61話 王女からの手紙を受け取る悪女
ホルグヴィッツの別荘に来て四日経ち、ヴィクトリアは昼前に帰る予定だ
朝、アメニはヴィクトリアを起こしに来たが、もしかしてルシフェルが居るかもしれないと先にサビドにルシフェルの部屋を確認して貰い、彼が出て来たので安心してドアをノックし「ヴィクトリア様、アメニです。おはようございます」と部屋に入って行く
ヴィクトリアはアメニに着替えを手伝って貰いながら「あまり別荘では一緒に居られなかったけど、大丈夫だった?」と尋ねると、アメニは笑って「はい、皆さんとても親切でしたので」そう答える
大人しく、言われた通りにきちんと仕事をこなすアメニにホルグヴィッツのメイド達も助かっていた
最初、彼女はティアノーズの使用人なので何処まで仕事を頼んで良いか判らなかったホルグヴィッツのメイド達に「ヴィクトリア様が居ない間は、ここの使用人として使って下さい」そうお願いしたのだ
口数の少ないサビドも、黙々と力仕事も請け負うので重宝されていた
ただ困ったのは、ヴィクトリアとルシフェルの事をあれこれ聞かれるので「お二人はとても仲睦まじいです」とだけ答えた
ヴィクトリアは着替え終わるとルシフェルの部屋へ向い、ルシフェルはヴィクトリアを部屋の中に迎え入れる
「今日は昼前に帰るけど、支度は出来てる?」
「大丈夫。もう身支度は済んでるし、いつでも出れるわ」
列車の時間があるので余裕を持って早めに出る為に、のんびりした穏やかな時間を過ごせたこの別荘にまた来れたら良いなと思いながら答えるヴィクトリア
(ここはお母様との唯一の思い出の場所だもの)
このホルグヴィッツの別荘はヴィクトリアにとって特別な場所になる
祖母との最後の朝食を名残惜しく思うヴィクトリアに「貴方との三日間は、とても楽しかったわ」祖母はそう言うと
「ここの別荘も、私の邸へも、貴方の好きな時に来て構わないわ。遠慮しなくて良いのよ、貴方は私の大事な孫なんだから」
ヴィクトリアは祖母が、自分を大事な孫だと言ってくれて事がとても嬉しかった
「ありがとうございます。私もお祖母様と過ごせて、とても楽しかったです」
(悪女の彼女は幻滅させてしまったけれど、私はお母様の分までお祖母様を大事にしよう)そう、心の中で誓う
朝食を済ませ、少しゆっくりと三人で応接間で話をする
「ヴィクトリアが来る時はお茶会を開いて、私の孫だとお披露目したいわ。その時は、貴方の友人達も呼んで構わないわよ」
祖母がとんでもない事を言い出し、ヴィクトリアは固まる
ヴィクトリアの友人で侯爵はクローディアだけ、あとは伯爵以下の令嬢達だ
「そ・・それは・・・」
(どうしよう・・・幾らお祖母様のお茶会でも、伯爵はともかく子爵の友人は・・・来てくれるかしら?来てくれたとしても、嫌な思いをさせないかしら?)
考え込んで困っている孫に
「貴方なら沢山の友人が居るでしょうから、誰を呼ぶか困るのでしょう?構わないのよ、皆呼んで頂戴」
友人が多過ぎて誰を呼ぶか困っていると思っている祖母に
「その、私の友人は伯爵や・・・子爵の令嬢が多いので・・・一応は声を掛けてみますが・・・」
(来てくれるかしら?・・・)
正直にそう告げ(伯爵の友人達は来てくれるかもしれないけど・・・)それだってきっと仕方無しにだろう・・・喜んでは来てくれないと判っているから招待し辛い
「・・・伯爵や子爵ってどういう事です?」
理解出来ていない祖母が首を傾げ尋ねるので、ルシフェルが代わりに経緯を説明する
ヴィクトリアが記憶を無くして初めて出来た友人が伯爵令嬢で、そこから頑張って何とか伯爵以下の令嬢の友人が出来た事を知ると
「それで・・・よく、その・・・あの男は、その事について何も言わないの?」
それこそ権力絶対主義のオルテヴァールの権現と言えるランドルが、自分の娘が伯爵以下の令嬢としか付き合っていない事に何も言わないのが不思議だった
「父は知りません。きっと私の友人達は皆、侯爵令嬢だと思っていると思います」
ヴィクトリアがそう答えるとアーシュトリアは(あの男なら有り得るわね)納得し、孫がどこまでも不憫に思い
「判ったわ。お茶会には出来るだけ公爵や侯爵令嬢を呼びましょう。貴方はそこで気の合う友人を見つければ良いでしょう」
祖母が気を遣ってくれている事はヴィクトリアにも判っている・・・これからは公爵令嬢達とも関わっていかなければならない事も
(逃げては駄目なのよね・・・これはお祖母様が私の為にくれた機会なのだもの・・・頑張ろう)
前向きなヴィクトリアは、自分にそう言い聞かせて「はい、ありがとうございます」笑顔でお礼を言う
そんな婚約者を心配そうに見つめるルシフェル
荷物は使用人に配送してくれる様頼むと、ルシフェル達は馬車に乗り込んだ
二台の馬車は来た時と同じ道を走って行き「ヴィクトリア、お祖母様のお茶会大丈夫なのか?」愛する婚約者を抱きしめながら心配そうに訪ねるルシフェル
「不安はあるけど、お祖母様が傍に居てくれるから怖くないわ。私も頑張って侯爵や公爵様達の友人を作らないとね」
彼に寄り添いながらヴィクトリアはそう答える
無事にアルスラード駅に着くがまだ汽車に乗るには時間があるので、ルシフェルは腕時計を見ながら
「どうする?後、三十分位時間があるから、そこら辺の店でも見て回る?」
そう聞かれてヴィクトリアは嬉しそうに頷き、近くの店を散策しようと周りを見回す
(どうしよう、三十分しかないもの・・・どのお店を見ようか迷うわ)
取り敢えずとすぐ近くにある小物の店の商品を見ていると「ヴィクトリア!!」男性貴族達が詰め寄って来る
(えっ!?)
彼等は公爵家の身分で悪女ヴィクトリアの恋人達だった
「一人なのか?ヴィクトリア」「それなら俺とデートしようよ」「いや、俺と!!」
嬉しそうにヴィクトリアに声を掛ける彼等に怯えるヴィクトリア
「俺の婚約者を、口説かないで貰えますか?」
すぐにルシフェルがヴィクトリアを抱きしめ男達を睨みつけ、用心棒二人とサビドも主人達を庇う様に公爵達の前に出る
「なんだ?無礼だな、アルガスター。たかが伯爵の分際で、公爵のこの俺達を睨みつけるのか?」
ジェス・カレイヴィッツ公爵子息は不愉快そうにルシフェルを睨み返す
「人の婚約者を口説く方が無礼ですよ」
「お前にヴィクトリアは勿体無い。たかが伯爵子息のお前ではな」
そう馬鹿にすると、ジェスはヴィクトリアに
「ヴィクトリア、俺はジェス・カレイヴィッツ。俺達恋人同士だったんだ、ヴィクトリアが望めば俺が婚約者に名乗りを上げるよ。そうすれば公爵夫人だ!!こんな奴よりもずっと幸せにしてみせる」
最後の言葉は自信を持ってそう断言するので、ヴィクトリアは驚く
(何を言ってるの・・・?この人・・・)
「俺もだ、ヴィクトリア!!俺も君を愛している、俺と婚約して欲しい!!」「いいや、俺と婚約しよう!!」
狂った様にヴィクトリアに言い寄って来る公爵達に、用心棒と共に主人達を庇いながらサビドが「旦那様、行って下さい!!」ルシフェルに向かってそう叫ぶ
「お前等、邪魔をしたら不敬罪で処罰するぞ!!」
自分の前に立ち塞がるサビド達に叫ぶ公爵のその言葉に、ルシフェルに庇われながら駅に向おうとするヴィクトリアは足を止める
「ヴィクトリア?」
ヴィクトリアを連れて行こうとするルシフェルが怪訝そうにするが、ヴィクトリアは踵を返し
「無礼なのは貴方達の方だわ」
そう叫び「何が婚約してくれよ、気持ち悪い!!」怒りで震えながらヴィクトリアは公爵子息達相手に睨みつける
「私はルシフェルと、彼と婚約しているんです!!それなのに彼を前にして婚約して欲しいなど、失礼にも程がある。最低だわ!!」
彼等に心底不愉快な、嫌悪の目を向けて
「それに彼等は私達を、貴方達から護ってくれてるのよ。不敬じゃないわ!!」
用心棒とサビドの傍に来ると「行きましょう」三人を連れて行きながら
「もう二度と私に話し掛けて来ないで下さい」
キッと睨みつけるので、ジェス達は愛するヴィクトリアにはっきりと拒絶されショックを受け、呆然と立ち竦み、去って行く彼女の後ろ姿を見つめる
(こ・・・怖かった・・・)
怒りで思わずあんな行動を取ったが、彼等が逆上しないかと内心とても怖かったヴィクトリアに
「ヴィクトリア」
ルシフェルは彼女を抱きしめ「あまり、あんな無茶はしないでくれ。相手は最低でも、公爵だ」内心では凄く嬉しかったが、どれ程肝が冷えたか知れない
「だって、サビド達を処罰するって言うんだもの。それにルシフェルにも酷い事を言って・・・一体何なのかしら?あの公爵様達は」
ヴィクトリアは腹立ちながらも、恋人だったと言われゾッとする
今ヴィクトリアを独身の高位貴族男性、特に公爵達が狙っているのだ
アルフレドが執着している所為もあり、既に婚約者が居るにも関わらず美しいヴィクトリアを自分も手に入れたいと考えている貴族達
何故ならヴィクトリアの婚約者が伯爵子息だからで、その為にルシフェルはその身分でどれ程悔しい思いをしているか知れない
ただこればかりは仕方がない事なのだが、ルシフェルはその事でいつランドルの気が変わり、婚約を解消すると言い出さないかと不安を抱いている
(それにしても、あんなに堂々とヴィクトリアに婚約を申し込むなんて・・・)
彼等はルシフェルが居る事を承知の上で、ヴィクトリアに挑発にも似た婚約を申し込んだ
実際にランドル宛てに名立たる公爵家から、ヴィクトリアとの婚約を申し込む手紙が送られている
列車に乗り、予約しておいた貴族専用の部屋でヴィクトリアを抱きしめながら座るルシフェル
(今までも、どれだけ『お前にヴィクトリアは勿体無い!!』そう言われて来たか・・・)
自分に抱きしめられながら、嬉しそうに外を見ている美しい婚約者に(そんな事は、俺自身が一番判っている)ルシフェルは何度も胸を痛めて来た
(本当なら、ヴィクトリアに相応しい相手はアルフレドなのだろう・・・それでも)
ヴィクトリアを抱きしめる手に力が入る
(ヴィクトリアは俺を愛してくれているし、俺もあいつに渡す気なんかない)
ルシフェルにキスをされ、ヴィクトリアは彼に寄り添いながら
「・・・さっきの公爵様達は、一体何だったのかしら?私がルシフェルと婚約している事を知っていて、あんな事を言うなんて」
どういうつもりかしら?と不愉快な表情をするので、ルシフェルが
「俺の立場の所為だな。今のヴィクトリアには、伯爵子爵の俺では釣り合わないって思っているんだろう」
ギュッと愛する婚約者を抱きしめ「実際、その通りなんだけどな・・・」胸を痛めながら自嘲する
それを聞いてヴィクトリアは驚きながら「それは違うでしょう・・・私の方が、相応しくないのよ」そう言って彼の胸に顔を伏せる
(私は侯爵夫人になっても、きっとルシフェルの役には立てない。それに・・・心の病まで抱えている)
それでもルシフェルは自分を愛していると言ってくれた事が、ヴィクトリアにとってはどれ程嬉しかったか
「あの人達は何も判っていないのよ・・・ルシフェルがどんなに私を大事にしてくれているか」
その言葉にルシフェルは嬉しく思い、愛しい婚約者との二人の時間を満喫する
王都エルファレルの駅に着き、二台の馬車に乗り込んだ一向
ティアノーズの屋敷へと走りだす馬車の中、ヴィクトリアは疲れたのかルシフェルに寄り添って眠っている
自分の腕の中で、安心して眠っている愛しい彼女を見ながら
(ヴィクトリアは『私の方が、相応しくない』と言ったが、まだ二重人格の事を重荷に感じているんだろうな・・・)
可哀想にとルシフェルは優しく抱きしめる
一時間も掛からずに馬車はティアノーズの屋敷の正門で止まり、ヴィクトリアは護衛に就いてくれた傭兵二人にお礼を言う
「あまりお役に立てず、でしたが」
二人が恐縮するのでヴィクトリアは首を振り
「帰りの時に公爵様から護って下さったじゃないですか、ありがとうございました」
嬉しそうにお礼を言うと、傭兵二人は深刻な表情で
「助けられたのは我々ですよ。もし、あの公爵様が本気で我等を訴えたら、最悪、命が危なかった」
彼等は身を呈しいてヴィクトリア達を公爵達から逃がそうとしたが、あの時(自分達はここで終わりか?)と覚悟した・・・何分相手は公爵、こっちに非が無くとも処罰される事があるからだ
それでも護衛対象者を護るのが彼等の仕事だから死を覚悟で公爵達の前に立ちはだかったが、ヴィクトリアは見捨てず自分達を助け出してくれた
「感謝してます」
ウドロ達は深々と頭を下げる
オルテヴァールの殆どの貴族は、貴族以外の一般人や傭兵の命等気にしない
その為に貴族同士の紛争に巻き込まれた用心棒が、依頼主を護る為に取った行動で相手の貴族から不敬で訴えられても、依頼主は我れ関せずでその用心棒を擁護する事は無い
そして稀にだがその訴えで最悪、極刑の処分が下る事もある(※相手の貴族に大怪我を負わせた等)
だからウドロ達はヴィクトリア達を逃がした時、最悪の場合いの事を考え自分達はここで終わるのか?と覚悟したのだ
そんな貴族と傭兵の関係性等知らないヴィクトリアは、ウドロからの感謝がよく判らなかった
屋敷に入ると玄関ホールには使用人達一同、笑顔で出迎えてくれる
「お帰りなさいませ旦那様、ヴィクトリア様」
ドルフェスが頭を下げると「ただいま」と笑顔を向け、ヴィクトリアは疲れた様にそのまま自分の部屋へと向う
ルシフェルはドルフェスに「留守中、何か変わった事は無かった?」主らしい振る舞いで尋ねる
「特には。お二人が留守にされたので、申請が有りました使用人の研修生を、多く受け入れた位です」
ティアノーズに研修生として使用人達を送り込みたがる貴族が後を絶たない・・・ただその殆どが研修の為でなく、ヴィクトリアの事を探る為なので最近は受け入れていなかった
「あまりにも目に余るようなら、ティアノーズは研修の受け入れを取り止めても良いよ」
ルシフェルはそう告げると「絶対に研修生を、ヴィクトリアと俺達には近づけさせないでくれ」念を押して自室に向う
ルシフェルの言う俺達とは彼とランドルの事で、以前からもスパイの様な研修生が入って来ており、正直どうしたものかと思っていたが、主人の言葉にドルフェスも決心する
ヴィクトリアが自室の机に置かれている自分宛の手紙を確認しているとドアがノックされ、返事をするとドルフェスが深刻そうな顔をして入って来る
「先程、お渡し出来ませんでしたので。実は、アルメラーナ王女から手紙が届いております」
ヴィクトリアが驚いて「王女様から?」慌てて手紙の山の中を探すので
「無くされては大変なので、ずっと私が手元に置いておりました」
懐から取り出すと、恭しく両手で王女からの手紙を差し出すので、ヴィクトリアもドキドキしながら両手で手紙を受け取り
「一体何の手紙かしら・・?何かの間違いかしら?」
ペーパーナイフで丁寧に封を開け不安そうにその内容を読むので、ドルフェスはその場に留まる
国王であるジルゲイツの第二側妃の娘であるアルメラーナ第三王女は、オルテヴァール四大美女の一人でもある
手紙の内容は『今月の二十四日の十時に、王城にて雑誌での四大美女特集の撮影が行われる為に必ず登城する様に』という内容が書かれていた
(四大美女特集の撮影・・・)
「ええっ!!」
思わず驚いた声を上げるヴィクトリアに、ドルフェスが不安げに
「い、如何なされました?王女様は何と手紙に書かれておいでです?」
一国の王女からの手紙にドルフェスはランドルに一応相談し、ランドルも眉を潜め手紙の内容を聞き出して報告しろと命じた
「二十四日って二日後よね・・・その日に雑誌の四大美女特集の撮影を王城でするんですって・・・」
困った様にドルフェスに教えると、ドルフェスはホッとし「それだけですか?他に何か書かれていませんか?」一応確認すると、ヴィクトリアはまだ最後まで読んでいないので読み進める
「うーん、撮影の服装は自前でって事は、着て来た服で撮影って事で良いのかしら?どういう服装が相応しいかは・・・書いてないわね。どうしよう・・・?」
不安そうにドルフェスに目を向ける
「・・・やはり撮影ですから、ドレスアップして行かれた方が宜しいでしょうね」
ドルフェスが答えると、そこへお茶を用意したアメニが入って来て「ドルフェス様、どうかしたのですか?」彼がヴィクトリアの部屋に居たので驚いて尋ねる
「二日後にね、四大美女の撮影が行われるんだって・・・嫌だわ・・・」
深い溜息を吐くヴィクトリアは目立つ事が嫌いなので、出来るだけ目立たない様にと本人なりに無駄な足掻きの努力をしてきた
それなのに四大美女特集で雑誌に自分達の写真が載れば、他の三人が注目される為に嫌でも目立ってしまうと・・・彼女自身が注目されているのに、そう考え憂鬱になる
「断る事は出来ないかしら?一層の事、四大美女から外して欲しい・・・」
それが彼女の切実な願いなのだが
「そんなっ!!ヴィクトリア様のお美しさは本物です!!四大美女に相応しいです!!」
自分の主人の美しさに、絶対の自信があるアメニに「それは専属メイド贔屓って言うのかしら?大袈裟よ」笑うヴィクトリアに、ドルフェスもこうしてはいられないと
「急ぎ撮影用のドレスを、最高級のドレスを明日迄にご用意致します!!」
出て行くので、ヴィクトリアは慌てて「要らない!!そんなドレスなんか着たら、余計に目立つわ!!止めてっ」とドルフェスを止めるも、彼はさっさと行ってしまった
「・・・絶対着ないんだから」
ヴィクトリアは後で彼にドレスは要らないと伝えなければと思いながら、王女の手紙に溜め息を吐く
(確か、この方も四大美女の御一人なのね・・・アルメラーナ王女様、どんな方なのかしら?)
自分の国の王族を知らないのは不敬になるだろうと、ヴィクトリアは後でルシフェルに尋ねようと思ったら
「ヴィクトリア、どうした?」
彼女の部屋のドアが開いていたのでルシフェルは不審に思いそのまま入って来たので、アメニは慌ててルシフェルの分のお茶も入れると頭を下げ急ぎドアを閉めて出て行く
使用人達はヴィクトリアとルシフェルが二人きりで居る時は、出来るだけ邪魔しない様にと心掛けているのだ
ルシフェルがヴィクトリアを抱きしめるので
「アルメラーナ王女様から手紙が来てね、二日後に王城で雑誌の特集に、四大美女達の撮影をするって言うのよ」
ヴィクトリアは憂鬱な気持ちを慰めて貰おうと同じ様に彼に抱きつくが
「何だって?四大美女の撮影!?」
けれどルシフェルは思わずヴィクトリアを離し「そんな撮影をするのか?」青褪める
ルシフェルの表情にヴィクトリアは戸惑いながら「ええ・・・手紙にそう書いてあったので・・・」ヴィクトリアが頷くと(冗談じゃないぞ!!それはつまり、ヴィクトリアの写真が雑誌に載るって事だろう!?)ルシフェルは頭を抱える
(ヴィクトリアが雑誌によって晒される・・・何て企画を承諾したんだっ、馬鹿王女!!)
本人の承諾も無しにとルシフェルはとんでもなく不遜な言動を心の中で叫び「最悪だ・・・」と呟く
「ごめんなさい。ルシフェルが嫌がるのも判るし、私もこんな撮影受けたくないんだけど・・・」
その言葉にヴィクトリアも不本意だが、それでも王女の命令なのだから従うしかないと溜め息を吐く
ルシフェルもそれは判っているので「ヴィクトリアが謝る事は無いよ。ヴィクトリアだって嫌だろう?」彼女のベッドに座り膝に乗せると慰める様に抱きしめる
「ねえ、アルメラーナ王女様ってどんな方なの?」
ヴィクトリアが尋ねると、ルシフェルも首を傾げ
「俺は伯爵と言っても次男の立場だから、噂位しか知らないな。ランドルに明日にでも聞いてみたら」
そう言いながらも不快げに顔を顰め
「でも、評判は余り良くないな。我が侭で身勝手な馬鹿なのは確かだ」
(ヴィクトリアの承諾を得ずに、勝手に日時を決めて撮影に来いという辺り、相当ふざけた馬鹿なんだろうな)
かなりの不遜な言動で心の中で悪態吐くルシフェルに「そんな・・・自分の国の王女をそんな言い方・・・」不安げな眼差しを向け
「私・・・撮影の時、アルメラーナ王女様と、上手く付き合えたら良いんだけど、無理かしら?」
「無理だろうな。ヴィクトリアが嫌な目に遭うだけだから、なるべく距離を置いて接する方が良いだろう。下手に目を掛けれられると、厄介な事になる可能性の方が高い」
ルシフェルはヴィクトリアに言い聞かすように「良いな?絶対にあの王女とは距離を置くように。話の通じない馬鹿ほど、厄介な権力者は居ない」そう断言し、不安そうにしている彼女を慰めるようキスをする
二人で夕食を取りながら、ルシフェルは久しぶりにオルメイガを楽しんでいる
「ルシフェル、余り飲み過ぎないでね」
心配そうにヴィクトリアが言うと、ルシフェルは笑って頷き「ヴィクトリアも飲む?」と聞いてくるので、首を振り
「私は良いわ。余り美味しいと思わなかったし・・・」
ルシフェルの両親の前で醜態を晒し、ヴィクトリアは二度とアルコールの強いお酒は飲まないと誓った
(ルシフェルはお酒に強いのよね・・・お父様もそうだけど。そんなにお酒って美味しいかしら?)
シャンパンやワインは飲めるが、苦いビールやブランデーは苦手なヴィクトリア
(そうだわ、お義父様達にルシフェルの屋敷に来て貰う様、手紙を書かないと)
ヴィクトリアは既にルシフェルの屋敷で、また義父達と一緒に過ごしている自分達を想像をして楽しみにする
食事を終え、浴室に向うヴィクトリアをルシフェルは嬉しそうに抱きしめて来る
「ルシフェル、酔っ払ってるの?」
ヴィクトリアが困った様に聞くと「大丈夫、少しだけだから」そう言って彼女を抱き上げると浴室に向う
入浴を済ませベッドの中、ルシフェルはヴィクトリアを抱きしめながら最近言われ続けている言葉を思い出す
『お前にヴィクトリアは勿体無い』(うるさい)
『たかが伯爵子息のお前に、ヴィクトリアは相応しくない』(そんな事は判っている)
『ヴィクトリアを譲れ』(嫌だ)
『お前ではヴィクトリアを幸せには出来ない!!』
「あっ・・・」
ヴィクトリアが苦しそうに声をあげ、ルシフェルはハッと我に返りヴィクトリアを抱く力を緩める
「ごめん、痛かった?」
ルシフェルが申し訳なさそうに優しく頬に触れる
ヴィクトリアは首を振り「へいき・・・」彼の背中に回していた手にギュッと力を入れ抱きしめると
「ルシフェル・・・愛してる」
ルシフェルはその言葉に救われながら「俺も愛してる」愛しい婚約者に優しくキスをする
ベッドの中、ルシフェルに抱きしめられているヴィクトリアはずっと不安を抱いている事を思い切って聞いてみる
「ルシフェル・・・もしもルシフェルに、公爵から縁談の申し入れが来たら・・・やっぱり迷う?」
本当は迷わずに快諾するだろうと判っているヴィクトリアに、ルシフェルは驚いて起き上がりヴィクトリアを見る
不安そうにジッと自分を見る彼女に「迷う訳無いだろう」そう答えると、ヴィクトリアは「そうね・・・」背を向ける
(迷う訳無い・・・その通りよね)
でも違う答えが返って来る事を期待していた
ルシフェルは溜め息を吐き
「ヴィクトリア、俺はそんなに信用出来ない?公爵に目が眩んで、ヴィクトリアを裏切ると思っているのか?」
少し怒った口調のその言葉に、ヴィクトリアも起き上がり泣きそうにルシフェルに
「でも、相手は公爵だもの・・・もし、ルシフェルがそっちを選んでも・・・責められない」
オルテヴァールは爵位による権力第一主義の国で、それに加え政略結婚が当たり前の貴族社会
例え既に婚約者が居たとしても、更に良い条件の縁談が持ち上がれば簡単に婚約破棄し、相手を乗り換える事は珍しくない
「俺はヴィクトリアを裏切らないよ」
そう告げると愛する婚約者の頬に触れ「ヴィクトリアより、俺の方が不安だ」ギュッと彼女を抱きしめ
「ヴィクトリアが、他の男を好きになるんじゃないかといつもどれだけ不安に思っているか」
辛そうに言う彼に驚くヴィクトリア
「ヴィクトリアに言い寄って来る男達に、もしヴィクトリアの気持ちが揺らいで、俺を裏切るかもと思ったら・・・気が気でない」
「そんな事、裏切ったりなんかしないわ。私はルシフェルが好きだもの」
そう訴えるとルシフェルは笑って「絶対?俺以外の男を好きになったりしない?」愛する婚約者に迫る
「絶対に・・・私はルシフェルが大好きだから・・・」
ヴィクトリアがそう断言すると、彼にキスをされ押し倒される
「ヴィクトリアは何の為に愛し合ってるか、判っていないな」
ルシフェルは覆い被さりながら、ヴィクトリアを愛おしいそうに見つめる
「絶対に、ヴィクトリアと別れない為だ」
そう言って彼女を抱きしめ、ヴィクトリアはルシフェルの言葉に安心しながら彼の愛を受け入れる




