35話 紅の薔薇騎士団(募集編)
紅の薔薇騎士団の団長であるカレンはアルフレドの下命で女性騎士を募る事となったのだが、爵位の有る貴族女性だけを限定して募集を掛けても集まらないだろうと考え「紅のモットーは自由ですので。爵位の有無に囚われず、団員を増やしたいと思います」一般からも希望者を募りたいと訴え、流石にその条件に難色を示すアルフレド
「貴族で築き上げた騎士団に一般人を入れるなど、他の団長が許すと思うか?」
「無理でしょう。ですが、貴族の女性のみの募集では人数は集まりません。それはウェンヴィッツ様も判っている筈です」
カレンは折角募集しても人数が集まらなければ意味が無いと訴え、アルフレドは少し考え
「一般人に、騎士が勤まると考えているんだな?」
それならその条件で募集を掛けても構わないと許可し「ありがとうございます」カレンは上司の承諾を得る事が出来、一安心して頭を下げ出て行く
カレンが出て行き執務室に一人になったアルフレドは、ヴィクトリアに相談された戯れの事を考える
イヴェラノーズの夜会でヴィクトリアがフェリスアーラに絡まれた事は、噂好きの貴族達によって知っていたが、それが戯れだとまでは知らなかった
そもそも公爵令嬢の戯れは公にならない様に秘密裏に行われる場合が多く、虐めに加担する男性なら兎も角、紳士のアルフレドやルシフェルの様な男性が戯れの存在など知る由も無く、ルシフェルも悪女ヴィクトリアから受けた仕打ちがそれだと知ったのは、今のヴィクトリアに相談されて気付いたから
フェリスアーラはその騒動以来、社交界でヴィクトリアを怒らせたと嘲りの対象となり、取り巻き達も彼女から離れ他の公爵令嬢に取り入り、さっさと傘下に入ってしまった
その為にフェリスアーラは公爵令嬢としてのプライドもあり王都の社交の場に出る事が出来ず、仕方なく王都を離れヴァースヴィッツ領に戻り、今は邸にて使用人達に当り散らしながら引き篭もっているとの噂だ
正直そんな噂などアルフレドにはどうでもいい
ただヴィクトリア自身が危害を加えられた訳ではないが、恐怖を抱かせ、怒らせたフェリスアーラをそのまま放っておくつもりはなかった
けれど領地に帰ってしまい、もう二度と王都へは戻って来れないだろうとアルフレドは判断し、フェリスアーラの父親であるヴァースヴィッツ公爵に『ティアノーズ侯爵と私を敵に回したな』そう囁やき、二度と娘が王都へ舞い戻る事の無い様にと警告するだけにした
カレンが紅の執務室に戻ると、心配そうに団員達が集まっていて「どうでしたか?」副団長であるナディアが代表として尋ね「許可は貰ったわ。後は・・・結果次第ね」カレンはもう後戻りは出来ないと腹を括り、女性騎士の募集に一般人も募る事になった
騎士入団試験の日時と期間に合わせ団員達に夏季休暇を取らせる事になるのだが、リザとマーベルとサリアには休暇が少し遅れる事を了承して貰う
「問題ありません」
この三人は、休暇が遅れても構わないと前もって申告してくれていた
最もそれは他の団員もだが、カレンはこの三人に残って貰い「騎士の募集に、どれだけ集まるか」不安を抱きながら、初めての騎士募集の準備に取り掛かる
望んで騎士になりたいと思う貴族令嬢などそう居ない・・・居たとしても厳しい訓練に耐え切れずに、心が折れ逃げ出すのが殆どだ
「一週間後の入団試験日は、私達もドキドキしますね」
緊張しながらマーベルは、まるで自分が試験を受ける様にドキドキしていると伝えると団員達も頷き、入団試験のテストの内容を考えながら、カレンはある一つの提案を団員に伝えていた
それは、貴族と一般人を分ける事をせずに同等に扱いにして試験を行うという事
普通なら当たり前の事かも知れないが、オルテヴァールは権力主義の国の為、貴族が一般人と同等に扱われるのは途轍もなく侮辱されたと感じ、屈辱な事ので常に区別されている
その為、本当なら貴族の団員と一般人の団員は分けて試験を行うべきなのだろうが、カレンはそれでは団員全体の結束は生まれないと考えた
正直それがどう転ぶのか、カレン自身も不安ではある
団員の中にも、そんな事をすれば貴族の令嬢は誰も来なくなると心配し『それは危険です』と反対する者も居た
けれどカレンは危険を承知で、この紅の薔薇に仲間に対して優劣があってはならないと訴え、かつて自分達がお荷物と差別されて来た悔しい思いを、一般人にも味合わせる訳にはいかないと説得する
それを聞いて貴族と同等に扱う事を反対した者は(自分達が騎士の男達と同じで、一般人を見下したり差別しようとしていた?)そう考えゾッとする・・・例え見下す事はしなくても、下には見てしまうかもしれないと考えたからだ
いよいよ騎士の入団試験の日になり、騎士希望者の貴族令嬢が城へと集まって来て、一般人は予め指定された場所に時間までに集まり、そこから馬車に乗って城へと移送される手筈になっている
アイラ・ウェインは役所で身分証明を見せ試験の手続きをして、試験日に指定された場所に試験番号の書かれた書類を手に、ドキドキしながら馬車に乗り込む為の列に並んでいる
護送の馬車は少し遅れて現れ、押し込められる感じでアイラ達は不安そうに乗り込む
(騎士に平民を募るなんて・・・まるで戦争が起こる前触れみたい・・・)
アイラはこの募集を見た時は最初心がざわついたが、それなら女ではなく男を募集するだろうと考え直し、父親が事業に失敗し一家離散になってしまった彼女は、藁に縋る気持ちで入団試験を受ける事にした
王城へと向かう間、隣同士になった者達がどうして騎士になるのかと話していて(私は・・・何処にも行く所が無いから)エレン・バーセンはそう心の中で呟く
某レストランに住み込みで働いていたエレンは、何故か同僚の年上女性に嫌われ嫌がらせを受けて来た
彼女の所為で店で働くのは辛かったが、それでも行き場の無いエレンは我慢し耐えていたのだが、その女性の嘘に騙された店長に、無常にもクビにされ店から追い出されてしまった
(・・・どうして店長は私の言う事は信じてくれなくて、あの人の言う事は信じるんだろう・・)
行く宛ての無い、天涯孤独のエレンは途方に暮れていた所に騎士の募集を見つけた
馬車は城内へと入って行き、紅の薔薇騎士団の団員達が待機している広場で停まり女性達を降ろす
降ろされた一般女性達は、自分達がオルテヴァール城の中に居る事に畏れ多いと不安そうに辺りを見回し、そんな彼女達を貴族令嬢達は軽蔑の目を向け見ながら
「あの、私はミレナ・ブルガストですが、貴族である私達もここに集められたのは何故ですか?見た所、あそこに居るのはどう見ても平民ですよね?」
不快感を露にしながら試験官だろう女騎士に尋ねると、他の貴族令嬢も不愉快そうにする
尋ねられたカレンは、そんな彼女の質問を無視すると
「本日、貴方方がこの場所に集まって下さった理由はただ一つ。ここに居る者が皆騎士を目指し、騎士になる為の試験を受ける為。そうですね?」
その問いに受験者達が頷くと「試験官が質問した時は、はいかいいえで答えなさい!!」厳しく大声で怒鳴るので「は、はい!!」貴族令嬢も一般人も慌ててそう答え「宜しい」カレンは訓練生達を見回し
「私はカレン・オウガスト。今回団員を募った、紅の薔薇騎士団の団長です」
この瞬間から訓練生になった彼女達は、ドキドキしながらカレンに目を向ける
「これから一週間、皆さんには騎士になる為の厳しい特訓を課し、己を鍛えて貰います。そして貴方方は、寝食を共にする仲間でもあり、ライバルでもあります」
カレンのその言葉にミレナはショックを受けながら
「ちょっと待って下さい!!先程も言いましたが、私は子爵です!!いくら子爵だからって、平民と同等に扱うなんて酷過ぎます!!」
怒りを露にし抗議すると、他の令嬢達も不快だとカレンを睨んでいるが「今回特訓を受けるのは、子爵が二名。男爵が三名。そして一般人からは十六名です」カレンはミレナの抗議を無視しながら、集まった訓練生達を見回し
「よく、この紅の薔薇騎士団に志願してくれました。皆さんの今日から一週間の訓練の成果に期待します」
カレンは後の事をナディア達に任せて、さっさと執務室に戻って行く
ナディアがまず彼女達が寝起きする場所、室内の訓練所に案内すると
「ちょっと待って下さい!!まさか・・・ここで寝るんですか?私は騎士を希望してるんですよ?」
キャスと言う子爵が自分は傭兵になる訳じゃないという様に、ショックを受け抗議する
「人数が多いので、一週間は雑魚寝です。皆さんの食事は食堂にて全員で食事の時間内に取りますので、遅れない様に」
ナディアはモネに合図を送ると、とリリーは頷きダンボールから訓練着を取り出し二着ずつ配り「室内の訓練用と、外の訓練用です」ナディアはリザとリリーに訓練の日程表を渡し
「この通りにする様に、私も執務室に戻るわ。何かあったら知らせて。外の訓練場には、イシュレイが待機しているから」
貴族令嬢達の態度にやれやれという感じで、ナディアもまた執務室に戻る
訓練生達はこの場で訓練着に着替えなければならないのだが、一般の者はすぐに着替えたが貴族令嬢達はどうしても嫌がる
「あの、貴方達も、平民と一緒に着替えるのは平気なんですか?」
令嬢達が文句を言うと、モネは「私は、男と同じ場所で着替えた事がありますよ」嫌がらせで、入ったばかりの時はそんな目にも遭っていた
それを聞いて貴族令嬢達は顔を見合わせ、一般人と離れた所でしぶしぶ着替える
「団長の人、私達を一般人って言ったわね」
一般組みのジェーンが驚くが『平民』とは貴族が一般人を見下した呼称だったが、いつしか一般人も貴族にへつらう様に自分達を一般人や国民と呼ばずに、平民と呼ぶようになっていた
「そうなんです。この紅の薔薇の団長さんは、以前平民のおばあさんの荷物を盗んだ強盗を捕まえた事があるんですよ。私、その場に丁度居てて、見てたんです。それ以来、ずっと憧れてました」
嬉しそうに話すミーアに「それ、知ってるわ。新聞にも載ってた」他の一般訓練生達も騒ぎ出し、ジェーンは(その人なのか・・・)以前自分も読んで驚いたその記事の事を思い出す
訓練は早速始まり、まず基礎体力を見る為の持久走を行う為に外の訓練場へと向う
イシュレイが時間を計り訓練生達の記録を記入していき、それが終われば今度は十kgの砂が入ったリュックを背負わせもう一度走らせる
「ちょっと・・・これ、無理・・・」
あまりの重さに殆どの訓練生達はその場で倒れ込んでしまうが、一般の中には走る事は出来ないがはぁはぁと苦しそうに根性で歩きながらも距離を縮め頑張る者が数名居る
(これは、凄く・・・きつ・・い)
アイラは初日からのこのキツさに、一週間堪えられるだろうか?と不安になりながら、数十歩歩いただけで倒れ込む
結局、誰も十kgの砂が入ったリュックを背負っては完走出来ず、イシュレイは記録を書き込むと彼女達をシャワー室と食堂に案内し午前の訓練から解放する
「応募、一般人は十六名ですか。何人残れますかね?」
モネは心配そうに呟く。彼女は貴族より、一般募集の訓練生達の方がまだ根性があると判っているから期待しているのだ
「それより貴族の方が心配だな。文句ばかりで、体力も無い。すぐ脱落するんじゃないか?」
イシュレイも同じ様に考えていて、やれやれと溜め息を吐く
女性専用のシャワー室では先に貴族令嬢達が入り、時間を掛けてシャワーを浴びているのだが食事の時間帯が決まっているので、一般組みの一人が「早く出て来て貰えますか?」と声を掛けるが、令嬢達は知らん顔でシャワーを浴び続ける
一般組の訓練生達は困った様に顔を見合わせるが相手は貴族、黙って待つしかない
漸く出て来た令嬢達の所為で時間がないからと、十室のシャワー室に十六人が一斉に入る事となる
「あの、私達なら二人でも狭くないと思うんですが」
アイラが思い切って細身の一人の女性に声を掛け一緒に入れて欲しいと頼むと、声を掛けられたクラナは「はあっ?私は一人で入るわよ!!」さっさとシャワー室に入って鍵を掛けてしまう
困ったアイラはキョロキョロと空いてるシャワー室を探すが当然何処も閉まっていて、二人で入ってシャワーを浴びている者も居るので、結局アイラを入れて四名がシャワーが浴びれず、食堂に向う事になってしまう
(後で浴びれば良いよね・・・)
アイラはそう思いながら食堂で料理を載せるトレイを持ち、配膳の列に並んでいると「おい、何だよ、何か臭いな」男性の声でそんな言葉が聞こえドキッとする
食堂は男性騎士達も当然利用していて配膳に並んでいるのだが、臭いと騒ぎ出すのでドキンドキンと胸が鋼の様に打ち付けトレイを持っている手が震える
「平民が居るらしいけど、なに?シャワーを浴びたりしないのか?神聖な騎士団が汚染されるだろうが」
「汚いなあ、シャワーを浴びてから食事をしろよ!?」
男性騎士のその言葉に、シャワーを浴びれなかった女性二名が「す・・・すみません」謝りながら食堂を出て行き、それを見てアイラも出て行くともう一人もついて来る
貴族令嬢達は出て行く四人を見てクスクスと笑い「本当に汚いわよね」と嘲るが、一般組は俯いて並んでいる
シャワー室ではカーラが泣きながらシャワーを浴び、もう一人の女性セラは黙って浴びていて、アイラともう一人マイアも急いで服を脱ぎシャワーを浴びながら(これで評価は最悪かなあ・・・)がっくりと項垂れ、初日から躓いてしまったかもしれないと思い、何とか挽回しなければと考える
シャワーを浴び終え、急いで食堂に戻るが並んでいた時間がすでにギリギリだったので配膳は終わっていた
食堂の人に事情を話し、僅かな残り物を四人分に分けトレイに乗せて貰うとお礼を言い、空いている席で四人は食事を取る
食事をしながらアイラ達はお互いに自己紹介して、今度自分達がシャワー室を取れたら一緒に入ろうと約束する




