がない)
実際は、こんなに堂々とした密会等あるものかと思うが、噂は根も葉もない事が脚色されて、とんでもない事態になる事の方が多い
カレンだってヴィクトリアからは「知り合いと会う」とだけ聞いている
そして今一緒に居るのは男性で、二人きりだ・・・(まずい状況なのでは?)不安が募る
子爵令嬢だったカレンだから、貴族間の噂の恐ろしさを知っているのだ
「・・・あの二人を見てどう思いますか?」
カレンはラインハルトに尋ね「はっ?」聞かれた彼はヴィクトリア達を見て「楽しそうに話しているな」と答えるので、カレンは首を振り
「そうじゃなくて、どう見えるかって事です!!」
「・・・どう見えるかって、楽しそうに話しているとしか」
「・・・恋人の様に見えませんか?」
心配そうに確認するカレンに「まあ、そうだな。見えなくはないな」どうでもいいと言う感じで、彼は答える
(まずいなあ、ヴィクトリア様はどういうつもりだろう?どうして男の人と二人で会ってるんだろう?)
周りの貴族達は、ちらちらとヴィクトリア達を見ている
(へんな噂が立てばヴィクトリア様だって困るだろう。ただの友達でも、婚約者が居るんだから二人で会うのはまずい。記憶が無い彼女は、そう言う事が判ってなかったの?忠告しておけば良かった?どうしよう)
カレンは自分があの席に行き、ヴィクトリアの傍に居るべきだろうか?と考える
だが楽しそうに話をしている(様に見える)二人の間に割って入って、ヴィクトリアを怒らせたりはしないか?護衛としてでしゃばり過ぎか?とも思う
(困った、どうすれば良いだろう?)
カレンはこういう状況に慣れておらず、気が気でない
本題に入ろうと、ヴィクトリアはトーマスに「あの、それで手紙の件なのですが」おずおずと尋ねると、彼は笑って
「ああ、ルシフェルとのデート場所だね」
頷き、そして悪戯っぽくウーンと考えるようにして
「やっぱり、二人きりになれる所が良いんじゃないかな?あ、でも二人きりになった時は気を付けてね。あいつ結構手が早いから」
「ぐふっ!!」
その言葉に、紅茶を飲んでいたヴィクトリアが咽ると、その様子を楽しそうに見ながら
「まあ、人の屋敷で平気でイチャつくんだから、周りの目なんか気にしないかな?あいつは」
トーマスの言葉に、ヴィクトリアは顔を赤くしながら
「あ、あの、そう言う冗談はやめて、ちゃんと教えて欲しいです」
(ああ、お願いティアナベル様、早く来て!!)
まだ現れない彼女に縋るヴィクトリア
「うーん、その反応良いね、ホント可愛い。ずっとからかいたくなるよ。可愛い、ヴィクトリア」
にっこり笑って、ヴィクトリアをからかうトーマスに
「・・・そうか」
突然冷たい、怒りに満ちた声がして二人はその声の主を見る
そこに立っていたのは、怒りを露にしながら冷たい眼でトーマスを睨みつけているルシフェルだった
(眼で刺し殺す・・・)
そんな言葉がピッタリだと思ったヴィクトリアは、彼の眼を見ただけで物凄く怒っている事が判る
「あれ?ルシフェル、何でここに居るの?」
ルシフェルに冷たい目で睨まれているというのに、あっけらかんと気にも留めずに尋ねるトーマス・・・流石、親友である
「まさかヴィクトリアのストーカー?それ、流石に引くぞ」
怒れるルシフェルにその言動、ヴィクトリアはトーマスを勇者か?それとも愚者か?と思いながら見守る
「・・・お前は?どうしてヴィクトリアと二人で居るんだ?」
ルシフェルが静かに尋ねると、トーマスは面白そうにニヤ付きながら「えー、それは・・・まあ、見ての通りだな」意味深な事を言うので、堪らずにヴィクトリアが
「あ、あの、今はトーマス様と二人ですが、後からティアナベル様も来られるのです」
ルシフェルにそう説明をすると、彼は一瞬悲しそうな表情をしてから
「そうか、それを聞いて安心した」
ヴィクトリアに優しく笑い、ピタリと椅子を彼女の隣にくっつけて座る
しかしトーマスに対しては怒りを露にしているのだが、そんな事は気にせず嬉しそうにトーマスが
「で?なんでお前はここに居るの?まさかホントにヴィクトリアをストーカーしてるのか?」
ヴィクトリアもルシフェルを不思議そうに見る
「・・・俺がよく、この店で昼食を取る事は知っているだろう?よく言うな」
イライラしながら答えるルシフェル
そう、ルシフェルがこの店を利用している事をトーマスは知っていて、敢えてこの店を選んだのだ
「そう、何ですか?」
知らなかったヴィクトリアにルシフェルは優しく「職場から近いですから、よく利用しています」そう答えニッコリと笑う
その笑顔にポーっとなりながら
「職場・・ですか」
(そういえばルシフェル様はどんな仕事をしてるんだろう?)
「今は役所ですが、もうすぐ王城へと変わります・・・侯爵としての仕事に変わりますので」
それはヴィクトリアとの婚約が成立した為で、記憶を無くす僅か一ヶ月前だ
「それで、どうして二人は会っているのかな?」
本題に入ろうと、ルシフェルが冷ややかにトーマスに尋ねる
「うーん、どうしよう。言っても良いかな?ヴィクトリア」
また意味深な事を言う彼に(この人は!!)と思いながら、でも恥ずかしくもあり、困ってしまう彼女の様子にルシフェルは「・・・言いたくない事ですか?」少し声を落とし、イラットした感じで尋ねる
ヴィクトリアは慌てて、少し顔を赤くしながら
「い、いえ・・あの、ルシフェル様が喜ぶ場所を聞くために・・です」
驚くルシフェルに、ヴィクトリアは正直に
「・・・デートの場所が、何処が良いか、その、判らなくて・・トーマス様に、相談したんです」
トーマスはうんうんと頷き
「そう、俺も可愛いヴィクトリアに相談されたらさ、断れないからね。だからこうして会って、相談に乗ってる訳」
どう?良い奴だろう?的な顔をするが、実際ヴィクトリアはからかわれていただけだ
「ふうん」
とルシフェルは相変わらず冷めた眼をトーマスに向け
「それで?どんなアドバイスをヴィクトリアにしてあげたんだ?お前は」
厳しい質問をする彼にトーマスは
「うん、まずお前は手が早いから、二人きりの時は気を付けるよう教えてあげた。まだそれだけ」
あっけらかんな彼に、ヴィクトリアは固まる
ルシフェルは「・・・お前は本当に、俺を怒らせるのが上手いなあ」笑っている
いや、正確には怒りが頂点に達していて「ティナに頼んで、少しお灸を据えて貰うよ」にっこり笑うルシフェル
流石のトーマスも「あ、ごめん。それだけはやめて」と完敗の様子で謝る
ルシフェルは怒りが静まっていないようで、ムスッとしながらトーマスを睨んでいる
いつも笑顔のルシフェルが見せる、珍しい表情だが、ヴィクトリアは折角ルシフェルが居るのだからと
「あの、ルシフェル様。ルシフェル様の好きな場所とかはないのでしょうか?」
思い切って色々尋ねてみようと思った
ヴィクトリアの質問にルシフェルは考え
「海を見に行ったり、草原の景色を見るのは好きですね。こいつとも、子供の頃よく行きました」
チラッと、生ゴミを見るように友人を見る
「そうそう、あの頃のお前は可愛かったなぁ」
しみじみと言うトーマスが可笑しく、思わずヴィクトリアは笑い、そんな彼女を見てルシフェルの機嫌も少し直る
「それなら、海を見に行きませんか?」
ヴィクトリアが提案すると、ルシフェルも「いいですね」と頷く
そんな二人に「じゃあ、俺もティナを連れて・・・」行きたいと言おうとしたトーマスに
「お前は来るな」
すかさず却下するルシフェル
(本当に仲が良いんだなあ)と二人を見ながら羨ましく思うヴィクトリア
ルシフェルが現れて少ししてから
「ごめんね、思ったより時間が掛かってしまって」
慌てながらやっと来たティアナベルに、ヴィクトリアとルシフェル二人は心からホッとする
「あら、ルシフェル様も居らしたの?」
ルシフェルの姿を見て驚くが、少し安心したティナ
「ヴィクトリアをこれと二人にするのは心配だったんだけど、ちょっと迷ってしまって」
そう言いながら、椅子に座る
「ルシフェル様が居てくれて、良かったですわ」
急いで来てくれたのだろう、息遣いが荒い
「・・・ティナ、後でこの馬鹿にたっぷりお灸を据えてやって。ヴィクトリアをからかった罰だ」
ルシフェルはそう言うと、立ち上がり職場に戻ろうとする
「・・・もしかしてティナが来るの待ってたの?」
ティナに後でお灸を据えられる、ムスッとしながらトーマスが尋ねると「そうだ」と答えヴィクトリアに「それじゃあ、また」と軽く額にキスをして出て行く
そのあまりにもスマートな仕草に周りの令嬢達の悲鳴が上がり、当人は顔を真っ赤にして硬直状態だ
「ふーん、あんな風にして欲しいんだ」
はしゃぐ令嬢達を見ながら呟くトーマスに「貴方はしないでね、笑いしか取れないから」冷ややかに、お断りと言うティナに「ひどっ」と全く傷ついていないトーマス
デートの場所も決まり、ホッとしたヴィクトリアはトーマス達とのおしゃべりを楽しむ
「トーマスへのプレゼントを選ぶのにね、迷ってしまってそれで遅くなってしまったのよ。本当にごめんなさいね」
「大丈夫ですよ」
謝ってくるティナにヴィクトリアはそう伝えるが、実際は早く来てと願っていた
「判ります。好きな人へのプレゼントですもの、迷いますよね」
その気持ちは良く判りますと頷くヴィクトリア
「ティナがくれる物なら何だって嬉しいよ」
にっこりと嬉しそうに笑うトーマスに「はいはい」と相槌を打つティナ
(本当に仲が良いのね・・・)
羨ましく思うヴィクトリア
(私もこんな風に、普通に何気なくルシフェル様と接する事が出来るのは、いつだろう?)
今はまだ無理だ。好き過ぎて、顔が赤くなってしまう
(さっきだって、額にキスされて硬直してしまった。ルシフェル様は、平然として出て行ったのに)
楽しそうに笑いながら話しをしている三人を見て、カレンは心底ホッとしている
怒りを露にしてルシフェルが現れた時は、心臓が止まるかと思った
慌てて自分達も居ますよと出るべきだと思ったが、ルシフェルの怒りオーラが怖過ぎて様子見を決め込んでしまったのだ
(しかしあの友人らしき男性、彼は只者じゃない。あんな冷やかな怒りの眼を向けられているのに、平然と笑っていられるって凄過ぎる)
カレンは誤った認識で、トーマスを尊敬する
「まあ、結局決められなくて、二つ購入したのよね」
ティナはトーマスを見て
「早く行かないと、ヴィクトリアがこれと二人は可哀想だと思って」
彼女は、ヴィクトリアに様を付けずに呼んでいる・・・それに気づいたので思い切って
「あの、私も、ティナと呼んでも良いですか?」
おずおずと聞いてみたが、心臓はドキドキしている
「もちろん、その方が良いわ」
にっこり笑う彼女に(良い人!!)ホッとするヴィクトリアに、トーマスも笑いながら
「俺も、トーマスで良いよ」
「トーマス様で良いです」
少し意地悪そうに言うが、トーマスとティナはクスクスと笑っている
「?」
(可笑しかったかしら?)と思っていたら
「そうよね。トーマス、なんてヴィクトリアが言ったら、ルシフェル様に殺されるわよ」
とティナがそう言うと、トーマスも「それは勘弁だな」と笑うのでヴィクトリアは、はにかむしかなかった
トーマスの誕生日に呼ばれたのは嬉しいが、何をプレゼントすれば良いか判らずにティナに尋ねると
「何でも良いわよ。その辺の石でも拾って、あげて頂戴」
「ひどっ!!」
ティナの素っ気無い答えにトーマスが突っこむ
「別に、贈り物なんて必要ないけど。どうしてもって言うなら」
少しティナは悪戯っぽく、ニヤッと笑い「ルシフェル様と、二人でプレゼントを贈ったら?」と提案する
「えー、二人別々が良いんだけど。ヴィクトリアからのプレゼントが欲しい」
駄々を捏ねる様に言うトーマスを無視して「二人で選ぶのも、楽しいんじゃない?」にっこり笑う
その提案にヴィクトリアも頷き「それ、良いですね。ルシフェル様と相談してみます」嬉しそうに眼を輝かせる彼女を見て
(可愛い・・確かにトーマスがからかいたくなるわ)
そう思うティナだった
トーマスとティナは、親同士が仲が良く、幼少の頃から二人はよく会っていた
当時のトーマスはティナを、ただ面白いからという理由でからかっていたが、彼女は苛められていると思っていた
お互いまだ幼く、トーマスにとってはふざけて遊んでいたつもりでいた事だが、ティナは本気で怒り、気の強い彼女は年下の彼の頬を思い切り叩いた
『こんどふざけた事をして、あたしを怒らしたら、また思いっきり頬をぶつからねっ!!』
打たれた頬を触り驚くトーマスにそう宣言し、これがティナのお灸になる
それから十数年後に、二人はなんだかんだで親達が望んだ通り婚約した
今人気の悲恋の物語のオペラに、ヴィクトリアはティナと一緒に見に行く事になった
「一度見てるのに、付き合ってくれてありがとう。見てみたかったの、面白そうだなって」
「ええ、なかなか良かったわよ、最後は少し悲しいけど」
「なかなか良かったね」
ティナがそう言うと、トーマスも頷く
「・・・トーマス様も面白かったですか?」
(男性には受けが良くないと聞いているのだけど)
「まあね。愛する女性の為に死ねるんだよ?それなら男にとって本望だよ」
にっこり笑いティナを見る
(この人、どこまで本気なんだろうな)
ちょっとトーマスが計り知れなくなってきた
「ヴィクトリアはこれから見るんだから、あまり話さないのよ?」
釘をさすティナに、友達が居なかった自分に二人の友人が出来た(これもルシフェル様のお陰だわ)そう喜ぶヴィクトリア
店を出るとカレンとラインハルトも同じように出て来るので、二人の騎士を目の当たりにしてティナは感心する様に
「騎士を二人も連れてるなんて、流石は侯爵令嬢ね・・」
そう言われ、ヴィクトリアは恥ずかしそうに
「これについてはお父様に止めて貰うようお願いするわ」
「まあ、護衛は必要だろうけどね」
そう言いながらチラッとカレンを見るティナ
「女性騎士って珍しいのでしょう?私としてはもっとこう、女性の騎士が居てくれると嬉しいのだけど」
思い切ってティナにもそう話すと「まあ、そうなんだろうけど」ティナは
「女の人に護って貰うのって、気が引けるのもあるのよね。自分のせいで怪我させたりしたら特にね。その点男性だったら、逆に嬉しかったりするでしょう?やっぱり騎士に護って貰うのって、女性の憧れもでもあるものなのよ」
申し訳なさそうに「もちろん、女性の騎士の方が都合が良い場合もあるのは、判るんだけどね」と付け加えた
トーマス達と別れ、馬車の中ヴィクトリアは考える
『女性騎士に護って貰うより男性騎士の方嬉しい。女性の場合、自分のせいで怪我をさせてしまったら申し訳ない』
(なかなかに難しい事なのね・・女性の騎士を認めて貰うのって。それでもカレンは頑張ってるのよね)
カレンの立場がどれ程厳しいものか、それを考えるとヴィクトリアは何とか彼女の力になりたいと思うのだが
屋敷に無事に着き、二人の騎士にお礼を言う
「カレン、今日もありがとう」
「いえ、これも任務ですから」
笑うカレンに、ヴィクトリアは
「今度、友達と一緒にオペラを見に行くの。その時の護衛も頼める?」
「要望があれば、いつでも任務に当たりますよ」
彼女がそう答えると「そう、良かった。その時はまたよろしくね」嬉しそうに約束するヴィクトリア
後にこの約束が、とんでもない事態に追い込まれ、カレンが窮地に立たされ事になる等思いもせず、楽しみにするヴィクトリア
誤字を教えてくれた方、ありがとうございました




