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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
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 44話 家路につく悪女

ルシフェルの両親に会いにコッコス村に来て四日

予定では二泊三日の滞在のつもりだったのだが、村祭りを見に行く為にもう一泊する事になった

いつもの様にルシフェルが先に目を覚ますと、ヴィクトリアが自分に寄り添いながらぐっすりと眠っていて、目には薄っすらと泣いた跡が残っている

ルシフェルは愛する婚約者を心配し、優しく抱きしめ「どうして泣いているのか、教えて」そう懇願すると「ん・・・」ヴィクトリアが目を覚ます


「おはよう」

愛する婚約者に優しく声を掛けると「おはよう・・・」眠たそうにヴィクトリアも挨拶を返すので、ルシフェルはヴィクトリアの頬を触りながら「また昨日も泣いてたな」心配そうに怖い夢でも見たのか?と尋ねると、ヴィクトリアは困った様に「判らない」そう答える

ヴィクトリアは多分寝ている時に涙が出ているのだと話すと「何か辛い事があるなら言って。本当に心配なんだ」優しく言い聞かすルシフェルに、ヴィクトリアは考える


(辛い事・・・今は、お母様の夢を見る事・・それと、お父様との事・・・まだ戯れの件が解決していない事・・・ルシフェルの帰りが遅くて寂しい事・・・)

けれど、それをルシフェルに話した所でどうにもならない事はヴィクトリアも判っている

(ルシフェルだって忙しいのよ、困らせては駄目)

そう自分に言い聞かせ、何も無いと答える



朝食を終え、ユリアンヌとルシフェルとマイルとソフィーの四人は応接間でお茶を飲みながら少しの時間の団欒を楽しむ

「それにしても、この三日間は本当に楽しかったわ。貴方さえ良ければまた来て頂戴ね」

ソフィーがヴィクトリアにそう告げると、ヴィクトリアも嬉しそうに

「はい。私もここの、のんびりした感じが好きなのでまた遊びに伺いたいです」

「その時はもっとゆっくりして欲しいわ。今度は他のお菓子も作りましょう」

「私も、お母様に教えて貰いながらお菓子作りするの楽しみにしてます」

嬉しそうにそう答えるヴィクトリア

母を早くに亡くしたヴィクトリアにとっては、ソフィーが義理とは言え母親になるのだ



昼食を早めに済ませ、マイル達との別れを惜しむ

「それじゃあね、またいらっしゃいね」

ソフィーが少し寂しそうに優しくと笑いながら伝えると、ヴィクトリアも頷き

「・・・お世話になりました。また会いに、遊びに来ます」

娘が母親に甘えるように、ソフィーに抱きつく

実の父であるランドルとは少し距離を感じているヴィクトリアにとっては、マイルとソフィーの様な両親こそが理想で、僅かだがそんな二人と楽しく過ごせた事が本当に楽しかった

馬車が走り出し、相変わらず屋敷を窺っていた若者達は美しい令嬢が帰って行く事を知り物凄くがっかりする


「この四日間、本当に楽しかったわ」

ヴィクトリアは嬉しそうにルシフェルにそう告げる

心配したいた婚約者の両親はとても良い人達で、なんとか気に入って貰えたみたいだし大好きなルシフェルともずっと一緒に居られた

ただ、夢の中で思い出した母との事が少し辛かったが、あれもルシフェルを困らせるなと言う忠告なのだろうと受け止める


「俺も楽しかったけど」

ルシフェルは少し不満そうに抱き寄せているヴィクトリアに

「俺が入浴後、すぐ部屋に行ってるのにいつも寝てるんだからなぁ。あれ、ワザとなの?」

恨めしそうに尋ねるとヴィクトリアは顔を赤くして

「一緒に寝てるだけ良いでしょう?本当はそれすら、恥ずかしかったのに」

なに言ってるの?と責めるルシフェルに抗議すると「今夜は、寝てても関係ないから」そう断言するルシフェルは、ヴィクトリアの耳元で

「ホテルでは三日間の憂さを晴らすから、覚悟して」

「んっ・・・」


真っ赤になりながら耳を触るヴィクトリアは、そのままギュッとルシフェルにしがみ付く

(こうやってルシフェルと一緒に居られるのは今日を含め、あと三日だけ。それからはまた・・・いつもの日常に戻る)

そう思い、考え直す

(違うわ・・・お父様にお母様との思い出の場所を聞いて、そこへ行ってみよう)

ヴィクトリアがそう計画を立てていると「ヴィクトリア?眠ったのか?」大人しくしている婚約者にルシフェルが覗き込む

馬車に揺られながらウトウトとヴィクトリアはルシフェルに寄り添い、長い移動時間少し眠る事にする



眠りに落ちたヴィクトリアは、今度はもう少し大きくなった・・・七歳の時の夢を見る

「お母様、どうしてお父様はいつも居ないの?」

母親に問い掛けるヴィクトリアに「・・・・・」母親は答えない

ヴィクトリアはそんな母親に「私、お父様に会いたい」そう訴えるが

「良い?二度とそんな事を言わないで。あの人は、私達よりも仕事の方が、権力と言う地位を築く方が大事なの。だからもし、お父様の仕事の邪魔をしたら・・・・嫌われるわよ」


そう言い聞かせてくる母親に『嫌われる』その言葉を聞いて、ヴィクトリアは泣き出す

けれど泣いている娘を、母親はただジッと見ているだけで抱きしめたりはしない

悲しくて泣いている子供の自分と同調する様に、ヴィクトリアもまた眠りながら涙を流す

「!!」

ルシフェルは眠っているヴィクトリアの涙を確認し「また泣くような夢でも見ているのか?」ギュッと彼女を抱きしめる


強く抱きしめられ、フッと目を覚ますヴィクトリアは涙を零しているので

(ああ、また泣いていたのね)

ヴィクトリアにとってはその程度の事だが「ヴィクトリア、怖い夢でも見たのか?」ルシフェルが心配するので、涙を拭きながら首を振る

(お父様に会いたいとか、仕事の邪魔をしたら嫌われるなんて、どうしてお母様はそんな事を言ったのかしら?泣いている私を抱きしめてもくれない・・・)

それは父に会えない事よりもずっと悲しかった・・・ヴィクトリアはルシフェルに抱きしめられながら思う

(今はルシフェルがお父様の代わりに傍に居てくれて、お母様の代わりに抱きしめてくれる)

その事が本当に嬉しく、有り難いと思う


夕方近くにコッコス村に行く時に泊ったホテルに着き、そこで一泊する

スイートルームの部屋で少し寛ぐとドルトンと一緒に夕食を取り、朝早くに出るのでと早めに休む事にする

先に入浴を済ませたヴィクトリアは、ルシフェルがシャワーを浴びている間にベッドに横になる

(今日はずっと馬車に乗っていただけだけど、疲れた・・・)

そう思いながら目と瞑ってウトウトしていると、裸のルシフェルが覆いかぶさってくる

眠たそうにヴィクトリアはボンヤリ目を開けルシフェルを見ると「言っただろう?寝てても関係ないって」顔を近づけ、キスをしてくる



翌朝、ルシフェルはヴィクトリアが泣いていないか確認すると、ぐっすりと自分に寄り添って眠っている愛しい婚約者の目に涙の痕は無かった

ホッとするルシフェルは、優しくヴィクトリアの頬にキスをして起こす

三人は朝食を取ると再びティアノーズの屋敷へと向うが、これからまだ八時間近く馬車に揺られる事になる

(帰ったらすぐにお父様にお母様との思い出の場所を聞いて、その場所に行ってみよう)

「お母様の事が少しでも思い出せれたらと思って、アメニを連れて行ってみようと思うの」

「それは場所にもよるな。コッコス村みたいに遠かったら駄目だ。ヴィクトリアとアメニだけでは危険過ぎる」

ヴィクトリアは母との思い出の場所に行く事をルシフェルに伝えると、ルシフェルは当然の様に反対する


「騎士の護衛だって就けて貰うわ。男の使用人も誰か連れて行けば良いでしょ?」

「それでも駄目だ。ヴィクトリア、どうしてもって言うならまた休暇を取って、俺が連れて行く」

ヴィクトリアが心配なルシフェルが困った様に言い聞かせてくるので

(ルシフェルはいつも忙しいじゃない!!今度の休暇っていつよ!?)

そう叫びたかっが、グッとまた言葉を飲み込む


「・・・判ったわ」

ヴィクトリアのその言葉でルシフェルは納得したのだと思い抱き寄せるが、けれどヴィクトリアは抱きしめてくるルシフェルから離れ

「お父様にお願いするわ。お父様が好きにすれば良いと言ってくれたら、出掛ける」

(どうせお父様は、私の好きにすれば良いとしか言わないもの)

そのままルシフェルに背を向けて外の景色を見る

ルシフェルの休暇を待ってたら、いつになるか判らない・・・ヴィクトリアにはそれが判っていた


ヴィクトリアのそんな態度にルシフェルは驚くが、暫く馬車に揺られながら二人は無言のまま過ごす

(お父様にはいろいろ聞きたい事があるもの。これを機に、聞きたい事が聞ければ良いんだけど)

親族との関わりが無い事と、どうして自分の婚約者にルシフェルを選んだのか・・・そして母の死について

(お母様の事も、何も知らないもの。どうして亡くなったのか、それが一番知りたい)

ズキンッと、また胸が痛む

(私が泣いていても、ジッと見つめるだけで抱きしめてくれなかった・・・私はお母様に、愛されていたのかしら?)

それを考えると泣きそうになるのでヴィクトリアは考えるのを止め、後はずっと外の景色を眺めながら思い出の場所に行く為の準備の事を考える


ルシフェルは、抱き寄せたヴィクトリアに拒まれ『お父様に頼むから』と頑なな態度に驚き、そしてずっと自分に背を向け、外を見ているヴィクトリアに溜息を吐く

屋敷に戻ったらランドルに、ヴィクトリアの事を相談するつもりだった

(記憶を無くしたヴィクトリアと、悪女のヴィクトリアはまるで別人としか思えない・・・)

一度専門家に見せたいのだが、ヴィクトリアがまさかすぐに出掛け様とするとは・・・それも母親との思い出の地へと

心配と不安で仕方がないルシフェルは当然反対する

(記憶を取り戻したいのか?どういうつもりなんだ!?)

ヴィクトリアの気持ちが全く判らないルシフェル


馬車は四時間ほど走り続け漸く田舎の風景から都会へと変わり、昼食と休憩を取る為に高級レストランで食事をする事に

当然ドルトンも一緒なのだが、ヴィクトリアとルシフェル二人の様子に気まずい感じがして居た堪れない

(えっ?この二人また喧嘩か?仲が良いのに何でこう、すぐ険悪になるんだ?)

主人達の様子を窺いながら、三人は個室で食事を取る


(何か、喧嘩をしてる雰囲気になってるわね・・どうしよう。折角ルシフェルと一緒に居られる、大事な時間なのに・・)

ヴィクトリアはチラッとルシフェルを見ると、無言で食事をしている彼に

(怒ってるわよね・・・どうしよう。でも、お母様との思い出の場所には絶対に行きたい。でないと、あの夢をずっと見るような気がする・・・大袈裟かもしれないけど)

何とかルシフェルの怒りが治まらないかと願いながら、ヴィクトリアも仕方無しに黙々と料理を口に運ぶ


ルシフェルは無言で食事をしながらヴィクトリアを見ると、彼女も黙々と食事をしている

(まだ機嫌が悪いのか?田舎って王都から何処もかなり離れている・・・そんな遠出を、ヴィクトリアだけで行かせられる訳ないだろう。幾らランドルだって、許可しない筈だ)

それは判っているから良いのだが

(折角二人だけで過ごせる大事な時間なのに、機嫌を損ねさしてる場合じゃないんだが・・・こればっかりはなぁ)

自分の言い方も悪かったかも知れないが、いい加減機嫌を直して欲しいと思うルシフェル


一番可哀想なのはドルトンだった

折角の高級料理も、主人二人が険悪な所為で味が半減である(いや、本当はどれも最高の料理で美味しかったが)

「あのう・・・お二人はまた、なにを喧嘩してるんです?」

馬車に乗る時はあんなにも仲が良かった・・・一体何があったのか尋ねると

「ヴィクトリアの機嫌が悪いんだ」

溜息を吐くルシフェルに、ヴィクトリアは「ルシフェルが怒ってるんでしょう?」と彼を責める様に言い返すので、そんな二人の遣り取りに(ああ、これは相当険悪だ。長引くぞ)と覚悟したドルトン


「俺は怒ってないよ、ただ心配だから反対しているんだ」

ドキドキしながら、ドルトンはルシフェルを見る

「私も機嫌が悪いわけじゃないわ。ただお母様との思い出の場所に、一刻も早く行きたいだけよ。それは判ってくれても良いでしょう!?」

(これは大喧嘩になる?)と不安げにヴィクトリアを目を向けるドルトン


ルシフェルは溜息を吐き

「判った。もしその場所がすぐ行けるほど近かったら次の休みに連れて行く。でも遠かったら、その時はなるべく早く長期休暇を貰うから、それまで我慢して。必ず俺が連れて行くから」

ヴィクトリアが心配なんだと、ルシフェルが訴えると

「・・・でも、ルシフェルは忙しいでしょう?迷惑は掛けられないもの」

ヴィクトリアが無理はさせられないと伝えると、ルシフェルは笑って

「ヴィクトリアと一緒に居られるなら、構わないよ。だから、一人では絶対に行かせない」

それだけは絶対に駄目だと譲らない


ルシフェルが心配してくれるのは嬉しいが

「私だってルシフェルが一緒に来てくれるのは、凄く嬉しいのよ。でも・・・本当に休みを取れるの?無理ならアメニを連れて行くわ。長くは待っていられないもの」

本当は、一刻も早く向いたいヴィクトリアに「判ってる。でもすぐって訳にも行かないから、それは判って欲しい」頼むよと訴えてくるので、ヴィクトリアは仕方無しに頷く


「ヴィクトリアが心配なんだ。それは判ってるだろう?」

両親の田舎でどれだけ男達がヴィクトリアに熱い視線を向けていたか、それを思うと自分が傍に居ない旅行などさせられないルシフェルに

「私だって、ルシフェルが一緒に来てくれた方が嬉しいわよ・・・だから、早くしてね」

お願いよと、訴えるヴィクトリアにルシフェルも笑って頷く

「勿論だ。俺だって、またヴィクトリアと二人で出掛けられるのは嬉しいんだから」

(何なんだ・・・これ)

二人のイチャつき振りを見せられているドルトンは、やっぱり一番の被害者だった



再び馬車に乗り込み、ティアノーズ邸へと向う一行

馬車の中、ヴィクトリアは嬉しそうにルシフェルに抱きしめられている

「休暇もあと僅かになってしまうわね・・・」

「そうだけど。前にも言った様に、秘書が来たら忙しさも落ち着くから」

ルシフェルは優しく笑い「俺も、もっとヴィクトリアと一緒に居たいからな」その言葉にヴィクトリアは驚いて

「本当?それって仕事よりも、私の方が大事って言う事?」

ずっとランドル同様、ルシフェルも自分よりも仕事を優先すると思っていたヴィクトリア


「仕事とヴィクトリアを比べられないだろう?仕事は責務だし、ヴィクトリアは大事な存在だし」

笑うルシフェルにヴィクトリアは

(そうなのね・・・でも、お父様はどうなのかしら?)

自分があの事故に遭った時、ランドルは心配のあまり屋敷で仕事をしてくれていた

(愛情は持ってくれているのよね?そう、思っていて良いのよね?)

少しだけ、父親に対しての溝と不信感が和らぐヴィクトリア


昼食を食べたからか、ルシフェルに抱きしめられながらウトウトと眠たくなってくる

(ルシフェルに抱きしめられるていると・・本当に安心する・・・)

大好きな彼に抱きしめられている感覚、温もり、匂いを感じながら安心して眠るヴィクトリアだが、ルシフェルは眠っているヴィクトリアがまた泣き出すのではないか?と心配する

自分の腕の中で安心して眠っている愛する婚約者の寝顔を見ながら、そのまま優しく抱きしめる

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