36話 紅の薔薇騎士団(試験編)
昼食を済ませると、次はアスレチックでの体力測定に入る
五十mもの高さの綱登り(アルフレド以外、誰も登りきれていない)や、十mある木製のウンテイ(高さニm以上有るので身長が低いと落ちたら痛い)壁登り(登った後、落ちる時が痛い)ぬかるみ地獄(相当汚い泥沼、一番悲惨な目に遭う)
その他にも様々な、悪意の有るアスレチックが多々用意されている
「こんなの・・・無理よ」
あまりの高さに怯える令嬢達に、イシュレイは「登り切れとは良いません。何処まで登れるかを確認する為ですので」そう説明し、六名ずつ綱に登らせる
一般組みは頑張って挑戦してみるが流石に恐怖が勝ち、しかも縄一本ではなかなか登れず、一番高く登った者で三メートルがやっと
当然だが貴族令嬢達はそもそも縄に登ること事態が初めてで、登り方が判らずブラブラとぶら下がるだけで、全く登れずにいた
(そう、この綱登り・・・全く登れなかった時は物凄く笑われたな)
男性騎士に笑われた事が悔しくて、手に豆が出来るほど必死で練習をした事を思い出すモネ
次はウンテイだが「なによ、あの長さ!!絶対に力尽きて落ちるわ」十mもの長いウンテイに子爵令嬢のミレナは怖がる
「大丈夫です、落ちても死にはしません。まあ、最悪怪我をするだけです」
イシュレイの言葉に一同不安を抱くが、一般組みが先に挑戦し半分までは頑張る者は居たが、皆力尽き落ちていく
(頑張ろう・・)
アイラはここで頑張らなくてはと根性を見せるが、六m位までで力尽きる
(手が・・・痺れてる)
無理し過ぎて赤くなっている手を見て(まずい・・・まだ他にも訓練があるのに、大丈夫だろうか?)ジンジンと痛む手に次の訓練が心配になる
一般組みはエレンやセラも頑張り(なかなか根性がある娘が入ってるな)イシュレイは期待しながらチェックを入れる
(なかなか十mまで頑張れなくて、悔しい思いをした・・・女は体力も根性も無いと呆れられて・・・)
嫌な事を思い出しリリーは首を振り(今は最後まで行けるんだから、気にしない)
次はドーンと立ちはだかる壁を登る・・・と言っても、少し斜めになっているだけの二mの壁だが、これを登るのはかなり大変だ
「あの、これ登れないんですが!!」
子爵令嬢のキャスが叫ぶと「コツがあります。それを考えて登って下さい」イシュレイはそう助言する
(これは本当に大変だった。人が登っているのを見よう見真似で登ってみたが、自分には無理だと、何とか自分に合った登り方を考えたな・・・)
そしてイシュレイは思う(正直、未だにこの練習の活用法(※つまり、役に立った事)が無いのだが・・・)と
結局この壁登り、登れたのはジェーン、クレア、ローラの一般組み三人だけだった・・・そして三人は登った後、慎重に降りたが足にジーンッと痛みを抱く
最後は泥沼、ぬかるみ地獄なのだが、そこへ連れて来られた訓練生は全員がドン引き状態になった
「これは・・・ちょっと無いわよね・・・」
明かに嫌がらせとしか思えない、汚いし臭い、ヘドロみたいな泥だらけの沼に全員が戸惑い、その様子にイシュレイ達も
(判る・・・これはもう二度とやりたくない、絶対に嫌だと拒むトラウマ級の訓練、第一位だもの・・・)
これが訓練所に存在している事に憎しみを持つ騎士は全員で(誰だ!?こんな物を作った奴!!)(殺してやりたい!!)と恨みと殺意を抱く代物だ
ここに居る騎士団員達も(まさかメニューにこれが入っているとは・・・)と驚愕し、カレン団長は本気だと思った
騎士達の間では、これに耐えられたら他の訓練などどうでも良くなるので、頑張って最後まで渡りきった者は大した根性だと一目置かれるのだ・・・けれどあのヘドロの沼を渡りきったからといってあまり喜べない、誇れないのも確かだ・・・何故なら、惨めな気持ちの方が大きいから
「嫌です!!こんなの絶対無理!!」
泣き出す貴族令嬢達に「最後まで渡りきれとは言いませんが、入らないなら棄権と見なします。さあ、順番に入って下さい」モネが促すが、誰も入ろうとしない
(これ・・・入らないと棄権になるの・・・)
エレンは覚悟を決めて「エレン・バーセンです。行きます」と沼に入って行く・・・が、ぬかるんでいて泥が足に絡まるみたいに重く、なかなか前に進めない
(これは・・・止めた方が良かった?)
そう後悔しても後の祭り、進むしかなく、しかも足を取られて前へと転んでしまう
「きゃあっ!!」「やだっ、汚い」「うわあっ」「かわいそう・・・」
エレンは顔に泥がかかってしまい、それを見て皆が悲鳴を上げる
(やっぱり止めれば良かった・・・)
後悔するが(でも・・・私にはもう行く所が無い)エレンはキッと前を見て、そのまま必死で鼻が曲がりそうな異臭のする沼を口をぎゅっと結び進む
それを見てモネとイシュレイとリリーは感心し「さあ、次は誰が行くんです?」次の者を促す
「・・・クレア・コウスタンです」
彼女も慎重に沼に入って行き(・・・腰を低めて、ゆっくりと歩いて行く)しかし、それではぬかるんでいる沼ではなかなか前に進めない
(この沼はね、何が何でも汚れるようになっているのよ・・・)
モネ達は無駄な足掻きだとクレアを見るが、彼女は慎重に少しずつ顔だけは汚さないようにと進む
「さあ、どんどん行って下さい」
リリーが促すので仕方無しに一般人達は数名覚悟を決め、泣きたい気持ちで沼に入って行き、そして見事に泥だらけになり、それを見て貴族令嬢達は「絶対に嫌だーっ」と泣き叫ぶ
そんな貴族令嬢達に、溜め息を吐きたくなるモネとイシュレイ
(生半可な気持ちでは騎士にはなれない。嫌味な男の騎士達だってこの泥沼や、あの綱渡りを私達よりも優れた成績でこなしている)
そう思いながら、泣いている令嬢を見て
(こんな姿の令嬢を、きっと彼等は散々見て来たのだろう。だから女性騎士にウンザリしているのかもしれない・・・)
けれどと、モネとイシュレイは思う(私達の努力を認めなかった事は忘れない。絶対に見返してやる)と
結局沼に入ったのは一般人の十二名だけだったが、しかし彼女達は決して沼に入った事を誇れない
あまりの異臭に堪えられずに全員、途中でリタイアし沼から出て来たが、身体から漂う泥以外のヘドロ臭を早く落としたいですと、涙目で騎士達に訴える
「後の者は?沼に入れなければ脱落になりますよ?」
「何言ってるのよ!!私達貴族が誰も沼に入ってないのよ?まさか、貴族を全員落とす気!?」
ミレアがそんな事出来ないわよね?という様にイシュレイ達三人を涙目で睨みつけると、その言葉にイシュレイが怒り
「騎士を舐めるなよ!?お前みたいな根性では、到底騎士にはなれない!!騎士とはそんな甘いものじゃない!!」
そう恫喝すると「これからもっと訓練は過酷になる。これ以上は無理だと思ったなら、今すぐ諦める事だ!!」そうきっぱりと忠告し、モネとリリーは
(あちゃー、そんな本当の事を・・・)
(出来れば騙し騙しして、一週間頑張って貰おうと思っていたのに)
そう思いながら、イシュレイに怒鳴られ貴族令嬢達は青褪め震える
「どうします?ここをクリアしても、まだ後六日もある。頑張れますか?」
イシュレイはキレてしまい(やる気の無い者はさっさと去れ)と選別に入り、結局貴族組みは初日で全員脱落してしまった
その報告を受け、カレンは頭を抱え(やっぱり無謀だったか・・・)貴族が一人も残らなかったのは相当まずい
「貴族と一般人を対等に扱うと言う、団長の崇高な志は一日で終わりましたね」
止めを刺す様な言い方をするナディア
「ウェンヴィッツ様に、殺されるかもしれない・・・」
カレンはもう一度貴族から騎士希望者を募るしかないと考えていると「募るのは良いですが、まだ一般人が十二人も残っているんですよ?」ナディアが冷静にそう伝え
「あの、精神の鍛錬を受けた騎士でさえ嫌がるぬかるみ地獄に入った者達です。大いに期待出来ますよ」
「確かに、まだ一般の女性達が頑張ってくれている・・・彼女達に期待するしかない」
今現在頑張っている彼女達が、最終日にどれだけ残ってくれるのか?カレンは祈る気持ちで出来れば全員残って欲しいと願う
訓練生達は泥沼の泥を落とす為に一旦外で水浴びをしてから、シャワーを浴びに行く
(シャワーは十室。残ったのは十二人、二人余る・・・大丈夫かしら?)
アイラ達、さっきシャワーを時間内に浴びれなかった者達は緊張しながらシャワー室を取り合うが、アイラはやはり取り残されてしまった
(一緒に入ろうと約束してくれた皆は?)
セラとカーラが一緒に入っていて、マイアは脱落してしまって居ない
(私だけがあぶれてしまっている・・・)アイラはがっくりと誰かが出るのを待つ
「ねえ、あんただったら細いから、一緒に入っても良いわよ」
クラナがアイラに声を掛け、驚くアイラに「早くして」と促すので、急いで彼女のシャワー室に入り「ありがとう」とお礼を言うと「さっきは悪かったわ」クラナが謝ってくる
午前の時、シャワーを一緒に浴びる事を拒否した後でのあの食堂での出来事に、クラナは自分が入れてあげていればと後悔していた
十二人なので別に二人で入る必要は無く、交代でも十分時間は有るのだが、取り敢えず全員がシャワーを浴び終え時間内に夕食を取る事が出来、訓練所で雑魚寝をしながら一日目を何とか終え・・・そして訓練生十二人は、疲れの所為もあってぐっすりと眠りに就く
夜にアルフレドは訓練生達の結果報告をカレンから聞き「貴族が全滅?」厳しい目でカレンを見る
「申し訳ありません・・・初日から、厳し過ぎました」
冷や汗を掻きながら、カレンが頭を下げ
「どうしても期待が大きく、つい無理をさせてしまった自分の失態です。しかし、今後立派に騎士の役目を担って貰う為には、甘くは出来ませんのでこの様な結果になってしまいました」
生きた心地のしない報告をする
「・・・貴族の令嬢を騎士にするのは、難しいものだな」
アルフレドはふむ、と「よくお前達は耐え忍んでくれたものだ」そう率直な気持ちを伝えると、カレンを下がらせる
カレンはアルフレドのその言葉に驚くと同時に嬉しく思い、その言葉を仲間の騎士達にも伝える
翌日は早くに起床し寝具を片付け、顔を洗い、朝食を取ると訓練所へと戻り騎士が来るのを待ちながら「今日の訓練は、昨日より厳しいのかな?」カーラは隣のセラに話し掛ける
二人は昨日、一緒にシャワーを浴びてから親しくなり話す様になっていて「あの沼より酷いのなんて・・・想像出来ない」あれ以上の辛い目に遭うのは、正直勘弁して欲しいと思う訓練生達
訓練所にナディアとイシュレイとリリーとモネが現れ、昨日の泥沼の所為で駄目になった為に新たに訓練着が配られる
「今日は、午前に基礎訓練と護身術。午後から剣術と体術を教えます。丁度十二名居るので、二人組になりなさい」
ナディアがそう命じると、それぞれ近くに居る者達で組む
「まず、基礎訓練。これは毎日朝起きたら、騎士の日課として必ず行って下さい」
リリーとモネがストレッチを始めるので、それを訓練生も見ながら一緒に行い(これなら、毎日でも問題なさそう・・・)
辛いストレッチではないので皆安心する
ストレッチが終わり、訓練生達がこれなら毎日でも楽勝だと安心しているとイシュレイが
「次は腕立て伏せ、最初なので五十回。最終にはその倍は出来る様になっていて貰います」
(っ!!・・・ご、五十でもしんどいのに!?)
皆が必死で腕立て伏せをするが、次々と脱落していく
「終わるまでそのまま続けて。五十回出来た者は次、腹筋五十回。これも最終には百回出来る様に!!」
(もう駄目・・・・)
訓練生は次々と腹這いになったり、横に倒れてゼイゼイと苦しく荒い息をする
「この基礎を、毎朝行う事!!」
倒れ込んで苦しんでいる訓練生達にそう告げると、イシュレイ達に後はお願いとナディアは執務室へと戻って行く
漸く腹筋を終わらせた者が出始めると「終わった者達で、ペアを作って」イシュレイが命じる
先に腹筋を終わらせたのはジェーンとクレアで、次にローラとエレン、クラナとセラ
腹筋をしながらアイラは(これを最終では百回!?・・・とても・・・無理だわ・・・)あまりにもお腹が痛くて辛く、三十四回目で倒れ込む
(私が騎士になろうなんて・・・そもそも、それが間違いなのよ・・・毎日、こんな事をしなければならないなんて)
苦しくて周りを見ると皆も同じ様に苦しそうに倒れ込んでいるが、まだ脱落者はいない
(まだ二日・・・いやだ、こんな事・・・でも、辛いのは皆同じ・・・それに、帰る所なんてないんだから)
ふっと、両親と兄妹、バラバラになった家族の事が頭を過ぎる
(今、皆はどうしているのだろう?)
父は借金取りから逃げ回る人生となり、兄は友人達を頼ると言っていた
母は妹を連れて実家を尋ねて行ったが、受け入れて貰えたのだろうか?と心配している
流石に娘を二人も連れて世話になる訳にはいかないだろうと、自分は大丈夫だからと、本当は不安で堪らなかったが一人で生きていく事を選んだ・・・その事を思い出し、再び痛むお腹を抱えながら腹筋を始める
アイラが再び腹筋を始めるのを見てクラナはホッとし、セラもカーラを心配そうに見ている
そうして漸く時間は掛かったが、ハアハアと荒い息をして全員無事腹筋を終わらせた
(これを毎日しなければいけないのね・・・)
アイラは痛むお腹を擦りながら(明日からは早く起きないと)と早起きを決意する
次は護身術。二人組になり一人が長い棒を持ち相手に襲いかかり、それをどう交わすかの訓練
「あくまで身を護る為なので、武器を持っている相手を倒す必要はありません。攻撃をかわす事が第一です」
そうは言ってもなかなか武器を持つ者が、本気で叩きにはいけない
「しっかりと相手に向って行って下さい。防御する側も、どう攻撃を避けるか考えるんです!!」
「半端な攻撃は相手の為になりません。真剣にやらないと、マイナスを付けますよ!!」
イシュレイの言葉に、訓練生の皆の顔色が変わる
(そんな事言っても怪我させたくないし。でも・・・真剣に攻撃しないと、マイナスが・・・)
武器を持つ訓練生は(自分が防御側の方が、良かったかも)と思いながら相手に殴りかかり、防御側の訓練生は(避けなきゃ、絶対に痛い!!)と、相手の動きを見てかわそうとする
上手くかわせた者、少し痛い思いをした者が居る中、交代して同じ事をさせ、次は相手を代えてと、これを時間が来るまで続ける
最初は戸惑っていた訓練生だが、段々どうすれば相手が避けるか、自分はどう棒を振れば相手に当てられるかと考える様になってくる
武器を持つ者も加減が難しく遣りにくいが、やはり武器を持たない方が不利だ・・・実はこの護身術の目的は有利な立場の相手に対し、自分の状況を理解させる為にある
どう考えても武器を持つ者相手に、持たない者は不利である
けれど、騎士は時にその不利な立場に陥っても対処しなければいけない・・・カレンが刃物を持った盗人を、素手で捕えた時の様に
あの時は当然カレンはレイピアを腰に下げていたが、それを抜くと盗人を刺激する恐れがあった為に抜かずに素手で捕らえたが、その判断は周りに多くの一般人が居たからだ
もしレイピアを抜けば盗人がその武器を警戒し、もしくは怖がって周りの一般人を人質に取る恐れがあった為、不利を覚悟で素手で相手をしたのだ
そういう周りを見ての状況判断も、騎士には必要になる
この訓練は、暴漢の攻撃する動きを読む訓練でもあるのだが・・・それに加え、自分の置かれている状況を把握出来た者が何人居ただろうか?
午前の訓練が終わり昼食を済ませると、午後の訓練までに十二人はそれぞれ自己紹介をする事にした
ジェーンは四人姉弟の二番目で姉は親の手伝いや妹と弟の面倒を見ていて、自分は家を出る為に騎士の試験を受けてみたと話し、クレアは貴族しかなれない騎士に平民の募集もあったから受けたと言うので、ローラも似た様なものだと答える
クラナは家が貧しいので口減らしの様な感じで受けたと話し、カーラも仕事を探していて丁度騎士を募集していたから選んだと言うと、セラやメイラやアンジーも同じと答える
エネアは実家が豪商で、自分が騎士になれば男爵の爵位が貰え易くなるからとの、親の意向だと話し「正直、あまりにもきつ過ぎて、一週間持ちそうに無い」と笑う
アナンは子供の時からお転婆で、自分が誰かと結婚して家庭を持つ事が想像出来ず、一人で生きて行くと決めて高収入であろう騎士を選んだと話す
アイラは親が事業に失敗し家族がバラバラになり一人で生きていかなければ為らない為に、生き場所を求めていたら騎士の募集を見つけたから受けたと話すと、エレンも働いていた所をクビにされ、生き場所を失って絶望していた所に騎士の募集を見て受けたと話す
「なんか、皆同じ様な理由だね。騎士に自分の居場所を求めてるみたい」
アナンがそう笑うと、皆も笑って頷く
ただ、紅の薔薇騎士団に一体何人が入団出来るか判らない為、目の前に居る自分以外の十一人はライバルなのだ
午後は剣術と体術を学ぶ事になっていて、皆が緊張する中イシュレイとリリーとモネが現れ「まずは剣術の基本を教える」レイピアと剣を用意し
「レイピアは切っ先が鋭く尖っているのが特徴。見ての通り、突きで相手を攻撃する。軽くて、扱い易いので女性騎士、我々はこのレイピアを用いています。剣は突きの攻撃や斬る事が出来る武器です」
イシュレイがそう説明すると、リリーは剣を軽々と持ち空を突く動作と斬る動作を見せる
「実際に剣等の武器を持つ訓練は、騎士になってから行います」
それを聞いて緊張していた訓練生達はホッとするが、流石にまだ騎士になれるかどうかの試験で、本物の武器を持たせる訳にはいかない
なのでイシュレイが剣を持ち、リリーがレイピアを持ち、お互いに剣技を見せる
「剣は相手を斬るだけでなく、突き刺す事も出来ます」
そう説明すると、イシュレイがリリーに向って剣で突く動作をするので、リリーに「危ないと」と思わず声を出してしまう訓練生も居る中リリーは素早くレイピアで剣を突き方向を変える
「レイピアは細い剣ですが、怯まずに上手く扱えれば剣を受け流す事が出来ます。そして・・・」
すかさずイシュレイの剣を持つ手首に、レイピアを突きつける・・・まねをする
リリーのレイピア捌きは一流で、あまりにも素早く華麗な剣技に拍手をする訓練生達
次は体術。これがかなり辛かった
朝に組まされた者同士でペアになり、砂の入った人形?の様な頭と両手両足のある赤い布袋を、ひたすら蹴ったり殴ったりするのだが、これは戦い慣れ?をするとい事らしい
誰もが(なに?これ・・・)と思いながら蹴ったり殴ったりしていたが、だんだんと疲れて来る
「休んで良いとは言っていません。疲れたからと、加減したら減点です」
続けていくうちに訓練生達は段々と疲労困憊になってくる
初めは馬鹿にしていた訓練生だが、早い段階でこれはかなりきついと気がつく
砂を蹴っているので、足に青痣が出来る。拳で殴っているので、手が擦れて血が出て痛い・・・そして布が赤いのは、血の汚れを目立たせない為だと判った
フラフラしながら皆それでも殴ったり蹴ったりしていたが、クラナとエネアとアイラは限界になりゼイゼイと荒い息をしながら汗だくでフラフラと座り込んでしまい、手は擦れて血が出てこれ以上は叩けなくなる
正直イシュレイも(これはやり過ぎなのでは?)と思っていて、カレンが何を思ってこんな事をさせるのか?リリーも判らなかった
流石に「もう良いのでは?」とイシュレイに囁くリリーだが、カレンには半分以上が倒れたら終わって良いと言われているので(昨日に続き、今日も脱落者を作るつもりか?)とイシュレイは訝る
カーラとメイラも「はぁ・・・はぁっ・・・」と荒い息をしながら(もう、限界・・・)と真っ赤になっている手を床に付いて、倒れ込んでしまう
(・・・半分以上・・・まだ・・・・)
イシュレイも(これ以上は止めるべきだろうか?)と心配になる
(彼女達はまだ騎士では無い。これ以上は苛酷過ぎる)
イシュレイとリリーがどうしたものか?と見守っていると「もう良いです。ご苦労様でした」モネが叫ぶ
「お互いに、傷の手当をして下さい」
そう訓練生に伝えるとイシュレイに「これは幾らなんでも、遣り過ぎですよ」リリーがそう囁き、イシュレイも同感だと頷く
訓練生達は赤くなっている両手と両足の手当てをするが、手が震えなかなか上手く出来ずにいるのでイシュレイ達三人が手当てを手伝う
訓練が終わり、イシュレイ達三人は自分達の宿舎に戻りながら
「もしかして団長・・・平民虐めをしてる訳じゃないですよね?」
心配そうにリリーが二人に尋ねると、イシュレイは「そんな筈ないだろう・・・きっと団長の事だから、何か考えがあるのだろう」と否定する
けれど、ぬかるみ地獄や今回の体術の事を考えると遣り過ぎではあると感じる
シャワーを浴び、訓練生達は痛む手を気にしながら食事を取る
「私、最初の方でリタイアしてしまった・・・きっと物凄く減点されるわ」
アイラはがっくりと項垂れてしまい、カーラも「それなら、私も同じですよ・・・」もう駄目かもしれないと意気消沈する
がっくりと肩を落としている彼女達を見て、何とか耐えられ減点されなかった者達も心からは喜べない
「明日はもっときついのかなあ・・・これでまだ二日・・・」
(これは早々に諦めた方が賢いのでは?)と思う様になって来たエネア
(このまま頑張っても、結局騎士になれなかったら馬鹿みたいじゃない?それならもう、諦めようか?)メイラもそんな事を考え始める
訓練所に戻り、眠る時に「おやすみ」とジェーンが声を掛けると皆も「おやすみ」と返し眠りに就く
訓練二日目、脱落者は居なかった




