29話 侯爵令嬢に会いに行く悪女
イヴェラノーズ侯爵の夜会からの帰路の馬車の中でも、寝室でもルシフェルはヴィクトリアを心配するが
「またあの悪女の嫌な部分を知っただけだから」
それだけを話し、傷付いた心を抱きしめて慰めて貰いヴィクトリアは
「・・・ルシフェルが私を好きになってくれたのは、本当に奇跡ね」
ギュッと抱きしめられながら心から「ありがとう」と彼の胸に顔を埋める
悪女だった時は自分を嫌っていたのに、今は愛してくれているルシフェルの優しさが今のヴィクトリアの救いだ
ルシフェルはそんな愛おしい婚約者の頭に優しくキスをして「それは俺の方だろうな」と笑う
(そう、ウェンヴィッツじゃなく、俺を愛してくれたのは奇跡だ・・・)
翌朝、登城するルシフェルと父親を見送り、ヴィクトリアは届けられた招待状を見ながら
(そろそろ、私もお茶会をまた開催しようかな・・・)
そのお茶会にクローディアを招待したら・・・来てくれるだろうか?
確認している招待状は当然だが公爵と侯爵の令嬢からが殆どなのだが、中には誰だろう?と思う伯爵令嬢の招待状も届くようになっていた
(伯爵令嬢の招待状はティナ達に見て貰って、一緒に行けそうなお茶会なら参加するとして)問題は上位貴族令嬢からの招待状だ
(毎回、これが憂鬱なのよね・・・)昨日の夜会の事もあり、ヴィクトリアは段々公爵令嬢達に対して不信感を抱いてしまっている
「でも・・・それじゃあ、駄目なのよね」
どうしよう?と悩んでいると、コンコンとノックがありアメニがお茶を持って来てくれた
カップに紅茶を注いでテーブルに置くアメニに「ありがとう」そうお礼を言い
「ねえ、悪いのだけどティナ達に明後日ここに来れるか聞いて貰える?」
最近では友人達と頻繁に会うので、簡易な遣り取りで招集が掛けれるようにしてある
早い話し代筆を頼むという事で「いつもの時間で宜しいですか?」と尋ねるアメニに「ええ、お願いね」とヴィクトリアは、憂鬱そうに公爵達の招待状と睨めっこしている・・・それを見て(その姿も可愛い)と思うアメニ
夜、いつもの様に遅くルシフェルが帰って来て、嬉しそうに「おかえりなさい」と出迎えるヴィクトリア
「ただいま」
愛する婚約者の頬にキスをすると、ルシフェルはそのまま自室にヴィクトリアと寄り添って向かい、それをいつも微笑ましく見守る使用人達
昨日夜会から泣きながら帰って来たヴィクトリアを見た時、使用人達は(またか!?)と驚愕したが、次の日には普通に三人で食卓を囲っているので(脅かすな!!)と思いながらも心から安心した
「明後日はティナ達に来て貰って、またお茶会の相談です」
嬉しそうに報告するヴィクトリアに「お茶会・・・よくまあ飽きもせずに、そうしょっちゅう開くなあ」そんなに話す事があるのか?と呆れるルシフェルにヴィクトリアはムッとする
お茶会は令嬢や貴婦人にとっては社交の場であり、暇潰しなのだ
「・・・駄目なんですか?」
ムウッとルシフェルを恨めしく目を向けると、彼は笑って「だってお茶会の相談の、お茶会だろう?」そう言うので、まあ確かに言われてみればとヴィクトリアも思うが
「ルシフェルが相手をしてくれないから、皆に相手して貰ってるんです」
王城勤務になり、激務なのは判るので我慢はするけれど、そんな言われ方!!・・・と責める様にヴィクトリアはルシフェルを目で訴える
愛する婚約者の目での訴えが伝わり、ルシフェルは「まあ、もうすぐ長期休暇が取れるから」部屋を出て食堂へと向う
ルシフェルが食事をしているのを見ながら
「でも、長期休暇っていつから?いつまで休みが取れるんです?」
「まだ決まってない」
ルシフェルがそう答えると、ヴィクトリアは「お父様なら知ってるのかしら?まだ帰って来てないのね」いつもルシフェルが食事中に帰って来る父の事も心配なヴィクトリア
食事を終えたルシフェルが入浴の間にヴィクトリアは自室で明日に着る服を選び、手紙の整理をしたりしてから寝室に向う
ルシフェルが寝室に入って来ると(まだ少し濡れている髪が、よりかっこよく見える)その姿に見惚れるヴィクトリア
「お父様もまだ決まってないって言ってたわ」
ルシフェルが入浴中に食事をしていたランドルに、休暇の事を尋ねたヴィクトリア
(忙しいのは判るんだけど・・・寂しいって言うのは我が侭なの?・・・二人だって疲れて帰って来てるんだけど・・・)
ルシフェルも何となく父と同じで仕事に没頭し、自分より仕事を優先する人になるのでは?と思うようになってくる
でもそれは仕事を持つ者の性と言うのだろうか?出世したい、自分が出来る事を知らしめたいという
「ヴィクトリア?」
黙り込んでしまった婚約者の顔を覗き込むルシフェル
「どうした?休暇はまだ判らないが、来週には決まるだろう。そうしたら泊りでどこか行こうか?」
そう提案すると、ヴィクトリアは目を輝かせ「本当?泊りで出掛けるの?」子供の様に喜ぶとルシフェルに抱きつき
「二人で旅行って初めてだもの・・・何だか新婚旅行に行くみたい」
嬉しそうにそうはしゃぐと「いや、新婚と言うよりは、婚前旅行だな」ルシフェルが訂正する
「・・・そこは訂正しなくても良いんです」
(折角の気分が台無しだわ)
そう思いながらも初めての二人の旅行の事に、ヴィクトリは子供みたいにワクワクと心躍らせ、そんな嬉しそにしている婚約者を見ながら(本当に新婚旅行ならどんなに良いか)と思うルシフェル
翌日の昼には友人からの手紙が届き、キャシーとアナベルとキャロルとアリメラの四人が来れると書いてあった
ヴィクトリアは明日友人が四人来ると使用人に伝え(他の皆は忙しいのね・・・)
ヴィクトリアもお茶会に誘われたりと忙しいのだが、それでも何となく寂しく感じる時がある
(大丈夫。長期休暇が取れたら、またルシフェルと出掛けられる。今度は旅行だもの・・・ずっと一緒に居られる)
王城勤務からもうすぐ二ヶ月が経とうとしている
その間、ヴィクトリアはルシフェルに連れられて夜会には出てはいたが二人で何処かへ出掛ける事は無い
休日はルシフェルは疲れているのか昼近くに起き、外にお茶をしに行く事があり軽いデートを楽しむけれど、それも一回だけで後は屋敷でのんびり過ごしていた
(寂しいなんて言ったら、困らせるだけ・・・それに言っても仕方が無いんだし。休暇が取れたら、旅行に行ける)
ヴィクトリアは寂しくなると、そう自分に言い聞かせる様になる
ルシフェルが帰宅し、いつもの様に鞄を机の上に置くと「ふうっ」と溜息を吐く
「お疲れですね・・・」
心配するヴィクトリアに、ルシフェルはベッドに座り
「今日、イヴェラノーズ侯爵から聞いたんだが・・・クローディア嬢が夜会から帰ったきり、部屋から出て来ないんだそうだ」
「えっ!?」
驚くヴィクトリアに、ルシフェルも心配そうに
「相当夜会での事がショックだったんだろうけど・・・侯爵も心配してたよ」
ヴィクトリアは顔を曇らせ「そうでしょうね・・・・」あの怯えながら自分にしがみ付いてきた彼女を思い出し、ヴィクトリアは胸が締め付けられる
(明日は、キャシー達が午前中に来る。昼過ぎなら、イヴェラノーズに伺えるかもしれない。急で申し訳ないけどクローディアが心配だもの)
明日、速便で昼に伺うとだけ知らせておこうとルシフェルに相談すると「どうだろうな?あまり深入りしない方が良いんじゃないのか?」あまり良い顔をしなかったので驚く
「どうしてそんな・・・冷たい事を言うの?」
「ヴィクトリアは、自分に責任があると思ってるだろう?でも、悪いのは彼女を傷付けた公爵だ。ヴィクトリアは優し過ぎる。何でも人の事ばかりに気に掛け過ぎだ・・・あいつの事もそうだし。そうやって何でも助けようとして・・・背負い過ぎだろう」
その言葉に、ヴィトリアは首を振り「私・・・そんな大それた事してないわ。背負い過ぎって・・・大袈裟よ」何を言ってるの?とルシフェルの言葉を否定すると
「あの女の騎士の事もだ。放って置けないと、屋敷で雇おうとしただろう?」
「カレンの事は、本当に私にも責任があったの!!」
ヴィクトリアがそう訴えると、ルシフェルは溜息を吐き
「ヴィクトリア、クローディア嬢と会ってどうするつもりだ?」
「どうするも・・・まずは話しをして、自室から出て来て貰わないと・・・」
その言葉にルシフェルは難色を示し
「そんな簡単にはいかないだろう?一日では無理かもしれない。そしたら?出て来てくれるまで通うのか?それとも寄り添うようにして、泊るつもりか?」
ルシフェルが心配するのも無理は無い・・・心を閉ざしたクローディアに部屋から出て来て貰うのは、きっと時間が掛かるだろう
「それでも、クローディアを放って置けない」
ヴィクトリアはルシフェルに訴える
「私の事を心配してくれてるのは判るけど、私は彼女を酷く傷付けたの。その償いをしたいわ」
(悪女ヴィクトリアがクローディアにした事は、今の私に関係ない訳ではないもの・・・)
そう決心し「判って・・・」と縋る様に訴えてくるヴィクトリアに、結局ルシフェルが折れて愛しい婚約者を抱きしめるしかない
翌日イヴェラノーズ邸に昼に伺うとの速便を送り、午前中にキャシー達がティアノーズ邸を訪れ楽しくお茶をしながらお茶会の話しで盛り上がる
ヴィクトリアは昼にクローディアに会いに行く事を話すと、キャロルが心配そうに
「それは、可哀想に・・・でも、ヴィクトリアがそこまでする必要ある?」
「ルシフェルにも言ったけど、私は彼女に償ないたいの。それに、私が力になれるかは判らないけど、放っては置けないもの」
四人の友人達はそれを聞いて(それがヴィクトリアなのよね)と頷く
招待されたお茶会には二日後にキャロル達と、三日日後のお茶会にはアリメラ以外は行けると言うので参加する
(なんだかんだで皆、結構お茶会を開くのよね)
貴族の令嬢達は・・・貴婦人もだが、皆暇を持て余しているのだ
午後になり、急ぎイヴェラノーズ邸へと向かうヴィクトリア
(突然の来訪に、却って迷惑を掛けてしまってるわね)
それでもクローディアが心配でジッとはしていられないヴィクトリアなのだが、急な来訪にも拘らずクローディアの兄セインが出迎えてくれた
「・・・ティアノーズ嬢、この度は妹の為にわざわざお越し下さってありがとうございます」
彼の形式的な挨拶に、ヴィクトリアは首を振り
「こちらこそ、急な来訪で申し訳ありません。クローディア様が心配でしたので、許して下さいね」
頭を下げてからセインに微笑むヴィクトリアのその余りの美しさに、ドキッと胸を打たれるセインは顔を赤くしながらヴィクトリアを屋敷へと招き入れる
セインは妹の部屋のドアをノックして
「クローディア、ヴィクトリア嬢が来てくれたんだ・・・ドアを開けてくれ」
そう頼むが返事が無く、セインが溜息混じりにヴィクトリアを見ると
「クローディア様、ヴィクトリアです。先日は私の所為で怖い思いをさせて申し訳なかったわ。少し話しをしたいの、ドアを開けて貰えませんか?」
優しく、誠意を込めてクローディアに声を掛けるヴィクトリア
「・・・ヴィクトリア様が・・・謝られる事は・・・ありませんので・・・どうか、お帰り下さい」
震えながら、小さな消え入る声でそう返事をするクローディア
(やっぱり、簡単には出て来てはくれないのね)
長期戦を覚悟するヴィクトリアは
「会えるまでは帰れませんよ?どうか、少しだけでも、会って話しをしてくれませんか?」
そうやって声を掛け続ける
「・・・ヴィクトリア様は・・・なにも、悪くないので、私の事は・・・どうか・・・ウウッ」
最後は泣き崩れる感じになり、それからは何も言っても返事が返って来なくなる
仕方なく応接間に移動し、お茶を飲み少し間を置く事にした
「すみません、妹も頑ななもので。本当に困ってしまいます」
セインが申し訳無いと苦笑いすると、ヴィクトリアは羨ましそうに
「セイン様は本当に妹思いなのですね。私には兄妹が居ないので羨ましいです」
そう言うと、優雅にお茶を飲むその姿に見惚れるセイン
(本当に綺麗な女性だな。四大美女の一人とこうしてお茶を飲んでるなんて)
妹の事がなければ決してありえない状況だと思いながら美しいヴィクトリアに見惚れていたが自分が今、彼女と二人きりだという事に気付く
(あれ?これ、まずいんじゃないのか?)
貴族のマナーとして婚約者の居る者は変な噂が立たない様、異性と二人きりになるのは避ける
チラッとヴィクトリアの左り手の薬指を見ると、プラチナのリングに青い石が施された婚約指輪が光っている
(そう言えば、赤っぽい金髪の男と一緒に来ていたような・・・)
正確には茶色掛かった金髪なのだが、セインはルシフェル達が挨拶に来た時すでにヴィクトリアしか見ていなかった
(これは・・・しかし、ヴィクトリアは・・俺と二人きりでいるのに・・気にしてないのか?・・・どうして?)
ドキンと胸を高まらせ、セインはヴィクトリアを意識するが、ヴィクトリアは出された焼き菓子を選んでいる
(俺と二人きりだというのに・・・平気って・・・つまり・・・俺に・・・好意を持ってくれているからか?)
ドキドキと心臓が高まり、自分の都合の良い考えが頭を過ぎるセインだが、普通男性と二人きりでも平気な女性の心理は、その相手の男性が恋愛の対象外だからだ・・・つまり異性として見ていない
「セイン様」
ヴィクトリアに名前を呼ばれ、ドキンッと心臓が飛び跳ねるセイン
「えっ?あ、はい。何でしょう?」
うろたえながら尋ねると、ヴィクトリアは深刻そうに「以前の私は、クローディア様にとても酷い事をしたらしいのですが・・・それが何かご存知ですか?」思い切って聞いてみた
知らないでは済まされないと思うから聞いたその質問に、セインは顔を曇らせる
(そうだ、大事な妹に酷い仕打ちをした張本人なのに・・・俺は何を浮かれているのか)
自分の愚かさに嫌気がするセインだが、目の前の妖艶な美女にどうしてもドキドキと心臓が波打つのだ
セインはジッと自分を見つめてくるヴィクトリアに、心を落ち着かせるよう一呼吸してからクローディアが悪女ヴィクトリにされた事を話す
生まれて初めて衆目の面前で頬を叩かれ、周りの貴族達に笑い者にされたクローディア
その所為でますます気の弱い、内気な性格になってしまったが、それでも頑張って伯爵の夜会には参加していた妹なのに、またあんな目に遭わされてしまった
(何て酷い事を・・・私は・・・)
ヴィクトリアはクローディアの事を思うと、可哀想で涙が零れた
「ヴィクトリア!?」
ヴィクトリアが涙を流すので、慌てて傍に駆け寄りセインは指で涙を拭ってやる
「あ、すみません。クローディア様が余りにも可哀想で・・・自分のした事なのですけど・・・本当に申し訳なくて」
ヴィクトリアはクローディアを不憫に思いながら、自分との距離が近いセインから離れる
セインも、自分から離れるヴィクトリアに申し訳なさそうに「失礼・・・その、泣かれたので思わず。申し訳ない」そう謝ると、ヴィクトリアは首を振る
「セイン様はお優しいですね。私は・・・大事な妹を傷付けた本人なのに、心配して下さって」
ヴィクトリは「もう一度、クローディア様と話しをしてみます」クローディアの部屋へと向かい、また彼女に声を掛ける
そんなヴィクトリアを見ながら、セインは胸が締め付けられる苦しみを覚える
『セイン様はお優しいのですね・・・私を心配して下さって』
さっきのヴィクトリアの言葉が何度も何度も繰り返され、セインの心をざわつかせる
「クローディア様。お兄様から、私が貴方にした事を聞きました。私の事・・・憎んでいるでしょうね?そんな私に会いたくないのも判ります・・・」
ヴィクトリアは本当に申し訳ありませんと謝りながらも
「でも、一度だけ・・・きちんと貴方に会って、貴方の眼を見て、謝らせて貰えませんか?お願いです、クローディア様」
そう訴えるが返事は無かった
(やっぱり駄目なのね・・・私はとても嫌われているもの、簡単にはいかないわ)
長期戦を覚悟してヴィクトリアは帰ろうとすると、カチッと鍵の開いた音と共にガチャっとドアが開く
「クローディア様!!」
嬉しそうにヴィクトリアは出て来てくれたクローディアの傍に駆け寄り、ヴィクトリアを部屋へと招き入れるとクローディアはドアを閉め、再び鍵を掛けセインは入れて貰えなかった
(えっ、俺は駄目なのか!?)
ショックを受けるセインだが、クローディアは大好きな兄に今の自分を見られたくないだけだ
部屋は薄暗かったので、電気を付けるヴィクトリア
「開けてくれてありがとう。とても心配したのよ」
優しく微笑むヴィクトリアに、クローディアは困惑する
本当はとても怖い相手だ・・・けれど、あの夜会では自分を助けてくれた
フェリスアーラが怖くて思わずヴィクトリアにしがみ付いた時は、押し退けられると思ったのだが、でもヴィクトリアは自分を庇い、立たせてくれ外に連れ出してくれた・・・だからせめて、その感謝とお礼だけはきちんと言いたかったのだ
「あ、あの・・・」
震えながクローディアがお礼を言おうとすると、ヴィクトリアが先に彼女をギュッと抱きしめ、驚くクローディアに
「ごめんなさい、貴方にとても酷い事をして。貴方をとても傷付けて・・・私を憎んでいるでしょう・・・怖がるのも判るわ。あんな事・・・・自分でも嫌になるもの」
涙が零れる
公爵での夜会の出来事、実は悪女ヴィクトリアがクローディアに余所見をしてぶつかったのは・・・ワザとだった
公爵令嬢の戯れが、フェリスアーラの命令でヴィクトリアによって公の場で実行され、周りの貴族達が笑っていたのは悪趣味な遊びが上手くいったからだ
(残酷過ぎるわ・・・そんな遊びを・・いいえ、遊びなんかじゃい!!これは人の心を傷付けた、れっきとした犯罪よ!!)
「ヴィ・・・ヴィクトリア様?」
自分を抱きしめ、泣いているヴィクトリアに益々困惑するクローディア
ヴィクトリアはクローディアを離し、彼女の眼を見て
「貴方がとても傷付いてるのは判るわ。でも、部屋に閉じ篭ってしまっては、お父様やお兄様を心配させてしまう」
諭すように優しくそう言い聞かせ
「せめて部屋を出て、二人を安心させてあげて。貴方だって、二人を心配させたままでは辛いでしょう?」
そう尋ねると、クローディアは黙って頷く
そんな彼女に、ヴィクトリアは額同士をコツンとくっつけて
「私、貴方と友達になれたら良いのだけど・・・時間を掛けてゆっくりで良いの。仲良くなれたら嬉しい」
その言葉に、クローディアの目からポロッと涙が零れる
友人達を危険な目に合わせ、愛想を尽かされたクローディア
もう、誰も自分の事など相手にしてくれない、独りぼっちになってしまったと思った
誰もこんな自分を好きになってくれる訳がない・・・自分が自分に、愛想を尽かしたのだから
それなのに、ヴィクトリアはそんな駄目な自分と友達になりたいと言ってくれたのだ
ポロポロと零れるクローディアの涙を、ヴィクトリアは優しくハンカチで拭いてあげる
それからヴィクトリアとクローディアは、少しの間二人で話しをする
ヴィクトリアが開くお茶会にクローディアの友人二人を呼んで仲直りしようとか、ヴィクトリアにも侯爵以上の友人が居らず、友人は伯爵や子爵や男爵だけだと話すとクローディアは驚きながらも、自分と同じだと笑う様になる
こうして夕方近くに、ヴィクトリアはイヴェラノーズの屋敷を後にする
セインはとても残念そうに「また、いつでも遊びに来て下さい」と真剣に誘うのでヴィクトリアも頷き
「ありがとうございます。それじゃあ、クローディア。お茶会の時は必ず来てね」
その言葉にクローディアは嬉しそうに「ありがとうございます」と笑顔を向ける
本当はまだ社交の場に出るのは少し不安ではあるが、幼馴染の友人二人と一緒ならと思うクローディア
後はその二人が、一緒にヴィクトリアのお茶会に行ってくれるかだ
夜、ヴィクトリアはルシフェルにクローディアに会えた事を嬉しそうに話す
「それで、やっぱりすぐには出て来てくれなかったので、応接間でお茶を飲んで時間を置いたんです。その時にセイン様から、私が彼女に何をしたのか聞きました」
「・・・お茶を飲んでる時、そのセインも一緒だったって事か?」
そっちに反応する婚約者に、ヴィクトリアは頷くと
「いや・・・その部屋に、そいつと二人きりだったって事?」
ルシフェルが嫉妬したように聞くので、ヴィクトリアは
「でも、ドアは開いてましたし、入り口にはメイドが待機してましたから」
確かに婚約している者が異性と二人きりは良くないが、ドアを開けていたり、近くに誰かが居れば問題は無い
それでもムッとした様にヴィクトリアを見るルシフェルに
「もう、そんな事言ったら、セイン様に失礼ですよ!?彼は私の事なんて何とも思ってません!!」
と訴えるが、セインはしっかりとヴィクトリアに心を奪われている
「どうだかな?まったく、ヴィクトリアは無防備過ぎる」
自分の美貌と、自分に向けてくる異性の好意に鈍感なヴィクトリアに、もっと自覚してくれと思うルシフェル
「もう、折角クローディアが心開いてくれたって話しをしてるのにっ!!」
ルシフェルが嫉妬の方に話しを向けるので、ヴィクトリアもムッとしながら
「ルシフェルは本当に心配性だわ。よく言うでしょう?夫が思っている程・・・妻はモテ無い?とか何とか」
ヴィクトリアが思い出しながら(逆だったかしら?)そう伝えると「知らない、どこで聞いた?」と尋ねるルシフェルに「サロンです」と答える
よく貴婦人達が『夫は元気でいてくれて、留守の方が良い』とか『家督を息子に譲ったらずっと家にいて、ゴミ扱い』とか笑いながら話していて、それを令嬢達は聞き耳を立てて聞いてるのだ
そんな情報をヴィクトリアも聞いたり、もしくは友人達から教えて貰ったりする
「ヴィクトリア・・・あんまりサロンには行かない方が良いんじゃないか?」
禄な事がないなと思うルシフェルは(モテ無い婚約者の方が、ずっと気が楽だったな)溜息を吐きながら、美しく、色気のある最愛の婚約者を抱きしめる
翌日、ヴィクトリアは早速お茶会の招待状を作る
(クローディアが緊張しないように、人数は少なくするとして・・・)
お茶会の準備を考えながら、ヴィクトリアはサロンでの出来事についても考えるようになる
(公爵令嬢の戯れ・・・あれをどうにかしないといけない。あんな事が行われてるなんて・・・どうして誰も止めないの!?)
弱い立場の令嬢が苛められているのに、誰も助けないのか?見ているだけなのか?ヴィクトリアは自分達の時の事を思い出す
あの時、周りに居た令嬢達は皆関わりたくないと逃げ出し、誰も助けを呼んでもくれなかった
他の公爵令嬢達はただ見ていただけで、取り巻きの令嬢達も笑ってる人も居たが殆どが俯いていた
(あの人達は弱い立場の令嬢が苛められているに、誰も助けようと言う気持ちが無いの?)
違う・・・と首を振るヴィクトリア
(怖いからだ・・・公爵様が。虐めを助けると言う事は、戯れを邪魔をするという事。それは公爵に逆らう事だもの・・・)
どうしよう?と考える
自分も侯爵の身分、公爵の方が立場は上だ。幾らこっちが正義を振りかざしても、公爵令嬢には通用しないのだろう
(公爵令嬢の戯れ・・・あんなの、犯罪だわ。どうにかして処罰出来ればいいのに・・・そうすればあんな馬鹿な事、出来なくなるのに!!)
今まで一体どれだけの令嬢が、その戯れの犠牲になったのか?考えただけでも恐ろしいと思うヴィクトリア
そしてその戯れに悪女だった自分も加担していた事に、激しく心を痛める




