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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
59/69

 52話 夜会での出来事と悪女

今日はアリメラの婚約者ロミディオ・セルドスターの屋敷で催される夜会に呼ばれているので、ヴィクトリアはルシフェルが時間通りに帰って来るか心配しながらドレスに着替え、化粧をしてと身支度を整えていく

「ヴィクトリア様は本当に綺麗です・・・」

ウットリと支度を手伝ってくれたメイド達が褒めてくれ

「ありがとう。後はルシフェルが時間通りに帰ってくれれば良いのだけど・・・」

この二日間、ルシフェルは遅く帰って来ている


今日の夜会には早く帰って来てとお願いしているが、もし無理なら「一人でも行きたい」と伝えてみたのだが、当然ルシフェルは「駄目だ」と許してくれなかった

(もし、このままルシフェルが帰って来なかったら・・・夜会は諦めるしかないのね)溜息を吐くヴィクトリア

(一人で行ったら、絶対にルシフェルと喧嘩になる。今度は本当に、嫌われてしまうかもしれない)それは絶対に嫌だ

(凄く楽しみにしていたのに・・・)ヴィクトリアは一人で行くか諦めるか、葛藤する

(ルシフェルが早く帰って来てくれれば、問題無いんだけど)不安そうに時計を見ると、時計は五時三十分を過ぎている

(六時までに帰って来なかったらどうしよう・・・)一人で出掛ければ、間違いなくルシフェルは怒る

(・・・友達は一人で来てるのに)婚約者の居ない友人達の中には、誰にもエスコートされずに一人で夜会に行く者も居る


チラッと時計を見ると、五時三十六分を指している

(大丈夫かしら・・・ルシフェル・・・)

不安を抱きながら深い溜め息を吐くとアメニが「旦那様が帰って来られました」と知らせに来てくれた

ホッとしながらヴィクトリアは急いで帰って来てくれたルシフェルに「お帰りなさい」と出迎え、彼の部屋へと向う


ルシフェルが正装に着替えるのを手伝いながら「早く帰って来てくれてありがとう」嬉しそうに伝えると

「ヴィクトリアの事だから、一人で行こうとしてるんじゃないかと気が気でなかった」

帰るのが少し遅くなってしまい、ルシフェルとしても心配でならなかった

「一人で来てる友人も居るのよ?私だって、一人でも平気だわ」

友人の婚約者の夜会なら心配要らないと断言するヴィクトリアだが、ルシフェルは首を振って

「ヴィクトリアが一人で夜会に行ったら、男達が大喜びで群がって来る。群がって来る連中を、ヴィクトリア一人で対処出来るのか?」

(俺が傍に居ないとなると、絶好のチャンスとばかりにヴィクトリアに群がるのは判りきってる。判っていないのはヴィクトリアだけだ)


ヴィクトリアは困惑しながら

「そんな事、群がって来るって少し大袈裟では・・・?」

そう思うが、以前ルシフェルの幼馴染ミディアルの所為で大勢の男性に囲まれた事があり、その時の恐怖がヴィクトリアにはトラウマになっている

ギュッとルシフェルの服を掴み「・・・判ったわ、一人では夜会に行かない」そう約束する

その言葉にルシフェルも安心し、美しい婚約者を抱きしめ「今日も綺麗だよ、ヴィクトリア」彼女の頭にキスをする



セルドスター伯爵主催の今回の夜会の目的は、アニメラとロミディオの随分と遅い婚約披露の挨拶の為である

招待状を見せルシフェルにエスコートされセルドスターの屋敷の中へと入ると、いつもの事だがヴィクトリアが夜会に姿を見せた途端、近くに居た貴族達が彼女に釘付けになる


「ヴィクトリア様だわ!!」

「嘘・・・ヴィクトリア様がセルドスター伯爵の夜会に来るの?どういう関係?」

ざわざわしだした屋敷内で、ヴィクトリアは恥ずかしそうにルシフェルに寄り添う

「ね?ヴィクトリア。一人で来なくて良かっただろう?」

意地悪そうにルシフェルが笑って尋ねるので、ヴィクトリアは顔を赤くしながら「友達と一緒なら、平気だわ・・・」強がる様に言い返す


(・・・その友達を見つけるまでが、大変なのよ)

そう心の中で呟きながら、キョロキョロと友人達を探す

「まずは当主に挨拶だな」

ルシフェルは夜会での基本、当主であるセルドスター伯爵の所へと挨拶に向う

この当主への挨拶は礼儀として当たり前なのだけれど絶対という訳ではなく、侯爵以上の夜会ではあまりにも人数が多い為、略式として遠くから頭を下げるか、手を少し上げ招待に応じた意思表示だけで許されている・・・けれどそれは招待された側が同格か、それ以上の爵位の者だけ

当然下位の者が招待された場合は、きちんと格上の主催者に挨拶しなければならない


ルシフェルは、ホールの後ろで紳士達と挨拶を交わしているデプッとした中年男性に「セルドスター伯爵」と声を掛ける

声を掛けられた男は若いルシフェルを見てなんだ?という見下した目を向けるが、その隣にいる美しいヴィクトリアに驚いた顔をする

「ルシフェル・アルガスターです。この度は招待ありがとうございます」

そう挨拶すると隣のヴィクトリアに目を遣り「私の婚約者です」と伝えるとヴィクトリアをは頭を下げ「ヴィクトリア・ティアノーズです。よろしくお願いします」ニッコリと笑顔で挨拶をする


ヴィクトリアを噂でしか知らない貴族も居るので、彼女の美しさに皆が見惚れている中セルドスターは満面の笑顔で

「こ・・これは、ティアノーズ侯爵の御令嬢様が、ようこそおいで下さいました。私の主催の夜会に来て下さって、光栄ですな」

興奮しながら、あろう事かヴィクトリアの手をギュッと握る

ヴィクトリアはニッコリと笑っているが格上の、しかも婚約者が居る居ないに関わらず、女性の手に気安く握るなど無礼に当たる・・・ただ、手の甲にキスをする行為は相手に対して敬意を示す行為なので、身分に関係なく許される


ルシフェルは黙ったままヴィクトリアを連れて行き、伯爵が触った婚約者の右手を握ると

「あの伯爵は好色で有名だった。気安く俺のヴィクトリアに触るとはな」

イラッとしながら消毒でもする様にヴィクトリアの右手の甲にキスをし、その姿を見た周りの令嬢達が感嘆の声を上げる

「ヴィクトリア、一曲踊ろう」

令嬢達が自分に熱い視線を送って来るのを無視して、ルシフェルはヴィクトリアを連れてダンスホールに来ると貴族達が嬉しそうに集まって来る


二人が夜会に現れると必ずダンスを披露する噂も流れているので、それを一目見ようと集まる

ヴィクトリアは(ここでもなの?)とウンザリしながらも、彼等の視線を浴びる中ルシフェルとのダンスを楽しむ

「本当に優雅だわ・・」

「今日、この夜会に来て良かった」

噂でしか知らない貴族達はヴィクトリアの美しさに見惚れるが、ヴィクトリアはルシフェルだけを見て踊り、踊り終わると拍手が起こるので、ヴィクトリアは恥ずかしそうにルシフェルに寄り添われてダンスホールを出る


友人達もダンスホールに向って行く二人を見つけ

「やっぱり、あの二人は相変わらずラブラブだわ・・・」

「ヴィクトリア様、本当に素敵よね」

「よくあれだけの注目の中、堂々と踊れるわ。流石ヴィクトリアです」

口々に言いたい事を言っていると、ヴィクトリアが自分達の傍に来たので「相変わらずの注目だったわね」笑顔を向けるティナ


ヴィクトリアは溜め息交じりで「人の踊っているのを見るのがそんなに楽しいかしら?」自分が踊れば良いのにと愚痴を零すと

「あら、ヴィクトリア様だから見るんじゃない」

「やっぱり、美しい者への憧れですよ」

キャロルとディジーがクスクスと笑い「ヴィクトリア様、お久しぶりです」シルメラが声を掛ける

「シルメラ、本当に久しぶりね」

久しぶりに会う友人に喜ぶヴィクトリアに

「ヴィクトリアは益々綺麗に、色っぽくなったなあ。これじゃあ、あの色ボケ伯爵でなくても、手を握りたくなるよ」

そう言うとすかさずヴィクトリアの右手を掴み、トーマスがニッコリと笑う


「と・・トーマス様もお久しぶりです」

手を握られ、ヴィクトリアは驚きながらも挨拶を交わすと「俺の婚約者に、気安く触らないでくれるかな?」ルシフェルが怒りを露にしながらもニッコリと笑いながら、ヴィクトリアの手を握っている友人の手首に思い切り力を込め握り締める

「イタイ、イタイ、痛いって!!・・・本気で握るなよ」

トーマスは、赤くなっている手首を振りながら

「ちょっと手を握っただけでこれか?本当に独占欲強過ぎ・・ヴィクトリアも大変だろう?」

トーマスが涙目で抗議する姿に、二人の遣り取りを初めて見る友人達は驚く

ヴィクトリアは相変わらずなトーマスに心配そうにティナを見ると、ティナは『馬鹿ね』という顔で呆れている


ディジーの婚約者アスランはそんなトーマスをチラッと馬鹿にした目を向け

「初めまして、アスラン・ディスターです。どうぞよろしく」

ルシフェルに笑顔で挨拶し右手を差し出すので、ルシフェルもニッコリと笑い「こちらこそよろしく」と握手を交わし

「婚約者のヴィクトリア・ティアノーズです」

紹介されヴィクトリアが「よろしくお願いします」と笑顔で挨拶する


アスランは嬉しそうにヴィクトリアに

「ディジーからよく話を聞いてますよ。すごく優しくて、魅力的な人だと。本当にその通りだなあ」

そう告げるので、ディジーが「ちょっと」横から声を掛け「余計な事を言わないで」婚約者をヴィクトリアから引き離す

「なに?何か変な事言った?」

アスランが尋ねると、ディジーは恥ずかしそうに「あれじゃ、まるで私が友達の事を貴方にベラベラ話してるみたいじゃない!!」と怒る

けれど実際、嫉妬深いアスランはお茶会での婚約者の交友をあれこれ聞いて来てはディジーが正直に答えているのは確かだ


「アリメラが婚約者を紹介してくれるのは、まだみたいね」

ユアナはアリメラが婚約者と共に挨拶に回っている姿を確認し、待ちきれない様子で呟く

ヴィクトリアは誰か他に見知っている令嬢が居ないか見渡すと「あら、クローディアだわ」彼女を見つけ駆け寄って行くので、ルシフェルも慌てて追い駆ける

そんな親友を見ながらトーマスが「あいつも結構苦労性だよな」うんうんと頷くので「私もなんですけど?」ティナは冷やかに婚約者に告げる

友人達は相変わらずかっこいい婚約者に溺愛されているヴィクトリアを、心から羨ましいと思いながら二人の姿を見守る



クローディアはアリメラからの招待でのこの夜会に参加する為に、兄にエスコートを頼んだ

「クローディア」

ヴィクトリアが嬉しそうに彼女の傍へと来ると、緊張していたクローディアも知り合いに会えてホッとし「ヴィクトリア、お久しぶりです」嬉しそうにお互いに挨拶を交わす

気まずそうにヴィクトリアを見つめるセインにも「セイン様もお久しぶりです」ニッコリと笑顔で挨拶をすると、セインは顔を赤らめ「久しぶりだね・・・その、この前は本当に申し訳なかった」と謝って来る


ヴィクトリアは首を振り「いいえ、あれはセイン様が悪い訳では有りませんから」気にしていないと告げる

けれどルシフェルはヴィクトリアを抱きしめながら「人の婚約者を奪おうとする相手に、俺は同情しない」セインに対しニッコリと笑いながら「俺はヴィクトリア程、寛大じゃないよ?」物凄く怒っているんだと、遠回しに告げる

クローディアは一度見ているかっこいいルシフェルに顔を赤らめるが、兄に対しての対応に妹として申し訳なく感じる


セインも申し訳ないと「もちろん、本当に悪かったと思っている」心から反省しているとヴィクトリアに

「ヴィクトリアが、婚約者の事を愛しているのは判った」

そう言われ、ヴィクトリアは顔を赤らめると「だから、これからは友人として、ヴィクトリアを愛するよ」セインの発言に『えっ?』と驚くヴィクトリアとクローディア


「・・・何を、言っているのかな?」

苛立ちを隠さないで、セインを睨みつけるルシフェルに

「勘違いしないでくれ、ヴィクトリアの事は諦めたんだ。だから、友人として愛していくと言ってるんだ」

愚直な彼の正直な気持ちだが、ルシフェルは冷たい目でセインを見てからヴィクトリアに目を向ける

ヴィクトリアも困惑しながら、ルシフェルに冷やかな目を向けられ

(困ったわ、ルシフェルが物凄く怒ってる・・・)

ルシフェルに目で責められているのは判っているが、こればかりはセインの性格の問題で、ヴィクトリアにはどうしようもない


「友人として愛していく、ですか?とんでもない殺し文句ですね」

冷やかに笑いながらルシフェルはセインに

「もしヴィクトリアに今度また馬鹿なちょっかいを掛けたら、例えヴィクトリアが許しても俺が許さない」

そう警告すると「例え騙され利用された被害者だとしても、騙された方にも責任は有るんだからな」と、ルシフェルはセインにそう忠告する

セインはルシフェルの怒りを理解し「判っている。本当に申し訳なかった」と再度謝り、四人で友人達が集まっている所へと向う



侯爵令嬢に、いずれ侯爵を継ぐ子息が二人も居れば伯爵主催の夜会では嫌でも目立つ

ヴィクトリアとクローディアと楽しげに談笑する伯爵下位の友人達に羨望の眼差しを送り、ルシフェルとセインと話しているトーマスとアスランに紳士達は妬みの目を向け、自分達もどのタイミングで話し掛けるかジッと様子を窺っている貴族達


「俺はクローディアの兄で、婚約者では無いんです」

セインがトーマスとアスランにそう説明するので「それなら令嬢達が引っ切り無しに声を掛けて来るんじゃない?」トーマスが羨ましいと軽口を叩き、セインは

「いやあ、まあ、声は掛けられますが・・・なかなかこう、心奪われる様な女性は現れません。素晴らしいと思えた女性にはすでに婚約者が居て、本当に残念でならないです」


明らかにヴィクトリアの事を言っているセインに、ルシフェルは黙ってシャンパンを飲む

「失恋か。そういう時は飲むに限る。ところでその素晴らしい女性って、ヴィクトリア?」

トーマスの問いにセインは飲んでいたシャンパンで咽るので

「だろうな。ヴィクトリアは相変わらず罪作りだなあ・・」

ニヤニヤ笑いながらルシフェルを見る


女性陣は婚約者の居ない令嬢達が挙ってセインを紹介して欲しいとクローディアに頼んでいた

「そ、それは構わないのですけど、兄は何ていうかその・・・少し真っ直ぐな所がありまして・・・それでも良いというのであれば」

ドキドキしながらクローディアは、兄を友人達に紹介する事に戸惑っている

「まあ、相手が侯爵だもの。ちょっと位、変人でも婚約したがるわよね」

ティナの言葉にヴィクトリアが驚いて「セイン様は変な人ではないわ。どうしてそんな事・・・?」するとティナは笑って手を振って

「違うわよ。セイン様がって言う訳じゃなくて、侯爵様相手ならって言う意味よ」

その言葉に、確かにルシフェルは悪女のヴィクトリアと婚約をした事を考える

(ルシフェルも、私が侯爵令嬢だから婚約したのね・・・もし私が伯爵以下の令嬢だったら、ルシフェルと婚約出来なかったの?)



そんな他愛もない会話で時間を費やし、漸くアリメラがロミディオと一緒に挨拶に来る

「ごめんね、待たせてしまって。彼が婚約者のロミディオよ」

アリメラは疲れた様子で彼を紹介すると「どうも、ロミディオ・セルドスターです」笑顔で挨拶してくるロミディオ

最初は家格が上のヴィクトリが「初めましてヴィクトリア・ティアノーズです。彼は婚約者です」恥ずかしそうにルシフェルを紹介すると、ロミディオは

(なんて綺麗な人なんだろう・・・しかも可愛い)

呆けていると「ルシフェル・アルガスターです。よろしく」とルシフェルが挨拶してくるので慌てて我に返り


「こちらこそ。ヴィクトリア様の婚約者と言うと、いずれはあのティアノーズを継がれるのですね?」

確認の為に尋ねると、ルシフェルはニッコリ笑い「ええ、いずれは」と答える

次はクローディアとセインが挨拶をすると

「セイン様も、いずれは後を継がれるのですね?」

「まあ、このままで行けばですが。しかし、もしかしてクローディアの夫が後を継ぐ事になるかもしれませんし、行く末なんて何が起こるか判りません」

「お兄様・・・」

そんな返答をする兄に困った表情をするクローディア・・・クローディアはこんな兄を、後で友人達に紹介する事になっている


ティナとトーマスから伯爵の順に挨拶していき、最後は子爵のユアナで終わると

「ごめんね、折角来てくれたのにゆっくりと話せないのよ。まだ挨拶回りが終わらなくて・・・」

アリメラがそう詫びると、ロミディオがめんどくさそうに「もう良いんじゃないか?」と、ルシフェルとセインに目を向け「それよりも折角ですし、お二人との親交を深めたいのですが」とあからさまの態度で二人に話し掛ける

「でも、まだ友人達全員には挨拶出来ていないから」

アリメラが困りながらそう伝えるとロミディオはムッとし、不機嫌な様子で彼女を連れて行ってしまった


「何か嫌な感じ」

ユアナはアリメラを心配そうにしながらロミディオに対して悪態吐く

「挨拶回りって大変なのね・・・」

夜会ではヴィクトリアもルシフェルに付き合って挨拶回りをしているが、彼女の場合は大好きなルシフェルの傍に居られて嬉しいから苦にならないが、アリメラはとても辛そうだった


アリメラに婚約者を紹介して貰ったのでヴィクトリア達はこのままサロンへ移って話す事にし、ルシフェル達もまた男性だけで話す事になる

「それにしても、ヴィクトリアはまた一段と色っぽく、大人の女性って感じになって来たなあ。お前が独占したくなるのは判るけど、あんまり束縛が強いとそのうちヴィクトリアが嫌がって他の男の所に行くかもな」

無責任にトーマスがそう告げると「えっ?」と嬉しそうに顔がにやけるセイン

そんな二人を睨みつけるルシフェルに、セインは黙ってシャンパンを飲みトーマスは平然としている



サロンでは令嬢や貴婦人がヴィクトリアを気にしてチラチラ見て来る

「アリメラは大丈夫かしら?何だか疲れていたけど」

ヴィクトリアは心配すると、キャシーとユアナが

「あのロミディオは感じ悪い」

「アリメラを大事にしてないのが、よく判りました」

憤慨しロミディオに対して、あまり良い印象を持てなかった

「そうねぇ。アリメラは子爵で、相手の婚約者は伯爵ですから・・・そこにどうしても遠慮があるのかもしれませんが、アリメラが自分の気持ちを相手に頑張って伝えなければ、上手くはいかないでしょうね」

シルメラもこればかりはと心配し、折角友人が全員が揃った夜会なのに何となくロミディオの所為でアリメラが可哀相という話しになってしまった


そこへアリメラがサロンに入って来る

「アリメラ、挨拶回りご苦労様です」

挨拶回りが終わりロミディオから開放されたと思い、キャロルは彼女を労うがアリメラは青い顔をして

「ロミディオに怒られたわ・・・折角、次期侯爵様達と交友が持てる機会なのに、邪魔をするなって・・・・」

「なによ、そんな言い方」

「子爵だからって、馬鹿にしてるんじゃないですか?」

ユアナとエルザベス、子爵令嬢がムッとする


「それで、挨拶回りは終わったの?」

ティナがアリメラに確認すると、アリメラは泣きそうになるのを堪えながら

「セルドスター伯爵にも言われたわ。ヴィクトリア様と私では雲泥の差だ。私では、目の保養にもならない役立たずだって」

それを聞き友人達の表情が強張る


「だから、挨拶回りはもう良いから、帰れって」

堪えきれずに顔を手で覆い泣き出すアリメラに、その心無い言葉に友人達も心痛め伯爵に対して怒りを抱く

けれどアリメラがとても可哀相で、セルドスター親子が最低なのは判ったが、こればかりは家の問題なので友人達はただ泣いているアリメラに寄り添い慰めてあげるしか出来ない


「・・・どうしてもアリメラは、ロミディオ様と結婚しなくてはいけないのかしら?」

ヴィクトリアはアリメラが嫌がっているのは判っているが、向こうだって彼女を望んでいないのならもしかして破談出来るのでは?と考える

「お互いに望んでいなくても、家同士の利益の為に結婚するのが政略結婚なのよ。ヴィクトリア様達の様に、相思相愛になれる方が珍しいんです」

そう告げるとアナベルは可哀相にとアリメラに同情し慰める


(そう・・そうなのよね。私もルシフェルに嫌われていた時に婚約破棄を提案したら、同じ事を言われたわ。あの時は、ルシフェルが気の毒だと思ったもの・・・)

友人達はアリメラが不憫で仕方がないが、自分達ではただ彼女を慰める事しか出来ない

泣いて少し落ち着いたアリメラは「今日は来てくれてありがとう。折角来てくれたのにごめんね」と謝るので

「何言ってるの、貴方は悪くないわ。最低なのはセルドスター親子よ」

友人達は何とかあの親子の鼻っ柱を折ってやりたいと考えるが、ただそれには


「いい?ヴィクトリアとクローディアが頑張ってくれないと困るのよ?」

ティナが提案した作戦に、ヴィクトリアは青褪めながらも「が・・・頑張るわ」と答え、クローディアも震える声で「すみません、私も頑張りますが・・・」すでに涙目になっている

「ルシフェル様とトーマスが言うには、あのデブが女好きって事だからね。ヴィクトリアとクローディアだったら、絶対に色目を使えば落とせるわ!!」


ティナ達は自信満々にそう告げるが、シルメラは心配そうに

「本当に大丈夫かしら?容姿は問題ないですが、問題はこの二人が、あの伯爵を誘惑する・・・流石に無理がある様な」

「ちょっと恥を掻かせるだけよ。失敗しても、二人は侯爵令嬢なんだもの、向うだって強く非難は出来ないでしょう?」

友人達は青褪めている仕掛け人の二人を見て「頑張って、アリメラの為にも!!」と応援するが、アリメラは

「やめて!!そんな事して、後でどうなるか判らないわ・・・」

不安になって止めるが「何とか頑張るわ」ヴィクトリアは覚悟を決める

「アリメラを傷つけた事は、許せないもの」

内心では物凄くドキドキしているのだが、ヴィクトリアとクローディアはお互いを見て覚悟を決めた様に頷く


「あっ、でも・・・誘惑ってどうすれば良いのかしら?」

一番肝心な遣り方が判らないヴィクトリアに、友人達は脱力気味でがっくりと項垂れる

それからティナ達の指導の下ヴィクトリアとクローディアは成る程と頷き、作戦を聞いていたシルメラは顔を赤くする

即席で誘惑の仕方を学んだヴィクトリアとクローディアは、ドキドキしながらサロンを出ると真っ直ぐセルドスター伯爵の下へと向う

「ど・・どうしましょう。今すぐ逃げ出したいです」

クローディアが震えながらやっぱり無理ですと訴えて来るので、ヴィクトリアは「お願い、一人にしないで」と懇願する

サロンから出てそんな遣り取りをする二人をルシフェルは目敏く見つけ(?)そのままセルドスター伯爵の所へ向かって行くのを不審に思う


「せ・・セルドスター伯爵様」

ヴィクトリアは緊張しながらも、ティナに言われた通りにニッコリと笑って声を掛ける

クローディアも笑っているが、自分でも顔が引きつっているのが判る

「おお、ヴィクトリア嬢。私に何か用かな?」

美しいヴィクトリにニッコリと微笑まれて、紳士達と話していたセルドスターは嬉しそうに二人に近づく

(ううっ・・・怖いわ。でも、アリメラの為に我慢よ)そう自分に言い聞かして


「先程、ロミディオ様が婚約者の方と挨拶に来てくれたのですけど・・・」

ヴィクトリアは、ティナが教えてくれた台詞を一生懸命思い出しながら

「セルドスター伯爵様の様に、本当に素敵な方ですね。私、羨ましくなりました・・わ」

ニッコリと笑うヴィクトリアに、クローディアもすかさず

「ええ、本当に。私・・・年上の頼もしい方が好きなので、まだ婚約が決まってませんから、とても・・・う、羨ましくて」

クローディアの恥ずかしそうに拙い仕草がまた可愛らしく見えるのだろうが、実際は極度の緊張でしどろもどろしていた

その為に本当は『伯爵様の様な、頼もしい年上男性が好みですの』と、お世辞の科白が吹っ飛んでしまった


「おお、そうですか。貴方はまだ、婚約者が居られないと?それは気の毒に」

ニヤニヤ笑いながら、クローディアを品定めする様に見つめるセルドスターに恐怖を感じるクローディア

(駄目よ。ここで逃げたら、ヴィクトリアを見捨てる事になるわ。我慢、我慢するのよ)

クローディアは震えながらも、微笑み続ける

セルドスターと話しをしていた貴族達も、美しい令嬢二人に微笑まれているセルドスターを羨ましそうに見ているので、彼は気分を良くし


「そうか、それなら息子の婚約を解消して、貴方を新に婚約者として迎え入れようか?」

と笑い出すので、その言葉に「えっ?」と驚くヴィクトリアとクローディア

本当はこの好色伯爵がどちらかに触れようとしたら、大声で「無礼だわっ」と手を叩き恥を掻かせる・・・その程度で終わる筈だったのだ

「いやあ、もし貴方の様な美しい令嬢が息子の嫁に来てくれたら、さぞ楽しい日々が送れそうだ」

気味の悪い笑みを浮かべクローディアを下から上へと見定めながら薄気味悪く舌なめずりする伯爵に、クローディアはすでにうるっと涙目になっている


「・・・それは、今の婚約者との破棄を考えると言う事ですか?」

ヴィクトリアが尋ねると「そうですなあ。この娘の方がずっと、息子の嫁に相応しいですからなあ」ニヤニヤと笑いながら、クローディアに触れようと伯爵の手が伸びる

(いやっ、手を払い除けないと)

クローディアは震えながら彼の手を払わなければと思っていると、その前に伯爵の腕を掴む者が居た


怒りを露にしたセインが「俺の妹に、気安く触らないで貰おうか?セルドスター伯爵」掴んだ伯爵の腕をさらにギュウッと力を入れる

「い・・・痛い!!は、離せっ、この若造が!!」

顔を真っ赤にして痛がりながらセインに怒鳴るセルドスター伯爵だが、セインが彼にまだ挨拶をしていなかったので、侯爵子息である事を知らずてっきり伯爵以下の子息だと思い込んでいる

「若造だと?たかが伯爵が、次期イヴェラノーズ侯爵の俺に向って、随分と無礼な口を利くな?」

「お兄様・・・」

涙目になっていたクローディアは、兄が助けに来てくれて心からホッとする


「こ、侯爵?まさか・・・」

セルドスター伯爵がヴィクトリアではなくクローディアに触れようとしたのは、単に彼女が伯爵かそれ以下の爵位の令嬢だと思ったからだ

「セルドスター伯爵。先程の私の婚約者に対しての無礼な振る舞いといい、少し節度が乱れ過ぎているのではありませんか?」

ルシフェルが冷やかに彼を睨みつけヴィクトリアとクローディアを庇う様にセインと二人、伯爵の前に出るので周りは「何だ?」ザワザワ騒ぎ出して注目される


(ルシフェル?どうして・・・?)

ヴィクトリアは、ルシフェルが自分を庇う様に現れ不思議に思う

「私が、婚約者の手に触れた無礼を我慢した事で、気を緩め過ぎたのかな?まさか今度はクローディア嬢にまで触れようとするとは」

ルシフェルはセルドスターに冷たく「二人もの侯爵令嬢に対する無礼は、見逃せませんよ?」そう告げると、彼の腕を掴んでいたセインが

「お前、俺の妹を貴様の息子の嫁に相応しいとか言っていたな?」

さらにギュッと力を込め、痛がるセルドスターに「お前の息子では、俺の妹の相手には相応しくない」腕を折る勢いでいるセインに、慌ててヴィクトリアとクローディアが止め

「こんな奴の腕の一本ぐらい、別に折っても良いだろう?」

とんでもない事を言うセインに「構わない」と同意するルシフェルだが「駄目ですよ!!」侯爵令嬢二人が必死で反対する



セルドスター伯爵は二人の侯爵令嬢に猥褻な行為を働いたとして衛兵を呼ばれ捕えられ、仲の良い友人達と談笑していたセルドスター夫人は「何事です?」と青褪め、衛兵に連れて行かれる夫に呆然とするしか出来ない

「何だか・・・大事になってしまったわ」

青くなっているヴィクトリアとクローディアは被害者として事情聴取を受ける為にその場に留まる事になり、夜会は解散、お開きとなる


「でも、どうしてルシフェルとセイン様が助けに来てくれたの?」

不思議そうにヴィクトリアがルシフェルに尋ねると

「ティナがヴィクトリア達に何か遭ったら大変だからと、俺達に知らせに来たんだ。それで危なくなったら助ける為に近くで様子を窺っていたんだが、あの色ボケ伯爵、ヴィクトリアとクローディアしか全く見えてなかったみたいだな」

ルシフェルは答えながら呆れている

ルシフェルは、セインが妹に近寄る伯爵に怒りを露にすぐにでも殴りかかりそうになり、それを止める方が大変だったと話し、ロミディオはトーマスとアスランに捉まっていて伯爵の所に行けなかった



こうしてセルドスター伯爵は、二人の侯爵令嬢に対して猥褻罪として重い処分が下された

それは奇しくもアルフレドが議会に提案していた夜会での風紀に対する厳罰化を訴えていて、丁度可決に至った時に起こった事件だった為に、見せしめとして彼は厳しい処分を受けてしまったのだ

アルフレドはセルドスター伯爵が猥褻を働いた侯爵令嬢の一人がヴィクトリアだと知り、激しい憎悪を抱いたが調書で手を握っただけだと判り処分をランドルに委ねた

当然セルドスターは猥褻罪など可笑しいと抗議したが、そこへランドルが現れ『娘に対する無礼に、本来なら爵位剥奪の訴えも考えているが、貴様が罪を認め息子に家督を譲るのであれば見逃してやる』と、とんでもない条件を出して来た


セルドスターは『ただ手を握っただけだ!!』と訴えると

『貴様の様な薄汚い豚が、我が娘の手を握ったこと事態が極刑に値する。そう思わないのか?』

ランドルは、ヴィクトリアに汚い手で触った奴は万死に値すると言っているのだ

『ただ、手を握っただけなのにっ!?』

何度もそう必死に訴えながらも、彼はセルドスター伯爵家を護る為に泣く泣く罪を認め家督を息子に譲った



後日談として、夜会で起こったこのセルドスター伯爵の処分に、男性貴族達の間では戦々恐々と囁かれる噂が出来た

「ティアノーズの娘に対して無礼を働けば、些細な事でも大変な事になる」

そんな恐ろしい噂が流れる事になった


またアリメラとロミディオとの婚約は、セルドスター伯爵が猥褻罪で処分された事もありロミディオから破棄を申し出て、それをアリメラの父ジルクガスト子爵が受け入れた為に婚約は解消となった

婚約解消の手続きの時に、ロミディオは心からアリメラに謝罪した

アリメラはロミディオとの婚約が解消されてホッとした反面これから縁談が来るか不安になるが、それでもロミディオと結婚せずに済んだ事は嬉しかった


この夜会での事件は、瞬く間に貴族の間で広がり『またヴィクトリア侯爵令嬢が一人の令嬢を救う為に、己を犠牲にして悪しき伯爵を懲らしめた』と噂が囁かれる


実際にセルドスター伯爵を懲らしめたのはルシフェルとセイン、そして陰の立役者アルフレドとランドルなのだが

こうしてヴィクトリア達は、自分達のした事が大事になってしまった事に当惑するが、アリメラが不幸な結婚をせずに済んで心から喜んだ

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