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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
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 34話 悪女の悩みと償い

ヴィクトリアは相変わらず公爵と侯爵の令嬢からの招待状に悩まされている

(やっぱり、ウェンヴィッツ様とゼノヴィッツ様からの招待状は来てないわね・・・ああ、メリルシアナ様からまた来ているわ・・・どうしよう)

メリルシアナのお茶会に一度顔を出した為、それ以来彼女からの招待状が届くようになっている

アルフレドと懇意にしていると聞いてお茶会に参加し、実際メリルシアナはとても穏やかで話し易く、楽ししい一時を過ごせヴィクトリアは彼女を良い人だとは思っている・・・けれど、少しだけ疑いもしている


(公爵令嬢の方達が、私を何かに利用しようとしているらしいけど・・・私に何の価値があると言うのかしら?)

この前のイヴェラノーズ侯爵の夜会で、ヴィクトリアはフェリスアーラ・ヴァースヴィッツ公爵令嬢に絡まれてしまった

彼女は以前の悪女ヴィクトリアと共に、公爵令嬢の戯れと言う令嬢虐めを楽しんでいたのだ

そして記憶を無くしているヴィクトリアにもその虐めの楽しさを思い出させ、自分の派閥に取り込もうとした

けれどそれを知ったヴィクトリアは逆にその真実に衝撃を受け、フェリスアーラに激怒、彼女の思惑は失敗に終わる


ヴィクトリアは戯れの事を知り、何とかその虐めを無くさなければと考えているのだがどうしたら良いのか判らない

(・・こんな風に悩んでいる間に、誰かが酷い目に遭っていたらどうしよう・・・)

イヴェラノーズの夜会でのサロンで起こった戯れ・・・あれは本当に怖かったと恐怖が甦るヴィクトリア

(誰も助けてくれなかった。助けを呼んでもくれなかった。あんなの酷過ぎるわ・・・)

ヴィクトリアは自分では解決出来ないと諦めそうになると、その事を思い出し自身を奮い立たせている


(公爵令嬢の戯れ・・・どうやったら止めさせる事が出来るの?)

友人達に相談すると、皆顔を曇らせ『それは・・・無理よ』『公爵様には誰も逆らえないもの・・・』と口々にそう言う

絶対権力のオルテヴァール王国においては貴族も一般人も、誰もが権力に支配される

溜息を吐くヴィクトリアはこのままではいけないと判ってはいるのだが、所詮自分も侯爵令嬢の身、公爵令嬢様には逆らえない・・・だからずっと悩むだけで、解決出来ずにいる



いつものように夜にルシフェルが帰って来るので「お帰りなさい」と出迎え、彼の部屋へと向う

ルシフェルが鞄を机に置くのを確認し「あの、ルシフェル・・・」どうしても自分では良い解決法が思いつかず、ヴィクトリアは思い切って相談する事を決心する

「なに?」

「あ、後で良いの。先に夕食を済ませて」

ヴィクトリアは話しが話しなだけに、先に食事と入浴を済ませて貰ってからにしようと食堂に向う

(どうしよう・・・こんな事、相談するべきじゃないかしら?やっぱり自分で何とかしないと駄目よね・・・・)


公爵令嬢の虐めの事をルシフェルに相談するのは間違っているような気がして、なかなか相談出来なかった

それでもずっと悩んでいても良い解決策が思いつかず、漸く相談しようと決意したのだが・・・

(疲れて帰って来てるのに、こんな相談・・・やっぱり止めようかしら)

ヴィクトリアは自分で解決しないといけない事に、出来ればルシフェルを巻き込みたくない


「それで、相談ってなに?」

食事をしながら聞いてくるルシフェルに

「あ・・ええ・・・お母様のお土産がね、お父様のお土産と金額の差がついてしまってるから、その・・・他に何か良いプレゼントを考えて欲しいんだけど・・・」

ヴィクトリアはやっぱり相談出来ないと、ルシフェルの両親に贈るお土産の事に相談を変えた

ルシフェルは怪訝そうに「それが相談?」聞き返すのでヴィクトリアが頷くと「ふーん」と考えながら

「気持ちが籠もっていれば差額なんて気にする人じゃないよ、俺の母親は」

「ええ、勿論それは判ってるんだけど、私が申し訳ないの・・・いいわ、何か考えておくから」

それでこの相談は終わりにしてヴィクトリアは「他に何が良いかしら?」とプレゼントの追加まで考える羽目になる



(うーっ、お母様へのプレゼントまで考えなくちゃいけなくなったわ。まあ、それは気になってたから良いんだけど)

寝室でルシフェルを待ちながら、ヴィクトリアは頭を抱える

(どうしよう・・・やっぱり自分で考えて何とかしないと・・・せめて公爵様に誰か知り合いが居れば・・・)

ヴィクトリアは一人、メリルシアナを思い浮かべるが

(メリルシアナ様・・・もう一度お茶会に出席して、相談してみるしかないかしら?)

気が乗らないが、もう彼女しかいない。救いを求める気持ちでお茶会に参加しようかと考える


悩んでいると入浴を終えたルシフェルが寝室に入って来る

(お母様のプレゼントも考えないと・・・どうしよう・・・何か普段に使うものか、生活に役に立つような物の方が良いかしら?)

ヴィクトリアが考えていると、ルシフェルが隣に座り「それで、相談ってなに?」そう聞いてくるのでドキッと驚く

「だから・・・お母様のプレゼントの追加を・・・」

「ヴィクトリア、前にも言っただろう?困った事があったら俺に相談してくれって」

ルシフェルはヴィクトリアを抱きしめ「俺に迷惑や心配を掛けたくないのは判るけど、一人で悩んでも解決しないんだろう?」そう優しく尋ねる


ルシフェルはずっとヴィクトリアが何かに悩んでいる事に気付いていたが、相談してくれるまではと黙って待っていた

「俺が力になるから、話して」

ジッと自分を見つめてくる彼に、ヴィクトリアはイヴェラノーズの夜会のサロンで起こった戯れの事を話し「・・・以前の私も、その戯れを楽しんでいたのよ・・・」泣きそうになる

(この事を知られるのが嫌だったから・・・相談し難かったのもあるのよ・・・)

ルシフェルに嫌われるのでは?と、それを恐れていたヴィクトリア

ルシフェルはそんな事が行われていた事実を知り(もしかして俺への嘲笑も、その戯れだったのか?)心当たりがあると思い返す

悪女ヴィクトリアの取り巻きや、恋人と言われていた男達にルシフェルは常に嘲笑されていたから


思い当たる出来事に、その事実を他の誰かから聞いてヴィクトリアが傷付くのを恐れ

「その戯れに以前のヴィクトリアも関わっているのなら、嘲笑を受けていた俺もそうだったのかもな」

ルシフェルのその言葉に驚き、凍りつくヴィクトリア

「まあ、あれは()()()の俺に対する抗議、抵抗だと思っていたんだけど。気にしていなかったし」

ルシフェルにすれば、所詮は政略結婚。悪女ヴィクトリアの時は彼女の好きにしたら良いと、例えそれがルシフェル自身を貶める行為であっても、心底どうでも良かったのだ


「・・・私、ルシフェルにもそんな酷い事を?」

震え泣きそうな目で聞いてくるヴィクトリアに、ルシフェルは優しく抱きしめながら

「ヴィクトリアに話したのは、他の誰かから聞いて傷付かない様にだ。それから、さっきも言ったけど俺はあの女に関しては・・・冷たい言い方だけど、興味がなかったからどうでも良いんだ」

そう伝えるとヴィクトリアにキスをして「今の俺の全ては、目の前に居るヴィクトリアだから」だから気にするなと笑い、愛する婚約者の涙を拭ってやる

悪女ヴィクトリアが散々彼を傷付けて来た事を改めて思い知り、ヴィクトリアはルシフェルに抱きつく


「ヴィクトリアはその戯れを無くしたいんだろう?でも、それは難しいだろうな」

率先して虐めを楽しんでる公爵令嬢に注意しても、本人は聞く耳持たないだろうから無駄に終わるだけ

「サロンで行われる・・・か」

(人の目の届かない、閉ざされた虐めを行い易い場所・・・)

ルシフェルは考え

「そのサロンで悪事が出来ないよう、安全管理を徹底したらその戯れも出来なくなるんだが・・・」

「安全管理を徹底するって?」

「そのサロンに、監視が居れば良いんだ。表向きは・・・より淑女や令嬢が安心して利用出来る様にと名目を付けて」

けれど、肝心なその監視の役目を負うのは誰か?それを考えるルシフェル


「警備の者を就けるにしても、流石に女性専用のサロンに男を入れる訳にはいかないしな・・・」

それが問題と頭を悩ませるルシフェルにヴィクトリアは目を輝かせ「居るわ!!打って付けの人達が!!」そう叫ぶと

「女性の騎士がサロンに常駐すれば、いくら公爵様でも虐めなんて出来ないわよっ!!そうでしょう!?」

「・・・騎士をサロンに常駐?」

突拍子も無い事を言う彼女に、ルシフェルは難色を示す

「いや・・・流石に無理がある。夜会を開く度に女性の騎士を常駐なんて無理だと思う」

「公爵様の夜会と、公爵様と繋がりの有る侯爵の夜会に絞っても無理かしら?」

「それでも難しいだろうな。その考えは良かったんだけど、流石にサロンの監視に騎士を使うのは無理だろうな・・・大体その戯れは、お茶会とかでは起こらないの?」

ルシフェルがそう尋ねると、ヴィクトリアは判らないと答える


「サロンだけに限った事じゃなければ、騎士の居ない場所に集中して戯れが行われるだけだろう」

ルシフェルの指摘に(確かに・・・)とヴィクトリアはがっかりする

以前クローディアが悪女ヴィクトリアに頬を叩かれたのは、公衆の面前でだ

(やっぱり無理があるのかしら・・・でも、だからって諦める訳にはいかないのよ)

クローディアが怯えた目で、震えながら自分にしがみ付きフェリスアーラを見ている姿を思い出し

「・・・カレンとアルフレド様に相談してみようと思うのだけど」

ヴィクトリアは怒るかもしれないと思いつつ、心配そうにルシフェルを見る


「本気か?サロンに騎士を常駐させてくれって頼むのか!?」

「それしかないもの・・・無駄で意味が無いかもしれないけど、サロンでの公爵様の虐めを止めるには騎士に頼る以外無いでしょう!?」

騎士以外の誰が、公爵令嬢を止められる?ヴィクトリアは縋る様にルシフェルに訴える

(選りにも選って、ウェンヴィッツに頼むのか)

ズキンと胸が痛むが(ヴィクトリアが奴に頼るのなら仕方がない)とルシフェルは自分に言い聞かせ「判った」と頷くと、ヴィクトリアは申し訳なさそうに

「ごめんなさい。でも、それしか良い方法が思いつかなくて・・・」

ルシフェルをまた怒らせる・・・ヴィクトリアにとってはそれが何より辛いのだが、公爵令嬢を止めるのに自分だけではどうしても無理なのだ


「判っているから、ヴィクトリアの気持ちは」

ルシフェルはヴィクトリアを抱きしめ「ただ、二人に相談する時は俺も同席する」そう条件を付ける

「俺がなるべく早く相談出来るよう、段取りを付ける」

(あいつとヴィクトリアが会っている時に、いつも俺が居ないのが不愉快でならない)

ルシフェルは、驚きながらも嬉しそうに喜ぶ婚約者にそう約束する



二日後の午後十二時過ぎに、ヴィクトリアはランドルの執務室を訪れる

「ここがお父様の仕事場なのね」

嬉しそうに部屋の中に入るヴィクトリアにルシフェルは、ランドル個人の部屋のドアをノックして中へと案内する

「お父様、約束の昼食を持って来ました」

書類に記入している父に嬉しそうに声を掛け、彼の机から少し離れ設置されている、来客用の大理石のテーブルに荷物を置く使用人のサビド


今朝の朝食の時にヴィクトリアはウェンヴィッツに会いに登城するので、その時にお昼を持って行くと約束していたのだ

「・・・あまりウェンヴィッツ公爵に迷惑を掛けるんじゃないぞ」

ランドルはルシフェルの方を見てそう苦言を呈するので「判ってるわ・・・ごめんなさい」ヴィクトリアが謝り、ルシフェルと二人執務室を出て行く

アルフレドの執務室に向いながら「もしかしてお父様、ルシフェルに何か言ったの?」心配して尋ねると、ルシフェルは

「いいや。ただランドルは自分ではなく、ヴィクトリアがウェンヴィッツを頼ったのがショックだったみたいだ」

その言葉に驚くヴィクトリアは「でも、侯爵のお父様では流石に・・・」どうにもならないだろうと申し訳なく思うが(ティアノーズは侯爵の中で一番、権力チカラがあるんだよ。ヴィクトリアは知らないだろうけど)ルシフェルは心の中で呟く


アルフレドの執務室の前に来てヴィクトリアは「あら?前に連れて来られた部屋じゃないわ・・・」首を傾げる

以前に来た場所は仰々しい鉄の門に、騎士が二人立っていた

「多分それは軍部の騎士総本部室だろう。普段はこっち、普通の執務室。ヴィクトリアにかっこつけたかったんだろう」

ルシフェルは早くノックしてと促し、ヴィクトリアは大荷物を持っている彼の代わりにドアをノックをする


扉が開き、カレンが出迎えてくれる

「お待ちしておりました。アルガスター様、ヴィクトリア様」

丁寧にお辞儀をして二人を中に入れ「久しぶりねカレン」嬉しそうにヴィクトリアはカレンに声を掛ける

カレンも嬉しそうに「お久しぶりです、ヴィクトリア様」二人は久しぶりに会えて嬉しそうに喜ぶが、アルフレドと二人きりでは居た堪れなく、カレンは早くヴィクトリアが来てくれと願いながら待っていたのだ

「ヴィクトリア、久しぶりだね。俺に相談があると聞いたが、その相談はヴィクトリア個人の事だろうか?」

アルフレドが嬉しそうにヴィクトリアに微笑み掛けるので、ヴィクトリアは申し訳無い様に

「あ・・いえ、私個人と言う事では無いんです。その・・・出来れば、お二人のお力を貸して貰いたくて・・・」

ルシフェルは真ん中に置かれた来客用のテーブルに、ドカッと多くの荷物を置く


「・・・それは何かな?」

察しの良いアルフレドは、ヴィクトリアが何かを持って来たと推測し尋ねる

「あっ、これはですね、お昼休憩の時間を割いて貰ったと聞いたので、その、良かったら皆さんで召し上がって下さい」

そう言いながら、いそいそとサンドイッチやオードブルの入った小鉢を取り出して分けると、水筒に入れてあった紅茶をこれまた用意したカップに注ぐ


「随分な荷物だと思ったら・・・凄いな、ヴィクトリアは力があるんだな」

お皿にナイフとフォーク、カップを取り出し用意するヴィクトリアに、従者が居ないので城内までは彼女が一人で運んで来たと思い、意外だとアルフレドが感心すると

「使用人を一人連れて来ている。荷物は全部彼が持って来ていた。ついでにその使用人は、ランドルの昼食の世話をしている」

憮然と、ルシフェルが簡潔に答える

当然、この大荷物は全部ルシフェルが一人で持って来たのは二人とも見ている


「全部じゃないわ、この水筒は私が持って来てたでしょう?」

ランドルの執務室までは確かにヴィクトリアが持って来たが、アルフレドの執務室には水筒を含め全てルシフェルが持って来た

「そんな水筒一つ持っただけで、手伝いましたって顔されても・・・サビドはそう言う顔をしていた」

ルシフェルが使用人の彼の気持ちを代弁すると、ヴィクトリアはムッとする

「違うわ。全部持とうとしたから、せめて水筒だけでもと思って持ったの。だって、本当に大変そうだったのよ」

「うん、それは俺が体験した。ヴィクトリア、何でも持って来過ぎだ。可哀想に、この荷物だって結構重たかった。よくランドルの分までサビド一人で持って来れたものだな」

ルシフェルはここまで一人で運んだ目の前の食器類や食べ物に、恨めしそうな目を向ける


「これ以上の量を運んだんですか?そのサビドって人は」

カレンは軽く三人前以上はある豪華な料理を前にして感心する・・・そしてこの量を一人で運んだルシフェルにも

「・・・後でサビドに謝っておくわ」

ヴィクトリアは良かれと思ってしたのだが、サビドには迷惑を掛けてしまったと反省する

そんな二人の遣り取りを見て、カレンは(なに?この二人。まるで夫婦みたいなんだけど・・・)

妻が遣らかした事を夫が窘める・・・そんな遣り取りに見えるカレン


「折角のヴィクトリアの好意だ、喜んで頂くよ」

アルフレドは二人の遣り取りなど気にする様子もなく、ヴィクトリアに嬉しそうに笑い掛け、ルシフェルに窘められシュンとしたヴィクトリアは気を取り直し「ええ、沢山食べて下さいね」と、アルフレドとカレンにフォークとお絞りをニッコリと渡す

妙なプレッシャーを受けながら食事を取り、アルフレドが相談の内容を尋ねるので

「アルフレド様とカレンは、公爵令嬢の戯れをご存知ですか?」

ヴィクトリアの質問に、アルフレドは「いや」と答えるがカレンは驚いた様にヴィクトリアを見る

「カレンは知ってるの?」

流石に元子爵令嬢なだけあって、カレンは戯れの事は知っていて「ええ、まあ。どうしてそんな事を?」と心配そうにヴィクトリアを見る


「公爵令嬢の戯れは、公爵令嬢にによる下位の貴族令嬢への虐めです」

ヴィクトリアの説明にアルフレドは、確かにサロンで何かしら問題が起こる事を聞いたと思い出す

「その虐めは主にサロンで行われているのですが、それはサロンが外から見えない、無法地帯だからです」

「無法地帯とは、面白い事を言うね」

アルフレドが感心すると、ヴィクトリアは真剣に

「外からは目撃されず、虐めを行うには打って付けの場所ですが、そこを改善出来れば虐めは無くなると思うんです。そうなれば下位の令嬢達にとって、安心出来る場所になるでしょう?」

そう訴えるとアルフレドはふむ、と考え

「もしかして、女性騎士をそのサロンに配置して欲しいと・・・そう言う事なのかな?」

難しいのは判ってますがという表情で頷くヴィクトリア


カレンは驚き「それは・・・いくらヴィクトリア様の頼みでも・・・」無理ですと、アルフレドに目で訴える

ルシフェルは黙ったままアルフレドがどう出るか見守る

(愛するヴィクトリアの為に、無理を通すか?)

ルシフェルは、アルフレドなら引き受けるかもしれないと思っている

「その戯れに、ヴィクトリアも被害を受けたのかな?誰かに虐められた?」

「・・・以前の私が関わりを持っていました。その・・・虐める方です」

ヴィクトリアが俯きながら答えると「成るほど」とアルフレド


「それを誰から聞いたの?記憶を無くしているヴィクトリアに、それを教えた令嬢は誰?それと、もし虐めをしている令嬢が判っているのならそれも教えて」

『虐めをしたのは誰なのか教えて』との質問にヴィクトリアは答えず、困った様に俯いてしまう

(虐めた相手を聞きだしてどうするつもりだ?その令嬢に戯れを止めるよう、注意するつもりか?)

そんな事で済む訳ないだろう?そんな単純な事ではないと、ルシフェルはアルフレドを見る


「答えたくないなら、ヴィクトリアからは無理に聞かないけれど。その戯れは、全ての公爵令嬢が行う訳ではないだろう?」

アルフレドの問いに『そんな事をする公爵様は極一部なのです・・・余程歪んだ方が、そういう事をするのです』

ヴィクトリアはシルメラの言った事を思い出し頷く

(やっぱり駄目なのかしら・・・サロンに騎士を置くのは悪くない考えだと思うのに・・・これじゃあまた虐めは起こってしまう)

アルフレドとカレンに良い返事が貰えそうにないなら、ヴィクトリアはどうしたら良いのだろうと考える


「ヴィクトリア、夜会へ騎士を一人手配するのに、時間給で計算するとして幾ら掛かるか判る?」

唐突なアルフレドの質問にヴィクトリアは驚いて「判りません」そう答えると

「下級騎士で五千ゼル前後。夜会は大体十八時に始まり、二十三時前後に終わるから五時間勤務で計算したら、一回の夜会で、騎士一人当たり二万五千ゼルが必要になる」

ルシフェルが代わりに答え、ヴィクトリアは凄いと感心する


「もし夜会に騎士を置く事になれば開催する度に騎士の申請をし、その金額を支払わなければならなくなる」

しかも一人ではないのだから、騎士を駐在させる事になると人数分の騎士の出費が増えるので「お金の問題ですか・・・」ヴィクトリアは考え

「お父様に相談して、出来る限りティアノーズで負担しますので・・・」

「ヴィクトリア!!」

ルシフェルが馬鹿な事をとヴィクトリアの言葉を制止し

「毎月の上位貴族達の夜会の騎士の出費を、ティアノーズで負担するなんて有り得ない」

「私も、協力するわ。無駄使いしないで出費を控えるし、ルシフェルには迷惑掛けないから」

反対するルシフェルにそう訴えると「そんな事を言ってるんじゃない!!」ルシフェルがヴィクトリアに大声を出すので「おい」アルフレドがルシフェルを睨み付ける


「今回の事は無理が有るんだ。出来る事と出来ない事がある。サロンの件でヴィクトリアが傷付いたのは判るが、こればかりは相手が公爵令嬢だ。ヴィクトリアには荷が重過ぎる」

ルシフェルはヴィクトリアに言い聞かせる様に

「いいか、ヴィクトリアはサロンに騎士を置けば問題が解決すると思っているだろう?」

頷くヴィクトリアは「公爵様だって、騎士が居れば虐めなんて出来ないでしょう?カレンなら護ってくれるわよね?」とカレンを縋る様に見るが

「それが甘いんだ。騎士の目を盗んで令嬢を虐める事だってするだろうし、虐めを他の場所に変える場合だって有り得るだろう?何もサロンだけに騎士を置いて解決って訳にはいかない!!」

ルシフェルの言葉にヴィクトリアは

「判っているけど、まずはサロンに騎士を置く事が重要だと思うの」

「サロンで出来なくなれば、今度はお茶会で行われるだけだろう?それこそ令嬢しか居ないのだから、特に狙われ易くなるぞ!?」

「そんな・・・」

折角光が見えたと思ったのに、また闇に戻されてヴィクトリアはがっかりする


(助けてあげられない?公爵令嬢の戯れを止めさせられないの?)

ヴィクトリアは(もう、虐めを行っている公爵令嬢達に直接会って、話し合うしかない!!)怖いが、それしかないのだと決心する

「ヴィクトリア、その戯れについてもっと詳しく説明してくれないか?誰が虐めを行っているのか。主にどんな虐めをするのか。情報がなければ対処が出来ないから、相談に乗れない」

アルフレドの言葉に、ヴィクトリアは「私も詳しくないんです。ただ・・・」フェリスアーラがクローディアにした残酷な仕打ちは、とても怖かったあの出来事は、二度と遭ってはいけないとそれだけは判っている


「クローディアが実際に公爵令嬢様に跪かされて怯えているのを見た時に、本当にゾッとして、放っては置けないと思ったのよ。あんなに怯えて泣いているのに、その公爵様は・・・笑っていたんだもの」

そう訴え、ポロッと涙が零れる

(クローディアがどれ程怖がっていたのか、フェリスアーラは判っていなのだろうか?)そう考え(ちがう・・・自分の強さや、権力を、弱いクローディアを虐める事で周りに見せつけ誇示してるのよ・・・愚かだわ)

そして、その愚かな人間の中に悪女ヴィクトリアも居たのだ

「ヴィクトリア様・・・・」

「あんな残酷な事をしているのに、どうして誰も助けず、公爵様にも罰を与えないのか・・・それが許せないんです」

ヴィクトリアはフェリスアーラがした事を、ずっと、ずっと怒っている・・・だから彼女に会って話しをしようと決めた

他にも誰が虐めを行っているのか聞き出し、そして止めるように頼み続けるしかないと・・・


ヴィクトリアの話しを聞き、イヴェラノーズの夜会の帰りずっと泣いていたヴィクトリアを思い出し

(あの時泣いていた理由が判った・・・辛かったな)

ルシフェルはギュッと、愛するヴィクトリアを抱きしめる

悪女ヴィクトリアがそんな残酷な虐めに加担していた。それは知った今の優しいヴィクトリアにとっては、耐え難い心痛だろう


アルフレドはルシフェルは抱きしめているヴィクトリアを見つめながら

「刑罰か・・・それは良い案だな」

「過度な虐めを行った公爵令嬢には、きつい仕置きが必要だろうな」

同調する様に頷くルシフェル

ルシフェルはサロンに騎士を置くよりも、何とかその虐めによる処罰が出来ないものかと考え、アルフレドに相談したいというヴィクトリアの頼みを聞き入れたのだ・・・アルフレドなら貴族会議の議題で新たな法案を押し通す事が出来ると考え、

二人は公爵令嬢の戯れに対する抑制の為の、手厳しい刑罰の法案を考える


(・・・それで、この人いつまでヴィクトリア様を抱きしめているんだろう?)

当たり前の様にヴィクトリアを抱きしめているルシフェルと、当然の様に抱きしめられているヴィクトリア

二人の仲睦まじさを初めて見るカレンは、目のやり場に困る・・・最も、ルシフェルはワザと見せ付けているのだがアルフレドは気に止めず

「戯れ・・・令嬢の令嬢による虐め、危害や怪我をさせた場合の賠償・・・厳罰を科せば馬鹿でも自粛するだろう」

「問題はその処罰だな。公爵令嬢や貴婦人に対して、何処まで厳しく罰する事が出来るかだ」

出来れば最上級の厳罰を与えて遣りたいとアルフレドとルシフェルは考え『ヴィクトリアを泣かした罪は重い』と、二人の意見は珍しく一致する


こうしてヴィクトリアが相談した『公爵令嬢の戯れ』に対する解決の方向性が何とか決まり、ヴィクトリアはホッとして

「あ、あの・・・クッキーを焼いたので、良ければおやつに食べて下さい」

アルフレドとカレンにクッキーの入った小袋を渡す

「ヴィクトリアが作ったのか?どうして?」

今までお菓子作りなどしなかったヴィクトリアに、ルシフェルは少し不安を抱き尋ね

「ほら、お母様の趣味がお菓子作りでしょ?だから私も少し練習しようと思って」

なるべく好かれるようにと努力しているヴィクトリアに「そうか」と安心する

「サージスにしっかりと教えて貰って、クッキー位は焼けるようになったのよ」

ヴィクトリアが嬉しそうに自慢するとルシフェルは(サージス頑張れ)と、きっと教えるのに苦労しているだろう彼に心の中で声援を送る


「ヴィクトリア、安全の為にサロンへの騎士駐在は必要だろうが、配置の義務化にはもう少し時間が掛かるだろう。それと戯れについても厳罰に処す方向へ持っていくから、もう心配しなくてもいい」

アルフレドはそう告げると、優しくヴィクトリアに笑い掛け「俺を頼って相談してくれた事、嬉しかった。必ずその期待に答えるよ」そう約束して、彼女の手の甲にキスをする

ヴィクトリアは首を振り

「こちらこそ、忙しいのに無理に会って貰ってすみません。それで・・・その、本当にアルフレド様に全てお任せして良いのでしょうか?」


申し訳なさそうにアルフレドとカレンを見ながら

「私・・・その、公爵様と会って虐めを止めて貰うよう、話しをしようと思っていたのですけど」

とんでもない事を言い出したヴィクトリアに『それだけは絶対に駄目だ!!』思わず、アルフレドとルシフェルは同時に反対する

驚くヴィクトリアとカレンに、そんな戯れを行うような歪んだ性質の令嬢に会いに行くなど危険過ぎると「無茶な事をして、心配させないでくれ」ルシフェルが注意する


「ヴィクトリア、俺を信じて任せてくれる?少し時間は掛かるが、なるべく早く法案を通すと約束する」

アルフレドはヴィクトリアに近づき「愛しいヴィクトリアの為だ、頑張るよ」と耳元で囁く

「んっ・・・よろしく、お願いします」

顔を真っ赤にしながらヴィクトリアはアルフレドにそう頼むと、ルシフェルがイラッとしながらアルフレドを睨み

「俺の婚約者を口説かないで貰えますか?」

さっさと愛する婚約者を連れ、片付けは使用人を寄越すと執務室から出て行く

カレンは(ちょっと、この状況で私を置いてかないで!!)と慌てて「あの、わっ、私も失礼します」と上司に頭を下げ出て行く

三人が出て行った後、ヴィクトリアに渡されたクッキーの入った袋を開け一枚食べ「美味しい」嬉しそうに笑うアルフレド



カレンは急ぎヴィクトリアの後を追い「ヴィクトリア様!!」と呼び止める

「折角会えたので、少し話しませんか?」

振り返り嬉しそうに立ち止まったヴィクトリアも頷き、僅かの間でも一緒にと二人並んで歩くが、ルシフェルはホルグヴィッツの夜会の事もあり、カレンに対して良い印象はない


「クッキー、ありがとうございます。ヴィクトリア様はお菓子作りが好きなんですね」

女性らしいとカレンが褒めると、ヴィクトリアは恥ずかしそうに「それは・・」チラッとルシフェルを見て

「か、彼のお母様の趣味がお菓子作りなの。だから私も、クッキー位は作れるようになろうと思ったのよ」

そう答えるヴィクトリアに、カレンはルシフェルに目を遣り

「ヴィクトリア様は、相変わらず婚約者の方が中心なんですね」

クスッと笑うのでヴィクトリアが「えっ?」と驚くと、ルシフェルもカレンを驚いた様に見る


「ほら、ヴィクトリア様と最初に会った時は、婚約者の方と行く夜会のドレスと買いに行く時でした」

「ええ、そうだったわね」

懐かしいと頷くヴィクトリアに

「あの時、ヴィクトリア様は婚約者の方の傍に居て恥ずかしくない様にと、大人びたドレスにするか悩まれていました」

カレンがそう話すので、ルシフェルは驚いてヴィクトリアを見る


ヴィクトリアは恥ずかしそうに「ああ、そうだったわね」と思い出し

「少し可愛いドレスを選んだので、カレンが髪をアップにすれば良いと助言をくれたのよね」

「オペラの時は初めて買って貰ったのだと、木彫りのネックレスを嬉しそうにしていましたし」

(つけているのか・・・あのネックレス)

それには流石にルシフェルも恥ずかしく、顔を赤くする


「今日もその、何て言うか。とても仲の良い・・・夫婦みたいな感じがしてました」

ピッタリと寄り添う二人を思い出し、顔を赤くしながらカレンがそう伝えるとヴィクトリアは驚いた顔で「えっ?夫婦?」問い返す

「ヴィクトリア様が幸せそうで、本当に良かったです」

そう嬉しそうに告げると、二人に頭を下げカレンは自分の執務室へと戻って行った

「・・・夫婦って、どういう意味かしら?」

初めて言われたのでヴィクトリアは困惑するが、相変わらず自分達がイチャついている自覚が無い

「恋人以上の関係って言う意味だろう?実際、その通りだ」

ルシフェルは後ろからヴィクトリアを抱きしめ、頭にキスをする



ヴィクトリア達が執務室に戻ると、サビドが心から嬉しそうな顔を向けてくる・・・ランドルと二人きりは、生きた心地がしないほど辛かったのだ

ルシフェルはサビドにアルフレドの執務室の場所を教え荷物の回収に行って貰い、待っている間にランドルと三人で話しをする

「・・・それで、相談事の解決は出来たのか?」

「はい、アルフレド様に相談して良かったです。とても私では、どうにも出来なかったので・・・」

ランドルは、後でヴィクトリアの相談がなんだったのかルシフェルに聞くとして

「ウェンヴィッツ公も忙しいのだ。幾ら懇意にしてくれているとはいえ、あまり迷惑を掛けるな」

責める様にルシフェルを見ながらそう注意するランドルに「はい、気を付けます」ヴィクトリアが答える


「・・・もし今後、ヴィクトリアに何か相談事があれば、その・・・ランドルに頼っても良いでしょうか?」

ルシフェルがやれやれと思いながら不機嫌なランドに尋ねると、彼は少し憮然としながら「娘の相談を聞くのは、父親としての義務だ。なにも遠慮する事はない」と答える

「でも、お父様は忙しいでしょう?それに今回はアルフレドとカレンに相談して良かったです。勿論、ルシフェルにも」

嬉しそうにルシフェルを頼りになると見つめるヴィクトリアに、ランドルは(本当に変われば変わるものだな・・・)と思う

悪女のレッテルを貼られていた時の娘は、伯爵子息であるルシフェルを毛嫌いし彼を裏切る行為ばかりして来た

そしてルシフェルはどれ程娘が男達を侍らせようが、全く気にした素振りなど見せず、二人の関係は婚約してすぐに冷め切ってしまっていたというのに・・・



サビドが荷物を持って戻って来ると、ルシフェルはヴィクトリアに「今日は滅多にない、有意義な昼食だったよ」嬉しそうにお礼のキスをする

「喜んで貰えて良かった」

ヴィクトリアもルシフェルに甘える様に抱きつき「それじゃあ、たまには昼食を持って来ても良い?」とんでもない事を言い出したので、ルシフェルは苦笑する

ヴィクトリアにとっては本気だったのだが、そう簡単には無関係の者が城内になど入れない


馬車の中でヴィクトリアは荷物の事でサビドに謝り、城を後にする

(・・・せめてお弁当を持って来れたら、お父様ともっと色々話しが出来るかもしれなかったのに・・・)

未だにこの父娘の関係は歩み寄れていない・・・ヴィクトリアはその事も悩んでいる

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