59話 母親の墓参りに行く悪女
目覚ましが鳴りヴィクトリアが目を覚ますと、見慣れない天井の景色に自分が今祖母の別荘に来ている事を認識する
自分だけしか居ないベッドに(ルシフェルが隣に居ないのは凄く寂しい・・・)
いつも彼の温もりを感じて起こして貰っているので堪らなく寂しく、恋しくなる
(お母様の夢を見るかもと思ったけど・・・見なかった)
この別荘に来たらもしかしたらと思ったが、母は夢に現れなかった
ドアがノックされ、ガチャと開くと「ヴィクトリア様、アメニです。お起きになってますか?」アメニが顔を洗う為のお湯を持って来てくれた
アメニに着替えを手伝って貰いヴィクトリアはすぐにルシフェルの部屋を訪れる
ルシフェルにはサビドが顔を洗うお湯を持って来ていて、ルシフェルが顔を洗うとすぐに部屋を出て行った
「おはよう」
ヴィクトリアが挨拶して部屋に入って来るとルシフェルは愛する婚約者を抱きしめ
「おはよう・・・その、昨日は少し酔ってしまったな」
決まり悪そうに苦笑いするのでヴィクトリアは「あんな風に甘えてくるルシフェルは珍しいものね」ルシフェルの腕にしがみ付き笑顔で
「酔っている時のルシフェルは、凄く甘えて来て可愛かったわ」
「・・・可愛いか。あまり嬉しくないけど、ヴィクトリアが怒ってなくて良かった」
飲み過ぎない様にと言われたが美味しくてつい飲み過ぎ、ヴィクトリアに醜態を晒してしまった
「別に酔っても怒らないけど」
ヴィクトリアはルシフェルに「他の女性には、あんな風に甘えたりしないでね」絶対よと、心配そうに忠告するのでルシフェルは「する訳無いだろう!?」何を言ってるんだ?と、ムッとすると
「だって、酔ってるルシフェルは見境無しに口説きそうなんだもの。誰にでも可愛い可愛いって・・・」
自分にも何度もそう言っていたので、かっこいいルシフェルに可愛いと甘えた様に言われたらキュンッとしない女性は居ないだろうと不安を抱くヴィクトリアに
「幾ら酔っ払っても、見境無く口説いたりしないけどね」
ルシフェルはそう言い切ると部屋を出て食堂に向い、ヴィクトリアはルシフェルが不機嫌になっていると感じ
「だって、ルシフェル・・普段はあんな風に甘えて来ないじゃない?愛してるとは言ってくれるけど、可愛いなんてあまり言ってくれないし、それにあんなにしつこくキスをして来ないから・・・いつもと違うから心配したの」
ヴィクトリアのその言葉に近くに居たホルグヴィッツのメイド達が驚き、顔を赤らめその場を去って行く
(思いっきり聞かれてるじゃないか!!)
ルシフェルは最悪だと思いながらも、ヴィクトリアに「だからって、他の女性を口説いたりはしないから」そう断言するとヴィクトリアは腕にしがみ付き
「私は酔って甘えて来るルシフェルも好きよ。だから飲み過ぎる時は、屋敷で飲んでいる時だけにしてね」
自分だけに甘えてと彼に寄り添い食堂に入って来るので、ホルグヴィッツの使用人達は客人二人のイチャイチャ振りに赤面しながら見ない様に給仕をし、祖母のアーシュトリアもあまりの二人の仲睦まじさにどう対応すれば良いか戸惑う
(最近の若い婚約者達は人の目を気にしないのかしら?・・・こっちが目のやり場に困るのだけれど・・・)
そう思っているとヴィクトリアはルシフェルから離れ「おはようございます、お祖母様」笑顔で挨拶をする
「おはようございます」
ルシフェルも爽やかに挨拶をし、そんな彼にメイド達がキュンッとなる
「おはよう」
アーシュトリアも笑顔で挨拶を返し(まあ、仲が良い事は良い事だものね)そう考え、三人は席に着く
朝食を取りながらアーシュトリアが
「ここから汽車で一時間程掛かるのだけれど、どうかしら?エメルトリアのお墓参りに二人を連れて行きたいのだけれど」
孫と一緒に娘の墓参りに行く事が願いでもあったのでそう尋ねる
悪女のヴィクトリアとは叶わなかったが今のヴィクトリアならと期待すると、ヴィクトリアはその提案に
「はい、是非!!私、お母様のお墓参りに一度行きたいと思っていたんです」
「・・・一度?まさかヴィクトリア・・・貴方、母親のお墓が何処にあるのかも知らないのではないでしょう?」
低い口調でそう尋ねるのでヴィクトリアは(どうしよう・・・一度も行っていないと知れば、お祖母様を悲しませてしまうかも・・・)不安になりながらも
「申し訳ありません・・・その、記憶を無くしてからまだ一度も行っていないんです」
記憶を無くしてからいろんな事が起こり過ぎて、またランドルとも禄に話をする機会も無くヴィクトリアは自分の事で精一杯だった
「ヴィクトリアは記憶を無くしてから常に忙しく、なかなか母親のお墓参りに行けなかったんです」
ルシフェルがそう庇うが忙しい日々を送っていたのは確かだ・・・けれどそれを理由に母親のお墓参りに一度も行っていないのは親不孝だっただろうとヴィクトリアは申し訳なく思う
「そう。記憶を無くして、貴方も大変だったのでしょう・・・」
アーシュトリアとしては、それでも何処にお墓があるか位は知っておいて欲しかったと少し残念に思うが、ヴィクトリアとしても同じ気持ちだ
朝食を終えるとヴィクトリア達三人と傭兵二人が墓参りに向う事になり、アメニとサビドにはゆっくりしていてと伝える
アウシュリー霊園墓地へと向う汽車の中で、祖母からホルグヴィッツの親戚の人達の話を聞く
「エメルトリアには兄と姉が居てね、二人とも結婚していて、貴方には三人の従兄弟が居るのよ」
それを聞いてヴィクトリアは自分に従姉妹が居るのだとドキドキするが、ルシフェルは(何故その三人が幼い時に、ヴィクトリアと遊んでくれなかった?)と恨めしく思う
「貴方の伯父になるバレルの息子、イスレルは二十七歳。伯母のマーリアの娘、アストリアは二十三歳で、息子のエドアは二十歳。是非三人にも会って欲しいわ」
祖母のその言葉にヴィクトリアは不安そうに頷く
(その人達は、私を受け入れてくれるかしら?)
ヴィクトリアは上位貴族にあまり良い印象が無いので、従兄弟の三人と仲良く出来るか不安を抱く
「幼少の頃、ヴィクトリアはいつも一人で母親とだけ一緒に居たんですよね?なぜその従兄弟と遊ばなかったんです?」
(もしその三人がヴィクトリアと仲良くしてくれていれば、一人ぼっちで過ごす事はなかっただろう)
恨みがましく思うルシフェルに、祖母は溜息を吐き
「エメルトリアが拒んだのよね・・・多分、公爵である従兄弟の子供と遊ばす事に。あの娘は常にヴィクトリアを傍に置き・・・誰とも遊ばせようとしなかったから」
(どうして・・・?)
祖母自身も、娘が頑なに誰とも交友したがらないのが不思議でならなかった
(お母様は私を誰とも遊ばせたくなかったの?・・・私が恥ずかしかったのかしら・・・?)
嫌な考えが浮かび、ズキンッとまた胸が痛むヴィクトリア
母にとって自分はどういう存在だったのか?それを知りたいが、怖くもある
(やっぱり私は・・・お母様にあまり愛されてはいなかったのかも)
ずっと小言を言われ続け、泣いていても抱きしめてくれなかった母に対し、それでもヴィクトリアは恋しく思う
汽車を降り、そこから馬車でアウシュリー霊園墓地へと向う一行
アウシュリー霊園墓地は高位貴族専用の墓地であり、馬車を降りると日傘を差しながらヴィクトリアはルシフェルに寄り添われ母の墓へと向う
「・・・貴方が記憶を無くしてから一度も墓参りをしていないのなら、貴方の父親も墓参りには行っていないのでしょうね?」
祖母がそう尋ねヴィクトリアは考えながら
「そうですね、お父様はいつも急がしくしていますから・・・私ともあまり話す機会がありませんから」
話す時間は朝食の僅かな時間だけだから・・・それを聞いてアーシュトリアは顔を顰める
「・・・そうですか」
(やはりあの男にとってヴィクトリアは、ただの跡継ぎの道具にしか過ぎないのでしょう。幸いな事に、婚約者のこの男性はヴィクトリアを大事にしているようだけど・・・結婚したら豹変した、なんて事にならなければ良いのだけれど)
祖母としては孫の婚約者の事も気になりルシフェルの事はホルグヴィッツの情報網ですでにティアノーズの屋敷に住んでいる事や、兄のアルガスター伯爵や田舎で隠居している両親の事も知っている
「一度もお母様のお墓参りに行かなかったのは、娘として薄情だったわよね」
幾ら忙しかったとはいえ母に申し訳なく思うヴィクトリア
「今までいろいろと忙しかったからな。俺の両親に会ったのだって、ついこの間だっただろう?」
「でも、もう一月以上になるのよね・・・お義母様が手紙でまた遊びにおいでって書いてくれているのよ」
「そんなに頻繁には会いに行ける距離じゃないからな」
「お義母様達の身体の負担にならないのなら、是非こっちにも遊びに来て欲しいって手紙を書いたのよ。まだ返事は来ないのだけど」
ヴィクトリアがそう話すと「はあ?」と驚くルシフェルだが
「まあ、俺が住んでいた屋敷に滞在させるのなら、構わないか・・・数名使用人に向こうへ行って貰って、両親の世話をして貰えば問題ないな」
「どうして?ティアノーズの屋敷に来て貰ったら良いじゃない」
ヴィクトリアが首を傾げるので「俺の両親が気を遣うからだ」当然だろう?とルシフェル
「・・・気を遣わせてしまうかしら」
「俺の屋敷だったら気を遣わないで済むし、好きに使ってくれて良いし、何だったら、俺達も両親が居てる間は向こうで過ごしても良いし」
ルシフェルがそう提案するとヴィクトリアは目を輝かせ
「それ、凄く楽しみだわ!!ルシフェルのお屋敷でお義母様達と一緒に過ごせるなんて、嬉しい!!」
愛する婚約者に抱きつくので、ルシフェルは右手で彼女の日傘を差してあげていた為に左手で彼女を抱き止め
「まあ、俺の両親が王都に来たらの話だから」
「そうね、ルシフェルがそう提案してくれたから是非来て下さいってお願いするわ」
待ち遠しいと喜ぶヴィクトリアに(可愛い・・・)ルシフェルは思わずキスしそうになるがアーシュトリアが見ているので我慢する
傭兵達は最早、勝手にしてろよと見ない様にしている
(本当に、仲が良いというか・・・)
アーシュトリアは二人の仲睦まじさに、見てるこっちが恥ずかしいと目のやり場に困る
エメルトリアの墓前まで来ると、アーシュトリアは傭兵から花を受け取りお墓に供える
「エメルトリア、ずっと念願だった貴方の娘と一緒にお墓参りが出来たわ。貴方も喜んでくれるでしょう?・・・別荘を訪れた時はこうして必ずお墓参りに来ているのよ」
そう孫に伝えると、ヴィクトリもルシフェルとお墓に花を供え
「お母様、ヴィクトリアです。漸くお墓参りに来れました・・・隣に居るのは私の婚約者のルシフェルです。いつも傍に居てくれて、優しくて、大切にしてくれます」
そう母のお墓に話し掛け「私も、お母様のお墓参りが出来て、良かったです。連れて来て下さって、ありがとうございます」祖母に感謝を伝える
(本当に、あの傲慢だった時とは別人だわ・・・記憶が戻ればどうなるのかしら?この二人にはその不安はないの?)
二重人格の事を知らないアーシュトリアはあまりにも仲睦まじくお互い愛し合っている二人に、彼女の方が心配で堪らない
(エメルトリア、この二人を護ってあげて頂戴。貴方のたった一人の、大切な娘なのだから・・・お願いよ)
祖母として、亡き娘に願わずには入られなかった
温かい優しい風を感じながら、ヴィクトリア達は来た道を戻って行く
アウシュリー霊園墓地付近の街は、お墓参りに訪れた貴族目当ての観光としても盛んだった
ヴィクトリアは祖母と楽しそうに雑貨や、小物等の店を覘く
「ヴィクトリアはこういう店を見るのが好きなの?」
生粋の公爵であるアーシュトリアは高級店にしかに入った事がないので
「はい。友人達とよくこういうお店で買い物をしたりしているので」
嬉しそうに答える孫に「そうなの?今時の高位令嬢達は、こういうお店を見たりしているのね」まさか孫の友人達が皆、伯爵以下の令嬢だと思っていない祖母は驚く・・・プライドの高い高位貴族の令嬢は、高級品にしか興味を持たないから
嬉しそうにお店を見て回るヴィクトリアを、周りの貴族達が当然だが視線を向ける
「ヴィクトリアだ。あの隣に居る夫人は誰だ?」「ヴィクトリアの母親か?でも確か、亡くなってるんじゃ・・・」「あそこに居るのアルガスターだろ?それならあいつの母親か!?」「それにしては少し・・・いや、大分歳がいってるな・・・」
美しいヴィクトリアに男性達だけでなく女性達も心躍りながら彼女を見つめる
分家とは言えホルグヴィッツ公爵家であるアーシュトリアは、貴婦人達には知られているが紳士子息にはそれ程面識が無い
自分達を好奇の目でジロジロと見られている事に気付くアーシュトリアは
(?何かしら・・?何故か視線を向けられている気がするのだけど)
周りを見回してみると、貴族や店の者までちらちらこちらを見ているので(なんなのかしら?無礼だわ)そう不愉快に思っていると、ルシフェルがヴィクトリアの傍に来て「ヴィクトリア、そろそろ何処かで昼食を取ろうか?」彼女の日傘を受け取りグイッと抱き寄せ
「ルシフェル?」
そんな婚約者に驚くヴィクトリアだが、すぐに貴族達が自分を見ている事に気付き顔を赤らめ、祖母はそんな孫を見て
(そう、皆ヴィクトリアを見ていたのね・・・それにしても、常にこんな視線を向けられているの?)
我が孫ながらその美貌と色気なら仕方がないかと納得する
アーシュトリアは贔屓にしている高級レストランに案内する
ヴィクトリアに向けられる周囲の視線を避ける為に個室にして、彼女の頼みで傭兵も同席させる
正直アーシュトリアは傭兵との同席などと顔を顰めたが「皆で食事をした方が楽しいので」ニッコリと笑う孫の頼みでは、我慢するしかない
傭兵達も気まずそうにヴィクトリアにマナーを教えて貰いながら食事を取る
「今度、ホルグヴィッツの親族が集まる時には是非二人にも来て欲しいわ」
祖母の誘いにヴィクトリアは少し戸惑う
「私達がですか・・・・」
(どうしよう?)
親族との関わりが全く無かった彼女にとっては、親戚に会う事は念願だったが相手が公爵なだけに不安もある
ルシフェルが「ありがとうございます。都合が付きましたら伺わせて貰います」当たり障りのない魔法の言葉で対応した
アーシュトリアは頷き「是非、ホルグヴィッツの親戚にも会わせたいの。貴方と歳の近い従兄弟達、三人にもね」そう言ってくれる
(従兄弟・・・・)
それを聞いてドキドキと心がざわつくヴィクトリア
「他にもね、親戚の中には貴方と歳が近い子息や令嬢達が居るのよ」
アーシュトリアは優しく「貴方もホルグヴィッツの血を引いているのだもの、気後れする事は無いのよ」そう言い聞かせる
(・・・お祖母様なりに、私に気を遣ってくれているのね)
その事が本当に嬉しく、笑顔で頷くヴィクトリア
その後も色々とホルグヴィッツ家の、主に従兄弟達の話を聞きながら楽しく昼食を取る
(本当はアシドの事を聞き出したい所だが、難しいな・・・)
ルシフェルはずっとその事を考え、機会を窺っていた
「・・・アーシュトリア夫人は、アシド・ホルグヴィッツ公の夜会でヴィクトリアを見ていたのですよね?自分は彼にあまり良い印象を持って貰えなかったのですが、貴方から見てあの公爵はどういう人物でしょうか?」
思い切って聞いてみるルシフェルに、アーシュトリアは
「貴方は孫の婚約者だもの、お祖母様で良いのよ。孫は皆そう呼んでいます」
婚約者の祖母にそう言われ(うっ・・・呼びにくい・・・)流石のルシフェルもたじろぐ
「アシドですか・・あまり親しい付き合いは無いのよ。ただティアノーズ・・貴方の父親とは交友があるみたいですね」
アーシュトリアはその為に、アシドに対しても良い印象を持っておらず言葉を選びながら
「正直、ホルグヴィッツの中でも異質な感じでしてね、あまり関わりがないのよ。ただ、当主であるホーエンハイムと何かしら因縁があるみたいで・・・まあ、実弟だからでしょうけど、当主は彼を特別扱いしていると聞いた事があります」
(当主があの男を特別扱いしている?それはあいつが円卓の一人だからか?)
出来ればアシドの弱みが知れたらと思ったが、流石に甘かったと残念に思うルシフェル
昼食を終えアルスラードまで戻ると、ヴィクトリアは昨日店の散策が出来なかったので「お祖母様、ここのお店も見て回りましょう」嬉しそうに誘ったが祖母は
「そうしたいのだけど、私は疲れたわ。先に別荘へと戻っているから貴方達二人で見て回りなさい」
そう優しく告げて馬車乗り場の方へ向うので、ヴィクトリアは祖母を労わる様に寄り添い「ごめんなさい、お祖母様の身体の事を考えていなかったわ」申し訳なさそうに謝る
自分に寄り添ってくれる優しい孫にアーシュトリアは嬉しく思い
「私の事は気にしなくて良いのよ。折角だから婚約者とゆっくりお店を見て来なさい」
「いいの、お店は帰りに時間があれば見て回るわ。今はお祖母様と一緒に居る方が大事だもの」
ヴィクトリアは観光よりも祖母と一緒に別荘へと帰る事にする
ホルグヴィッツの別荘に帰って来ると、執事とメイド達と一緒にアメニとサビドも出迎える
「お帰りなさいませ」
メイド達が頭を下げるとヴィクトリアは優しく微笑みながら「ただいま」と返すので、彼女達は驚く
オルテヴァールでは主人は使用人とは親しく話たりせず、挨拶されても返事を返さないのが当たり前だからだ
ルシフェルだってヴィクトリアに倣っているだけで、ティアノーズの屋敷に来る前は使用人達に対し親しく接していない
ヴィクトリアはアメニに「今日はゆっくり出来た?」と尋ねると、アメニはにこやかに
「はい、色々とここでの仕事を教えて貰いました」
「私の部屋で寛いでいて良かったのよ?貴方はここのメイドではないのだから」
ヴィクトリアは行きしなにそう伝えておけば良かったと思っていると「いいえ、何かしていた方が落ち着くので」アメニはそう答える
サビドもまた力仕事を任せられたりして、ここのメイド達から重宝されていた
ヴィクトリア達は応接までゆっくりとお茶を飲みながら、夕食までの時間を過ごす
「お祖母様、お疲れになったでしょう?大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。今日は本当に楽しかったわ」
孫が心配そうに聞いて来るので、アーシュトリアはニッコリと嬉しそうに笑い
「それにしても、ヴィクトリアは・・何て言うか、とても注目されているのね・・・驚いたわ」
(その美貌の所為だろうけれど、どうしても目がこの子を追ってしまうもの・・・)
これでは何処へ行っても大変だろうと心配する
「ええ・・・初めは悪女として見られていたのですが、今は何て言うか・・・色々な噂が流れているみたいで・・・それで皆、好奇心で見て来るみたいです」
ヴィクトリアは深い溜め息を吐くと(いや、ただ単にヴィクトリアのその美貌と色気だろう・・・)ルシフェルも溜め息を吐く
今やヴィクトリアは、貴族の間(特に伯爵以下の令嬢達)からアイドル的な存在となっている事を、当の本人は全く知らない、気付いていない
だからこそ常に夜会やお茶会で、憧れの推しアイドルに接近するかの様に彼女達は挙ってヴィクトリアに話し掛けて来る
そしてヴィクトリアはファンサービスの様に、にこやかに挨拶を返す
ヴィクトリアの噂と聞いて、アーシュトリアは幾つか気になるものがある
(アルフレド・ウェンヴィッツ公爵が、ヴィクトリアに執着していると聞いたけれど・・・本当にそうなのかしら?)
ウェンヴィッツと言えば公爵の中でも一、二を争う権力を持ち、王の信頼も厚いと評されている
そのアルフレドは適齢にも拘らず今だ独身で婚約者も居らず、浮いた噂も無い(ヴィクトリアは別にして)
ただ、ホルグヴィッツの情報網で彼が屋敷に一人、若い令嬢を囲っている事は知っている
その令嬢が何者なのかまでは知らないのだが、身分は低いのでは?と推測されている
ヴィクトリアとルシフェルが二人寄り添いながら仲良くお茶を飲んでいる様子を見つめ(アルフレド公爵との事は、ただの根も葉もない噂ね・・・)そう思い安心する
夕食を終えヴィクトリアは入浴を済ますと自室に戻り、バルコニーに出て外の景色を見る
(ここは誰も居ないから安心して静かに夜空が見える)
ルシフェルの両親の屋敷では人の目を気にしながらだったが、ここではそんな事を気にせず満点の星空を眺める事が出来る
(綺麗・・・ここは王都やコッコス村とは違って遠くまで真っ暗だから、より綺麗に見えるのね)
コッコス村では家の明かりがあって真っ暗ではなかった
(こんなに綺麗な星空だったら、ずっと見ていられる)
嬉しそうに眺めていると「星を見ていたのか」突然声がしてビクッとなるヴィクトリアを後ろからルシフェルが抱きしめる
「ビックリした・・・」
急に声がしたので心臓が飛び跳ねたヴィクトリアに、ルシフェルは笑って「ノックはしたよ」そう言うと彼女の髪をかき上げ、首筋にキスをする
自分に甘え身体を触ってくるので、ルシフェルに「今日も酔ってるの?」と尋ねると彼は笑って「大丈夫、少しだけだから」とキスをしてくる
(流石に外では・・・)
そう思いヴィクトリアはルシフェルから離れて部屋に入る
ルシフェルも後を追う様に部屋の中に入りベッドに座ると「後、二日・・・長いな」項垂れる様に溜め息を吐く
ヴィクトリアはそんな婚約者の膝に乗り「私も寂しい・・・」甘える様に抱きつく
朝、目が覚めてルシフェルが居ないのはとても寂しく感じる
ヴィクトリアのその言葉に「じゃあ、このまま寝ようか」ベッドの中に入ろうとするので、ヴィクトリアは(どうしよう・・・)と考える
「俺が怒られるから、ヴィクトリアは心配しなくいいよ」
そう言うと「おいで」と、ヴィクトリアをベッドの中へと誘うのだが、ヴィクトリアは(いくら寂しいからって、やっぱり一緒に寝るのは駄目かしら・・・)真面目なので躊躇する
(二日間だけなんだし・・・我慢した方が良いのよね・・・)
「寂しいけど、後二日間・・・我慢して」
申し訳なさそうにそう告げるとルシフェルは溜め息を吐き
「ヴィクトリアは俺が居なくても平気だもんな」
恨めしげな目を向けるので「平気じゃないけど、お祖母様が・・・」ヴィクトリアはルシフェルが怒ってしまっただろうか?不安になりながら立ち竦むが、ルシフェルはそのまま横になってしまう
「俺は平気じゃないから、ヴィクトリアと一緒に寝る」
そう断言し、ヴィクトリアに「諦めて、おいで」ともう一度誘ってくる
ヴィクトリアは溜め息を吐き(明日、お祖母様に呆れられてしまうわね・・・ふしだらだと思われるかしら・・・)そう思いながらベッドの中に入る
ルシフェルは嬉しそうにヴィクトリアを抱きしめ「やっぱりこうしてヴィクトリアを抱きしめていないと、安心して眠れない」ギュッと彼女の温もりと匂いを感じる
「私も、ルシフェルが傍に居てくれると安心する」
昨日の寂しさを思い出し、ルシフェルの胸に顔を埋めそのまま安心して眠りに就く
結局この二人、一人寝は一晩しか持たなかった




