60話 母の裁縫道具と悪女
ホルグヴィッツの別荘に来て三日目の朝、ルシフェルが目を覚ますと愛しい婚約者が自分に寄り添い幸せそうに眠っている
(相変わらず可愛い・・・)
優しく彼女を抱きしめ(やっぱりヴィクトリアが傍に居てくれると、安心するな)彼女の温もりに幸せを感じているとコンコンとドアがノックされ「ヴィクトリア様、アメニです。お起きになっておられますか?」部屋に入って声を掛けて来る
仕方なくルシフェルは起き上がり、眠っているヴィクトリアを起こす
「アメニが来たよ」
起されたヴィクトリアはまだ眠たそうにしているので、彼女にキスをしルシフェルは寝室を出る
寝室からルシフェルが出て来たのでアメニは飛び跳ねる程驚き
「だ、旦那様、居られたのですか!?申し訳ありません!!その、ヴィクトリア様だけかと思いまして・・・失礼しました」
顔を真っ赤にしながらどうしようと焦る彼女に「ヴィクトリアは起こしておいたから、入って構わないよ」優しく笑い掛け部屋を出て行く
丁度そこにサビドがルシフェルの為に洗面用のお湯をワゴンに乗せて彼の部屋を叩こうとしていて、ヴィクトリアの部屋から出て来た主人に気付き、気まずそうに頭を下げる
ヴィクトリアはルシフェルに起こされ、眠たそうにベッドから起き上がりアメニが持って来てくれたお湯で顔を洗う
「あの・・・申し訳ありません。まさかお二人が一緒に寝ていると思っていませんでしたので・・・その・・」
邪魔をしてしまったのでは?とアメニが謝るので「大丈夫よ、気にしないで」ヴィクトリアは着替えを手伝って貰いながら
(謝らなければいけないのは、私の方なのよね・・・)
祖母にお互いの部屋で寝る様にと言われていたのだから
(でも・・・ルシフェルが居てくれないと寂しい・・・昨日はルシフェルが傍に居てくれたから安心して眠れたもの)
ヴィクトリアが身支度を終え、ルシフェルの部屋をノックするとすぐにドアが開き
「やっぱり、ヴィクトリアが傍に居てくれると安心する」
ルシフェルは部屋に招き入れ彼女にキスをすると抱きかかえベッドに寝かせ「今日は俺のベッドで寝る?」彼女に覆いかぶさりながら確認するので、ヴィクトリアは恥ずかしそうに
「そ・・それは良いんだけど・・・お祖母様にお許しを貰わないと・・・」
真面目なヴィクトリアは、祖母に婚約中でもそれぞれの部屋で寝る様に言われていたので怒られるのでは?と思っている
ルシフェルは笑って「俺が怒られるから、ヴィクトリアは心配しなくて良いよ」起き上がるとヴィクトリアをベッドから立たせる
「それは駄目よ。ルシフェルだけが悪いんじゃないもの。一緒に謝るわ」
そう言うとルシフェルに抱きつき「一緒に寝てくれると安心するのは、私も同じだから」甘える様にそう言うので
「今日は愛し合おうか」
嬉しそうにルシフェルも抱きし返すが「あ、それは駄目」彼から離れて拒否する
(流石に人の別荘でそんな事出来ない・・・)
ヴィクトリアは恥ずかしそうに部屋を出て、食堂へと向うので
(まあ、明日までの我慢だからな)
ルシフェルもヴィクトリアが嫌がる気持ちも判るので、無理強いはしない
食堂にはまだ祖母の姿は無く、給仕のメイドが「お二人が来られたらお呼びする事になっておりますので、もうすぐ来られます」そう告げお茶を用意してくれる
二人は先に席に着きお茶を飲んでいると祖母が現れる
「お祖母様、おはようございます」
「おはようございます」
席を立ち挨拶するヴィクトリとルシフェルだが、爽やかに笑って挨拶をする彼のその笑顔にメイド達はキュンッとなりながら朝食の用意をする
「おはよう」
祖母も二人に挨拶を返し「私は今日は特に何もする事がないのだけれど、ヴィクトリアは暇な時は何をしているのかしら?」そう尋ね、ヴィクトリアは考えながら
「そうですね、何も予定が無い時は手紙を読んだり、返事を書いたりしています。後は招待状の選別や、街に出掛けたりしています」
それを聞いて祖母は「今時の若い娘は、そうやって暇な時間を過ごしているのね」成る程と頷くので「お祖母様はどう過ごされているのですか?」今度はヴィクトリアが聞いてみる
「私は読書をしたり、あとは刺繍ね。何もしないでただ外の景色を見たり、庭を散歩したりしてのんびり過ごすわね」
「・・・お母様もそうやって過ごしていたのでしょうか?読書や刺繍をしていたのかしら?」
「そうね、刺繍をしている姿をよく見ていたわ・・・そうだわ、貴方の部屋のクローゼットの引き出しに、確かそのままあの娘の刺繍道具があったと思うわ」
祖母が思い出すとそれを聞いて思わずヴィクトリアは椅子から立ち上がるので
「ヴィクトリア、食事を済ませてからにしないと」
食事中に席を立つのは無作法なのでルシフェルが窘め「ご、ごめんなさい」ヴィクトリアは恥ずかしそうに座るが、すでに頭は母の刺繍道具の事でいっぱいで食事処ではない
(お母様の刺繍道具・・・お母様の物・・・)
母の遺品である刺繍道具だ、ヴィクトリアは居ても立ってもいられなかった
そんな孫を見て祖母は不憫に思う
(何かあの娘の形見の物を、ヴィクトリアに渡すべきよね・・・)
母親が亡き娘を悼むのは当然だが、娘が亡き母を恋しがるのも当然なのだから・・・娘の形見を自分だけが大事に持っている訳にはいかないと
「ヴィクトリア、今度私の屋敷に遊びに来た時にあの娘の形見の品を用意しておくわ。貴方が欲しい物を分けてあげます」
祖母のその言葉に、自分を気遣ってくれているとヴィクトリアは嬉しく「ありがとうございます、すぐにでも伺います」そうに答えるのでにルシフェルが慌てる
「ヴィクトリア、一人での遠出は駄目だ」
「大丈夫よ、お祖母様の屋敷はカサドラに在るの。馬車で二時間も掛からないのでしょう?だから一人で行っても良いでしょう?」
訴え掛ける目で自分を見る愛しい婚約者に「・・・一応、アメニとサビドを連れて行くように」渋々譲歩する
(束縛しては駄目なのは判っている・・・だが、ヴィクトリアは判っていない!!馬車での移動距離が問題なんじゃない。ヴィクトリアを一人で何処かに行かせるのが、堪らなく心配なんだ)
けれど、たかが祖母の屋敷に遊びに行くのすら反対すればヴィクトリアはがっかりする処か、自分に対して嫌な感情を抱くだろう・・・それが判っているから仕方なくアメニ達を同行させる事で許した
(束縛しては駄目なのは判っている・・・自分でも情けないと思う)
判ってはいるが、目の前の美しい、色気のある最愛の婚約者を自由にさせられる程寛大な器を持ち合わせていないし、何より自分の居ない場所でヴィクトリアに何か遭ったらと考えると心配で堪らない
「判ったわ、二人を連れて行けば良いのね」
嬉しそうに無邪気に頷くヴィクトリアに、丁度近くで電球の交換を頼まれ脚立に乗って作業していたサビドは二人の会話が聞え(えっ?どうして俺まで・・・・?)心の中で突っ込んでしまう
ヴィクトリアはこれから頻繁に祖母の屋敷へと訪れるだろうと考え、いちいち女騎士を呼ぶより使用人のサビドを共につける方が良いだろうとのルシフェルの配慮だ
朝食を終えると急ぎ自分の部屋へと向うヴィクトリアと、その後をゆっくりついて行くルシフェル
クローゼットの下の段にある引き出しには、確かに高価な造りの刺繍箱が仕舞ってあり
(これがお母様の・・・)
急ぎその箱を取り出すと思わずギュッと抱きしめ、ドキドキしながら箱を開ける
刺繍道具が一式と、刺繍がやり掛けのままになっているハンカチと、練習の為か随分と拙い縫い方がされた布が入っていた
「見つけたんだな」
ルシフェルが部屋に入って来て刺繍箱を覗き見る
「ええ、お祖母様が教えてくれなかったら気付かずにいたわ・・・」
クローゼットの下の引き出しは特に入れる物が無かったので、開ける事は無かったから
(色んな色の糸と赤色の針差し、お母様が使っていた・・・箱は二重になっているのね。下に縫い掛けのハンカチが入れてある・・・)
「これ・・・私が貰っても良いかしら?」
「さあ、お祖母様に聞いてみたら?駄目とは言わないと思うけど」
二人は刺繍箱を持って祖母の部屋に訪れ、刺繍箱を貰っても良いか尋ねると祖母は頷き
「それは構わないわ。ヴィクトリア、貴方は刺繍は得意なのかしら?」
そう聞いて来るのでルシフェルが嬉しそうに「以前、刺繍をしたハンカチをプレゼントしてくれました。なかなか上手でしたよ」そう褒めるとヴィクトリアは恥ずかしそうに「あまり上手くないんですけど、これから練習します」と答える
実際ヴィクトリアが悪女ヴィクトリアと代わる十歳まで、屋敷で侯爵令嬢の教育として真面目に読み書き、計算、ダンスにマナー等の行儀作法をきちんと受けていた
刺繍も母がしているのを見て遣りたがり、教えて貰っていたのだが・・・残念な事にヴィクトリアはその記憶を忘れている
「それなら、もし良ければ今から一緒に刺繍を始める?代々伝えられて来た、ホルグヴィッツ流の刺繍のやり方を教えてあげるわよ」
ホルグヴィッツ流の刺繍のやり方など無いが、祖母は冗談でそう笑うと「はい、是非教えて下さい!!」真面目なヴィクトリアは嬉しそうに喜ぶ
二人が楽しそうに刺繍を始めるので、ルシフェルは別荘にある書斎に向う
書斎と言ってもホルグヴィッツの親族達が、自宅で邪魔になった書物を倉庫代わりに置いているだけ
(まあ、あまり期待はしてないけど・・・)
ルシフェルは暇潰しになればと興味がありそうな本を探す
ヴィクトリアは祖母と刺繍をする為に、母が好んで刺繍の参考にしていた花の写真の本も見せて貰う
「お母様はこの本を参考に刺繍をしていたんですね・・・色んな花の写真が載っている」
「あの娘は花全般が好きだったわね。別荘の庭に咲いている花を静かに眺めていたわ・・・」
ヴィクトリアは花の写真から、可愛らしい花ブルースターを刺繍する事に
嬉しそうに刺繍をしている孫と同じ時間を過ごしているその幸せを噛み締めるアーシュトリアは、何とも言えない穏やかな気持ちを抱く・・・だからこそ不安もある
「ヴィクトリア、貴方は不安になったりしないの?自分の記憶が戻り、その・・以前の性格に戻るかもしれない事に」
そんな筈はないだろう事は判っているが、孫達二人がとても愛し合っているからこそ祖母としてとても心配で堪らない
出来ればこのまま記憶が戻らずに、今のヴィクトリのままで居て欲しいと切実に願っている
祖母は自分が二重人格者である事を知らず、秘密にしているのでドキンッと心を痛めるヴィクトリア
(どうしよう・・・話した方が良い?でも、孫が二重人格者だなんて知ったら・・・お祖母様を悲しませてしまう)
最悪、気持ち悪いと嫌われたらと思うとヴィクトリアは怖くて言えない
(あの悪女を、私が生み出したと知ったら・・・軽蔑される・・・)
母が亡くなって以来父に構って貰えずにずっと孤独で居た幼いヴィクトリアは、その孤独に耐えられずに自分とは正反対の悪女ヴィクトリアを作り出してしまったのだから
黙ってしまう孫に祖母は残酷な事を聞いてしまったと
「ごめんなさい・・・酷い事を聞いてしまったわね。不安に決まっているだろうに」
それでも孫達二人は前を見て、今を幸せに生きているのだと思うと祖母は(強い子達だわ)と誇りに思う
「・・・もし、記憶が戻っても、私はお父様やお祖母様、ルシフェルや友人達の優しさに改心して・・・悪女に戻ったりしませんから、大丈夫です」
(そう、絶対にあの悪女に身体を明け渡したりしない)
根拠の無い断言だが、少しでも祖母を安心させる為、また自身に言い聞かせるヴィクトリア
祖母との刺繍の時間はとても穏やかで楽しく、あっという間に昼過ぎになり、ルシフェルと三人で昼食を食べながらヴィクトリアはルシフェルに何をしていたのか尋ねる
「書斎で本を読んでいた」
ルシフェルがそう答えるとアーシュトリアは「気に入った本があればお貸しするので、持って帰って構いませんよ。それと・・・」
アーシュトリアは今朝、ルシフェルがヴィクトリアの部屋から出て来た事を知っている
(言い付けを守らなかったのね)
正直ふしだらなと思うよりは最近の若者はこんなものなのかと呆れたが、ただ同じベッドで一緒に眠っただけだった様なので、一応節度はあるのかと安堵した・・・けれど今日は二人に釘を差しておくべきか?と考えていた
祖母として、孫のヴィクトリアが婚約者の頼みを断れないで彼の望むままに受け入れているのでは?と心配しているのだ
勿論アーシュトリアもルシフェルの誠実さは判ったが、何分婚約だけでまだ婚礼の儀も決まっていない二人を同じ部屋に寝かせる訳にはいかないと思っている
「ヴィクトリア、貴方はもう十九歳の大人で、行動に責任が伴います。万が一、婚姻の儀を行う前に妊娠なんて事になったら、困るのは貴方なのよ」
そう窘めると驚くヴィクトリア
ヴィクトリアには今までそういう事をはっきりと窘めてくれる人が居なかった・・・父ランドルはルシフェルには節度を守る様にと言っているが、ヴィクトリアには何も言わなかったから
自分を心配してくれる祖母を不安そうに見るヴィクトリアを気にしながら「それについては気を付けています」ルシフェルがそう口を挟むと「それはそうでしょう」祖母は厳しい目で
「それでも万が一が遭った場合は、傷つくのは女のヴィクトリアなのです」
どうしてなのか婚礼の式を行う前に犯した不名誉な出来事は、大抵男性でなく、女性が非難される・・・その事を年長者であるアーシュトリアはよく判っている
「貴方達は若いから情熱の方が強く、お互いを求めるあまりに暴走してしまう可能性だってあるでしょう。ですがヴィクトリア、貴方は侯爵令嬢としての自覚を持ち、そういう事は慎みなさい」
祖母に慎みを説かれ、ヴィクトリアは恥ずかしそうに頷き、そんな婚約者を見てルシフェルは不安を抱く
(もしかして屋敷に戻ったら、寝室を別にすると言い出すんじゃないだろうな・・・)
愛し合う事も拒まれたら・・・それを考えるとルシフェルは心が張り裂けそうにざわつく
ルシフェルにとってはヴィクトリアと愛し合う事で、彼女の愛を確認しアルフレドや他の男達の不安や嫉妬を解消して来たのだから
ヴィクトリアは祖母に「お祖母様の言う通りです。もう少し、侯爵令嬢として相応しく、慎みを持って行動致します」恥ずかしそうにそう約束する
「ヴィクトリア・・・」
不安そうにルシフェルは彼女を見ているのだが、ヴィクトリアはニッコリと彼に笑い掛けるだけだった
(その笑顔はなんだ?・・・一緒には寝ないっていう意味じゃないだろう?)
ニッコリと笑っている孫と、それとは対照的に青褪めている婚約者を見て
(やっぱりヴィクトリアは彼に気を遣って、望まないままに受け入れていたのかも知れないわね・・・可哀想に)
アーシュトリアは窘めて良かったと思う
夕方近くになりヴィクトリアとルシフェルは、ボートに乗りに行く為に馬車に乗りこむ
ストラロ湖からの夕日をボートに乗って見るデートなので、用心棒は連れて行かなかった
「・・・ヴィクトリア、さっきのお祖母様の話だが・・・まさかこれからは一緒に寝ないなんて、言い出さないよな?」
ルシフェルはヴィクトリアを抱きしめながら不安そうに聞くと「まさか」と笑うヴィクトリア
「でも、今日はお互いの部屋で寝る事になるわね」
寂しそうに溜め息を吐くと「・・・愛し合う事も、するだろう?」不安そうに愛する婚約者に確認するルシフェルに、ヴィクトリアは「もちろん」とにっこりと笑って安心させる
「よかった」
ルシフェルはホッと愛する婚約者をギュッと抱きしめるが、ヴィクトリアも判っている・・・ルシフェルが自分を求めてくるのは、愛してくれているのは勿論だが、不安を解消する為だという事を
だからその不安をルシフェルを受け入れる事で安心させ、払拭してあげたい
「でも、お祖母様の言う慎みを持てって、具体的にどうすれば良いのかしら?」
ヴィクトリアはそれが判らずに悩むので「えっ!?」と驚くルシフェルは(まさか、お祖母様が何を言おうとしてるか判ってなかったのか!?)戸惑う
「愛し合う事以外によ。例えば慎ましやかにするとか・・・上品に振舞うとか、そういう事よ」
恥ずかしそうに顔を赤くする婚約者に(可愛い)と抱きしめ、ボート小屋に着くまで別荘では人目を気にしてあまり出来なかったキスを堪能する
貸しボートの小屋に着くとボートを借りて漕ぎ出すが、すでに夕日が湖に映り赤く染まっていた
「きれい・・・」
ヴィクトリア達以外にも数十台のボートが浮かんでいて、殆どがカップルだ
ヴィクトリアは周りの愛し合っているだろう婚約者達や恋人達を見ながら
「私達、婚約者だけど・・・その、こ、恋人関係と同じよね?そう、見えるわよね?」
ヴィクトリアは恋人と言う関係にずっと憧れを抱いていて、お互いに思い遭っている二人の事を指すのだから、自分達も同じだと言いたかったのだ
「ヴィクトリア、恋人よりも婚約者の方がずっと親密だよ」
ルシフェルが笑い「婚約者は結婚する相手なんだから」その言葉にヴィクトリアは顔を赤くし
「そうよ、それは判ってるわ」
ただ一般では恋人になって愛を育み、上手くいけば婚約する・・・けれどヴィクトリア達は貴族では当たり前の政略結婚なので、婚約してから愛を育んでいる
「そうよね、婚約者の方がずっと・・・親密よね」
だから愛する婚約者と寝室を共にしているのだし、こうして泊まりの遠出でにも無理してでも一緒に来てくれている
「・・・恋人よりもずっと親密で、大切な存在だものね」
ヴィクトリアは愛する婚約者に笑い掛け、ルシフェルも笑い返す
そんなヴィクトリアの笑顔は、他のボートに乗っている男達をも魅了する
「ちょっと、ヴィクトリアばかり見てるんじゃないわよ」
相手の令嬢が不愉快そうにそう言うと「お前だって、チラチラ見てるじゃないか」彼氏が言い返す
「私は女だから、別に良いのよ。デレッとしながら見てるのが、腹が立つの!!」
そう言う彼女に「お前、本当は男の方を見てるんじゃないのか?嬉しそうに顔を赤くして」彼氏は鋭く指摘する
気の毒に、今日ボートに乗りに来た恋人や婚約者達はこんな感じで少し揉める事になる
ただ、ヴィクトリアが嬉しそうにルシフェルにオールの漕ぎ方を教えて貰っているのを見ると「・・・お前も漕いで見るか?」それぞれのボートで彼女にオールの漕ぎ方を教えだす
「ボートを漕ぐのって難しいのね。ルシフェルが簡単そうに漕いでるから」
「まあ、少し力は要るから」
ボートに乗りながら綺麗な夕日を堪能し、愛する人との幸せな時間を過ごす
「夕日、とても綺麗だった・・・」
馬車の中、相変わらずルシフェルに抱きしめられヴィクトリアが嬉しそうに「ルシフェルが一緒に来てくれなかったら、楽しめなかったわ。ありがとう」彼に寄り添い、幸せを感じる
ルシフェルも自分に寄り添ってくるそんな彼女が愛おしくて堪らない
別荘に戻ると祖母と三人で夕食を取り
「帰ったら、すぐにでもお祖母様のお屋敷に行っても良いですか?」
嬉しそうに尋ねる孫に、祖母も笑って頷く「ええ。エメルトリアの遺品も用意しておくわ」そう約束してくれた
祖母であるアーシュトリアもまた、ヴィクトリアがとても愛おしくなっている
だからこそ、いつか記憶が戻り我が侭な娘に戻ってしまうのでは?と心配する事にもなる
夕食での話題で長期休暇でルシフェルの両親に会った事を話す
「ルシフェルのお義母様がお菓子作りを趣味にしていて、私もクッキーは焼ける様になったの。お祖母様の所へ行く時に持って行くわ」
「そう、ルシフェルのご両親にも気に入られたの?それは良かったわ」
今のヴィクトリアなら当然だろうと安心する祖母に「ええ。両親はヴィクトリアに甘いので」笑うルシフェル
食事を終え、入浴を済ますとヴィクトリアはまたバルコニーに出て満点の星空を見る
(ステキ・・・本当にきれい・・・)
真っ暗な周りの中、満点の星空を見上げながら、ヴィクトリアはこの場所での星空がとても気に入り、以来ここに来る楽しみの一つになる
「ヴィクトリアは、星を見ていると夢中になるんだな」
背後から抱きしめられ、ヴィクトリアは反射的にビクッと身体を震わせる
「ここの星空はとても綺麗だから・・・気に入ったわ」
彼に抱きしめられながら、名残惜しそうに部屋の中へと入る
「今日はまた、一人寝の夜か・・・」
寂しそうに、ルシフェルがヴィクトリアを見つめるので「私も寂しい・・・でも、今日だけだから」明日からはまた一緒に寝れるとヴィクトリアが言うと
「明日からまた一緒に寝られるのは、本当に嬉しい。ヴィクトリアの事だから、お祖母様に言われてもう一緒に寝ないって言い出しそうで怖かった」
ルシフェルはギュッと、力を込めてヴィクトリアを抱きしめる
「ヴィクトリアに愛し合わないって拒絶されたら、心が張り裂ける程辛い」
そう言うとヴィクトリアをベッドに押し倒し覆い被さり
「理性が壊れそうで、自分でも押さえられるか判らない」
危機迫る感じでキスをし、それから首筋にキスをしたかと思うと舐めてくるのでヴィクトリアはゾクッとし
「ルシフェル!!ここでは駄目・・・」
ルシフェルがいつもと違う感じがして怖がるので、彼は起き上がってベッドに座る
「ごめん・・・ただ、ヴィクトリアは俺に抱かれるの・・・本当の所どうなのかと思って」
不安そうに婚約者を見る彼に、ヴィクトリアは(またルシフェルを不安にさせた?)ズキンッと胸を痛める
ルシフェルは、ヴィクトリアが自分の為に仕方なく抱かれているのかと不安に思ったのだ
「ルシフェルと愛し合うのは、嫌じゃないわ」
ルシフェルを抱きしめると「私はルシフェルが好きだから・・・それに答えたいだけだもの」そう言うと、愛する婚約者を見て優しく笑う
「そうか・・・」
ルシフェルも安心した様に笑顔を向け、今度はいつもの様に優しくキスをして少し二人の時間を楽しみ自分の部屋に戻る
ルシフェルが部屋に戻り、一人になったヴィクトリアはドキドキしながらベッドに入る
(さっきのルシフェルにはビックリした・・・)
一瞬、理性を失っているのかと思い怖かった
(怖かったのに・・・どうしてかしら?キュンッとなるなんて・・・変よね・・・?)
ヴィクトリアは自分の気持ちが判らず、そのまま眠りにつく
普段の優しい彼と違い少し強引な感じで迫られ、そのギャップにときめいたのだろうが、ヴィクトリアにはそれが判らなかった




