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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
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 39話 田舎の夜空に魅入る悪女

ルシフェルの両親に会いに王都から大分離れているコッコス村に辿り着き、彼の両親と顔合わせの挨拶を無事済ませるとヴィクトリアはルシフェルと食後の散歩を楽しむ

二人はのんびりと畦道を散歩し、ヴィクトリアは嬉しそうに田舎の景色を眺め

「長閑な良い所ね、住むには不便なのでしょうけど。それとも、慣れれば不便に感じなくなるかしら?」

ルシフェルの両親はずっとこの田舎に住み続け、王都に戻る気は無さそうだ

両親がアルガスターの領地に住まわずに、知人の領地で暮らしているのは家督を譲った息子夫婦に遠慮してなのだが、ルシフェルはそういった事情を知らない


「言っただろう?あの二人は変わってるんだ」

ルシフェルが笑うと、ヴィクトリアは「そうかしら?」この自然の景色を見ながら「私もここ、気に入ったわ」ニッコリと笑い返し、その美しくも愛らしい笑顔に遠くで見ていた村人達をキュンッとなる

「あんな綺麗な人がこの村に・・・」

「あの令嬢も、これからあの屋敷に住むのか!?」

男達が大喜びするなか、散歩を楽しんで二人は屋敷へと戻る


ドルトンはそのまま厩にいる馬の様子を見に行き、ルシフェルとヴィクトリアは応接間で彼の両親と談笑し寛ぐ

「明後日からこの村で、三日間の村祭りが始まるからな。ここにもう一泊して、折角だから見に行って来ると良いよ」

マイルがそう薦めてくれるので、ヴィクトリアは嬉しそうに頷くと「村祭りって・・・そんなの行く訳ないだろう」ルシフェルが呆れる

「えっ?折角言ってくれてるのに?」

「ヴィクトリア・・・別に父さんが言った事に、素直に従わなくて良いんだ。田舎の村祭りに行ったって疲れるだけだよ」

「そうですよ、もし何か遭ったらどうするんですか?」


ソフィーも反対するので、ヴィクトリアは首を傾げ考えると「それなら、ドルトンを連れて行くわ。私とドルトンで行って来ます」その言葉に三人がヴィクトリアを見る

「・・・本気なのか?」

ルシフェルが驚きながら尋ねるが、ヴィクトリアが本気なのは判っている

「ええ。だって私、村祭りなんて初めてだもの。どんなものか見てみたいわ」

嬉しそうに懇願する婚約者に、ルシフェルは溜息を吐き「判った」と観念し、そんな二人の様子を見てマイル達はこの二人の仲の良さを実感する


「どうだろうな?明日、ここから少し距離があるが、海を見に行かないか?ずっと屋敷に籠もっていてもつまらないだろう?」

マイルの提案に「海ですか?」嬉しそうに喜ぶヴィクトリアに「ヴィクトリアは海が好きなのかな?」マイルが尋ねる

「はい。ルシフェルとの最初のデートに、海に連れて行って貰いました」

「コウス海岸の、リゾートホテルに行って来たんだ」

ルシフェルが説明すると「ああ、あのリゾート地か」懐かしいなとマイル


「このネックレスも、そこでルシフェルに買って貰ったんです」

嬉しそうに、虹色の木彫りのネックレスを触るヴィクトリアに驚くマイルとソフィー

「・・・ああ、それルシフェルが買ったのか?」

侯爵令嬢に似つかわしくない、木彫りのネックレスを身につけていたので(なにかのお守りか?)と不思議に思っていた

ソフィーは顔を顰め「また、どうしてそんな木彫りを?」母親としては息子の嫌がらせか?もしそうならそれは幾らなんでも酷いのでは?と呆れ、責める様な目を向ける


「折角連れて来て貰ったので、何か思い出になるお土産を買おうとこれを選んだんです。そしたら、ルシフェルが買ってくれたんです」

嬉しそうにルシフェルを見るヴィクトリアに、ルシフェルは(不本意だ)と言わんばかりに溜息を吐く

ヴィクトリアが心から喜んでいる様なので、マイル達はお互いに顔を見合わせ「まあ、ヴィクトリアが喜んでいるのなら、良いのか?」と納得する

「でも、明日行く海はリゾート地ではないからな。本当に何も無いんだが」

マイルがそう説明するとヴィクトリアは「そんな事、とても楽しみです」そう答える

ルシフェルの両親が自分の為に連れて行ってくれる、その気持ちが嬉しいのだから



夕食はスペアリブのグレイビーソース掛けに、マッシュポテトにマカロニサラダ、トマトとチーズの香草焼きにパン

「いつも、こんな感じの食事なのよ。お口に合えば良いのだけど」

ティアノーズ侯爵家の食事とは大分違って庶民的だが、それでもこの田舎ではご馳走だ

四人で楽しく食卓を囲んでの夕食を取ると「あの・・・アルバーさん達とは一緒に食事を取らないんですか?」ヴィクトリアが尋ね、マイルとソフィーは驚いた様に彼女を見る

「ええ、食事は別ですよ」

使用人とは食事の料理だって違うのは当たり前なのだが、ヴィクトリアは「そうなんですね」と、トマトのチーズ焼きを口に入れる


「ここに来るまでにホテルで一泊したんだが、ヴィクトリアはドルトンを同じ席に座わらせて一緒に食事をするから」

ヴィクトリアの使用人対する扱いは、他の貴族とは違う

「使用人を同席・・・?」

ルシフェルの説明に、悪女として噂に聞いていた印象とは大分掛け離れている気がするマイルとソフィー

「私はただ、皆で食べた方が楽しいからよ。それに、ドルトンを一人で食事をさせるのは可哀想だわ」

ヴィクトリアがそう訴えるので、ルシフェルも頷き

「判ってるよ、だから同席させただろう?」

だが、明らかに使用人のドルトンが貴族の席で食事をしているのは目立つ

(ヴィクトリアはそういう視線は気にしないのだろうか?自分に向けられる視線だけが気になるのか?)

それが不思議なルシフェル


ルシフェルは、すでに自分がティアノーズ邸に住んでいる事を話すと両親は目を丸くする

「それは・・・よく、ティアノーズ侯爵が許したな」

ランドルの娘に対する甘さ、溺愛振りは、彼が『大地の煌き』を手に入れた事で証明されていて貴族間では有名な話しだ

(お父様は私の好きにすれば良い・・・それしか言わないわ)

顔を曇らせるヴィクトリアだが、実際ルシフェルをティアノーズに住まわせて欲しいと頼んだ時は、流石に怒られるだろうと思っていた・・・けれど、ランドルはそう言って反対しなかったのだから


「何れ王都勤務になれば、侯爵と一緒に登城すれば良いのだからと、許可して貰ったんだ。実際、今はそうしてるから」

王城に勤務になったルシフェルがそう話すと、両親は息子とその婚約者を見ながら

「まあ、お前達二人がその・・・仲が良いのは良い事だ。正直、お前には悪いと思っていたからな」

マイルは息子にずっと申し訳ないと思っていたのだと、胸の内を伝える

ルシフェルは驚きながら「ティアノーズとの政略・・・」政略結婚と言おうとして思わずヴィクトリアを見ると、ジッとヴィクトリアも自分を見つめている


「・・・ヴィクトリアとの婚約は、俺が決めた事だから。父さんにはただ同意してと頼んだだけだろう?」

マイルもヴィクトリアを気にしながら「そうだな。結果的に二人が仲良くしてるのだから、本当に良かった」それがなりよりだと頷く

(私との婚約は、お父様とルシフェルで決めたの?一体どうしてお父様は、ルシフェルを私の結婚相手に選んだの?)

父ランドルにはいろいろ聞きたい事があるが、それはなかなか叶わない


夕食を終えた後、ヴィクトリアが先に入浴を済ませ、その後にルシフェルが入る

浴室からヴィクトリアが出てきた時に、外で待っていたルシフェルが「政略結婚と言おうとしてごめん」と謝るので、ヴィクトリアは「本当の事だもの、気にしてないわ」笑って二階の自分の部屋に向う

ヴィクトリアの後ろ姿を見ながら(また、ヴィクトリアを傷付けた)ルシフェルは深い溜息を吐く



宛がわれた部屋のバルコニーに出て、夜の田舎の夏風を感じながら外を眺めるヴィクトリア

真っ暗な外の景色に、ポツポツと灯っている家の明かりが綺麗で(何も無い田舎にも、こんなに人が集まって暮らしているのよね)ヴィクトリアにとっては何故か懐かしく感じるこの心地の良い風、夜空には満天の星空

(きれい・・・ずっと見ていられる)

王都では治安の為と警備の為、あちこちに街燈が立てられ一晩中灯っている

ティアノーズの屋敷からも星空は見えるが、ここの星空はとても綺麗だと思うヴィクトリア


美しい夜の景色を楽しんでいると、コンコンとノックがされガチャっとドアが開きルシフェルが入って来る

バルコニーに居て気づかなかったヴィクトリアに「皆が入浴を済ませたら、応接間に集まってブランデーを飲もうって」ルシフェルはそう伝えながら、ヴィクトリアを抱きしめ

「ヴィクトリア・・・俺達は政略結婚だけど、俺はヴィクトリアを愛してるよ」

愛する婚約者を見つめそう伝えると「ええ、それは判ってるわ。私もルシフェルが好きなので」熱の籠もった目でルシフェルを見つめ返す

「ヴィクトリアを傷付けたかと思ったから」

その言葉にヴィクトリアは驚き、愛する彼にキスをして「政略結婚でも何でも、ルシフェルが私の夫になるんですもの。こんな嬉しい事は無いわ」ニッコリ笑う


その言葉にルシフェルはそのままベッドにヴィクトリアを押し倒すが「駄目です」慌ててルシフェルから逃げるように起き上がるヴィクトリア

拒まれたルシフェルがヴィクトリアを見ると「その、ここに居る間は、駄目です」顔を赤くしながら、流石に彼の両親の家では恥ずかし過ぎると、ヴィクトリアは拒む

「・・・ランドルが居る、自分の屋敷は良いのにか?」


自分の親は平気なのに?と責める様にルシフェルは訴えるが、ヴィクトリアは首を振って

「とにかく、我慢して下さい。部屋だって別々なんですから!!」

顔を赤らめながら拒むと「その事なんだけど」ルシフェルはさらっと

「俺達が一緒に寝てるって言ったら、それなら同じ部屋で寝ても構わないって」

ニッコリと笑うが、その言葉にヴィクトリアは「ええっ?言っちゃったの!?同じベッドに寝てるって?」泣きそうな目で、責める様にルシフェルの腕を掴む


「だって、本当の事だし。だから、もうバレてるから隠す必要ないよ?」

愛する婚約者にキスをして「我慢しなくて良い?」と抱きしめてくるので、ヴィクトリアは顔をより一層赤くして

「もう、お父様達に合わせる顔が無いじゃない!!」

恥ずかし過ぎて死んじゃうと、ルシフェルから離れベッドに顔を埋める

(どうしよう・・・ルシフェルの所為で、もう、恥ずかし過ぎる!!・・・まだ後三日、ルシフェルの両親と顔を合わせなきゃいけないのに・・・)

ルシフェルの両親に少しでも気に入って貰えたらと、ルシフェルと仲が良い所を見せて来たが、これでは呆れられてしまうのでは?とルシフェルを怨む


顔を上げ、涙目でルシフェルを恨めしそうに見ながら

「もう、絶対に一緒に寝ません。自分の部屋で寝て下さい」

(こうなったら開き直るしかない。お父様達にはもう、何でもないですって顔でいないと。ルシフェルと一緒に寝なければ、ルシフェルが嘘を吐いてるって、思うかもしれないし)

ヴィクトリアも、段々悪い考えをする様になってくる


「ヴィクトリア・・」

ルシフェルが悲しそうな目をヴィクトリアに向けると、しゃがみ込んで後ろから抱きしめ

「ごめん。もっとヴィクトリアの事を考えれば良かった・・・俺がはしゃぎ過ぎたんだ。両親にどれだけヴィクトリアに愛して貰ってるかって、自慢したくて・・・つい、一緒に寝てるなんて言ってしまった」

悲しそうにそう謝ると、ヴィクトリアを立たせ額にキスをして

「ごめんな・・・寂しいけど、俺は自分の部屋で寝るよ」

辛そうに溜息を吐き、がっくりと項垂れ寂しそうに出て行こうとするルシフェルを見て、ヴィクトリアは可哀想に感じズキンと心が痛み


「待って、ごめんなさい。私も言い過ぎたわ」

ルシフェルの手を掴むので、ルシフェルは後ろを向きながら思わずニッと笑い

「許してくれる?」

不安そうな表情をしてヴィクトリアに向き合うと、ヴィクトリアは仕方なくコクンと頷く

「じゃあ、一緒に寝ていいんだな?」

ルシフェルが寂しそうな目で訴えるその表情に、ヴィクトリアは断れなくなった

(どうしよう・・・一緒に寝なければ大丈夫だと思ったのに・・・)

「良かった」

まだヴィクトリアは返事をしていないのに嬉しそうに喜ぶルシフェルは、ヴィクトリアに仲直りのキスをして一緒に応接間へと向う

結局、ヴィクトリアとルシフェルでは勝負にならないのだ



応接間のテーブルには四人分のブランデーグラスと、クラッカーとチーズ、ナッツ類のおつまみも用意されていた

そしてソファーには、ムスッとしたマイルが一人座っている・・・大事なオルメイガを抱きしめながら

「母さんはまだか」

ルシフェルはヴィクトリアをマイルの向かいのソファーに先に座らせてから自分も座り、そんな二人を見ながら

(確かにお似合いの二人だな)

心配していた政略結婚。ルシフェルが犠牲になってくれたお陰で、あのティアノーズ侯爵家と親戚関係を結べた

しかもルシフェルは次期ティアノーズの当主になる

本人が望んだ事とは言え、今こうして幸せそうに美しい婚約者の隣で笑っている息子にマイルは心底ホッとしている


入浴を済ませたソフィーが応接間に現れたので、マイルは渋々オルメイガをグラスに少しずつ注いでいく

「ケチだな・・・これで味が判るのかな?」

ルシフェルはブランデーが少ししか入っていないグラスを眺めながら、不満を露にして文句を言うと

「馬鹿者!!ブランデーと言うのはな、少し口に含んで、じっくりとその旨味を舌で味わうものなんだ」

マイルが呆れながらブランデーの飲み方を伝授すると「そうなんですね、やってみます」素直なヴィクトリアは、ブランデーをクイッと口に含み舌で味わおうとするが

(あら?舌で味わうってどうするのかしら?)

液体を口に含んだが、舌で味わう意味が判らずにそのままコクンと飲んでしまう


「確かに美味いな、今まで飲んだブランデーとは全然違う」

ルシフェルもオルメイガを気に入る

「私はよく判らないわね・・・あまりお酒は好きな方じゃないし」

ソフィーは香りを嗅ぎながら、少し口に含ませ飲む

「このブランデーの凄さが判ったか?こうやって、チビチビと味わって楽しむのだよ。このブランデーは」

そう言いながら、大事そうにブランデーを口に含むマイル


「ヴィクトリア?大丈夫か?」

ルシフェルは隣に座っている、無言の婚約者の顔を覗き込むと

「ん・・・これ、すごく・・・きつ、で・・すう」

顔を赤くしてルシフェルの胸に顔を埋めるので「おい、大丈夫か?」慌てて自分のグラスとヴィクトリアのグラスをテーブルに置くと

「ごめ・・さい・・・少し酔ったみた・・これえ・・・しつえい、するわ・・・」

ヴィクトリアはアルコールで呂律が回り、赤くなっている顔でフラフラと二階へ上がろうとするので、ルシフェルが慌てて抱きかかえ部屋へと連れて行く


ヴィクトリアをベッドに寝かせると、心配そうに「大丈夫か?水を持ってくるから」急いで部屋を出るルシフェル

頭と視界がぐらんぐらんと回っているのを感じながら、ヴィクトリアは誰かが頭の中で何かを言ってるように聞こえる

『いい加減、・・・・・・・・離れて・・・・・に返しなさい』

(なに・・・?何を言ってるの?)

気分が悪くウナされるヴィクトリアに、水を持って来たルシフェルが飲まそうとするが上手くいかず、仕方なく口移しでヴィクトリアに水を飲ませるルシフェル


「ん・・・」

ルシフェルに口移しで口の中に水を入れて貰い、コクンとその水を飲むヴィクトリア

何度かその行為でルシフェルに水を飲ませて貰い、ほんの少し酔いが中和された様でトロンと目を開けると「・・・ルシフェルが・・・言ったの?」頭がぼんやりしているなか、尋ねる

「何を?大丈夫か?とは言ったけど」

ヴィクトリアの質問が判らずに、心配しながらそう答えるルシフェルに

「わたしに・・・かえせって・・・」

スッーとそのまま眠ってしまうヴィクトリアにルシフェルは意味が判らなかったが、そのままそっと寝かせ部屋から出て行く

酔いの回ったヴィクトリアはそのまま、深い眠りへと落ちて行く

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