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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
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 58話 悪女の祖母の悔恨

エメルトリアの父親はまだ彼女が誰とも婚約していない時に亡くなり、それが彼女の運命を大きく変えてしまった

父親が亡くなると兄がその屋敷の主人となり(※分家なので、本家から任せられ管理している敷地内を継ぐ)ランドルはホルグヴィッツと親戚関係を築く為、その兄を説得してエメルトリアとの婚約を取り付けその一年後に結婚した・・・膨大な金額の結納金を兄に渡して


(本当に、あの娘の人生は何だったのだろう・・・未だに悔やまれてならない)

母であるアーシュトリアにしてみれば娘が公爵から侯爵に格下げになり、それでも幸せな結婚生活なら良かったが、夫のランドルとは上手くいっていない処か授かった一人娘の事で心無い噂まで流れる始末


毎年訪れる実家の別荘で、いつも幼い孫とたった二人だけで過ごす不憫な娘

(挙句に僅か二十八歳という若さで夏風邪を拗らせ、呆気無く亡くなるなんて・・・)

正直、アーシュトリアは母としてランドルをどれ程に怨んだか知れない

だからエメルトリアの葬儀が終わった後に、泣きじゃくるヴィクトリアを抱きしめ慰める事もせず、ただジッと自分の妻の墓の前で佇むランドルに

『ヴィクトリアは私が引き取りましょう。貴方はまだ若いのだから、再婚して新たに家族を作ればいい』

恨みがましくそう提案すると、ランドルは怒り

『ヴィクトリアは私の子供だ。貴方に渡すつもりは無い』

そう言って泣きじゃくるヴィクトリアの手を引いて行ってしまい、それから疎遠になる


(あの男はヴィクトリアを邪魔な存在にしか見ていないと思っていた。喜んで私に渡すと思っていたのに・・・)

孫の引き取りを断られアーシュトリアは意外に思い、後にランドルが娘を禄に教育していない事を知ると怒りが募った

(大切な、哀れな娘の忘れ形見である孫を、傍若無人な我が侭放題に育てたランドルに苦言を呈しても、あの男は一向にヴィクトリアを躾けない)

あまりのヴィクトリアの素行の悪さに辟易し、自らも祖母の責務として本人に苦言を呈した


『私に公爵のお祖母様が居たの?でも、今更祖母だと言われてもね。私は私の好きにするわ』

侯爵令嬢の孫は、分家とはいえ公爵家の祖母に対し不躾な態度を取る

『今後、ホルグヴィッツとティアノーズは、娘のエメルトリアが亡くなった事で、親戚としての繋がりを断ちます。以後、私達は赤の他人です!!』

アーシュトリアは怒りに任せ、感情的にランドルにそう絶縁を告げてしまう


ティアノーズ家とは兎も角、ヴィウトリアとまで絶縁する事にアーシュトリアは心底エメルトリアに申し訳ないと思った

(私があの時にヴィクトリアを引き取っていたなら、あんな我が侭には育てなかった)

きちんと公爵令嬢として恥ずかしく無い教育を受けさせていたと、悔やんでも悔やみきれなかった・・・そしてランドルへの、娘と孫を不幸にした恨みは憎悪へと変わっていった瞬間でもある


絶縁誓言から随分時が経ち、ヴィクトリアの乗っていた馬車が落雷に遭い大怪我をしたと耳にした時は心臓が飛び跳ねるほど驚き、心から心配した

絶縁していても、不遜な態度を取られても、世間からどんなに悪女と罵られようが、ヴィクトリアが自分の孫である事には変わりはない・・・だから命に別状は無いと聞いた時はどれ程安堵したか


それから暫くし、ヴィクトリアに対する不思議な噂を耳にするようになる

悪女と名高い孫娘が事故以来婚約者と夜会に現れるようになり、記憶を失った所為か性格も以前の傲慢な態度とは違い、別人になったと言う

まさかと思いながらも、その事実を確かめたいがヴィクトリアと会う機会が無い

(絶縁を宣言した手前、こちらから連絡する訳にも行かない。それでは虫が良過ぎる)

それでも会いたいと思う気持ちが募っていると、アシドが夜会を開きランドルを招待すると伝えに来てくれた


ホルグヴィッツの夜会にあの男が娘を連れて現れる訳が無いと半信半疑だったが、驚いた事にあの男は現れた

そしてヴィクトリアはこれ見よがしに大きなダイヤを身につけ、婚約者に寄り添いランドルの後ろを歩いている

(やはり記憶を無くしても、あの傲慢な性格はそのままなの?)

一瞬ゾッとしたが、けれど不安そうに彼に寄り添い、また孫に優しく寄り添ってくれている婚約者を見て、二人の仲睦まじさに(あの子はエメルトリアとは違い、愛されているのね)それが判り、涙が出そうだった


アシドへの挨拶が終わり、幸せそうにお互いを見つめ合いダンスをする二人に貴族達が皆、羨望の眼差しを向ける

そしてダンスが終わると、あまりの素晴らしさに拍手が起こった時は祖母としてどれ程誇らしかったか

『私は貴方の祖母です』

思わず二人の前に出て行き、声を掛けそうになる

けれどそれは、声は掛けずに『一目見るだけなら』とアシドに約束させられている

その後も婚約者と一緒ににこやかに挨拶回りをする姿を見て本当に変わったのだと安堵し、これ以上は自分を押さえられずヴィクトリアの前に出て行きそうになった為、もう十分だと夜会を後にする


『エメルトリア、貴方の娘はとても素敵な女性になっているわよ。そして・・・凄く幸せそうよ』

翌日娘の墓に花を沿え、夜会で見たヴィクトリアの事を報告した

それからヴィクトリアの色々な噂を出来るだけ聞くようにして、あの子は常に噂の絶えない子だと可笑しかった

(エメルトリアとは違って、随分社交的な子なのね)

そう思いながら、より一層ヴィクトリアに会って自分が祖母だと名乗りたいと言う気持ちが募る


あの夜会から一月以上がたった時、ランドルから手紙が届いた

何事かと思い手紙を読むと、ヴィクトリアがエメルトリアと過ごした別荘へ行きたがっていると書いてあり身体が震える

(まさかヴィクトリアからそんな事を言ってくれるとは思いもせず、どれ程に嬉しかったか・・・)

急ぎ手紙を書きながら、何故今まで音信不通だったのか、彼女はその経緯を知っているのだろうか?記憶が無いのだから知らない筈、その事も伝えた方が良いとドキドキしながら手紙を書き

(正直、こんなに心躍りながら手紙を書いたのは・・・年頃の若い時分に書いた、恋文以来ね)と笑ってしまった


それから数日後に、今度はヴィクトリアから手紙が届き急いで読む

手紙には、記憶を無くしてしまってからの自身の境遇、母との思い出の場所を夢で見た事がきっかけで、その場所に行ってみたいと思った事、婚約者の休みが取れ次第すぐに会いたいと書いてくれていた



(そうして漸く会えたヴィクトリアは本当に別人になっていて、しかも私に抱きついて来てくれた・・・)


自分にはヴィクトリアの他にも、三人の孫が居る

エメルトリアには兄と姉が居て、それぞれに子供を儲け公爵子息、令嬢としてホルグヴィッツを名乗っている

当然だが孫は皆可愛い・・・けれど、やはり不憫なエメルトリアの娘、ヴィクトリアに対する思いは特別になってしまう

(ヴィクトリアをホルグヴィッツに迎えたかったけれど、本人が望まないのであれば無理強いは出来ない)

ただ、これからは祖母としてあの子の力になり、見守ってあげたいと思う



ヴィクトリアはルシフェルと手を繋ぎ、仲睦まじくストラロ湖へ向う

そんな二人を遣る瀬無い、虚しい気持ちで少し離れ(これも仕事だ)と自身に言い聞かせトボトボ歩く二人の傭兵

「やっぱりルシフェルがついて来てくれて良かったわ」

嬉しそうなヴィクトリアに、ルシフェルも笑顔を向ける

本当はアーシュトリアの話が気になったのだが、ヴィクトリアが話さないなら無理に聞くつもりはない

「アーシュトリア夫人は、優しそうな人だったな」

ルシフェルがそう言うと、ヴィクトリアも嬉しそうに「ええ。あんな凛とした、素敵な人が、私のお祖母様で嬉しいわ」そう心から思い(お父様の方のお祖母様とお祖父様は、どんな方なのかしら?)ティアノーズ一族の方も気になる


二十分以上歩いて漸く大きな湖が見え、丁度夕日が沈んで湖面がオレンジ色に美しく輝いて幻想的だった

「わあ、綺麗・・・・」

その夕日を見ながら、ヴィクトリアは(懐かしい・・・気がする)そう感じる

幼い子供の頃、母と二人この夕日を見ていたに違いなかった

(お母様・・・)

ヴィクトリアにとって母は不憫な人という思いしかなくなった


(私が大人になるまで生きていてくれていたら、お父様の代わりに私が大事にしてあげたかった・・・)

そう思うと涙が零れ「ヴィクトリア?」心配そうに自分を見るルシフェルに

「懐かしくて・・・お母様と二人でこの場所に来て、この夕日を見ていたんだろうと思ったら・・・」

ルシフェルはヴィクトリアの涙を指先で拭い抱き寄せ「大切な、幸せな思い出だな」と優しく笑うので、その言葉に

(幸せ?・・そうかもしれない・・こんな綺麗は夕日を見れて、この時だけはお母様も、幸せを感じていてくれたのかも)

ヴィクトリアはルシフェルに寄り添い「お母様もこの夕日を見て、癒されていたのかも知れない」そうであって欲しいと願う

二人寄り添いながら綺麗な夕日を見ている姿に、傭兵の男二人は(俺達が居る事、完全に忘れてるだろう・・・)イチャつく二人を虚しい思いで少し離れて見ている



ストラロ湖の夕日を満喫して、ヴィクトリア達は祖母と三人で楽しく夕食を囲む

アーシュトリアはルシフェルがお酒に強いと聞き、ホルグヴィッツ特産の最高級ワインを用意してくれた

「ワイン好きの公爵は皆、ワイナリーを所有していてね。それぞれのワインの出来を競う、品評会を毎年開くのよ」

その品評会には王族も参加し公爵・侯爵は勿論伯爵も招待され、ランドルもワイナリーを持っているので毎年参加している


「今年の品評会には是非二人とも参加して頂戴」

祖母がそう誘うと、ヴィクトリアは恥ずかしそうに

「でも、私はあまりお酒は飲まなくて。ワインの味も判るかしら?すぐに酔ってしまいそう・・・」

「評価対象のワインのテイスティングは専門家に任せて、俺達はただ楽しんで試飲すれば良いよ」

ルシフェルの言葉に、ヴィクトリアは心配そうに

「いくらお酒に強いからって、あまり飲み過ぎないでね。ルシフェが酔っ払ってしまったら、私ではどうする事も出来ないから」

「人を酒豪みたいに。今まで俺が泥酔した事なんて無いだろう?」

ルシフェルは普通に酒を楽しんでいるだけだとムッとするので、そんな二人の会話を聞きながら

(エメルトリアも言いたい事をあの男に言えていたら、ずっと気持ちが楽だったでしょうに)

何も言わずに逝ってしまった娘に、アーシュトリアはせめて母である自分にだけは胸の内を吐露して欲しかった


「このワインは本当に美味しいですね。流石に最高級なだけはあります」

ルシフェルが褒めるとヴィクトリアも「本当に美味しいわ。飲み過ぎな様に気をつけないと」同意しそう忠告すると、ルシフェルは「はいはい」そう返事をして給仕にワインを注いで貰う

「気に入って貰えて良かったわ。お土産に何本か持って帰って頂戴」

アーシュトリは自慢のワインを二人が気に入ってくれ、自分が所有している分のワインを譲ってあげる


食事を終えたヴィクトリアは入浴も済ませると、用意された自分の部屋に戻る

(この部屋・・・お母様と一緒に過ごした部屋なのかしら・・・?)

部屋から見る外の風景、家具等を見ても記憶が無いので判らない

(夢の中の景色はぼやっとしか判らないし・・・正直、どうしてお母様との夢を見たのかも未だに判らない。ただ・・・お義母様達の所から帰って来てからは何故だか一度も見ていない・・・)

ヴィクトリアは母が座っていたかも知れないイスを窓の傍に置き、外の景色を座って見てみるが外は真っ暗だった

「お母様・・・」

自分は母に愛されていたのか?それとも愛してはくれていなかったのか?ヴィクトリアには判らない


ボンヤリと真っ暗な外の景色を見ているとドアがノックされ、返事をすると入浴を済ませたルシフェルが入って来る

「ヴィクトリア、今日から三日一緒に寝れないのか」

抱きしめて来る彼に「お祖母様の意向だもの、仕方が無いわ」ヴィクトリアはルシフェルにキスをして「一緒に来てくれてありがとう」改めてお礼を言う


ルシフェルはベッドに座りヴィクトリアを膝に乗せると「ヴィクトリアの為だからな」彼女の頬に手をやりキスをする

そしてヴィクトリアを大事そうに寝かせると「寝る前に、愛し合おうか」覆いかぶさって来るので、ヴィクトリアは慌てて逃げるように離れ

「だから、それが駄目なの!!」

顔を赤くしながら「三日間だけなんだから、我慢して」ルシフェルに訴える様に「お願い」と寄り添って来る彼を拒む


ヴィクトリアに拒まれルシフェルは溜め息交じりで「それじゃあ、帰ったら沢山甘えて良い?」彼女の耳元で尋ねながら、ふーっと息を吹きかける

「んあっ」

耳元で息を吹きかけられビクッと身体を震わせ、涙目で顔を益々赤くしながら耳を押さえ恨めしげに婚約者に

「ルシフェル・・・」

それ止めてと訴えるが、ルシフェルは笑って「良いな、その声。堪らない」可愛いとギュッと抱きしめてくる

ヴィクトリアは「ほんとに嫌だから・・・やめて」と訴えるが、ルシフェルは無視してキスをし「可愛いからまたする・・・俺の可愛いヴィクトリア」もう一度キスをしてくる


「ルシフェル・・・完全に酔っ払ってるでしょう?」

歯を磨いてもワインの匂いがするのでヴィクトリアが指摘すると、ルシフェルは笑って「まあ、多少は」とヴィクトリアの胸に顔を埋める

(・・・これは、相当酔ってるのかしら?)

普段はあまりこんな風に甘えて来ないルシフェルの甘えっぷりに、ヴィクトリアは「ルシフェル・・・もう、休んだ方が良いわ」これ以上ここに居られると彼が暴走しそうで怖くなる


酔っているルシフェルをドアの所まで連れて行くと「それじゃあ、おやすみなさい」素直に自室に戻ってくれるだろうか?ドキドキしながら部屋から出るよう促す

「ああ、おやすみ。可愛い俺のヴィクトリア」

そう言いながらも愛する婚約者を抱きしめ、執拗にキスをすると寂しそうに「ヴィクトリア、一緒に寝たい」甘える様な目でそう訴えてくる


ヴィクトリアもそんなルシフェルにキュンッとなりながらも「ごめんなさい。三日間だけ我慢して」申し訳ないと思うが部屋から押し出す

ルシフェルを部屋から押し出すと、彼はフラフラしながらも大人しく自分の部屋に戻るのでそれを確認してドアを閉める

(ルシフェル・・・結構酔ってる時はあんな感じなのね)

ヴィクトリアはドキドキしながら、喧嘩をしていない状況で一人ベッドに入り寝る事にする

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