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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
60/69

 53話 新たな条例に喜ぶ悪女

セルドスター伯爵の夜会での出来事から数日後、いつもの様にヴィクトリアとルシフェルが食堂で新聞を読んでいるランドルに挨拶し席に着くと

「ヴィクトリア、夜会では嫌な思いをしたがあの豚は二度とお前の目に触れる事は無いから安心しなさい」

父親にそう言われ、ヴィクトリアは何の事か判らず首を傾げる

「セルドスター伯爵の事を言ってるんだよ」

豚が何の事か判っていないヴィクトリアにルシフェルが説明する


「あれは・・・何だか大事になってしまって、どうしようかと。伯爵は衛兵に連れて行かれてしまったし、私も事情聴取を受ける筈だったのに、何だか簡単な説明をしただけで帰されたし・・・」

あの夜会でヴィクトリアは、衛兵に伯爵には手を握られたと伝えるとそのまま帰らされ

「それで、あの・・・セルドスター伯爵は?私達の事を・・・怒っていますよね?」

自分達の所為で衛兵に連れて行かれたとのだから当然だと、ヴィクトリアは訴えられないか不安を抱いているとランドルが

「何を言っているんだ?お前は被害者だ。奴には厳しい処罰が下った。もう、お前が嫌な思いをする事は無い」

そう断言するのでヴィクトリアは驚き「厳しい処分?あの、それはどういう・・・・」詳しく聞いてみると


「社交の場での風紀、治安をより良くする為に厳罰処分が可決された。問題を起こした者に、厳しい処分が下される事になったんだ」

「それって、以前私がアルフレド様にお願いした件かしら?」

ランドルのその言葉を聞いてヴィクトリアの目が輝き、ドキドキしながらルシフェルに尋ねる

婚約者の嬉しそうな表情にルシフェルは少し嫉妬しながら「さあ、俺も今聞いたばかりだから」そう答える

国の法案の採決は王族と公爵、そして一部の侯爵と伯爵で議会を開いて可否を問うのだが、その一部の侯爵に当然ティアノーズが入っている


「ウェンヴィッツ公に何を頼んだかは知らんが、この罰則を提案を出したのは彼だ。社交の場での風紀の乱れは目に余ると言われてな」

ランドルのその言葉に、ヴィクトリアは喜ぶ

「お父様、もしアルフレド様に会ったら私がお礼を言っていたと伝えて下さい」

嬉しそうにそう頼む娘にランドルは少し考え「ヴィクトリアは、ウェンヴィッツ公と親しいのか?」その質問にルシフェルがゾクッとする


「親しいというか・・・友達です」

ルシフェルを気にしながらも正直にそう答えると

「そうか。判った、会った時に伝えておく」

ランドルはそう約束し食事が終るとさっさと席を立つので、ヴィクトリア達もルシフェルの自室に向う

(ランドル・・・どうしてヴィクトリアにあんな質問を)

彼の考えが判らず内心穏やかではないルシフェルは苛立ちが顔に出ているので、ヴィクトリアは彼の腕にしがみ付き

「・・・あの、アルフレド様にお礼を言って欲しいって頼んだのは、迷惑を掛けてしまったからで、それだけだから」

嬉しそうに父親に頼んだ事を怒っているのかと心配してそう告げると、ルシフェルは笑って

「判ってるよ。漸くヴィクトリアも、これで安心出来るな?」

公爵令嬢の戯れにずっと頭を悩ましていたヴィクトリアは、嬉しそうに頷く


ルシフェルはランドルと登城する馬車の中で、ヴィクトリアにした質問の意図を尋ねる

「ヴィクトリアにウェンヴィッツ公と親しくしているのか尋ねたのが、そんなに不快か?」

ランドルは冷やかにルシフェルを見据えて来るので「相手がウェンヴィッツですから」そう答えるとランドルは笑う

「あの男が相手だと、そんなに不安か?」

そう聞かれ、悔しそうに黙るルシフェル

「本当にヴィクトリアがお前でなく、あの男を愛していれば良かったのだがな。なかなかに儘ならない」

ランドルは残酷にもそんな言い方をして

「心配しなくともお前達を引き離したりはしない。ヴィクトリアがお前を愛している内はな」

その言葉により一層、ルシフェルは不安になる



新たに出来た条令は、貴族達を困惑させた

「夜会での秩序って・・・皆、憂さを晴らす為に来るのに秩序って何だよ?」

「じゃあ、何処までが大丈夫なんだ?ふざけんなよなあ」

「知ってるか?この前の伯爵の夜会での事。その主催者の伯爵が侯爵令嬢に猥褻行為を働いて、それでその行為がこの条令に適応されて厳罰を食らったらしい」

「猥褻は、流石にまずいだろう・・」

「でも、可愛い子がいたら触れるぐらい良いだろう?」

身勝手な紳士、子息達は不満げに声を荒げる


「何よ、これ!?」

不満を露にするのは令嬢達も同じである

フェリスアーラを含め、公爵令嬢の戯れを楽しんでいた令嬢達は新たな条令に憤慨する

「これって・・・まさか、あのヴィクトリアが関わっているんじゃないでしょうね?」

流石にそれは無いだろうとは思うが、この前の伯爵の夜会で猥褻罪で捕まった伯爵が行為に及んだ侯爵令嬢はヴィクトリアだった

噂では、彼女が自らを犠牲にして日頃からわいせつ行為を働いていた伯爵を捕えたのだとされている

(何なのよ、あの女・・・・)

腹立たしく思いながら、彼女達は今後どうやって自分達の楽しみを行うか考えるのだった



『社交の場での最低限のマナーとして、貴族の品位を貶める行為は慎む様心掛ける事

今後はもし貴族の品位に欠けた行為、暴力沙汰や、虐め、他者を侮辱する発言、行為を行った者には条令に基づき爵位に関係なく厳罰の対象となる』


新たな条令の知らせが届き、この一部の文言を読んでヴィクトリアは嬉しく思い、文章の中に『虐め』と『爵位に関係なく厳罰の対象』の文字を読んだ時、ヴィクトリアは心からアルフレドに感謝した

(これで戯れが無くなれば、もうクローディアの様な目に遭う令嬢が居なくなる筈)

そう心から願うヴィクトリア



夕方、ルシフェルが早くに帰って来るとヴィクトリアは嬉しそうに新たな条令の話しをする

「ああ、良かったな。これでヴィクトリアも、気持ちが楽になった?」

ルシフェルは自分のベッドに座り、愛しい婚約者を膝に乗せるとそう尋ね「ええ、ホッとしたわ」喜んでそう答えると

「・・・実は四日後に、ゼノヴィッツ公爵の夜会に行く事になった。ランドルも一緒だ」

「ゼノヴィッツ・・・公爵様の夜会ですか」

喜んでいたヴィクトリアは一瞬顔を曇らせるが

(ルシフェルの重荷にばかりなっていては駄目。少しでも彼の役に立たないと)


そう考え「判ったわ、その準備をしておくわね」ニッコリと笑う

ヴィクトリアもこれからは頑張って公爵の令嬢達とも上手く付き合って行かなければならない事は判っている

(ゼノヴィッツは、円卓の賢者の一人だ)

アシドの事があり、ルシフェルは警戒するべきか?と考える


二人での夕食を終えるとヴィクトリアが入浴に向うので、ルシフェルが「久しぶりに一緒に入ろう」とついて来る

ルシフェルは今朝のランドルの言葉に不安が募り『ヴィクトリアを失いたくない』という想いが益々強くなる

浴室から出て寝室のベッドの中、ヴィクトリアはルシフェルに抱かれながら「休暇はまだ・・取れないの・・?」不安そうに尋ねる

ルシフェルはヴィクトリアを抱きしめながら

「夜会の後に・・取れると思う。四日程・・・休みが貰えると思うから」

そのまま二人はお互いの愛を確認しあう


翌朝、いつもの様に目覚ましがなる前に目が覚めるルシフェルは、自分の腕の中で安心して眠っている最愛の婚約者を(可愛い)優しく抱きしめる

ルシフェルとしては一刻も早く、この愛しいヴィクトリアと婚礼の式を行いたい

けれどヴィクトリアの二十歳の誕生日には、まだ半年以上ある

(長い・・それまでにもし、他の男にヴィクトリアを奪われたら)

どうしてもその不安が拭えないルシフェルは、思わず強く彼女を抱きしめる


「ん・・」

愛するルシフェルに強く抱きしめられ目を覚ますヴィクトリア

そのまま抱きしめられながらお互いに挨拶を交わすと

「シャワーを浴びに行くけど、ルシフェルはどうする?」

甘える様に尋ね、ルシフェルは嬉しそうに「もちろん」と笑って「一緒に行くよ」二人で浴室に向う



ヴィクトリア達が少し遅れて食堂に来ると、ランドルが新聞を読んで待っていた

「おはようございます」

二人が挨拶し、ランドルはルシフェルをチラッと見て

「ああ、おはよう。ヴィクトリア、三日後のゼノヴィッツ公爵の夜会の事は聞いたか?」

「はい、昨日ルシフェルから聞きました。お父様も一緒ですよね」

「ああ、そうだ。その時にはまた、大地の煌きをつける様に」

そう命じられヴィクトリアは諦めた様に「判りました」と素直に従う


食事を終えルシフェルは自室に向いながら意外そうに

「今回は素直にダイヤをつけるんだな」

「だって、嫌がっても結局はつける事になるんですもの」

諦めたわと言うヴィクトリアは、部屋に入ると甘える様に「それよりも、早く休暇を貰ってね?」そうお願いして来るので

(これは、早くしないと一人で行きそうだな・・・)


「絶対に休暇は貰うから、ランドルもそれは認めてくれてるから大丈夫だ。だからもう少し待ってくれ」

ルシフェルはヴィクトリアに言い聞かせると、ヴィクトリアはルシフェルを抱きしめ

「判ってるの、無理なお願いをしているのは。でも、私・・・早くおばあ様に会いたいから」

今のヴィクトリアにとってはたった一人、自分に会いたいと言ってくれている身内なのだ

一刻も早く会って、どんな人なのか知りたくて仕方がない

申し訳なさそうにそう訴えるヴィクトリアに、こんな風に言われるとルシフェルも弱い

「ヴィクトリアのその気持ちに早く答える様にするから」

そう約束をしてキスをする



ヴィクトリアは二人を見送ると、早速友人達を迎える準備をする

今日はお茶会ではなく友人だけを集めてまた招待状の選別を手伝って貰い、友人と一緒に交友の無い令嬢とも頑張って友好を深めているが、最もそれは伯爵以下の爵位の令嬢に限られている

昼までに集まったのはティナ、マリーナ、ディジー、シルメラ、クローディアの五人だけだった

キャロルは用事がある為に昼過ぎに来る予定で「アリメラはどうしてるのかしら?」今回来れない彼女を心配する


セルドスター伯爵の夜会で彼が衛兵に連れて行かれた時、ロミディオが

「大袈裟過ぎる!!何故衛兵が父さんを連れて行かなければならない!?侯爵の嫌がらせだ!!」

そう叫んでいて、そんな婚約者を蒼白な顔でアリメラは見ていた

友人達も『大変な事になった、どうしよう?』と怯え、夜会は強制終了の形になり騒然としながら来客達は帰って行った


「ルシフェル様とセイン様が伯爵を衛兵に突き出したのよね・・・まあ、ヴィクトリ様の事だから仕方がないんだけど」

夜会には揉め事が付き物なので、安全性の為に衛兵は必ず駐在している

ティナ達は、ヴィクトリア達がセルドスターを誘惑しに行った事をルシフェルに告げに行った

ルシフェルが驚いて「何故そんな馬鹿な事を?」と聞くのでティナは事情を説明すると、セインと二人急ぎヴィクトリア達の所へと向って行く

そしてヴィクトリア達の様子を窺いながら、ルシフェルが何度も飛び掛ろうとするセインを止めている光景を見る


ルシフェル達と一緒に居たロミディオは父親を助ける為にルシフェル達の後を追おうとするが、トーマスとアスランに捕まり父親の所に行けずにいた

アリメラはサロンでアナとエルザが付き添って慰めていた

そしてクローディアが伯爵に触られそうになった時、ルシフェルは制していた怒りを露にしているセインを離す


衛兵を呼んで大事にしたのは、ルシフェルの計算

伯爵の行為が問題になればアリメラの婚約が破棄されるかもと期待し、衛兵を呼び被害者の一人がヴィクトリアである事を伝える

正直、これがどう転ぶかはルシフェルにも判らなかったが、事は上手く運び、セルドスターはアルフレドとランドルによって厳しい処罰を受けた


「アリメラは可哀想だったわ。外が騒がしいと知らせに来た令嬢達に、慌ててサロンから出て来たら伯爵が衛兵に連れて行かれてるんだもの」

ディジーはそう言うと「伯爵がどうなったか、誰か知ってる?」まだ彼が爵位を息子に譲った事までは知らない令嬢達に、ヴィクトリアが

「よくは判らないけど、お父様の言う事では厳しい処分が下ったと言っていたわ」

その教えると友人達は首を傾げる

「厳しい処分って、結局あの人、何をしたの?」

クローディアに触ろうとしたがセインに止められたし、未遂で終わった筈なのにと


ヴィクトリアも首を傾げ「私の手を握っただけなのよね」そう言って思い出し

「あっ、そう言えば新しい条令が出来て、それの為に厳しく罰せられたみたい」

本当はヴィクトリアの手に触れた事でランドルの怒りを買ったからなのだが、その条令も一躍買っているので間違いではない

それを聞いて友人達も興奮した様に

「そうなのよ!!夜会での節度ある行動って何なの?って思ったんだけど、ようはマナーを守れって事なのよね?」

「虐めと言うのは、やっぱり戯れの事でしょうか?あの文言には驚きました」

シルメラがそう言うと「そうなの、アルフレド様の配慮に感謝だわ」嬉しそうにヴィクトリアが言うので、友人達は「えっ?」と驚く


「・・・どうしてアルフレド様に感謝なの?」

興味津々に聞いて来る友人にヴィクトリアは(アルフレド様に相談した事は、黙っていた方が良いかしら?また変に誤解されるのも困るし・・・)そう考え

「お父様が、この法案を提示したのがアルフレド様だと教えてくれたの。だからよ」

そう答えると「本当に良かった」と笑う



友人達とそんな会話で盛り上がっている所に遅れてキャロルが来たので、友人達と昼食を取った後で肝心の招待状の選別を始める

「私、三日後にゼノヴィッツ公爵様の夜会に行くのよね」

気乗りしないヴィクトリアだが、友人達は「ゼノヴィッツって凄いじゃない!!私達には縁が無いわ・・・」興味を示す

「私、まだ公爵様達と打ち解けられていないから・・・何とか歩み寄れたらとは思っているのだけど」

ただ、取り巻きとかそう言う関係ではなく、友人として付き合っていきたい


「公爵様は、プライドがとても高いから大変よ」

「ヴィクトリアは強いのね。私はとても怖くて公爵様の夜会には出られないわ・・・自分でも、それでは駄目だと判ってはいるのだけれど・・・」

友人達は公爵の取り巻きなど御免だと言い、クローディアは悪女ヴィクトリアの戯れに遭い、それ以来怖くて侯爵以上の夜会には出られないでいる

そんなクローディアにヴィクトリアは慰めるよう

「でもね、新しい条令で戯れは出来なくなったのよ。だからクローディアも安心して社交の場に出られるでしょう?」

そうは言っても彼女の心の傷が消える訳では無い事も判っている


クローディアもヴィクトリのその言葉に頷くが「それでも、やっぱり怖いわ・・・」と項垂れる

そんな彼女を見て

(クローディアの様に嫌な目に遭った令嬢達が、安心して社交の場に出られる様になるのはまだ時間が掛かるのね)

高位貴族の夜会が、誰もが安心して楽しめる場所になって欲しいとヴィクトリアは切実に思う・・・自分だって公爵や侯爵の夜会は緊張するのだから



お茶会の選別を終わらせ、また皆で何処か出掛ける話になり、お泊り会もしようという事になる

「今度は誰の所で泊るかよね」

マリーナが嬉しげにそう言うと、クローディアが「お泊り会って何ですか?」と尋ねる

彼女は今まで滅多に社交の場には出ず、伯爵の夜会やお茶会に出ても誰とも馴染めずに浮いていたので、当然そういう催し物にも誰からも呼ばれずにいた


お泊り会の説明を友人から聞いたクローディアは

「それなら、私の屋敷ではどうでしょうか?お父様もお兄様も、きっと許してくれると思うので」

そう提案すると、ティナ達は「良いの?」と心配そうに尋ねる

高位貴族の侯爵の屋敷に、下位貴族の伯爵や子爵の令嬢が泊りに来るのだ、親ならあまり良い気はしないだろう

最もそれなら、伯爵の屋敷に侯爵令嬢のヴィクトリアが泊りに行く方が有り得ないのだが


「はい。私、お友達を呼ぶ事があまりないので、きっとお父様も喜んでくれると思います」

クローディアが嬉しそうにそう言うので、ティナは

「・・・なんか貴方達二人、似てるわよね」

ヴィクトリアとクローディアを見比べて、ボソッと思った事を口にする

それを聞いてヴィクトリアとクローディアはお互いを見て「そうかしら?」と嬉しそうに笑うが、友人達は

(いや、嬉しそうに笑ってるけど・・・友達が居なかったという境遇だから・・)

と苦笑いするが、クローディアもこれからは頑張って友人を作っていかなければならない


「でも、それならセイン様とも、お近づきになれるかも」

「きゃあーっ、急接近で来ちゃう?」

大はしゃぎして喜ぶマリーナとキャロルに

「あのね、お泊り会には仮にも婚約者が居る私や、ヴィクトリア達も居るの!!男なんか引き込まないでよ」

ティナが令嬢らしくそう注意すると

「そうですよね。ティナはもうすぐ貴婦人になられますもの、スキャンダルは避けなければねえ。変な噂が立ったら、トーマス様が傷つくものね」

クスクスと笑いからかうマリーナに、ティナは顔を真っ赤にして

「別に、そういう事じゃないから。令嬢としての身嗜みの事を言ってるのよ!!ヴィクトリアだって、ディジーだって困るでしょう?」

嫉妬深い婚約者を持つヴィクトリア達に同意を求める


「そ、そうね。確かにお泊り会にセイン様が来られるのは困るわ」

(ルシフェルが物凄く怒る)

ヴィクトリアが同意すると「でも、ばれなきゃ良いんじゃない?」マリーナが意地悪く聞いてみる

するとディジーが「そうね、ばれなければ良いかもね」と言うのでヴィクトリア達が驚くと、彼女は「貴方が誰かと婚約したら、そうすれば?」とマリーナに言い返し、マリーナはがっかりしながら

「判ったわ。お泊り会の間は、セイン様にはあまり近づかない様にします」

曖昧な約束をし、再び友人達とのお泊り会の事で盛り上がり、二日後に皆でもう一度集まって詳しく決める事になり、夕方前に帰って行った



この日はルシフェルが遅くに帰って来たので、先に夕食と入浴を済ませたヴィクトリア

ルシフェルの自室に向いながら、ティナ達が来た事を話す

「それでね、そのお泊まり会なんだけど、クローディアの所で集まる事になったの」

嬉しそうに話すヴィクトリアに、ルシフェルが「なんだって?」と驚き

「絶対に駄目だ!!イヴェラノーズの屋敷には、セインが居るんだぞ!?何を考えているんだ!!」

ルシフェルが怒るので、ヴィクトリアは宥める様に

「勿論それは判っているけど、セイン様とは皆関わらない様にするわ。令嬢だけのお泊まり会だもの」

そう言い聞かせるがルシフェルは首を振り、深い溜め息を吐いてベッドに座る


「ヴィクトリア、俺が嫌がるって判っていてイヴェラノーズノの所に泊る事を承諾したの?」

「それは・・・クローディアが来て欲しいと言ってくれたから、それならって決まったのよ。勿論、ティナやディジーも婚約者が居るから、セイン様とは本当に関わらないわ」

ヴィクトリアが心配しないでとルシフェルに訴えるが

「心配するに決まっているだろう?あいつは、ヴィクトリアを友人として愛していくって言ったんだぞ!?」

機会があればまたヴィクトリアに何かするかもしれない、ルシフェルはそれを恐れている


ヴィクトリアは困った様にルシフェルを見て、深い溜め息を吐き彼の隣に座る

「判ったわ。今回は私、お泊まり会には行かない」

(またルシフェルを傷つけてしまうもの)

それだけは絶対に避けたいので、残念だがお泊まり会は断る事にする

驚くルシフェルにヴィクトリアは笑って立ち上がり「用事が出来て行けなくなったって、断るわ」そう約束し食堂に向う


「・・・本当に良いのか?」

あまりにもあっさりとヴィクトリアが諦めるのでルシフェルが尋ねると「ええ、これ以上ルシフェルを困らせたくないから」そう笑って答えるので、ズキンッと胸を痛めるルシフェル

『あんまり束縛していると、そのうちヴィクトリアが嫌がって、他の男の所に行くかもな』

トーマスのあの言葉が脳裏に過ぎる

(判っている、あまりヴィクトリアを束縛しては駄目だという事は。でも・・・彼女を自由にし過ぎて、言い寄って来る他の男に取られたら・・・それを思うとどうしてもヴィクトリアを放って置く事が出来ない)

ルシフェルは、どうしても最愛に婚約者が他の男を好きになったら?その不安が拭えないでいる


ルシフェルは食事を終えると、いつもの様に入浴を済まして寝室に入り、ベッドに座って自分が来るのを待っていたヴィクトリアを抱きしめ

「・・・そのお泊まり会、ティアノーズでしたら?クローディア嬢には俺が嫌がったって、事情を話して納得して貰えばいい」

そう提案するとヴィクトリアは驚いて、でもすぐ嬉しそうに「そうね、皆にもそれで良いか聞いてみるわ」と喜び、愛する婚約者が喜んでくれたのでルシフェルもホッとする



二日後にまた友人達をティアノーズ邸に招き、お泊まり会の話し合いをする

その前にヴィクトリアはクローディアに、お泊まり会の場所をティアノーズに変更して良いかを尋ね

「お父様に怒られたの。婚約中の身でありながら、適齢の男性の居る屋敷に泊る事は許さないって」

馬鹿正直にルシフェルが嫉妬してと言うのは、彼に対して悪い印象を与えてしまいそうなのでそう配慮すると、ヴィクトリアのその申し出にディジーも喜んだ


昨日アスランと会っていたディジーは、お泊まり会の話をすると嫉妬深い彼がイヴェラノーズで集まると聞いて

『セイン様が居るイヴェラノーズより、ルシフェル様が居るティアノーズの方が、まだ安心出来る。ティアノーズでは無理なのか?無理なら諦めてくれ」

そう言われ、そんな勝手な事出来る訳ないとディジーは怒って帰ってしまったのだ


それを聞いてヴィクトリアは顔を赤らめ

「・・・ルシフェルがティアノーズに居る事、アスラン様は知ってるのね」

「私達だけよ。私達、誰も言い触らしたりしてないから」

「恥ずかしいので、絶対に誰かに話したりしないで」

ヴィクトリアがそう頼むと友人達は「判ってるわよ」と約束する

クローディアも快く「それで構いません。正直、ホッとしています」と承諾してくれた・・・何故ならセインが「ヴィクトリアが来る!!」と大喜びしていたからだ


お泊まり会の場所をティアノーズに変更が決まった時、遅れてアリメラが現れたので皆が驚きながらも彼女を気遣い

「大丈夫だった?」

「あれからどうなったの?」

次々と心配の声を掛け、アリメラも申し訳ない様に笑顔を向け「夜会では心配掛けたわ。でも、もう大丈夫なの」そう答えると、彼女はヴィクトリアとクローディアに

「伯爵様がね、猥褻罪で処分されてね、それで、その事があったから・・・向こうから婚約の解消を申し出て来たの」

その言葉に友人達は驚愕する


「えっ?それって・・・・」

友人達がどう反応して良いのか困惑しているので、アリメラは心を落ち着かせる為に深呼吸すると「私、ロミディオと婚約を解消したわ」嬉しそうにそう告げる

「向こうからの申し出だから、慰謝料も支払うと約束してくれて・・・彼が、申し訳なかったと謝ってくれて、その申し出をお父様が承諾してくれたの」

ホッとした表情でアリメラがそう話すと、マリーナとキャロルが彼女を抱きしめ

「良かったのよね?これで」

「あんな嫌な奴と別れられて、良かったです」

ずっと心配していたので喜ぶ


「良い人ではなかったけど、私に謝ってくれたから、そこまで嫌な人でもなかったのかも知れない。でも、結婚しなくて済んだのは嬉しい」

ロミディオとの婚約は、アリメラにとってずっと辛かったのだから

「それにしても、猥褻って・・・」

友人達はヴィクトリアとクローディアを見て首を傾げ

「クローディアは未遂に終わって、ヴィクトリアは・・・手を握られたのよね?それが猥褻?」

「きっと相手が侯爵令嬢のヴィクトリア様だからですよ。身分違いの伯爵が、無礼な行いをしたから、見せしめにしたのでは?」

友人達が不思議がる中、シルメラが冷静にそう分析する

(権力って怖いわ)

令嬢はそう思いながらも好色伯爵に重い処分が下り、アリメラを傷つけた事への溜飲は下がった



今回お泊まり会に集まる友人は、ティナとキャシーとマリーナとディジーとシルメラとクローディアとアリメラの七人

キャロルも参加出来たら行きたいと言っているが、どうなるか判らない

「この前のお泊まり会は参加出来なかったから、今回は出来て嬉しい」

ディジーが嬉しそうにそう言うと、クローディアも

「わ、私も、お友達の屋敷に泊まるなんて初めてで、ドキドキしてます」

緊張しながらも嬉しそうにそう告げる


キャロルが「クローディアも、ルシフェル様とのイチャ付き振りが見れますよ」からかう様に笑う

それを聞いてヴィクトリアは「い・・イチャ付かない様に気を付けるわ」恥ずかしそうに顔を赤らめる

(問題は、ルシフェルを皆に見られる事なのよね・・・)

夜会の時ではない、普段の彼を見られるのだと今更その事に気付くヴィクトリア


友人達は顔を赤くするヴィクトリアを(可愛い)と思いながら、キャロルに「ルシフェル様にも、からかったりしないのよ」と注意する

クローディアもルシフェルに夜会で会った時、彼のかっこよさにドキッと心がときめいた

(あんな素敵な人に愛されて、ヴィクトリアが羨ましい)

ルシフェルに憧れを抱くクローディアは、心からヴィクトリアが羨ましいと思う

お泊まり会は公爵の夜会の二日後に決まり、今回は皆でデパートへ行く事にした

丁度雑誌の企画でデパート特集の撮影が有り、どんな感じか見てみたいと言うので見学する事になったのだ


友人達と楽しい時間を過ごし、彼女達が帰った後にドルフェスがヴィクトリアに「ホルグヴィッツ公爵夫人から、お手紙が届いております」と伝えて来る

それを聞いて慌てて自室に戻り、机に置かれている手紙の裏を確認すると祖母の名が書かれている

ドキドキしながら封を切り、祖母の手紙を読むヴィクトリア

手紙の内容はヴィクトリアからの手紙が嬉しかった事と、会える日を楽しみにしていると書かれていた

(おばあ様・・・)

手紙をギュッと抱きしめながら、ヴィクトリアも一刻も早く祖母に会える事を切望する



夜にルシフェルが帰って来るとヴィクトリアは笑顔で「お帰りなさい」と迎え「ただいま」ルシフェルは嬉しそうに彼女の頬にキスをし自室に向う

「三日後に、ここでお泊まり会をする事にしたから安心して」

ヴィクトリアがそう伝えると、ルシフェルは笑って「そうか」と頷く

「それじゃあ、その日は俺は自分の部屋で寝るよ」

流石に同じベッドで寝ている事は知られたくないのでヴィクトリアも頷くと、ルシフェルはヴィクトリアを抱きしめ

「休暇を貰ったよ、六日後の四日間」

その言葉にヴィクトリアは目を輝かせ「本当?ありがとう」大喜びしルシフェルに抱きつく


ヴィクトリアに抱きつかれ、ルシフェルも嬉しそうに抱きしめ返し

「急だけど、向こうは大丈夫かな?ヴィクトリア、速便で知れせておいてくれる?」

ルシフェルが頼むとヴィクトリアは頷き

「ええ、明日すぐに出しておくわ。おばあ様はいつでも構わないって言って下さってるから」

ルシフェルにキスをして「無理をさせて、本当にごめんなさい」申し訳なさそう告げるとルシフェルは笑って

「言っただろう?俺が傍に居たいからついて行くんだ。ヴィクトリアが謝る事じゃないよ」

ルシフェルも何とか休暇を貰え、ヴィクトリアとの約束を果たせられ一安心する


食事をしているルシフェルは、嬉しそうにお泊まり会では友人達とデパートに行き、雑誌の取材の撮影を見に行くのだと話すヴィクトリアを、ルシフェルは笑って聞いている

そしていつもの様に入浴を済まして、髪を乾かしながら寝室のドアを開けると、居る筈のヴィクトリアが居ないので、ルシフェルは彼女の部屋に行くと

「ごめんなさい、おばあ様に手紙を書いていたの」

手紙を読んだ後すぐに返事を書いていて、丁度書き終え封をしていた所だった


「手を洗ってくるわ」

ペンで汚れた手を洗いに行き、寝室に戻って来るヴィクトリアに「おいで」とルシフェルは彼女を膝に乗せる

愛しい婚約者をギュッと抱きしめ、彼女の温もりと匂いを感じながらルシフェルは心の不安を解消させている

(ヴィクトリアは俺を愛してくれている)

何度も何度も、自分にそう言い聞かせ


「ルシフェル?」

(またルシフェルを不安にさせてしまった?)

心配そうに自分を見るヴィクトリアに、ルシフェルは彼女をベッドに寝かせ、愛おしそうに見つめながら頬に触り「早く、ヴィクトリアと結婚したい」そう告げるとキスをする


キスをされてヴィクトリアも嬉しそうに頷いて

「私も。早くルシフェルが、私の旦那様になって欲しい」

ルシフェルを安心させる様に「大好き」と彼を抱きしめる

その言葉にルシフェルはどれだけ不安な気持ちが和らぐか

「もう一度言ってヴィクトリア」

そう頼みながら、ルシフェルは優しく最愛のヴィクトリアを抱きしめる

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