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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
38/69

 31話 悪女の悩みと公爵の嘘

ヴィクトリアはフェリスアーラとの一件以来、あの戯れについて何とかしなければとその事で頭がいっぱいなのだが

(相手は公爵様だもの、こっちが注意した所で聞いてはくれないわよね・・・)

立場は相手の方が上なのだ、下手をすれば公爵に無礼だと責められ父に迷惑が掛かる恐れもある

(でもこのまま放っておけば、またクローディアみたいな犠牲者が出てしまう・・・)

一番良い方法は公爵の中でも最も影響力のある、権力を持つ令嬢から戯れを止める様注意して貰う事だろうと考え、それは誰?と首を傾げる・・・記憶の無いヴィクトリアは貴族情勢に疎い為、誰だか判らない


仕事から帰って来たルシフェルを出迎え、一緒に彼の自室に向いながらヴィクトリアは「あの、公爵様で一番権力が有るのは誰かしら?」唐突に尋ねる

するとルシフェルは眉を潜め「どうしてそんな事を?」当然、尋ね返す

「いえ・・・ちょっと気になっただけです。誰ですか?」

「・・・ウェンヴィッツとゼノヴィッツは、王の右腕と左腕と称されている。でも、最も発言力があるのは宰相のゴールヴィッツ様だろう。それで?どうしてそんな事を聞くんだ?」

いつもの様に鞄を机に置くとルシフェルがもう一度尋ねるが、ヴィクトリアは送られた招待状の中にその名前が有るか探している・・・(無いわ、残念)


がっかりしている婚約者を見て「ヴィクトリア、なにを考えているのかな?」顔を顰め問い質すルシフェルに

「その名前の令嬢から、招待状があったら良いなと思っただけです」

そう答えるとヴィクトリアはさっさと部屋を出て食堂に向う

(・・・また誰かの為のお節介か?)

溜息を吐く勘の良いルシフェルは、愛しい婚約者の後をついて行く


夕食を食べながらルシフェルはヴィクトリアに

「長期休暇は再来週に貰ったから。コッコスには丸一日移動に掛かると思うけど、大丈夫?」

心配そうに尋ねられ「丸一日掛かるの?大変ね」驚きながらも嬉しそうに頷くヴィクトリア

「まあ、向こうには三日程滞在する予定だから。そのつもりで荷造りしておいて」

「三日間ですね、判りました。凄く楽しみ」

(僅か三日の間で、嫌われている私が好かれるのは難しいわよね?ううっ・・頑張ろう)

笑顔を向けながら、内心ではかなり不安なヴィクトリア


ルシフェルが入浴中に自室に戻って招待状を机に置くヴィクトリアは、どうしたものかと頭を抱えたくなる

(困ったわ。ウェンヴィッツと、ゼノヴィッツの令嬢からの招待状が無い。後・・・ゴールヴィッツの令嬢からも)

流石にそんな大物達からは相手にされていないのか?そう考え、悪女なのだから当然だと

(アルフレド様に、ウェンヴィッツの令嬢を誰か紹介して貰おうかしら?でもその令嬢が力を貸してくれるとは限らない)

ウーンと頭を悩ませるヴィクトリア


(やっぱり私なんかでは、どうにも出来ない事なのかしら?でも、それでも・・・)

あのクローディアの、怯えた目で涙を流す姿が脳裏を過ぎる

(だからって、何もしないのは嫌だわ。それは見捨てるのと同じだもの)

ヴィクトリアはそう自分に言い聞かせ、ルシフェルの両親達に持っていくお土産も考えなければと寝室に向う


ルシフェルが髪を乾かしながら寝室に入って来るので「お父様達のお土産は、何が良いかしら?」なるべく喜びそうな物を贈って印象を良くしようと考えているヴィクトリア

「別に何でも・・・そんなに気を遣わなくて良いから」

そう答えるルシフェルに「お父様が喜ぶものは何ですか?」ニッコリと笑顔で聞き返す

「・・・父が好きなもの・・・?」

なんだろうな?と考えるルシフェルに「お母様のお土産も、しっかり考えておいて下さいね」お願いよ、と彼の手にしているバスタオルを掴んで優しく髪を拭いてあげる


「そうは言っても、あの二人の好きなものって・・・」

困った様に首を傾げるルシフェルに、ヴィクトリアは溜息混じりに

「じゃあ、お二人の趣味は?何か無いですか?」

「趣味?趣味か・・・」

考え込むルシフェルを見てヴィクトリアは(こういう場合に『このっ甲斐性無し!!』って叫ぶのかしら?)首を傾げる


その言葉もサロンで貴婦人達の会話から聞いたのだが、甲斐性無しの意味がヴィクトリアには判らない

因みにこの場合はルシフェルが甲斐性無しなのではなく、ルシフェルの父親が甲斐性無しになる

「母はお菓子作りが好きだったが、父は・・・酒かな?高級のブランデーやワインを嬉しそうにコレクションしていた」

ような気がするとルシフェルが答えると「お菓子作りと、お酒ですか・・・」成る程とヴィクトリア

「そんなに気を遣わなくて良いんだ。二人とも会いに来てくれるだけで嬉しいと書いていただろう?」

ルシフェルは愛する婚約者を抱きしめながらそう耳元で囁くと

「んっ・・だからって、何もしない訳にはいかないでしょう?」

耳元で囁かれビクッと身体を震わせながら顔を赤らめる


ルシフェルの両親に会いに行くと決まった翌日に、早速ヴィクトリアは休暇を使って会いに伺いたいのですが構いませんか?と言う趣旨の手紙を速便で送った

その返事の手紙が三日後の夕方に届き『会いに来てくれるのを楽しみに待っています』という内容の手紙が届いた

「お父様にはブランデーを、お母様には・・・王都で人気のお菓子作りの本をプレゼントしようかしら?」

顔を赤くしながらヴィクトリアは、囁かれた方の耳を触る

「ああ、それで良いよ」

ルシフェルは何とか親に持って行く土産が決まり、ヤレヤレという感じでベッドに入る



翌朝、いつもの様にルシフェルがヴィクトリアを起こすと、ヴィクトリアはシャワーを浴び着替えを済ませて寝室に戻り、二人仲良く食堂に向う

食堂にはすでにランドルが席に着いて、いつもの様に新聞を読んでいるので(お父様はいつも帰りが遅いのに、朝は早いのよね・・・大丈夫なのかしら?)父の身体もヴィクトリアは心配している

ドルフェスが今朝届いた手紙をそれぞれに渡し、ヴィクトリアは手紙の一つに男性の名前が有りドキッとするが、相手はセインからだった


(どうしてセイン様から?もしかしてクローディアに何か遭ったのかしら!?)

急いで封を開いて手紙を読むと「えっ?」と思わず驚きの声を上げるので、ルシフェルとランドルがヴィクトリアに目を向けると、ヴィクトリアはドルフェスに

「セイン様が今日、午後に私に会いに来ると書いてあるわ・・・」

困惑しながら手紙の内容を知らせると「随分急な知らせですね。判りました」ドルフェスは急ぎ使用人達に指示を出しに食堂を出て行く


「セインと言うのは誰だ?」

ルシフェルより先にランドルが訪ねる

悪女ヴィクトリアが男を侍らしていた事は当然父ランドルも知っている為に、ヴィクトリアの悪い蟲が疼いたのでは?そう思ったのだ

「セイン・イヴェラノーズ侯爵子息様です。最近友達になった、クローディアのお兄様なのですが」

彼女の兄が一体何の用があって急に会いに来るのか?ヴィクトリアはクローディアに何か遭ったのでは?と不安になる

「・・・手紙に会いに来る理由は書いてないの?」

「ええ・・・ただ私に会いに行きますとだけ・・・クローディアに何か遭ったのかしら?」

ルシフェルにそう答え、心配そうにするヴィクトリアに「ふうん」とルシフェルは考えながら、妖艶で美しい最愛の婚約者を見つめる


食事を終えると、ルシフェルはアメニに

「イヴェラノーズが来たら、アメニは絶対にヴィクトリアの傍を離れないでくれ。使用人もなるべく二人以上居るようにして、ヴィクトリアをイヴェラノーズと絶対に二人きりにしない様に」

そう命じ「はい、絶対にヴィクトリア様の傍を離れません」と頷くアメニ

出来ればルシフェルもヴィクトリアの傍に居たいのだがそういう訳にも行かず、愛する婚約者に見送られ心配しながら登城する


セインが来るので軽く身形を整えながら、ヴィクトリアは

(今日、本当はドルフェルを連れてデパートに出掛けようと思っていたのだけど・・・)

けれどクローディアに何か遭ったのなら、デパートで買い物処ではない

応接間での準備を確認しながら、ヴィクトリアはドルフェスに

「本当は今日、ドルフェスを連れて買い物に行きたかったのだけど・・・明日に持ち越しね」

「私とですか?」

怪訝な顔をするドルフェスにヴィクトリアは頷き

「ええ、貴方なら良いブランデーを選んでくれるでしょう?ルシフェルのお父様に、ブランデーを贈ろうと思って」

ヴィクトリアに頼られ、ドルフェスは嬉しそうに「それなら、最高の一品を選ばせて貰います」任せて下さいと張り切るので「ありがとう、お願いね」ついでにいつもお世話になっているので何か好きなお酒を選んで貰いプレゼントしようと考えている



午後過ぎにセインがティアノーズ邸を訪れ、出迎えるヴィクトリアの姿にセインは嬉しそうに「ヴィクトリア、会いたかった」笑顔で彼女の手の甲にキスをしてくるので、ヴィクトリアは益々困惑する

使用人達も(急な来訪でも無礼なのに、この男、何しに来た?)という面持ちでセインを見る

ヴィクトリアはセインを応接間へと案内し、メイド達も後に続きルシフェルが居ないのを残念に思いながら、彼の言い付け通りアメニを入れて三人のメイドが部屋に待機する


セインはメイドが三人居ようが関係ない様に、ヴィクトリアに

「ヴィクトリアに会いたくて、いても立ってもいられなかった。漸く会えて嬉しいよ、愛しい人」

愛の告白とも取れる言葉で嬉しそうに笑みを浮かべ、ヴィクトリアをウットリと見つめてくる

『愛しい人』と言われ、ヴィクトリアは驚き

「あ、あのセイン様。私は婚約していますし、急にそんな事を言われても・・・困るのですが」

(こんな事、ルシフェルが知ったらまた傷付けてしまう・・・)

それを考え焦るヴィクトリアだが、実際ルシフェルが知ったらセインに対して憤慨し、二度とヴィクトリアに会わせないだろう


「それは知っている。でも、まだ婚約の段階だろう?ヴィクトリアが俺を愛してくれていれば婚約破棄出来るんだから、何も問題はないさ。ヴィクトリアは何も心配しなくて良いんだ」

セインの言葉に凍りつくヴィクトリア

「相手の婚約者は伯爵子息で、政略結婚だろう?俺なら侯爵だし、よりヴィクトリアの夫に相応しい。家督の事ならイヴェラノーズはクローディアの夫に継がせて、俺がティアノーズへ婿養子に入っても良いと思ってるんだ。それ程に俺はヴィクトリアを愛している」

一人暴走しているセインがヴィクトリアに迫り、それを見てメイドの一人が慌ててドルフェスを呼びに行く


「それは有り得ません、私がルシフェルを愛しているんです!!彼以外の夫など考えられません。セイン様を何か勘違いさせてしまったのなら、申し訳ありません。ですが、私は貴方を愛していません。私が愛しているのは、ルシフェルだけです!!」

(どうしてこんな事になってるの?一体何故、セイン様はこんな誤解をしてるの?)

セインの暴挙とも言える告白にパニックを起こすヴィクトリアを庇う様に、アメニとメイドが二人でセインの前に立ちはだかる

セインはヴィクトリアのその言葉に相当ショックを受けた様に驚き、信じられないと

「そんな・・ヴィクトリアは俺に好意を持ってくれているんじゃないのか?・・・だから俺・・・ヴィクトリアが、俺を選んでくれると思ったから・・・喜んでくれると思ったから・・・こうして会いに来たのに・・・」

ショックの余りヴィクトリアによろよろと近寄るセインだが、そこへドルフェルが部屋に駆け込んで来る


「・・・ヴィクトリアは、俺を愛してくれているんじゃないのか?」

縋る様な目を向け尋ねるセインに、ズキンッと胸が痛むがヴィクトリアははっきりと

「申し訳ありませんが、私はセイン様を愛してなどいません。私が愛しているのは、ルシフェルだけです」

きっぱりと否定するその言葉に、セインは周りの者達が見えていない様に呆然としながらその場に項垂れ

「ヴィクトリアは俺に好意を持っているから・・・お前も男なら、嫌がっている婚約者から、愛する女性を・・・命懸けで救い出してやれって言われたから・・・だから俺は・・・」

「誰がそんな事を言ったのです?私が貴方に好意を持ってるなんて、そんな嘘、誰が言ったのですか!?」

頭を抱え項垂れているセインにヴィクトリアが尋ねると、セインは泣きそうな顔で「申し訳ない。とんでもない迷惑を掛けてしまった・・・失礼する」力無く立ち上がり、ヴィクトリアに謝罪し帰ろうとするセインに


「教えて下さい、貴方にそんな嘘を言ったのは誰なんですか!?」

嫌な予感がして、ヴィクトリアがセインに問い質すと

「ホルグヴィッツ公爵様に・・・ティアノーズ侯爵が、婚約者の方は娘を溺愛しているが、娘は他の男を愛しているとぼやいていたと・・・そして、その相手の男が・・・俺だと話してくれたんだ」

「何ですって!?」

ヴィクトリアは思いもしない相手の名前に驚愕し、それを鵜呑みにしたセインはヴィクトリアの想いに答える為にと今回の暴挙に出てしまったと言うのだ


ヴィクトリアだけではなく、傍に居た使用人達とドルフェスも驚き凍りつく

(公爵様が、どうしてそんな嘘を!?)

訳が判らないヴィクトリアは、取り敢えず気の毒なセインにホルグヴィッツ様には気を付けてと忠告して帰って貰う

「ヴィクトリア・・・本当に申し訳ない。俺が勝手に暴走して・・・迷惑を掛けてしまった」

セインは涙目で何度もヴィクトリアに謝るので、ヴィクトリアは首を振り

「セイン様は、ホルグヴィッツ公爵に騙されただけです。私は気にしていませんから」

優しく笑う彼女にセインはもう一度「すまない」そう謝って帰って行く


セインが帰った後ヴィクトリアは

「一体どういうつもりかしら?どうしてホルグヴィッツ公爵様は、セイン様にあんな酷い嘘を吐いて・・・」

ホルグヴィッツ公爵の余りにも酷過ぎる嘘に、セインが可哀想でならなかった

「この事、お父様にも伝えておいて。ホルグヴィッツ公爵様がどういう人かも聞いておいて」

不安を抱きながらドルフェスに頼むと、ヴィクトリアは自室に戻る


(まだ、心臓がドキドキしている・・・)

セインの衝撃の告白に、ヴィクトリアは物凄く怖かった

そしてセインの気持ちを利用し、唆して告白をさせたホルグヴィッツ公爵によって仕組まれた嘘に対しても

(本当は公爵令嬢による嫌がらせか何かで、私をからかう為にセイン様は利用されたのでは?そう思ったのだけど・・・)

でも違った。まさかホルグヴィッツ公爵の名前を聞かされるとは思いも寄らず、恐怖を抱く


(怖い・・・一体何なの?どうして、何の為にセイン様に酷い嘘を吐いてあんな事をさせたの?)

セインはがっくりと項垂れて、自分に何度も謝って気の毒な位だった・・・何故ならとんでもない醜態、大辱をセインはティアノーズ家の使用人達の前で掻かされたのだから

(セイン様の、私に対しての好意をあんな酷い形で利用するなんて・・・許せない!!)

ヴィクトリアは、夜会で薄ら笑いをしていたホルグヴィッツ公爵を思い出す


第一印象は最悪だった。薄気味悪い笑みに、ゾクッとする冷たい目付き、ルシフェルに対する態度も不快だった事は覚えている

ホルグヴィッツ公爵の得体の知れない気味の悪さに身震いするヴィクトリアは、今日の事でセインが気の毒過ぎて心配になり、彼に気にせずにこれからは良い友人でいて下さいと手紙を書く

後日、その手紙を読んでセインはがっかりするが、それでもこれからは友人として愛して貰おうと考える



夕方、ヴィクトリアを心配していたルシフェルが急いで帰って来てくれた

「大丈夫だったかのか?一体何の用だったんだ?」

心配そうにヴィクトリアに尋ねるルシフェルに、使用人達はヴィクトリアを心配そうに見遣り、セインの暴挙をどうするのだろう?と思っている

本来なら婚約者の居る女性にああいう形で迫った場合、婚約者である男性から慰謝料を請求されたり、最悪裁判に掛けられ処罰される


ヴィクトリアはルシフェルの自室に入り、そこでセインがホルグヴィッツ公爵に騙されて自分が婚約者と別れたがっている、セインを愛して一緒になりたがっていると信じ込まされてしまったのだと説明する

話しを聞いてルシフェルは凍りつき『心を見透かされない様に気を付けろ。気を許して、舐められるな』ランドルの言葉を思い出す

(イヴェラノーズはヴィクトリアに対する恋心を利用された?ヴィクトリアを想う気持ちを見透かされたから?)

ホルグヴィッツ公爵の遣り方に、ルシフェルもゾクッとする


『お前も、アルフレドも、ヴィクトリアも、あの男に心を見透かされ利用されているに過ぎん』

(あの意味は何だ?ランドルはどういうつもりであんな事を言った?・・・考えろ、考えろ!!)

ルシフェルはランドルの言った言葉の意味を必死で考える

(俺もアルフレドも、ヴィクトリアを愛している。でもそんな事、心を見透かすとは言わない!!)


「ルシフェル・・・?」

心配そうに自分を見るヴィクトリアに、ルシフェルは笑って

「ホルグヴィッツ公爵の事は不安だろうが、俺がランドルとどうするか相談する。流石に、それが本当なら遣り過ぎだ。ヴィクトリアを危険な目に遭わせたんだからな」

「それは止めて!!そんな事をしたら、セイン様もただでは済まないでしょう?今回は何も無かったのだから問題にしないで!!・・・ただ、ホルグヴィッツ公爵が怖いのよ・・・」

ルシフェルに「あの人は一体何なのかしら?凄く気持ち悪いわ」本気で怖がるヴィクトリア

ヴィクトリアが人をそんな風に言うのは珍しいが、ルシフェルも(確かに奴は得体が知れない)と納得し、円卓の賢者達が皆、アシドの様な得体の知れない不気味な怪物ばかりならと考えると、ゾッとするルシフェル



寝室でヴィクトリアはルシフェルが来るのを待ちながら、何故セインは自分に好意を持ったのだろう?と考える

たった二度しか会っていないし、僅かな時間しか一緒に居なかったのに、どうして彼は自分に好意を持つ事になるのだろう?それが不思議でならない・・・そして考えた末に出した結論は、自分に対しての好意は何かの勘違いでは?と思い至る

全てはヴィクトリアの美貌と妖艶な色気に女性らしい身体の所為だが、本人に自覚が無い為永久に謎のままである


ルシフェルはシャワーを浴びながら、ある決心をする

それは心底、嫌悪する事だが(愛するヴィクトリアの為だ)と何度も何度も言い聞かせ決断し、寝室に入るとヴィクトリアがホッとした様に自分を見てくる

彼女の隣に座り、優しく笑い掛け「今日は怖い思いをしたな」そう抱きしめると、ヴィクトリアは安心し「セイン様が可哀想でした・・・何度も私に謝って。彼は騙されただけなのに」その言葉にルシフェルはヴィクトリアを離し


「いや・・・そいつは自業自得だろう?人の婚約者を奪おうとしたんだぞ!?」

ルシフェルが何言っているんだ?と責めると

「だから、それはホルグヴィッツ公爵に騙されたからで、私が貴方と別れたがっていてセイン様にと一緒になりたがっていると思わされたからよ!?そうじゃないって知った時の彼の喪失感を見たら、気の毒で」

ヴィクトリアは可哀想でした、と呟く

ルシフェルはセインの喪失感の様子を聞いて(それは、そうだろう)目の前の美しい婚約者を見て納得し


「ヴィクトリアはもっと、自分がどれ程男を魅了するか自覚してくれないか?」

無防備過ぎて心配で堪らないと、ルシフェルは真剣に訴える

「ヴィクトリアは無防備過ぎて、周りの男達を勘違いさせるんだ!!自分に好意があると」

ルシフェルを特に悩ませているのが

「誰にでも優しいから、男は都合よく解釈するんだ。自分に好意が有ると、あのイヴェラノーズみたいにな!!・・・優しいのはヴィクトリアの長所だけど、優し過ぎるのが仇になる事もあるんだから、もっと気を付けてくれないと」

そう訴えると、ヴィクトリアは「そんな事、言われたって・・・」と俯く


俯く婚約者にルシフェルは少し言い過ぎたか?と思い、優しく抱きしめ

「ヴィクトリアは優しいから、冷たく出来ないんだろう?でも、変に期待を持たす方が、却って残酷だって事もあるんだ。誰にでも愛想を振りまいて、優しく接すれば良いってものでもない。時には突き放す事も大事なんだ」

ルシフェルはヴィクトリアが誰にでも優しい事を心配し、また嫉妬を抱いて来た

「・・・ルシフェルには判らないわ」

ヴィクトリアは自分を抱きしめるルシフェルから離れ


「貴方は嫌われた事がないから、嫌われる事の怖さを知らないのよ!!私は、優しくない!!ただ、嫌われたくないだけよ!!優しさが仇になるって何よ!?そんなの・・・知らないわよ!!」

ルシフェルに、誰にでも愛想を振りまいていると言われ、泣きそうになりながらヴィクトリアは寝室から出て行く

(勝手な事ばかり・・・私は優しくなんかないわ。ただ、もう誰からも嫌われたくないから、好かれる様に努力してるだけよ!!それなのに、それが仇になるなんて言われたら、私はどうしたら良いのよ!?)

自分の部屋に入って、ベッドの上で泣き崩れる


(ルシフェルには判らないのよ・・・嫌われる怖さを・・・また一人ぼっちになるのがどれだけ怖くて、寂しくて、辛いか・・・)

ルシフェルに愛されるまでは、ヴィクトリアにはアメニしか傍に居なかった

それがルシフェルに愛され、ティナとトーマスが友達になってくれ、今では沢山の友人に囲まれ楽しい日々を送る事が出来ている・・・だから、友人が居ない孤独の日々を忘れかけていた

悪意のある手紙しか送られていなかった事、アメニに怯えられていた事を思い出し、泣きながらヴィクトリアはハッとして顔を上げる


(いけない・・こんな態度を取ったら・・・またルシフェルに嫌われるんじゃ・・・)

どうしよう・・・ヴィクトリアは身体を起こし青褪める

(しかも心配してるルシフェルを責める様な言い方をして・・・怒らせたかしら・・?)

ズキンッと胸がざわつき、痛む

ルシフェルに責められた事に傷付いて、それで思わず言い返したが

(どうしよう・・謝ったら許してくれる?でも・・・)

ルシフェルの言う事も判るが、ヴィクトリアも自分の努力を否定されたみたいで傷付いたのは確かだ

それでも(ルシフェルに嫌われたくない・・・)その気持ちの方が強いので、謝ろうと思っていると「ヴィクトリア」ドア越しにルシフェルが声を掛けてくるので、ドキンッと心臓が跳ねる


(どうしよう・・・怒ってる?謝らないと・・・)

ヴィクトリアが急ぎベッドから降りてドアに向うと

「悪かった。ヴィクトリアの気持ちも考えないで、ごめん。だから、ドアを開けてくれないか?」

謝って来るルシフェルに、ヴィクトリアはドアを開けて

「私が悪いので・・・ルシフェルが謝る事ないわ。ごめんなさい」

泣きながら謝るヴィクトリアに、ルシフェルも「ごめん、俺も言い過ぎた。ヴィクトリアの気持ちもあるのにな」ギュッと抱きしめる


ヴィクトリアは抱きしめられながら、ルシフェルの言った事を考える

(私の態度で相手を傷つける事があるの?私の態度で、セイン様は私が彼を好きだと勘違いさせたの?優しいって、どんな接し方だった?普通に接しただけなのに、知らない内に誤解を招く様な態度を取ったの?判らない・・・一体どういう態度が誤解されるの?)

ヴィクトリアにとっては普通に接している事が、その美貌と妖艶な色香の所為で男性達が勝手にのぼせ上がる事を、本人は判っていない

ただ、自分の態度でセインがあんな事になったのなら心から申し訳ないと、その気持ちでいっぱいだった


「ヴィクトリア、俺の言った事はもう気にしなくていいから。ヴィクトリアはそのままでいい」

ルシフェルは優しくヴィクトリアの涙を拭う

(でも・・・それではまた、誰かを誤解させてしまうのでしょう?そんなの・・・悪女と一緒じゃない・・・)

ヴィクトリアは黙ったまま、寝室へと戻る

(嫌われたくないから優しくする。でも優しくすると、誤解される?そしたら相手を傷付けてしまって・・・でも、冷たくするなんて、そんな事も出来ないし・・・どうしたら良いの?)

セインの事がショックだったヴィクトリアは、ルシフェルに言われた事が小さな矢となって胸の中に刺さる


ベッドに入り、ルシフェルに背を向けヴィクトリアはセインの事、ルシフェルに言われた事、ホルグヴィッツ公爵の事、そして公爵令嬢の戯れの事と、頭を悩まされる事が次々と起こり過ぎて、どうしたらいいのか悲鳴を上げそうになる

(どうしてこんな事になってるの?戯れだけでも、どうしたらいいのか判らずに頭を痛めてるっていうのに、ルシフェルがあんな事を言って責めるし、ホルグヴィッツ公爵がセイン様を貶めてあんな行動を取らせた意味も判らない・・・私があの人に何かした?怒らせる様な事をしたの?でも、それでどうしてセイン様が利用されたの?普通、私に嫌がさせをするなら、ルシフェルに・・・)

考えている時に愛する人の名前を出し、ドキッとヴィクトリアは胸に突き刺さる痛みを感じる


(まさか・・・今度はルシフェルに何かしようなんて・・・そんな事無いわよね?)

ゾクリと凍りつくヴィクトリアを、後ろからルシフェルが抱きしめてくる

「ヴィクトリア、まだ泣いているのか?」

心配そうに聞いてくるルシフェルにヴィクトリアは彼の方を向き、優しく笑い掛けてくれる大好きな彼の胸に顔を埋め

「・・・ホルグヴィッツ公爵様には、気を付けてね。あの人・・・凄く怖い感じがするから。もしかしたら、ルシフェルにも何かするかもしれない・・・」

怯える声でそう訴えると、ルシフェルは「ああ、判ってる」安心させる様に震えているヴィクトリアをギュッと抱きしめる


(心配しなくても大丈夫と言った所で、ヴィクトリアの不安は消えないだろう。ホルグヴィッツ、どういうつもりか知らないが、ヴィクトリアを危険な目に遭わせた代償は、必ず償わせてやる)

相手は公爵で、円卓の賢者の一人だが、夜会でのアルフレドとの件とセインの件でルシフェルにとっては最も警戒する人物となる

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