30話 悪女お茶会を開く
クローディアとの約束通り、一週間後にヴィクトリアはティアノーズ邸でお茶会を催す
今回は親しい友人だけを呼んだお茶会なのでそんなに気負う事はないのだが、クローディアが本当に来てくれるか?それが心配なヴィクトリアは落ち着かない様子で友人達を待つ
お茶会の開始時刻である十一時前に友人達が集まって来て「ヴィクトリア、お誘いありがとう」久しぶりに会うティナが元気な姿を見せ挨拶しに来てくれたので、ヴィクトリアも一安心し
「良かった、来てくれて。最近全然会えてなかったから、凄く会いたかったのよ」
ここ暫くティナは忙しくしていた様で、来てくれて心から喜ぶヴィクトリア
「うん、ちょっとね。忙しかったから・・・」
「どうしたの?何か遭った?」
ティナが少し疲れた表情をするのでヴィクトリアが心配して尋ねると、ティナは頷き「皆が揃ったら話すわ・・・」そう答える
十一時が過ぎて招待した友人達は、クローディア以外全員集まり賑やかにお茶会が始まる
「それで?例の侯爵令嬢はまだ来てないの?」
ティナが友人達を見回し「ええ、そうね。まだ来てないわ」ヴィクトリアは不安げに答える
「公爵令嬢の戯れに遭ったんだってね?侯爵がそんな目に遭うのって珍しいわよね?」
マリーナが怖いわねっと、顔を顰めるので皆も深刻な面持ちで頷く
「その侯爵様、余程大人しいのね。そういう令嬢が目を付けられるんですよ・・・」
ディジーも酷いですと、人事とは思えないと憤る
「皆、その戯れの事は知ってたの?」
「母親に注意されるのよ。公爵令嬢様には気を付けなさいって。だから私達伯爵はね、皆知ってるの」
「公爵様の虐めの標的は・・・大体、伯爵令嬢だからね」
ティナがそう教えると、溜息を吐きキャロルもだからそんな目に遭いたくない伯爵令嬢が、公爵の取り巻きに収まろうとするのだと話す
「そんな酷い事・・・どうして無くならないのかしら?」
ヴィクトリアの言葉に、友人達は顔を見合わせ
「どうして無くならないって、公爵様にとって楽しいからよ」
「人を苛めて、自分達の強さと権力を誇示するの。それが公爵様の戯れよ」
冗談じゃないわと憤慨する
「でも、そんなに頻繁に起こる事ではないんですよ。そんな事をする公爵様はごく一部なのです。その・・・余程心の歪んだ方が、そういう事をするので」
シルメラのその言葉がズキンッと胸に刺さるヴィクトリア
(歪んだ人間・・・それは悪女ヴィクトリアの事ね)
かつての、記憶を無くす前の自分
「・・・そう、私はその歪んだ人間だったものね」
その言葉に友人達は何て言って良いか判らずに黙ってしまう
「私、以前フェリスアーラ公爵様と一緒に、クローディアを苛めていたのよ」
そう告白すると意を決して、友人達に
「貴方達の中で、私が・・・誰か令嬢を苛めているのを、見た事がある?正直に教えて」
本当を聞くのは怖いが、知らないでは許されないと震えながら尋ねと、友人達は考えながら
「以前のヴィクトリアは常に公爵様や侯爵令嬢と居たので、あまり接点は無いし・・・」
「私は何度か夜会で・・・遠目にも目立っていたから知ってはいるのよ。ただ、関わりたくなかったから・・・」
ティナ達は正直、悪女ヴィクトリアの事はあまり知らないのだ
「虐めと言うよりは、常に偉そうで傲慢で。男の人が沢山傍に居たのが印象かな?女王様だ!!って思ったから」
マリーナも遠目で見た印象を思い出しながら話す
「ああ、男の人達を侍らせて・・・公爵様とかね、凄いなあと思ったわ」
「確かに、いつもレベルの高い男の人達が群がってた」
キャロルの悪女ヴィクトリアの印象に、ディジーアナも感心する様に頷く
「ありがとう。い・・虐めの事じゃなければもう良いわ」
ヴィクトリアはそれ以上は止めて・・・と言う様に遮る
(その事・・・当然ルシフェルも知ってるのよね・・・最低だわ)
泣きたくなるヴィクトリアに、友人達は言い過ぎたと思い「あ、でも、今は違うから」そう慰める
「・・・以前のヴィクトリア様の場合はその、性格がきつかったので令嬢を怒鳴ってる姿を何度か見た事があります」
シルメラが口を挟む
「怒鳴られているその令嬢を可哀想にと思いながらも、ヴィクトリア様が本気で怒っているのに周りの男性達が誰も止めずに笑ってるのが不思議で・・・印象に残ってまして」
普通紳士なら、令嬢を助ける為に止めるだろうと思ったのだとシルメラが話し
「あれも、遊びだったのでしょうか?」
随分前の記憶なのだがヴィクトリアの悪い噂を聞いていて、本人を前に(あれが噂に聞く悪女ヴィクトリア・・・本当に怖い)そう思ったシルメラ
「こんな言い方はなんですが・・・本当に、今のヴィクトリア様とは別人です」
シルメラは複雑そうにヴィクトリアを見るので皆も頷き、ヴィクトリア自身もそれについて不思議でならないのだ
記憶を無くしただけで性格が真逆になったりするのだろうか?人の性格、本質はそう変わるものではないのでは?と
そこへ漸くクローディアが、緊張しながら友人二人を連れて現れる
「ヴィクトリア、お招きありがとうございます。友人のパリナ・レガスターと、コルネア・シュライスターです」
ヴィクトリアは二人を招待せず、クローディアに連れて来て構わないとだけ伝えていた
「パリナです、よろしくお願いします」
「こ、こんにちは、コルネアです。よろしくお願いします」
二人も緊張しながらヴィクトリアに挨拶し、ヴィクトリアは「ようこそ、パリナ様、コルネア様。よろしくお願いしますね」ニッコリと優しく微笑み、その美しさに顔を赤らめ(本物だ・・・)と今、社交界の噂の中心に居る人物に興奮する
イヴェラノーズの夜会での時は、恐怖でそれ所ではなかったのだから
「クローディアも寛いでね。友人達を紹介するわ」
ティナ達を紹介し、クローディアの友人二人は憧れのヴィクトリアのお茶会に参加出来て大喜びしている
「二人とは仲直り出来た?」
ヴィクトリアが尋ねると、クローディアは
「いつも通りには接してくれますが、侯爵の夜会には参加しないと。あんな怖い思いをさせてしまったので、仕方が無いです。私も・・・侯爵以上の夜会には参加しません」
そう答えると寂しそうに
「今度から、我が家の夜会にも参加しなくて良いと・・・お父様が言ってくれたので」
イヴェラノーズ侯爵は娘のクローディアの事を思ってそう言ったのだが、クローディアにしてみれば家族から離された感じがして、ホッとした反面少し悲しかった
「そう・・・」
(あの戯れの所為ね。一体どれだけの令嬢が、クローディアの様に心に傷を負わされているの?)
その事を考えると心が痛むヴィクトリア
お茶会に参加しているのは伯爵以下の令嬢達ばかりで、クローディアは安心して楽しそうに彼女達と話しをする
「あら、じゃあクローディアも、お兄様も、まだ相手は決まってないの?」
話しは婚約者の事になり、クローディア達兄妹にはまだ婚約相手が居ないと聞いて皆が驚く
「お父様が、結婚相手は自分で見つけて構わないと言うので」
そう話すとキャロルとマリーナが「私も相手がいません!!もし良ければお兄様を紹介して!!」目を輝かせて積極的にクローディアに頼むので「えっ?ええ、それは別に構わないですが」たじろぎながらも承諾する
友人達との話しは盛り上がり、ヴィクトリアはこの前の夜会でふと思った事を尋ねてみた
「・・・ルシフェルはモテるのに、どうして誰からもダンスの誘いが無いのかしら?それがずっと不思議なの。いつも誘われるのは私だけなので、どうしてなのかしら?」
ずっと疑問だった事を尋ねると、友人達は苦笑し「ふうん、ヴィクトリアはそんなに誘われるの?」いいなあと羨ましがるマリーナ
「いつもルシフェルに断って貰ってるので、申し訳なくって。声を掛けられない方法ってあるのかしら?」
真剣に尋ねるヴィクトリアに
(ヴィクトリアらしい悩みね・・・・本人は本当に嫌がってるんだろうけど)
(これ、他の人が言うと嫌味でし無いけど、ヴィクトリア様は本気だからなあ)
友人達はそう思いながら「ルシフェル様の場合は当然よね」ティナは何を言ってるの?と言わんばかりに
「あれだけ婚約者を溺愛している男に、誰がダンスを申し込んだりする?しかも婚約者がヴィクトリアよ!?」
その言葉に一同が頷き「断られるの判ってて、誘わないわ」そう断言する
(・・・ヴィクトリア様は婚約者様に、そんなに溺愛されてるいの?)
ルシフェルを挨拶でしか知らないクローディアだが、恐怖であまりよく見ていなかったので、そこまで愛されているヴィクトリアを羨ましいと思う
それを聞いてヴィクトリアは顔を赤くしながら
「それなら私だってルシフェルを大事にしてるわ・・・もしかしてそんな風に見えて無いのかしら?」
イチャつくのが恥ずかしい為に、素っ気無い様に見えてその所為で勘違いした男性に声を掛けられるのか?と思うヴィクトリアに
「いえいえ、貴方も十分イチャついてますから。ご心配なく」
ティナの突っ込みに、顔を真っ赤にするヴィクトリア
その表情を見てクローディアは(可愛い・・)とキュンとなる
「ヴィクトリア様の場合は、どうしても声を掛けずにはいられない・・・もしかしたら以前のヴィクトリア様と付き合ってたり、仲が良かった人なのかもね?」
マリーナの思わぬ失言に、ヴィクトリアは強張る
(そう・・なのかしら?だから声を掛けてくるの?)あり得る・・・と青褪めるヴィクトリアを見て
「でも、記憶を無くす前の事なんだものね・・・その、ごめんなさい」
マリーナが謝ると、ヴィクトリアは首を振り「私、これからは頑張って自分からダンスの誘いを断る様にするわ」そう決心する。自分が断われば、相手も納得するだろうと考えたから
「えっ?何その決断?っていうか、そんなにダンスを申し込まれるの?」
思わず突っ込む友人達だが、普通婚約者が居る女性にそこまで声は掛けないのだが、頷く彼女に
(どれだけモテるの!?ヴィクトリア・・・)
改めて目の前の四大美女の凄さを実感する友人達
そんな他愛も無い話しで笑い合う中、ティナが決心した様に友人達に大事な話しがあると打ち明ける
「私ね、半年後に・・・婚約者のトーマスと、入籍する事になったの」
その言葉にドキンッと心臓が飛び跳ね驚くヴィクトリアと「ええーっ!?」驚愕する友人達・・・けれどすぐにティナに祝福の言葉を送る
「本当に?おめでとう!!」
「うそっ!!ティナが一番乗り!?」
皆が嬉しそうに大はしゃぎしている中、ヴィクトリアは黙って見ている
(ティナが半年後に結婚・・・それじゃあ、もう今までのように会えなくなるの?そんな訳ないわよね?大丈夫よね?)
ドキドキと不安そうに、嬉しそうにありがとうと笑っているティナを見つめているヴィクトリアは、ティナと目が合い
「ティナ・・・結婚しても、マカリスター夫人になっても・・・友達でいてくれるわよね?」
不安な気持ちを抱きながら尋ねると
「貴方は一番、何か遣らかす友人だから心配で放って置けないわ。まあ、貴婦人になったら大人として?見守ってあげるわ。傍でね」
そう笑うティナに「わあ、えらそう!!」マリーナとキャシーはケラケラと笑う
ヴィクトリアはそれを聞いて心から安心して「よかった!!おめでとう、ティナ」そう祝福しながら抱きつき、皆も少し涙目になりながらティナを祝福する
そんな光景を見ながらクローディアは、このヴィクトリアの友人達はお互いに言いたい事を言い合える、素敵な関係なんだなと感じ羨ましく思う
急遽お茶会がティナの祝賀会と変わり、皆は花嫁修業ってなにやるの?とか、貴婦人の心得は?とドキドキしながら尋ねる
「親戚同士の挨拶回りがとにかく大変なのよ。どっちを先に優先するかでトーマスの父親と、私の父親が揉めてね。あんなに仲が良かったのに、亀裂が入りそうだったわ」
やれやれという感じのティナ
「で、母達がトーマスと私に決めさせなさいって言うのよ」
ティナの話しに、ふんふんと友人達は頷く
「そしたら、あの馬鹿。そうだね、ティナに決めて貰おうって言い出して」
イラッとしながらティナが顔を顰めるので、友人達は嫌な予感がする
「だから、貴方が決めてって思いっきり背中を叩いてあげたわ」
ニッコリと笑うティナに、友人達も笑う・・しかなかった
(流石ティナ、もう旦那様を尻に敷いてる・・・まだ籍入れてないけど)
トーマスは背中を思い切り叩かれ、その背中を摩りながら「ホレイスターからで良いんじゃない?」と決めた
二人の父親はトーマスを少し哀れみの目で見ながら「お前がそう言うなら」と決まった
「まあ、他にも貴婦人の心得とか有るのかと思ったら、そういうのは結婚してから徐々に判ってくるからって言われたわ」
「ええっー!!」
友人達はがっかりしながら「それが一番聞きたかったのにぃ!!」そう叫ぶ
令嬢にとっては未知の世界である、貴婦人の世界。どんな世界かとドキドキしているのだ
「私だって、まだなってないんだから。無茶言わないでよっ!!」
そう訴えると、ティナは憂鬱そうに
「でも入籍の三ヶ月前には、夜会に行ったら母に連れられて貴婦人達に挨拶をしないと駄目でね・・・それが憂鬱」
本当はティナが一番不安を抱いている。貴婦人の世界は、令嬢と違って派閥が強い
今まで通りヴィクトリア達と付き合っていけるのか?それが何より心配なのだ
「まあ、挙式は半年後だから・・・それまではまだ、令嬢よっ!!」
ティナは不安を消し去る様にそう叫ぶ
クローディアと二人の友人達はヴィクトリア達と楽しい一時を過ごせ、あっという間に時間が来てお茶会は夕方前にお開きになる
「クローディア、またお茶会に来てね」
ヴィクトリアが見送りながらクローディアに優しく微笑むと「ありがとう、今日はとても楽しかったです」クローディアも嬉しそうに笑う
クローディアにとっては今までに無く緊張せずに、一日ずっと楽しく過ごす事が出来た初めてのお茶会だった
夕方にセインが仕事から帰って来るとすぐに妹に今日のお茶会はどうだったか尋ね、クローディアはとても嬉しそうに
「楽しかったわ。ヴィクトリアも、そのお友達もとても良い人達で」
そう話す妹にセインは「そうか」とホッとしながら
「その・・・ヴィクトリアは、俺の事を何か聞いてきたり、話したりはしてなかったか?」
ドキドキしながら尋ねると、クローディアは首を傾げて「いいえ、何も」と答える
「いや・・・ほら、お兄様は優しいですね、とか・・・」
セインがしつこく聞いてくるので「あ、そうだわ!!」と、思い出した妹に
「う、うん。なに?ヴィクトリアは何て?」
ドキドキしながら期待する目を妹に向ける兄に「お兄様に、まだ相手が居ないって言ったら・・・」その言葉にドキンッと胸打つセイン
(まさか、ヴィクトリアが俺の相手になりたいって言うんじゃ・・・)期待するセイン
「キャロルとマリーナが、是非会いたいって言ってたわ」
クローディアが嬉しそうに伝えると「はっ?誰だよそれ・・・」と物凄くがっかりして「ヴィクトリア・・・」と呟く
そんな兄を見て「ヴィクトリア様は、婚約者の方にとても溺愛されているそうですよ?」羨ましいですと教えると、それを聞いてセインは
「俺の方がずっと彼女を想っている。その婚約者が何だって言うんだ?」
(まだ婚約の段階だろう?いつでも破棄出来るんだ)
ヴィクトリアとルシフェルの仲睦まじさを知らないセインは、勝手に情熱の炎を燃やす
夜にルシフェルが帰って来ると、ヴィクトリアは「お帰りなさい」いつものように出迎える
「ただいま」
ルシフェルは愛しい婚約者の頬にキスするが、ヴィクトリアはジッと彼の眼を見る
「どうした?」
いつもと違う婚約者の態度に怪訝そうに尋ねるが、ヴィクトリアはそのままルシフェルの部屋へと向う
(これはまた、何か遭ったな)
そう思いルシフェルも黙って婚約者の後について行くが、ヴィクトリアのその態度に使用人達の方が気が気でない
「何か最近、揉め事が多くない?」「まさか、倦怠期ですか?」「いやあ・・まさか」
使用人達は心配し、アメニに二人を気を付けて見ている様にと忠告する
部屋に入り机に鞄を置いてルシフェルはベッドに座り、ヴィクトリアに
「で、どうしたの?」(長引くのか?)そう思いながら尋ねると、意外にもヴィクトリアは自分の膝に乗って来る
「・・・ティナとトーマス様の入籍の事、知っていたの?」
そう尋ねるヴィクトリアに(ああ、その事か)とルシフェルは頷き
「トーマスから手紙でな。ヴィクトリアにはティナが話すからって書いてあったから、言わなかったんだけど。それで怒ってるの?」
優しくヴィクトリアに笑い掛けると、ヴィクトリアは首を振り
「怒ってるんじゃないわ、ただ・・・」
ヴィクトリアはルシフェルの目をジッと見つめ「私達の入籍はいつなのかな?って思って」不安そうに尋ねる
「婚約を交わした時に話したんだが、ランドルはヴィクトリアが二十歳過ぎてから入籍させるって言ってた」
そう教えると笑って「なに?羨ましくなったのか?」(それは俺の方なんだが)と思いながら抱きしめると
「ルシフェルは羨ましくないの?」
自分を抱きしめる愛しい婚約者に尋ねると「羨ましいよ」ルシフェルはヴィクトリアの頬に手を添えてキスをする
寝室でヴィクトリアは、ルシフェルが来るのを待ちながら考える
(ティナはお母様と一緒に貴婦人達に挨拶して回るって言ってたけど、私はどうしたら良いのかしら?)
ヴィクトリアの母は病死していて居ない(挨拶回りは、親戚の誰かに頼むしかないのかしら?)その事を考えるとヴィクトリアは不安になる
(私が事故で怪我をしても、お見舞いにも来てくれない・・・そんな親戚を頼らなければいけないの?そもそも全然、全く、親族と交流が無いんだけど?)
一度お父様に聞いた方が良いのかしら?と考えるヴィクトリア
ランドルは娘以外には、親族ですら容赦が無く、今まで問題を起こした親族を、必死で許しを請い助けを求めて来るのを無視し、無慈悲に排除しティアノーズ一族を守って来た
逆恨みもあるが、助けられたのに助け無かった場合も有り、そんなランドルの遣り方に一族の中には反感を抱いている者も多い
けれど、結局今在るティアノーズの権力は歴代の当主と現当主ランドルによって築かれ守られて来たのも事実なので誰も彼には逆らえず、だからこそ次期当主がティアノーズ一族の血統ではない、伯爵の次男であるルシフェルが継ぐ事に異論はあっても異議を唱える事無く従っている
ルシフェルが入浴から戻って来ると、ベッドに座っているヴィクトリアの横に座る
「ティナは良いわね、お母様が居るから。貴婦人達の挨拶は、お母様に頼れて」
「貴婦人の挨拶に親が必要なら、俺の母親が居るだろう?まあ、身分は伯爵だから、嫌ならティアノーズの親戚の誰かに頼んだら良いんじゃないか?」
ルシフェルの言葉に、ヴィクトリアは驚きながら「ルシフェルのご両親・・・記憶を無くしてから私、会ってないんだけど?」今更だけどと、ヴィクトリアはルシフェルに訴えると
「俺の両親は早々と兄に家督を譲って、二人は友人の領地の田舎で隠居生活してるから。母があまり社交の場に出るのが好きじゃないから、田舎でのんびりしている」
それを聞いてヴィクトリアは、そんな余生もあるのね・・・と考え
「一度・・・挨拶に行かないと駄目なんじゃないかしら?」
「まあ、構わないんだけど、凄く遠いんだ。伯爵が隠居で住むような田舎じゃなく、本当にど田舎だから」
変わってるんだ、そう話すルシフェルにヴィクトリアは
(でも、普通は会いに行くか聞くものじゃない?ルシフェルは私を、両親に会わせたくないのかしら?)
今まで、家族の話は少ししか聞いてない
嫡男の兄が結婚した時に家督を譲り受けたから、それを機にルシフェルも生まれ育った屋敷を出て職場に近い屋敷を購入して住んでいた事だけ
その時両親の話しが出なかったので、勝手に家督を譲った後に亡くなったものだと思ってしまい深入りしなかったヴィクトリア
(やっぱり、会わせたくなにのかも・・・悪女だった自分の評判を、当然ルシフェルの両親も知っているだろうし。幾ら記憶を無くして変わったとしても、親としてみたら大事な息子を傷付けた婚約者になど、会いたくはない筈・・・向こうが拒んだのかもしれない・・・)
ヴィクトリアはズキンッと胸を痛めるが、それも仕方がないと自分に言い聞かせベッドに入る
(夫の両親に嫌われている花嫁・・・最悪だわ、悲し過ぎる)
泣きそうになるヴィクトリアを、ルシフェルが後ろから抱きしめてくる
(大丈夫・・・私にはルシフェルが居るもの・・・大丈夫)
そう言い聞かせ目を閉じると
「それで、どうする?両親に会うんだったら、向こうに行くか、王都に来て貰うか考えないと」
ルシフェルがそう聞いてくるので、ヴィクトリアは驚いて起き上がると彼の方を向き
「・・・御両親は私に会いたく無いんじゃない?悪女だった私を知ってるでしょう?」
「会いたくないというか、一度も会っていないから。だから、会っておくのも良いかもな。ただ、会いに行くなら、今度の休暇で行く事になるけど?」
ルシフェルは不安そうなヴィクトリアに優しく笑い掛け「今のヴィクトリアなら、きっと安心して、喜んでくれる」そう言って抱きしめてくるので、ヴィクトリアはルシフェルの胸の中で
「本当?それなら、会いに行きたいけど・・・ルシフェルは良いの?」
(私を両親に会わせたくないみたいだけど・・・)
「まあ、折角の休暇なのに親に会いに行くっていうのは残念だけど。ヴィクトリアが会いたいなら構わない。言っておくけど、本当に田舎で何も無いぞ?それでも良い?嫌なら王都に来て貰うから。無理にこっちから会いに行かなくても良いんだ」
ルシフェルはヴィクトリアに気を遣いそう提案すると
「わざわざ王都に来て貰うのは申し訳ないもの、こっちから伺いましょう」
なるべくこちらから誠意ある対応をして、少しでも気に入って貰いたい
ルシフェルの両親に気に入って貰えるかどうか、それはヴィクトリアにとっては深刻な問題なのだ
(夫の両親に嫌われる花嫁。それだけは絶対に嫌!!)
頑張って彼の両親に好かれようと、ヴィクトリアは決心する




