37話 紅の薔薇騎士団(合格編)
午後の訓練生達の訓練の記録と訓練での態度等を、イシュレイ達三人がカレンに報告する
「・・・あの、最後の体術の訓練で、団長は訓練生が半分以上倒れたら終わる様にと言われましたが、あまりにも過酷だと思い、その、途中で終わらせました」
イシュレイはその事を報告し、緊張しながらカレンがどう反応するかを待つ
「そう、脱落者は居なかったのね?良かった」
カレンはイシュレイ達にお疲れ様と労い、書類に目を通しながらサインをしていく
「・・・それだけですか?命令に背いたのに!?」
イシュレイが聞き返すと、書類に目を通していたカレンが驚いた様に顔を上げる
「確かに私は半分以上倒れたらとは言ったけど、それはあくまで目安よ?現場の指揮は、担当の貴方達に任せているのだから、貴方達の判断に委ねるわ。厳しい訓練メニューだと思ったら緩めてくれて良いの。最初に、現場に居る貴方達に任せると言った筈よ?」
カレンのその言葉に、イシュレイとリリーとモネはそうなのか?と驚愕する
何分、紅の薔薇騎士団に所属している者達も初めての訓練生を迎えるので、試験官であるイシュレイ達は皆慣れておらず、気負い過ぎている
厳しい騎士の訓練に耐えられる人材が欲しくて、つい無理な訓練を課してしまい(それでも頑張ってくれ)と、過度な期待を持ってしまうのだ
そして原則、騎士は上官の命令には絶対服従なので、体術での訓練生達の怪我に(遣り過ぎだ)そう思っても、カレンの言葉に従いイシュレイは半分以上になるまで止めなかった事を反省する
脱落者が出なかったのは訓練生の彼女達に根性があったお陰だ
(・・・自分の配慮の無さで、大事な人材を失う所だったのか?)
イシュレイはそれを思うと恐ろしくなり、どうしても厳しくしてしまう自分は訓練生を指導する者としては相応しくないと考える
三日目、訓練生達は朝早くに起き、言われた通りストレッチをしながら今日の訓練の事で話しをする
「昨日もきつかった・・・今日もかなり大変なんだろうな・・・」
不安なローラに「私、もうここで諦めるわ。これ以上は耐えられない」エネアが弱音を吐き、メイラも「私も・・・こんなのが毎日続くのかと思ったら、流石に諦めたわ」と告げる
(騎士になるって、本当に大変なんだな・・・・私ももう、減点もあるし・・・諦めた方がいいのかも・・)
アイラも二人の弱音を聞いて諦めようか?と考えるが、自分には行く宛ても帰る場所も無い・・・しがみ付くしかないのだと己に言い聞かせる
ストレッチが終わり、地獄の腕立て伏せと腹筋を始める
「腕立て伏せは、まだ良いけど・・・腹筋は辛い」
「腹筋はなれよ。そのうち百回でも出来るようになる」
アナンが弱音を吐くとクレアはそう励まし「試験が終わるまでに、出来るようになるかなあ」頑張るアイラに
「それは無理でしょう。幾らなんでも、努力の積み重ねだから」
そんな普段腹筋を鍛えていないのに、一週間ちょっとで百回出来る様になる訳ないとあっさり否定するクレア
腹筋を終わらせるとズキズキと痛むお腹を押さえながら顔を洗い、朝食を終え室内の訓練場で騎士を緊張しながら待つ
ナディアとイシュレイとモネとリリーが現れ
「今日は、午前も午後も外での訓練ですので、持久走をした場所に移動して下さい」
ナディアがそう伝えるとイシュレイに記録帖を渡す
「あの・・・」
恐る恐るエネアが前に出て来て「私はその・・・ここで、辞めさせて貰います」断念すると言うのでイシュレイは驚愕する
「私も・・・これ以上は無理なので・・・諦めます」
メイラも前に出てそう告げるので、イシュレイはナディアを見る
「そうですか、それは残念です。ではお二人は脱落者として処理します」
ナディアがあっさりと認めるので、イシュレイは自分の所為だと焦り
「待って下さい!!昨日の事は私が遣り過ぎました!!これからは・・・」
「ディズガスト、これからまだ特訓は続きます。本人が辞めたがっているのに、無理に引き止めてるのは無意味」
厳しくナディアは二人に「帰っていいですよ」とモネに馬車の所まで送らせ、イシュレイは(自分の所為だ・・・)青褪めながら去って行く二人にショックを受ける
「まずは今日で三日目ですので、皆さんの体調確認をします。何処か体に不調は無いでしょうか?」
リリーが尋ねると、誰も答えない
「昨日の訓練で、足や手に負傷が有る方は?正直にお願いします。これは減点の対象では在りません。寧ろ隠したりして後の訓練で大怪我をした場合、それこそ大幅に減点、怪我次第では失格にしますよ?」
リリーがそう警告すると「あの、足がまだ痛いです。走る事は出来ますが、全力だと辛いです」クレアがそう伝えると「私も」と、皆が口々に告げる
「判りました。手はどうですか?」
リリーの問いに「指がその・・・青くなっていて痛いです」エレンが恐る恐るそう言うと、リリーが「はあっ?」と驚愕し大きな声を出すので彼女はビクッと萎縮する
リリーは慌ててエレンの指を確認すると、確かに青く鬱血してはいるが折れてはいない様でホッとし
「折れては無いようですね。冷やした方が良いでしょう。こんな怪我をした場合は、黙っていないで言って下さい。もし折れているのに放っておいたら、後遺症が残りますよ?」
リリーはそう注意し「他に怪我のしている方は?」と尋ねるがエレン程ではないし、手当てして貰ったからと誰も名乗り出なかった
リリーはエレンを医務室に連れて行き、ナディアも執務室へと戻りイシュレイはただ一人、訓練生達を前に取り残された気分になる
今日の午前は持久走だが、彼女達は走るのが辛いと先程申し出た
(どうする?このままゆっくりでもいいから、走らせる?)
どうしたら良いか判らず、イシュレイは途方に暮れながら(何か、足に負担の掛からない訓練に変える?)しかし、どの訓練も足に負担が掛かるものばかりだ
「・・・判りました、午前はストレッチと腕立て伏せと腹筋を出来る範囲で行って下さい」
イシュレイがそう告げると、訓練生達は驚く
「え・・・?午前はそれで良いんですか?」
昨日までと違ってあまりにも緩い、訓練と言えない午前の訓練に戸惑う訓練生達に「午前までです。午後は普通にグラウンドを走って貰いますから」イシュレイは辞めた二人の事に動揺し、それしか思いつかず彼女達にストレッチをさせる
午前があまりにも楽だったので、気が緩んだ訓練生達は食堂でなぜ急にこんなに訓練が緩くなったのか話し合う
「訓練生が、どんどん辞めて行ったからでしょう?誰も居なくなったら意味が無いもの」
クラナがそう言うと「これから、楽になっていくのかしら?」嬉しそうなカーラに「もしそうなら、エネアとメイラは勿体無かったわね」アンジーは笑うが「でも、午後からは走るのか・・・」足がまだ痛いアイラは(大丈夫だろうか?)走れるか心配で堪らない
エレンの指も鬱血しているが動かす事は出来見た目ほど酷くなくて安心したが、無理しない様にと注意を受ける
午後になり再びグラウンドに集まる研修生達は、午前が楽だったので午後もそうだろうと思っていたのだが、モネは
「グランドを走り続けて下さい。ただし、無理せず。走れない場合は歩いても構いません」
なんと午後の時間は、地獄の持久走をやらせた
「歩いても構いませんが、止まらないで。どうしても足が痛くて動けない場合は、無理せずに休憩して下さい」
そうじゃなければ、動き続けろという事だ
「なにこれ?めちゃくちゃきついんだけど?」
ゼイゼイ言いながら、これからは楽になると思っていたので皆甘かったと思い知らされる
こうして紅の薔薇の騎士達にとっても、当然訓練生達にとっても初めてのこの騎士選抜試験の一週間は、初日から貴族全滅という問題もあったが、何とか七日まで全滅せずに七名が残った
「これから最終試験を行います」
カレンはそう告げ訓練生の彼女達に腕立て伏せと腹筋を百回させるが、エレンは補強しているとはいえ指の怪我もあり腕立て伏せに苦戦し、それを見てカレンは他の試験もあるから無理はするなと五十回で終わらせ、アイラとアナンは腹筋に躓く
苦しそうに倒れ込んでしまう彼女達に、クリア出来た訓練生達が「がんばれ!!」と応援する
ここまで苦しい訓練に堪え頑張って来た仲間だ
何人採用されるかは判らないが、ここまで一緒に耐えて来たのだからと精一杯声援を送り、その応援に答える様に三人は諦めず何とかクリアし喜び合う訓練生達にもまた絆が生まれていた
次は綱登り
最初は上手く登れなかった訓練生だが、皆頑張って五m近く頑張って登り「練習した甲斐があった!!」全員が登れた事を喜ぶ
次はウンテイ。これには全員が緊張する
一人ずつ始めて行くが、皆五、六m辺りまでは頑張るのだが手が離れ落ちていき、アイラも七m位で力尽きる
(これは、流石に皆無理なんじゃ・・・)
心配そうに仲間を見ると、誰も十mまでは行けなかったので一番距離が短いエレンは少しホッとしてしまう
壁登りは足と手と身体を使って何とか登れたのだが、ただ降りた時は足がジーンと痛い思いをし、クラナだけがなかなか登れずにいた
「足を壁で蹴って手をかける。そのまま足を壁に蹴りながら・・・」
「腕の力で身体を持ち上げたら?それと足を使って」
それぞれに登り方を教えながも、結局彼女だけ登れなかった
(次はまさかまたあの泥沼?)
訓練生は物凄く恐怖を感じたがそれは無かったので皆、心の底からホッとした
「以上を持ちまして、騎士採用試験は終わります。皆さん一週間、よく耐え抜いてくれました。お疲れ様でした」
カレンが労いの言葉を掛けると、クラナは不安そうに「あの、合格かどうかはいつ判るんですか?」と尋ねる
(私は壁登りが出来なかった、かなりの減点なのは判っている)
エレンも指の痛みに耐えながら頑張ったが、皆より記録は下だ
カレンは訓練生達を見てニッコリと笑い掛け「この厳しい訓練を一週間よく耐え抜いた。貴方達は合格です!!」そう伝えると彼女達を見回し
「ようこそ、我が紅の薔薇騎士団へ。貴方方を歓迎します」
カレンはスッとレイピア抜き天に掲げと、今度は自分の胸元辺りにレイピアを掲げオルテヴァール王国の騎士の敬礼をするとレイピアを鞘に戻す
それを見て訓練生達は一瞬「えっ?」と呆けた顔をするが、慌ててカレンに頭を下げ「ありがとうございます」「よろしくお願いします」とバラバラの挨拶をして「やったあー!!」「よかったあ!!」と仲間達で抱き合い、涙を流しながら喜び合う
苦しく辛かった一週間。最初二十一名居た訓練生も、一週間後には七名が残った
こうして、騎士の訓練に堪え抜いた七名の訓練生達は新米の騎士となる
アイラ・ウェイン、エレン・バーセン、ジェーン・バイレン、クレア・コウスタン、ローラ・マクレイ、アナン・コルダー、クラナ・ブロガー
全員が一般人のこの若い騎士達が、紅の薔薇騎士団に新に加わる事になった
アルフレドは、新たな紅の薔薇の騎士達の報告書を見て眉を潜める
「この、アイラ・ウェインを呼んで来てくれ」
部下にをそう命じると、カレンが「何か問題でも?」心配そうに尋ねる
アルフレドは考える様にして「このウェインと言う名前がな・・・」身の上には父の事業が失敗し一家離散と書いてある
アイラが不安そうにアルフレドの執務室に連れて来られ、カレンとナディアの間に立つと
「アイラ・ウェイン」
書類が山積みにされている机を挟んで正面に立つ、恐ろしく端正な顔立ちのアルフレドに名前を呼ばれ、アイラは顔を赤くして「は・・・はい」緊張しながら姿勢を真っ直ぐに返事をする
「お前はもしかして、ウェイン男爵の娘か?」
そう尋ねられ、顔を曇らせるアイラ
「その質問をするなら、ご存知の筈ですね。そうです、父は事業に失敗して爵位を奪われました」
爵位の剥奪、つまりアイラは没落貴族なのだ
(まさか、没落貴族を騎士になど出来ない・・・そう言われるの?)
貴族しかなれない崇高な騎士の中に一般人が居る事でも異例なのに、没落した元貴族まで居れば流石に騎士団の名が穢れるだろうか?・・・それを考えギュッと唇を噛み締め『出て行け!!』と言われる事を覚悟するアイラ
アルフレドはやはりな、と頷いて
「いいだろう、借金はウェンヴィッツが肩代わりする。勿論、全額きっちり返済して貰うが、爵位を戻す。お前は男爵だ」
その場に居た者達は(何言ってるの?この人は・・・?)と怪訝そうにアルフレドを見るが
「爵位のあるの騎士が一名でも居れば何とか面目は保てる。よく彼女が残っていたな、運が良い」
アルフレドはさっさと手続きに掛かる
その言葉に呆気に取られている、カレンとアイラとナディアとアルフレドの側近
こうして没落したウェイン元男爵は娘のお陰で爵位を取り戻せ、離散していた家族はまた一緒に暮らす事が出来た
そして紅の薔薇騎士団の新人騎士は、男爵一名、一般人六名に書き換えられる




