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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
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  5話 婚約者と夜会に行く悪女

先程届いた手紙を読んで、ルシフェルは困惑していた

手紙の送り主が自分の婚約者であり、不仲のヴィクトリアからで、困惑したのはその手紙の内容・・・

ルシフェルが見舞いに来てくれた翌日、ヴィクトリアはすぐにお礼の手紙を出した

手紙はルシフェルの住む屋敷へと直接使用人が届け、その日のうちに彼の手に渡る


(昨日会ったヴィクトリアは記憶を無くし、まったくの別人になっていた)

その為ルシフェルは、自分に対するヴィクトリアの態度が全く違っていて困惑した

『少しでも愛して貰えるよう、努力します』

不安そうに自分を見る彼女の目・・・あれに嘘は無い様に思える

(俺を毛嫌いしていたのにな)

嘲笑的な笑みを浮かべ、もう一度手紙を読み返す

ヴィクトリアが丁寧にルシフェルに宛てた、彼女自身の想いを綴った手紙を



ルシフェルに誘われた夜会が二日後に迫り、ヴィクトリアは若草色のドレスを着ながら装飾品やメイクや髪型をメイド達と選んでいた

「大人っぽくするのでしたら、ボリュームを上げて夜会スタイルに仕上げたらどうでしょう?」

「大人っぽくするなら、三つ編みをしてさらに編み上げたら淑女って感じが出ます」

「カールにして、一括りにしても素敵です」

まるでお人形扱いである


けれどヴィクトリアは、自分に対し怯えていたメイド達がこうして怯えずに接してくれているのが嬉しかった

(これもアメニのお陰だわ)と感謝している

アメニがヴィクトリアの専属のメイドとなり大事にされている事、記憶を無くして別人の様になった主人に、メイド達も少しずつ変わっていった


髪はカレンが助言してくれた、左右の横髪を残しアップにし、エメラルドの髪留めして大人っぽさを演出する

その美しさにメイド達は溜息を吐き「ヴィクトリア様は、本当にお美しいです・・」うっとりするメイド達に

「素敵に仕上がてくれて、ありがとう」

ヴィクトリアは姿鏡で確認しながら、綺麗にセットしてくれたお礼を言う


メイクは目元をくっきりさせるが、悪女っぽくならない様気をつけ口紅は赤よりは明るいオレンジ系にする

赤だとどうしてもキツイ感じが出てしまうのだ

完成したヴィクトリアの姿はとても美しく、心配していた可愛らしさはその立ち振舞いとメイクで子供っぽさは無い


「良かった、幼くは見えないわよね?大人の女性って感じよね?」

子供っぽく見えない自分に満足しているヴィクトリアを、メイド達は見惚れて頷くだけだった

髪型とメイクも決まり、後は夜会の日を持つのみなのだが・・・ヴィクトリアは少し不安だった

ルシフェルに手紙を出したが、彼からの返事が来ないのだ


別に期待してる訳ではないが、嫌われている身としては心配になり不安で堪らない

(本当にルシフェル様は、迎えに来て下さるのかしら・・・)

もし気が変わって、迎えに来てくれなかったら・・・それが怖い

自室で不安にしているヴィクトリに、部屋を出ていたアメニが花束を抱え嬉しそうに戻って来て「ヴィクトリア様、ルシフェル様から贈り物です」そう伝えてくるので、ドキッとするヴィクトリア


贈り物は赤と白とピンクの薔薇が十本ずつの花束とカードが添えられていて、カードには『夜会、楽しみにしています。十八時に迎えに行きます』とだけ書かれている

それだけで胸が熱くなる

「よかった、迎えに来るって書いてくれてる」

アメニがいそいそと花瓶に薔薇を生けているのを見ながら、心からホッとする



当日の夜会、時間より少し早くルシフェルが迎えに来てくれ、ドキドキしながら玄関ホールで迎えるヴィクトリアは

「ねえ、変じゃないわよね?どこも可笑しくないわよね?」

アメニ達に何度も確認するので、メイド達は頷き「とてもお美しいです」と褒める


実はヴィクトリアはオルテヴァール王国、四大美女の一人だが本人はその事を忘れている

「本当?お世辞じゃなくて?ドルフェスはどう思う?」

軽くパニックになっているヴィクトリアは、よりによって執事にまで聞いた

一斉にメイド達は彼がどう答えるか神妙な面持ちで見守る

「・・・大変、お美しく御座います」

冷静に答える彼のその言葉に「そう、ありがとう」少し安心するヴィクトリアだが、執事の答えにメイド達もホウッと溜息を吐く


玄関のベルが鳴り、ドルフェスがドアを開ける

白の正装姿のルシフェルが現れ、後ろに控えているメイド達は『きゃあっー!!』と、ときめきの声を心の中で上げる

ヴィクトリアの着飾った美しい姿に思わずドキッとするルシフェルだが、すぐいつもの笑顔で「それでは行きましょうか」腕を差し出す

「はい」

赤くなりながらヴィクトリアは嬉しそうに彼の腕に手を回し、その美男美女の姿にウットリと見惚れるメイド達

二人が少し緊張しながら屋敷を出て行くのを、微笑ましく見送る



夜会に向う馬車の中、ヴィクトリアはおずおずと

「あの、薔薇の花束の贈り物、ありがとうございました。とても綺麗で、すごく嬉しかったです」

嬉しそうにお礼を言うと、ルシフェルは笑って

「喜んで貰えたなら良かったです。今夜はマカリスター家主催の夜会に行くのですが、嫡男のトーマスとは友人でして。まあ、気心が知れた者達の集まりです」

今夜の夜会の説明をする


「そう、なのですね」

頷くヴィクトリアは(その気心が知れている人達は、私の事を良くは思ってないのでは?)白い目で見られるのだろうか・・・そう思うと不安になってくる

顔を強張らせると、ルシフェルに「・・・・不満ですか?」と尋ねられる

「えっ?」

驚くヴィクトリアは、彼の質問の意味が解らなかった


「・・・伯爵家主催の夜会だったので、不満なのかと思いまして」

少し意地悪な質問だと思ったが、ルシフェルはどうしてもヴィクトリアが変わったと思えなかった

どこかで、あのヴィクトリアの本性を表わすのでは?と思っているのだ

悪女だった時の彼女は、格下の伯爵の夜会に出向く事は絶対になかった

一度伯爵の夜会に手紙で誘ったのが、辛らつに断れて以来ルシフェルは彼女を夜会に誘わなくなった


ジッと自分を見るルシフェルに、ヴィクトリアは首を振り「いえ、そう言う事ではなくて・・・・」ドキドキと心臓が鼓動を打つ

(本当の事を言わないと、ますます嫌われる)意を決して、俯きながら答える

「・・気心が知れている人達と、仰っていたので。その、きっと私の事を良く思っていないに違いないと、思いまして。もしかして、ルシフェル様の友人達に・・・不快な思いをさせるかもしれないと思いまして・・・」

心を痛めながら震える声でそう言うと、ルシフェルは驚いて「それは、配慮が足りませんでした。申し訳ない」ルシフェルは俯くヴィクトリアに謝る


「いえ、悪いのは私なので」

と、小さな声で首を振るその姿にルシフェルは「・・・確かに好奇の目で見られるかも知れませんが」その言葉にゾクッとする彼女が少し可哀相に感じ、ルシフェルは

「俺の傍に居て下さい。俺がずっと傍で護りますから」

優しく笑い安心させると、ヴィクトリアは驚きその言葉に泣きそうになる

「あ、ありがとうございます・・・」

安心し、嬉しそうにお礼を言うヴィクトリアに(・・・あんなに俺を嫌っていたのにな)ルシフェルは複雑な気持ちになる



マカリスター家に着き、ルシフェルはヴィクトリアをエスコートしながら屋敷に入る

屋敷の中は賑やかで、大勢の気心が知れた人達で賑わっていた

ドキドキしながらルシフェルの腕を掴むヴィクトリアに、彼は優しく「まずは主催者の、マカリスター伯爵に挨拶に行きます」ホールの中心で楽しそうに話しをしている紳士に近づき

「こんばんは、マカリスター伯爵。今日は夜会への招待、ありがとうございます」

爽やかに社交辞令の挨拶をして微笑むルシフェルの優雅さに、見惚れるヴィクトリア

「おお、ルシフェル、漸く来たか。向こうでトーマスが待っているぞ」

そう言いながら伯爵は、ヴィクトリアに目を向ける


ルシフェルは「彼女は婚約者の」そう紹介しヴィクトリアを見るので、ヴィクトリア「あ、あのヴィクトリア・ティアノーズです。よろしくお願いします」ドキドキしながらそう告げる

すると伯爵は物凄く驚いた顔をするので「伯爵、驚き過ぎですよ」ルシフェルは悪戯っぽい笑みを浮かべ、クスクスと楽しそうに笑う

(こんな笑い方もするのね)

ヴィクトリアは楽し気に笑う婚約者を見ながら、そう感じた

ルシフェルの婚約者である侯爵令嬢の悪女が格下の伯爵に頭を下げたのだ、マカリスター伯爵でなくても驚く


好奇の視線はすぐに感じる・・・周りの人達から驚きの眼でジロジロと見られているからだ

その視線に緊張し、無意識にルシフェルにに掴まっている手に力が入るが、もちろん彼はそれに気づいている

「何か飲みますか?」

ルシフェルはそう言うと、グラスを運んでいる使用人を呼ぶ

シャンパングラスを二つ手にして「どうぞ」ヴィクトリアに渡してくれる

「あ、ありがとうございます」

グラスを受け取り一口飲むと、その様子を見てルシフェルもグラスに口を付ける

(気を遣ってくれている)ヴィクトリアはそれだけで嬉しかった(私の事を嫌っているだろうに、本当に優しい人)

だからこそ、ずっとそんな自分の傍に居て貰う事に申し訳ないとも思う


ルシフェルが優しくヴィクトリアの腰に腕を回すので、ドキッとして彼を見る

「・・・嫌でしたか?」

ルシフェルが尋ねると「い、いえ。その、ちょっとビックリしただけです」顔を赤らめながら恥ずかしそうにするので

「ずっと腕を曲げているのが疲れたので」

爽やかに笑う彼に、それを聞いてズキッ痛みを感じるヴィクトリア


(そうだ、私、彼にしがみ付いていた様なものだものね・・・嫌だったのかしら?)

その為に腕が疲れたと言い訳をしたのか?・・・そう考え、ずっと傍に付き添ってくれる彼に心底申し訳ないと心を痛める

シュンッとなったヴィクトリアに、追い討ちを掛けるよう「ルフェッ」と、可愛らしく声を掛ける女性が現れる


ルフェと呼ばれ振り返るルシフェルに、その女性は満面の笑顔を向け近寄って来る

チラッとヴィクトリアを見る彼女は、親しそうにルシフェルに「会えるのを凄く楽しみにしていたのよ」と甘える様に笑い掛け、ルシフェルも嬉しそうに笑顔になっている

二人のその仲の良い様子に、ヴィクトリアは居た堪れなくなる

(私は邪魔なのかしら・・・)


「ねえ、一曲踊ってよ。ルフェと踊るの楽しみにしてたの」

無邪気に彼女がそう誘うのだがルシフェルは「ミディ、今日は婚約者と一緒なんだ」ヴィクトリアに目を向ける

ヴィクトリアはどうして良いか判らず、ミディと呼ばれた彼女はどういう関係だろう?と窺う

「ヴィクトリア、彼女はミディアル・アンガスト。俺の幼馴染です」

彼女を紹介されて、ヴィクトリアは笑顔で「ヴィクトリア・ティアノーズです。よろしくお願いしますね」と挨拶する


ミディアルはヴィクトリアをジッと見て

「こちらこそ。珍しいですね、貴方がルシフェルと一緒に居るなんて」

ニコッと笑い、ルシフェルとヴィクトリアを交互に見て「それなら後で踊ってよ。構わないかしら?」まるで挑発されているみたいに感じるヴィクトリアは、ルシフェルの事も考え頷く

(ずっと私の傍に居るのも辛いでしょう・・・)

ヴィクトリアはそう思ったのだ・・・それにルシフェルと彼女は何となく親密な感じもし、ズキンッとまた胸が痛む


「・・・あの、私は少し酔ったみたいなので・・・その、向こうで休んでいますね」

ルシフェルにそう伝えると、バルコニーの方へと向かう

一人になるのはとても不安だが、ルシフェルとミディアルの事を思うと二人にしてあげた方が良いと考えたから

(ルシフェル様は彼女を『ミディ』と呼んでいた、つまりそれ程親しいという事だろう・・・)

彼が政略結婚だと言い切る理由は、彼女に在るのか?そう考えてしまう


(私が悪女だから嫌いなのではなく、他に好きな人が居たから?・・・それでも政略結婚させられたら・・・)

それを考えると泣きそうになる

(少しでも愛して貰えるうよう努力しても・・・無駄なのかしら?)

そう思っているとフッと腰に手を当てられ、驚いて顔を上げる

ルシフェルが心配そうに「大丈夫ですか?」と尋ねるので、ヴィクトリアは驚いて「あ、あの・・・・」ミディアルの方を見る

彼女はムッとしながらこっちをジッと見ているので「私は、大丈夫です。なので、あの・・・」大丈夫だと言う声が震えているのが自分でも判る

そんなヴィクトリアにルシフェルは「今日は、俺の傍を離れないで下さいと言ったでしょ?」優しく笑う


その言葉にヴィクトリアはどれ程嬉しかったか判らない・・・でも、申し訳ない気持ちもある

二つの気持ちが葛藤しながら、ヴィクトリアは「・・・・迷惑では無いでしょうか?」思い切って尋ねる

そこへ「ルシフェル!!」とまた彼を呼ぶ声がした

呼ばれた方を向くと、赤み掛かった茶色の髪に茶色い眼をした可愛らしい感じの、男性が手を振っている


「ああ、トーマス!!」

呼ばれたルシフェルは彼に返事をし、ヴィクトリアに「大丈夫ですか?少し休みます?」心配そうに聞いてくれるので首を振る

「いえ、大丈夫です。ご心配掛けてすみません」

ルシフェルはヴィクトリアのシャンパングラスを受け取り、使用人に渡してトーマスの方へと向かう


向かいながら彼は「迷惑ではないですよ」そう優しく言ってくれた

その言葉にヴィクトリアは、彼を見る

自分を嫌っているのに、いつも優しく笑い掛けてくれる。気を遣ってくれる。今もこうして傍に居てくれる・・・優しく接してくれる・・・そう思うと、ドキンッと胸が打たれる

この時初めてヴィクトリアは、ルシフェルに好意ではなく恋心を抱いた

(・・・少しでも、ほんの少しでも、好意を抱いてくれている?だから傍に居てくれるの?)

都合の良い期待だが、彼女には切実な望みだった



「なかなかこっちに来ないと思ったら、お前ミディに捕まってたな」

笑うトーマスに、ルシフェルは嫌な顔をして

「ヴィクトリア、トーマス・マカリスター伯爵子息。こう見えて俺とは同期なんだ」

子供っぽさがある彼に対する嫌味な紹介をする


ヴィクトリアは会釈し「ヴィクトリア・ティアノーズです。あの、よろしくお願いします」緊張しながらトーマスを見ると、彼は以外にも笑っている

(私の事を不快に思っていないのかしら?ルシフェル様の親友なのに?)

「ヴィクトリア嬢は、記憶を無くされているんですよね?」

ルシフェルから聞いていたトーマスは、好奇心の眼差しでヴィクトリアを見る

「・・・はい」

「良かったな、彼女まともそうだ」

笑いながら意味深な事を言うトーマスに、悪女ヴィクトリアとの事を言っているのは判るので複雑な気持ちを抱くヴィクトリア


「折角だし一曲踊って来たら?俺もティナが来たら踊る事になってるし」

そう言って彼は好奇心の目を向けてヴィクトリアに「その後、俺とも踊ってくれる?」嬉しそうに尋ねてくる

(どうしよう・・・)

なんて答えればいいか判らず、一瞬黙ってしまうヴィクトリア

「あの・・・」

本当は全く知らない相手と踊るのは気が引けるが、彼はルシフェルの親友だ(断わったら、失礼よね?)そう思い

「はい・・・喜んで」

ヴィクトリアは仕方なく承諾する


「へえ、随分素直なんだな。可愛いな」

トーマスはからかう様にヴィクトリアを見て笑うので、その無邪気な可愛い笑顔にドキッとする

その時「どなたが可愛いのです?」後ろで女性の声がして、皆がその声の方を見る

ブロンズの髪をした、茶色い瞳をした女性がトーマスを見据えている


「ああ、ティナ。戻って来たの?」

トーマスは笑ってヴィクトリアに「ヴィクトリア、彼女は俺の婚約者」そう紹介され、ヴィクトリアはティナと呼ばれた女性に「ヴィクトリア・ティアノーズです。あの、よろしくお願いします」と笑顔で挨拶をする

正直さっきの言葉で、この女性が自分に敵意を向けているのでは?内心穏やかではなかった


ジッとヴィクトリアを見つめると、ティナと呼ばれた彼女はにっこり笑って

「こちらこそ、ティアナベル・ホレイスターです。それにしても、記憶が無いというのは本当のようですね。まるで別人だもの」

記憶が無い事をトーマスから聞いていた彼女は、ルシフェルを見て「ルシフェル様、お久しぶりです」と極上の笑みを浮かべ、ルシフェルも「ああ、久しぶり」笑顔で返す

ルシフェルのその笑顔に何となくティアナベルが嬉しそうにしている、そんな気がするヴィクトリア


「ヴィクトリアが素直で可愛くなったって話だよ。ティナだってそう思うだろ?」

無邪気にそう尋ねるトーマスに、ティアナベル呆れた顔で婚約者を見やり、それからヴィクトリアの方に目を向ける

(何か言われるのかしら?)ドキッとするヴィクトリアに

「ごめんなさいね、記憶を無くして不安でしょうに。この人、無神経な所があるから」

と謝ってくるので、驚いて首を振り「い、いえ、そんな。ティアナベル様が謝る事では・・・」

(良い人だ)

てっきり嫌われていると持っていたので、彼女の気遣いが嬉しかった



二組のカップルはお互いの婚約者と踊る事になり、ヴィクトリアはルシフェルに手を握られドキドキしながら彼を見る

相変わらず優しく自分に笑い掛けてくれる

(どうしよう、緊張する・・ドキドキが止まらない)

心の中は彼への気持ちが込み上げて来るが、それを知られるのは怖い

(嫌われている?それとも少し位は、好意を持ってくれている?彼の気持ちが少しでも判れば良いのに・・・・)

そう思うが、実際凄く嫌われていると判ればとてもじゃないがもう普通では居られない・・・辛すぎて、今後は改善処か余計距離を置いてしまだろう


(落ち着いて、冷静に・・・・)

高まる鼓動を感じながら、自分に言い聞かせる

「ヴィクトリア?」

自分の気持ちを悟られてはいけないと考えていると、ルシフェルに名前を呼ばれ我に返る

「あ、はい?」

ルシフェルの顔を見ると、彼は深刻な顔をしているヴィクトリアを心配そうに「大丈夫?辛いなら少し休む?」と聞いてくれるので、その気遣いにキュンッとなりながら顔を赤くして「い、いえ。その、少し緊張してしまって」思わず本音が出てしまう

「緊張?」

首を傾げるルシフェルに、しまったと思い

「あ、いえ、あの・・・わ、私、ダンスはあまり得意ではないので・・・・」

心臓の鼓動が速まる中そう、言い訳をする


(ルシフェル様の所為で緊張するだなんて、絶対知られる訳にはいかない!!知られたら最悪、ますます嫌われる・・・)

「とても上手だと思いますが?」

記憶が無くとも身体が覚えているものだろうか?実際夜会に誘われ、ダンスの練習をドルフェスに頼んだが普通に踊れた

ヴィクトリアの記憶喪失は人の事だけの様で、貴族に必要な礼儀作法等は何となく判る為、今の処生活に支障は無い


「あ、ありがとうございます。それは、ルシフェル様のリードがお上手だからです」

実際、緩やかなステップで踊ってくれているのだろう、彼の気配りのお陰であまり疲れずにダンスは終わった

「・・・少し休みましょう、流石に疲れたでしょう?」

ルシフェルが休息場へ向かおうとするので「なんだ、休憩しに行くの?」トーマスが声を掛けてくる

ルシフェルは煩そうに「・・・そうだ」と答えるので、その言い方が気になったヴィクトリア


「えー、折角ヴィクトリアと踊れると思って楽しみにしてたのに」

ティアナベルが隣に居るというのにがっかりするトーマスに、ヴィクトリアは(どうしよう・・・)と考えていると

「あいつの事は無視して良いので」

気にせずに彼女の背中を押し行こうとするルシフェルに「お前、独占欲強過ぎ」トーマスは嫌味を言う

その言葉に驚きヴィクトリアはルシフェルを見ると、ルシフェルはギロッとトーマスを睨みつけ、ヴィクトリアを連れて休息場へと行ってしまう


「あーあ、あれは相当お熱だなあ。記憶が戻ったらどうなる事やら」

トーマスが呆れると「・・・トーマス、貴方本気でヴィクトリアと踊りたかったの?」ティアナベルが冷やかに尋ねる

「そりゃ、あのヴィクトリアと踊れる機会があるなら相手したいよ。折角のチャンスだったのに、あいつ友達甲斐が無いな」

がっかりしながら冗談っぽく言う彼は「でも、一番愛しているのはティナだから」と、彼女のこめかみにキスをする

この調子の良い婚約者にティアナベルは(ルシフェル様の爪の垢でも煎じて、飲ませてやろうかしら?)と本気で思った


休息場は寛げる様にとソファーが設置されているが、二階にも個室が幾つか用意されている

「人目が気になるなら、二階へ行きますか?」

ルシフェルが聞いてくるので(どうしよう・・・)とヴィクトリアは考える

(人目は確かに気になるが、部屋でルシフェル様と二人きりは・・・)

「ル・・・ルシフェル様にお任せします」

どうして良いか判らず、彼に頼ってしまったヴィクトリアは自己嫌悪に陥る

(自分で決められないのか?と、呆れられたかしら・・・)

ルシフェルは、ヴィクトリアを二階へと連れて行く


二階の休息室はプライベートの場所の為、利用出来るのはマカリスター伯爵の許可を得た者のみ

(うわー、二階に行くのね?どうしよう・・・二人きりって恥ずかしいのだけど!!)

部屋にはテーブルとソファーが設置されていて、ルシフェルはゆったりとしたソファーにヴィクトリアを座らせると、自分は窓の方へ移動し、チラッと外を見てからヴィクトリアに目を向ける


「ここなら俺達しかいないから、緊張せずゆっくり休めるだろう?」

優しく笑うルシフェルに、ヴィクトリアは「は、はい。ありがとうございます」ドキドキしながらお礼を言うが

(いやいや、余計緊張します!!)

二人きりは流石に気まずいと焦るヴィクトリア


(どうしよう、何か話した方が良いの?)

そう思うが、緊張のあまり会話が浮かばない

(顔が赤くなる。どうしよう、バレてしまう・・・折角ルシフェル様が気を遣ってくれているのに私・・・)

震えてくるヴィクトリアに、ルシフェルは本気で心配して

「大丈夫ですか?もしかして、体調がまだ良くなかったのでは?」

近づいて来て、ヴィクトリアの顔色を心配そうに覗き込むルシフェルに思わずヴィクトリアは顔を逸らす


「だ、大丈夫です。その・・・・確かに少し、まだ体調が良くなくって・・でも、休憩していれば平気なので・・・」

ドキドキしながら、ヴィクトリアは言い訳を必死に考え

「すみません。折角ルシフェル様に誘って貰ったのに、これでは楽しくないですよね?」

震える声でルシフェルに懇願する様に

「私はここで休んでいますので・・・・ルシフェル様はお友達の所へ行って下さい」

(そう、その方が良い。もうこれ以上二人きりは心臓がもたない。だって緊張し過ぎて震えてきてるんだもの!!)

自分の緊張の理由を心の中で叫び、一人にして欲しいと願うヴィクトリア


それなのにあろう事か、ルシフェルはそのまま彼女の隣に座った

(ちょっ、どうして座ってるの!?早くお友達の所に行って下さい!!)

軽いパニックを起こしそうなヴィクトリアに、ルシフェルは心配そうに

「こんな状態のヴィクトリアを、置いてはいけないだろ?」

フルフル震えているヴィクトリアは、心の中で叫ぶ

(貴方の所為でこんな状態なんです!!お願いだから一人にして!!)


「あ、それは大丈夫です。その・・・・ひ、一人の方が、落ち着くので」

(もういい、本当の事を言う!!私は、一人になりたいの!!)

パニックに陥ったヴィクトリアは泣きそうになりながら、心の中で叫び続ける

「・・・俺が居ては落ち着かないですか?」

ルシフェルの声が曇った感じがして、ヴィクトリアは後悔する


(ああ、どうしよう・・彼を傷つけた?怒らせた?こんなにも私を気遣ってくれているのに・・・)

「・・・ヴィクトリア」

ルシフェルは、震えている婚約者を安心させる様に抱きしめようと背中に腕を回す

「い、いや」

驚いて思わず仰け反り、そのまま横になってしまうヴィクトリアに思わずルシフェルは覆い被さる形になるが

「どうして俺が居たら落ち着かないの?」


押し倒したままルシフェルが問い掛け、その瞳はまっすぐにヴィクトリアを見つめる

(やめて、もうこれ以上は無理!!)

記憶を無くし、男性の免疫がないヴィクトリアはまっすぐ自分を見つめるルシフェルに

「ル・・・ルシフェル様が・・・好きだからです」

(もうこれ以上隠せない・・・)

驚いた顔をする彼に、涙目になりながら自分の気持ちを打ち明ける

「判ってます、私が嫌われているのは・・・でも、それでも・・・好きなんです」

ポロッと涙が零れる

(終わった・・・)

幾ら優しいルシフェルでも、自分を軽蔑して見つめているだろう・・・これからは距離を置かれるかもしれない


そう思った次の瞬間

「!?」

自分の唇がルシフェルの唇と重なるのを感じ、柔らかいその感触に何故だか震えが止まる

そして顔を上げたルシフェルは、そのままヴィクトリアを抱き起こす

(何が起こったの?)

ボーゼンとするヴィクトリアの涙を、ルシフェルは手で優しく拭いてやり

「俺も愛している」

優しく微笑んでくれるので、ヴィクトリアは放心状態でルシフェルを見る


ルシフェルは軽く彼女の額にキスをし、優しく抱きしめ「落ち着いたら、帰ろうか」だが彼に抱きしめられ、額にキスをされたヴィクトリアは真っ赤になり

「・・・・い、今の状況では、落ち着けないです」

涙目で訴えると、ルシフェルは笑い「そうか」と言いながら離してはくれない


ルシフェルに抱きしめられている自分が信じられなくて、震えながら尋ねてみた

「・・・・ルシフェル様は、私の事を嫌っているのでは?」

「そうだな、以前の貴方に対しては嫌っていたな」

はっきりと言われズキット胸が痛む

「でも今のヴィクトリアは」

ルシフェルはギュッときつく抱きしめると「好きだよ」そう耳元で囁かれる


耳に彼の息がかかりヴィクトリアは「んっ・・」ビクッと身体を揺らす

(うわぁー、い、息が!!ルシフェル様の息が耳に!!恥ずかし過ぎる!!もう、やだっ!!)

男性に免疫の無いヴィクトリアに、これ以上は刺激が強過ぎる

大人であるルシフェルは、彼女の反応に笑いを堪えながら「これ以上は可哀想なので」そう言うと立ち上がり、顔を真っ赤にしたヴィクトリアに手を差し出す

差し出された手をおずおずと掴んだヴィクトリアを立たせ「帰りましょうか」優しく寄り添ってのエスコートで部屋を出た



一階に下りて行くと、トーマスとティアナベルがソファーで休憩していた

トーマスはルシフェル達が二階から降りて来るのを待っていて「あ、やっと下りて来た!!」声を掛けると、顔が赤くなっているヴィクトリアを見て

「・・・お前等、人の家でイチャついてたの?」

休憩室をそんな事に使わないでくれる?とルシフェルをからかうと、ヴィクトリアはますます顔を赤くし「す・・・スミマセン」小さな声で恥ずかしそうに謝る

「・・・・・」

そんな仕草のヴィクトリアに、ルシフェルとトーマスは男心を揺さぶられる


「えっ、なに?めちゃくちゃ可愛いんだけど!!」

真っ赤になっているヴィクトリアに、トーマスは楽しげに

「いいなあ、その表情!!そそるわぁっ。ティナはこんな顔しないもん!!マジで可愛い」

「貴方相手だから、しないだけよ?それにこんなに恥ずかしがっている女性に、もう少し気を遣いなさい」

バシッと婚約者の背中を叩くティアナベル


真っ赤になって俯きながら、ルシフェルの服をぎゅっと掴んでいるヴィクトリア

「俺達はこれで帰るよ。ティナ、その馬鹿のお守りは大変だろうけど、よろしく」

ルシフェルはそう言ってティナベルに優しく微笑むと、彼女も顔を赤らめ「嫌だけど、頑張るわ」にっこりと笑いヴィクトリア達を見送る


「・・・私も、ルシフェル様が相手だったら顔を赤らめるわよ?」

調子の良い婚約者に、冷ややかな目を向けるティアナベル

「あ、その眼もいいねえ。まあ、俺はどっちにしてもティナを選ぶから」

そう言って笑うトーマスに、ティアナベルは呆れながらも

(まあ、なんだかんだ言っても、私を大事にはしてくれるのだけど)

この調子の良い婚約者のお守りを、ティナは嫌々ながらもずっと見て来たのだ



ティノーズ邸へと向かっている馬車の中、ヴィクトリアはルシフェルに抱きしめられながら夢の中に居る感覚がしている

「・・・トーマスが踊ってくれって言った時、喜んでって言っただろう?」

唐突にルシフェルが話し掛け「はい」頷くヴィクトリアに

「正直、あれにはかなりイラッとしたな」

不愉快そうなルシフェルにヴィクトリアは驚いて

「あ・・あれは、トーマス様がルシフェル様のご友人ですし・・無下には断れないと思いまして」

「だからって、喜んではないだろう・・」

責める様な目で見られ、ヴィクトリアは「スミマセン・・・」と小さくなる


「あの後あいつ、ヴィクトリアに可愛い可愛いって」

イラッとしながら呟くルシフェルは「だから休憩室に連れて行ったんだ」ヴィクトリアの横髪に触れながら、彼女の眼をまっすぐに見つめ

「あいつに渡したくなかったから」

その言葉にドキンッと心臓が跳ね、トーマスがルシフェルに言った事を思い出す

『お前、独占欲強すぎ』

(あれは、私に対してって事・・?私を・・・独り占めしたい・・)

そう思うとカアーっと身体まで熱くなってくる

(どうしよう、嬉し過ぎる)


ヴィクトリアのその様子を見て「俺自身も気づいてなかったな」ルシフェルは意外だという顔をし「何がです?」とヴィクトリアも彼を見つめる

するとルシフェルはヴィクトリアを強く抱きしめ、顔を近づけ「俺は結構、嫉妬深い」そう告げると、ヴィクトリアの唇に自分の唇を重ねる


キスを嫌がらず受け入れてくれるヴィクトリアに、ルシフェルはもう一度「愛してる」優しく微笑む

ヴィクトリアも顔を赤くしながら「わ、私も愛してます。その・・すごく・・」恥ずかしそうに彼を見ると、ルシフェルは嬉しそうに「今度、どこかに行こうか?デートしよう」どう?と提案すると、ヴィクトリアは喜んで頷く


「どこが良いか決めてくれる?」

「ルシフェル様の行きたい所で構いません」

ヴィクトリアは嬉しそうに

「ルシフェル様が選んでくれた場所に行きたいです」

「そうか・・・でも、俺は女性が喜びそうな所は知らないから」

女性に対して優しいルシフェルだが、女性との付き合いはあまりない


「俺はいつも休日はトーマスや他の友人と会ったり、仕事の調べものをしたり、後はのんびりと家でゆっくりしているか、だな」

そう話すとヴィクトリアを見て

「やっぱり、ヴィクトリアが決めて。ヴィクトリアが決めてくれたのなら、俺は何処でも構わないから」

そう言われ、ヴィクトリアは頷き「判りました、それなら考えてみます」そう約束する

(ルシフェル様が喜んでくれる所・・・難題だわ・・・トーマス様に相談してみようかしら?)

ふとそう思ったヴィクトリアだが、これが少しだけ・・・いやかなりルシフェルを怒らせる事になる



ティアノーズの屋敷に着き、ルシフェルに玄関ホールまで送って貰うと、彼は別れ際ヴィクトリアの手の甲にキスをして

「それでは、また」

爽やかな笑顔を見せて帰って行った

その所作にメイド達は歓喜の声を上げ、ヴィクトリアは恥ずかしそうに二階へと上がり自室へと向う

初めての婚約者との夜会は、信じられない位素敵な夜会だった

(まるで夢を見ているみたい・・・)

自室で装飾品を外すとすぐに浴室に向かいシャワーを浴び、自室へと戻るとベッドへと飛び込み今日のルシフェルとの事を思い出し胸を熱くしながら、嬉しさと恥ずかしさで枕に顔を埋める




帰路に着きながら、ルシフェルは思う

悪女だったヴィクトリアが何人もの男達と浮気をしようと、自分にとってはどうでも良かった

政略結婚なのだからお互いに愛情など無く、寧ろ傲慢で我が侭な彼女を嫌っていたから

(でも今のヴィクトリアは違う)


俺を好きだと、顔を赤くしながら涙目で告白してくれた

震えながら抱きついてくる彼女が愛おしい

トーマスが彼女をダンスに誘った時はイラッとして、初めて誰にも渡したくないと嫉妬心が芽生えた


彼女が顔を赤らめ、恥ずかしそうに笑う仕草は、俺だけに向けて欲しい

(だから怖い・・・)

そう、途轍もなく怖い

失った彼女の記憶が戻り、今の愛おしいヴィクトリアを失うのが・・・

誤字報告ありがとうございます

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