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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
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 41話 海を満喫する悪女

昼近くに漸く海が見えて来て、子供の様にはしゃぐヴィクトリア

「海だわ・・あ、あれ見て、小さな船が沢山!!」

風と共に海独特の潮の香りが漂ってきて、ヴィクトリアは嬉しそうに船を指差しルシフェルに教える

「ここは漁港が盛んなんだ。こういう王都から離れた港では、取れた海産物を主に干物や練り物、塩漬けにした物を瓶詰めにして王都へと運ばれるんだよ」

生魚では腐ってしまうからと、ルシフェルが説明してくれる


海ではしっかりと日焼けした子供達が海水浴を楽しんでいる

季節は真夏だがオルテヴァールの夏は常夏程熱くはならず、真夏日でも三十度前後の気温

ドルトンとアルバーが砂浜に大きなパラソルを二つ広げ上手にしっかりと固定し、マイルとルシフェルもテーブルとイスを運ぶのを手伝う

ヴィクトリアはつばの広い帽子を被り、素足で濡れた海辺を歩く


(わあ、濡れた砂を素足で歩くと気持ちいいのね)

楽しそうにズブズブと沈む砂に足跡を作る美しいヴィクトリアの姿を、海に泳ぎに来ている青年達が目敏く見つける

「あの女、何処から来たんだ?」

「何か、昨日すげえ美人の貴族が現れたって大騒ぎになってたな・・・」

こんな片田舎に身形の良い美しい令嬢が一人素足で海辺を歩いているので、彼等は見惚れながら遠目でその姿を追う

「いいなあ、すげえ美人だな」

田舎といえど、貴族に無礼を働けば大変な事になるのは当然彼等だって判っているので、若者達は声は掛けられないが、美しさと色気を漂わすヴィクトリアに一目で心を奪われ魅入っている


テーブルと椅子を運び終え、やれやれとルシフェルがヴィクトリアに目を向けると、海に泳ぎに来ている男達が皆ヴィクトリアに見惚れ釘付けになっているのが目に入る

一人で楽しそうに足跡を付けながら歩く美しい婚約者の姿を見て、嬉しそうにニヤニヤ笑いながら何か話しをしている男達の様子は、ルシフェルにとっては不快で嫌な光景でしかない

「はあっ」と溜息を吐きヴィクトリアの所へ向うと、近づいて来るルシフェルに気付きヴィクトリアは嬉しそうに「ルシフェルも裸足になったら?気持ちいいわよ」と笑い掛ける


するとルシフェルは右手をビクトリアの腰に回し、クイッと左り手でヴィクトリアの顎を上げ、そのままキスをしてヴィクトリアが自分ものだと彼女を見ていた男達に知らしめると、ヒョイッと抱きかかえ砂浜に用意したイスに降ろす

その行動を、一部始終見ていた両親は

(・・・まあ、仲が良いから構わないけど、もうちょっと回りに気を遣う子だと思ってたわ)

ルシフェルの嫉妬の行動に呆れる

ドルトンは二人の仲を知っているので見慣れているが、年輩のケリーは(なんて、はしたない)と顔を赤らめ、アルバーは見なかった事に徹する


ヴィクトリアは突然のルシフェルの行動に、顔を真っ赤にしながら俯くしかない

(どうしよう・・・こんな事したら、ますますご両親に呆れられるじゃない)

実際、呆れているのはルシフェルにだが、ヴィクトリアにとっては彼の両親が居るのにキスされるのは恥ずかし過ぎる

「ヴィクトリアは無防備過ぎる。周りの男達が、ヴィクトリアを見ている事に気付いてなかっただろう?」

ムスッとしながらルシフェルが責めるので、ヴィクトリアは驚いて辺りを見回すと確かに何故か皆がこっちを見ている


「それは、私達貴族が珍しいからじゃ?」

「それもあるかもしれないが、皆ヴィクトリアを見ていたんだ!!もう少し、自分の魅力に危機感を・・・」

ルシフェルがヴィクトリアに説教染みた事を始めたので

「まあ、その辺にしておけ。折角海に来たんだ、ヴィクトリアは楽しんでおいで。この馬鹿は放っておいて」

マイルが優しくヴィクトリアを庇うと

「お昼を食べたら、貝殻拾いでもする?子供の遊びだけど」


ソフィーも気を遣ってそう提案し、ヴィクトリアは嬉しそうに「良いですね、貝殻拾い」と頷き、両親のヴィクトリアに対する気遣いにルシフェルは確かに大人気なかったと「ごめん」と謝る

(でもあの男達がニヤニヤと笑いながら、ヴィクトリアを見ていたのが不愉快でならなかった・・・)

嫉妬深いルシフェルに、ヴィクトリアは困りながらも「私も、気を付けるわ・・・・」そう言うしかない

ただ、ヴィクトリアの美しさと色気の所為で周囲の注目を浴びてしまうのは、本人にもどうする事も出来ないのだが



昼食には二つのパラソルの下、ユリアンヌとルシフェルと彼の両親、ドルトンとアルバーとケリーに分かれて食事と取る

ケリーとリースが作ってくれたサンドイッチとフルーツのババロアを、ユリアンヌは美味しそうに食べる

「ババロアは私が作ったのよ」

ソフィーの趣味がお菓子作りなので、ヴィクトリアは嬉しそうに

「お母様はお菓子作りが趣味ですものね。私も見習って、クッキーなら焼けるんです」

(ちょっと焦がしたりするけど、それはそれで美味しいんです)

心の中で言い訳しながらそう伝えると、ソフィーが「それなら明日クッキーを焼いて、夏祭りで配ろうかしらね」と冗談で笑うと、ヴィクトリアは目を輝かせ「それ、良いですね」と喜ぶ


ソフィーは慌てて「冗談よ、そんな事しないから」ヴィクトリアがまさか本気にするとは思っていなかったので否定する

「そうなんですか?せめて子供達にだけでも、配れたらって思ったのですが」

きっとクッキーを配ったら子供は喜んでくれるだろと思い、残念そうにするヴィクトリアにソフィーは訝る

サンドイッチとババロアを美味しそうに食べるヴィクトリアを、ソフィーはとても演技だとは思えず、メイドのケリーにわざわざとても美味しかったと嬉しそうにお礼を伝える態度にもだ


「ルシフェル」

ソフィーは息子に「あのヴィクトリアは、本当に本物のヴィクトリアなの?」などと変な質問をする位だ

ルシフェルも噂と違うヴィクトリアに、母の戸惑う気持ちが判るので

「実は事故に遭って、記憶喪失になっているんだ。今のヴィクトリアは正直、悪評の時の彼女とは全くの別人になってるよ」

悪女ヴィクトリアとは真逆の性格になっていると告げると、それを聞いてマイルは

「そんな事があるのか?記憶を無くしただけで人格が変わるなんて・・・」

「そうだろう・・・だから、一度専門家に相談しようと思う。ヴィクトリアの為にも」

ルシフェルも覚悟を決める・・・けれど、もしそれで悪女に戻りそうになったらすぐ止めるつもりではいる



昼食後にソフィーと貝殻拾いをするので、ヴィクトリアがルシフェルに「ルシフェルはどうするの?貝殻拾いする?」しないだろうと思いながらも尋ねると

「そうだな・・・今度、ヴィクトリアが口移しで飲ませてくれるなら、するよ」

耳元で囁かれ「んんっ」顔を真っ赤にして触りながら、嬉しそうに笑っている彼にヴィクトリアは「そんな条件を出すの?」信じられない、訴える目を向けるが、ルシフェルはどうする?という様に笑顔を向ける

(ヴィクトリアにはそんな事、出来ないだろうから断るだろうな)

内心それが判っているルシフェルに「いいわ。ルシフェルと一緒に、貝殻拾いしたいから」承諾し、恥ずかしそうに愛する婚約者の服をぎゅっと掴むヴィクトリアのこういった行為に、ルシフェルは弱い

「嬉しい」

愛する婚約者をギュッと抱きしめ、耳元で「たのしみ」と囁くと、顔を赤くして耳に触るヴィクトリアを離し、ルシフェルはズボンをたくし上げると彼女の手を引いて海辺へ向う


ヴィクトリアは嬉しそうにルシフェルと貝殻拾いをし、そんな二人の仲睦まじい姿にソフィー達が恥ずかしく思う位だ

海に泳ぎに来ていた筈の若者達も、美しい貴族令嬢が目障りな美青年と貝殻拾いを楽しみ始め、そんな二人の姿に激しく嫉妬し羨ましく思いながら「あの男、恋人なんだろうな・・・」あれだけイチャついて、キスまでしたのだから

本当なら『男が貝殻拾いなんて』と妬ましい気持ちから、冷やかしからかいたい所だが相手は貴族なので、そんな無礼な行動は取れない

心底羨まし気にヴィクトリアの美しい姿を遠目に見惚れ、目に焼き付けるだけに留まる


ルシフェルは目敏く、次々と綺麗な貝殻を見つけてくれる

「凄く綺麗・・・ありがとう」

嬉しそうにルシフェルが見つけた貝殻を、大事にハンカチに包むので「それ、持って帰るの?」たかが貝殻を大事そうに持って帰るってと、男のルシフェルにはよく判らないがヴィクトリアは嬉しそうに「また、ルシフェルに貰った宝物が増えたわ」と言い出す

「えっ!?ちょっと待て。それ、俺があげた宝物になるのか!?」

それを聞いてルシフェルは泣きそうになるので、そんな彼にヴィクトリアは「?」キョトンとした顔で頷く


「だって、ルシフェルが見つけてくれた貝殻だもの」

何を言ってるの?と言う顔でルシフェルに答えるヴィクトリアに

「いやいやいや、流石に嫌過ぎる。木彫りのネックレスでも、かなり最悪なのに。次の宝物が貝殻って・・・やめてくれ」

ルシフェルはその場にて崩れ落ちる

「違います。木彫りの次は、この指輪ですよ」

ヴィクトリアは嬉しそうに左の薬指の婚約指輪を見せ「それだけか!?マトモなプレゼントは!?」我ながらなんて酷い婚約者だと痛感するルシフェル


「判った、今度もっときちんとした贈り物をしよう。ネックレスや・・・そう言えばヴィクトリアはイヤリングをしないな?」

ルシフェルは、ヴィクトリアがイヤリングをした所を見た事がない

「ええ、耳が気になるので」

ヴィクトリアの返答に「そうか」とルシフェルは考え

「それじゃあ、まずはネックレスと、それと・・・ブレスレットは?」

ヴィクトリアは「たまにつけますけど・・・」そう答え、ルシフェルに「前にも言いましたが、宝石は要らないんです。ただ・・・」ヴィクトリアはルシフェルにギュッとしがみ付き「ルシフェルが傍に居てくれれば、それで良いの」それがヴィクトリアの本音だ


ずっと一人ぼっちだった彼女が漸く手に入れた、自分を愛してくれ傍に居てくれる、何よりも大切な掛け替えの無い存在

ルシフェルは自分を抱きしめてくれる愛しい婚約者に対して本当に申し訳ないと思い、彼の両親もまたヴィクトリアの素直さと、息子に対する愛情が伝わり嬉しく思う



夕方前に一向は馬車に乗り、アルガスター邸へと帰路につく

「今日は楽しかったわ。ルシフェルは貝殻拾い上手なのね。私はあまり綺麗なの見つけられなかったのに」

「それじゃあ、ヴィクトリアが見つけた貝殻を俺にくれる?それを俺の宝物にするから」

何気無しにルシフェルがそう言うと、ヴィクトリアは嬉しそうに「本当?それなら交換ね」ルシフェルの腕にしがみ付き

「ルシフェルと、プレゼントの交換なんて初めて」

幸せそうに笑い、その言葉にズキンと胸が痛むルシフェル


確かにルシフェルは、今まで人に何かをプレゼントするという気配りがあまり無く、ヴィクトリアもまた何かを欲しいとねだる事をせず、ルシフェルから贈り物が無くても構わなかった

だからこそ彼のささやかな贈り物(木彫りのネックレス)何気ないプレゼント(貝殻)が心から嬉しい訳なのだが、ルシフェルは本気で反省する


「ごめん、これからは気を付ける」

そう謝ると、ルシフェルは改めて愛する婚約者に

「ヴィクトリアも欲しい物があったら、遠慮しなくて良いから言って・・・まあ、俺が選んでプレゼントをしないと駄目なんだけど。正直、そういうの苦手なんだ。だから今度、一緒に買いに行こう」

そう約束する

ルシフェルが心から申し訳なく思っているので、ヴィクトリアは笑って

「買い物はともかく、またルシフェルとデート出来るのは凄く嬉しい。楽しみにしてるわ」

そう言うと、屋敷に着くまで嬉しそうに彼に寄り添う

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