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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
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 26話 公爵の夜会へ行く悪女

ホルグヴィッツ公爵家主催の夜会当日、ヴィクトリアは朝から気が重く、父ランドルに「お父様、あのダイヤをつけるのは、嫌なんですが」朝食の時に訴えるが

「馬鹿な事を、公爵の夜会につけてこそ値打ちがある。必ずして行くんだ」

まったく取り合って貰えず、ヴィクトリアはムッとして「お父様の見栄っ張り」と父親に悪態吐く

その言葉にルシフェルとドルフェスは笑いそうになるのを堪えるが、ムスッとしている娘に

「お前は何を言ってるんだ!?あのダイヤを手に入れるのに、どれだけの労力と金を注ぎ込んだと思っている!?」

以前の悪女ヴィクトリアはこれ見よがしにつけていたのを知っているランドルは、今の娘が嫌がる事に理解出来ずにいる


「それは・・・申し訳ないですが・・・あんな大きなダイヤをして行くのは・・・嫌味しかないもの」

確かにあれ程のダイヤだ。相当苦労したのだろうとは思うが、それでもあのダイヤをつけて夜会に参加するのは嫌なのだ

しかしランドルは取り合わず、さっさと朝食を済ませると出て行く

溜息交じりで「駄目だわ。どうしてもダイヤをして行かなければいけないのね」そう観念する

「確かにあのダイヤは注目の的だな。覚悟するしかない」

ルシフェルの言葉に、世界第三位の『大地の煌き』の持ち主が自分である事を恨めしく思いヴィクトリアは深い溜息を吐く



夕方近くになり、夜会のドレスに着替える

今回の夜会で着るドレスは黒に金のラメが入ったシックなもので、スカートの裾は膝まで、そこから濃いワイン色のレースが何枚も重ねられ足元まで施されている

「髪をどうしましょうか?アップにしますか?」

アメニが尋ねると、ヴィクトリアは鏡に映った自分の姿を見る

今は髪を下ろし少しカールされている状態なのだが、自分の髪を触りながら(どうしよう・・・)と悩む

今回は格上の公爵の夜会だ。皆、気合を入れてお洒落をしてくるのだろうか?そう考え

「横だけ残して、アップにして。髪留めは・・・ダイヤで統一するわ」

アメニはその通りに仕上げてくれ「ヴィクトリア様、ダイヤに負けないくらいお美しく輝いています」ウットリしながら、ダイヤの髪留めを丁寧に留めるとそう褒める


後ろを向き鏡に映った自身の後ろ姿を振り向いて確認すると、確かに髪留めのダイヤは品良くヴィクトリアを引き立ててくれる

「そう・・・髪留めのダイヤはね」

問題は首に掛けるダイヤだ。化粧はナチュラルにして、口紅は赤ではなくワイン色にした

外見の美しさに色気が伴なって、十九歳にしてヴィクトリアはすっかり大人の魅力を醸し出しているが、最もそれは愛するルシフェルに愛されているからだが


こうして身支度が整った頃、ランドル達が久しぶりに早く帰宅し、ヴィクトリアが出迎えるとルシフェルは婚約者の美しさに一瞬見惚れ「綺麗だよ」彼女を抱き寄せ頬にキスをする

使用人達はこういう時すぐに俯く様にしているのだが、中には羨ましいと見つめているメイドも居る

ランドルにはドルフェスが、ルシフェルはヴィクトリアがそれぞれの自室で支度の手伝いをする

ルシフェルは白の正装に着替えながら、自分を手伝ってくれる美しい婚約者に目を向け、彼女が何れ自分の妻になるのだと実感しながら

「今日はいつもより一段と綺麗だ」

愛するヴィクトリアを抱きしめながらそう告げると「ルシフェルも素敵です」正装姿のかっこいい彼に顔を赤らめるヴィクトリア


ヴィクトリアは普段、化粧はしない

出掛ける時には身嗜みとして施すが、ルシフェルが帰って来る前に入浴も済ませるのでその時に化粧を落としている

つまり、ルシフェルが化粧をして着飾っているヴィクトリアを見られるのは、それこそ夜会でしか機会が無い

それというのも、ヴィクトリアが常に自分を美しく着飾ろうとしないから


ルシフェルとランドルの身支度が終わり、ヴィクトリアは出掛ける時に渋々大地の煌きを首に掛ける

450カラット以上の大きさを持つ煌めく巨大なダイヤを身につけた彼女は、より一層美しさが際立ち、自分の娘がダイヤに劣らぬ美しさである事に満足するランドル

ルシフェルも(これはとんでもなく注目を浴びるな)と覚悟する


オルテヴァール王国では、ダイヤは持ち主を選ぶと言われている

ダイヤに相応しくない者が身につけると祟って災いや不幸を齎す(モタラス)と言われ、逆にダイヤに選ばれた持ち主がつけると、そのダイヤの耀く力によってより一層美しく、魅力を惹き立て幸運を齎してくれるのだと

今のヴィクトリアは、このダイヤに相応しいと云えるのだろうか

馬車に乗り夜会へと向かいながら、ヴィクトリアはルシフェルに寄り添い少しでも不安な気持ちを和らげる



アシド・ホルグヴィッツの夜会は、彼の住まう城で行われる

膨大な広さを持つ敷地に恐ろしく贅沢に装飾を施されライトアップされた城は、正に公爵の権力を知らしめている・・・のだけれど、実は彼はホルグヴィッツ公爵家の当主ではなく当主の弟

兄が受け継いだ領内の一角を譲り受けたに過ぎないが、それも凄まじい贅を尽くした催しに絶句するヴィクトリアとルシフェル


今までの夜会とは比べ物にならない煌びやかさ、贅を尽くした夜会に立ち竦むヴィクトリア

「これが・・・公爵様の夜会・・」

眩暈を起こしそうになる程の華やかさで、夜だというのに朝のような明るさ・・・これでは伯爵以下の爵位の者は気後れしてしまうのも頷ける

『お前達はお呼びじゃない』と、言われても仕方が無いレベルの夜会だった

(メリルシアナ様の城も大きかったけど・・・この城に比べると・・・)

あまりにも立派過ぎて、ホルグヴィッツ公爵の権力というものが恐ろしく思えるヴィクトリア


「ヴィクトリア、大丈夫か?」

不安に立ち竦む婚約者を、優しくエスコートしてくれるルシフェル

ランドルが中へ入るのでその後を若い二人がついて入ると、皆が一斉にランドル達に注目するので、その視線にヴィクトリアは思わず下を向く

(どうしよう・・こんな凄い夜会で、身の程知らずにもこんなダイヤをつけて来て・・・いい笑い者だわ)

もう、すでに帰りたいと思うヴィクトリア


「ホルグヴィッツに挨拶をする。ついて来なさい」

ランドルがホールの真ん中に集まっている人だかりに向かうので、ルシフェルは震えるヴィクトリアに

「ヴィクトリア、大丈夫だ。俺の傍に居れば怖くないだろう?」

優しく笑い掛け、怖がって震えているヴィクトリアに寄り添いランドルの後について行く

ルシフェルが寄り添ってくれ、ヴィクトリアは前を歩く父の背中だけに集中し、周りを見ない様にする

(場違いだわ・・どうして私はここに居るの?)

公爵の夜会に自分が居る事は間違っていると思うヴィクトリアだが、ルシフェルと結婚し侯爵夫人になれば、嫌でも彼についてこの公爵の夜会にも参加する事になる


ランドルが近づくと周りに集まっていた者達は彼に気付き、ホルグヴィッツから離れる

金髪に白髪が混じった五十代位の、がっしりした体躯の男がランドルの方を向いて立っている

「夜会への招待ありがとう、アシド。相変わらずの贅の限りの催しだな」

ランドルはアシドに親しげに名前で呼びそう挨拶をすると、後ろのヴィクトリア達に振り返り

「娘のヴィクトリアと、婚約者のルシフェル・アルガスター。この二人を今後、よろしく頼む」

そう紹介すると、鋭くアシドはルシフェルに視線を移す


「初めまして、ルシフェル・アルガスターです。お会い出来て光栄です、よろしくお願いします」

握手をして挨拶するルシフェルに続き「ヴィクトリア・ティアノーズです。よろしくお願いします」ヴィクトリアも挨拶する

アシドは美しいヴィクトリアを舐める様に品定めし「ほう・・・これが()()ヴィクトリアか」薄ら笑いを浮かべる彼に、ゾクッとするヴィクトリア

「成る程・・・これ程の美女なら、あの小僧が執着するのも頷ける。クククッ、父親と同じ道を辿るか。血は争えんな」

意味深な事を口にして笑うアシドに、ランドルが睨みつける

アシドは睨まれても気にする事無くルシフェルの方に目を遣り、つまらなそうに「ランドルの娘婿になる男か・・・随分と優男だな」興味無さ気な態度に(嫌な感じの人・・・)第一印象は最悪なアシド・ホルグヴィッツに、二人はそのまま頭を下げてその場を去る


ランドルは彼と話しをしているので、ルシフェルは「踊ろうか?」とダンスホールに向おうとすると「今日は止めましょう・・・あまり注目されたくないわ」どうしてもダンスをすると、周りの注目を浴びてしまうヴィクトリアは嫌がる

そんな婚約者に「踊らなくても注目の的だけど?」ルシフェルが周りを見渡すと、令嬢や貴婦人達が皆ヒソヒソト囁き合ってこちらを見ている


(ああ、やっぱり・・・ダイヤの所為でまた悪女として陰口を叩かれているんだ・・・)

泣きたくなってくるヴィクトリアに

「ヴィクトリア、そのダイヤは君にとてもよく似合っている。凄く綺麗だよ」

ルシフェルは彼女の頭にキスをして「ここでじっとしていても仕方ないだろう?」そう宥める

夜会に来てパートナーと踊らないのは仲の良さが疑われるのでルシフェルはそれを避けたいし、ヴィクトリアもそれは判っているので仕方なくダンスホールに向かう


ヴィクトリア達がダンスホールに来ると皆が一斉に注目しざわつきだす

(ああ、これだから嫌なのに)

「ヴィクトリア、俺を見て。俺だけに集中して」

俯く婚約者にルシフェルはそう優しく笑い掛け「周りは見ないで、俺をずっと見ていて」そう囁き、言われるままにヴィクトリアはルシフェルの顔だけを見つめて踊る


若い美男美女の二人がお互いだけを見つめ合いながら優雅に踊るダンスは、貴族達の誰をも魅了し釘付けにさせる

特に妖艶な色気と美貌に、巨大なダイヤを身につけたヴィクトリアは最高に輝いていて、同じくダンスを踊っていた者達も二人に見惚れ、思わず踊るのを止めて魅入ってしまう程だ

曲が終わりヴィクトリアはホッとしながらルシフェルに笑顔を向け、ルシフェルも嬉しそうに優しく愛する婚約者を見つめていると、ダンスが終わったその瞬間大きな拍手が鳴り響き、ビクッとして驚くヴィクトリアが周りを確認すると皆が自分達に拍手をしている


「なに・・・?どうしたの?」

驚き、戸惑うヴィクトリアにルシフェルは「ヴィクトリアのダンスが、素晴らしかったからだよ」彼女の頭にキスをして、寄り添いながらホールを出る

皆の拍手に恥ずかしがりながらも嬉しそうに、ルシフェルに「私、少しは悪女の汚名を払拭出来たかしら?」と尋ねると

「もう、誰も今のヴィクトリアを悪女とは見ていないと思うよ?雰囲気が全然違うから」

「本当?こんなダイヤをしているのに?」

ルシフェルに言葉にヴィクトリアは半信半疑で尋ねると

「何度も言うけど、そのダイヤはヴィクトリアをより一層綺麗に輝かせてくれているよ」

ルシフェルは、確かにそのダイヤが似合う女性はきっと世界にそう居ない・・・そして、ヴィクトリアはその一人だと思う


ファーストダンスを終え、二人はシャンパンを手にしながら公爵や侯爵達に挨拶回りをする

美しいヴィクトリアを間近で見られるとあって公爵達は上機嫌でルシフェルとの会話を弾ませ、少しでも長く話しをしてヴィクトリアを眺めようと目論む

何故なら悪女と名高かった傲慢で傍若無人だったヴィクトリアが、今はニッコリと自分に微笑んでくれるのだ・・・公爵達の気分も高揚するというものだろう

そんな公爵と侯爵達の挨拶回りも順調に終わり、ホッと一息吐いていると驚いた事にカレンが目の前に現れる

「カレン!?」

ヴィクトリアが思わず彼女の傍に駆け寄る


カレンは少し強張った表情をしているが、ヴィクトリアに挨拶をしてからルシフェルにも会釈をし

「・・・すみませんヴィクトリア様。その・・・少し二人で話せませんか?」

申し訳ない様にそう頼んで来るカレンに、ヴィクトリアは何か遭ったと察し頷くと「ルシフェル、少しカレンと話しをしてくるわ」彼女の言葉にルシフェルはカレンを見る

カレンも申し訳なさそうに自分を見ているのでルシフェルは頷き、知り合いの侯爵達の方へ行くのでヴィクトリアはカレンについて人気の無い場所へとついて行く


「カレン、どうしてこの公爵様の夜会へ?・・・まさか、警護ではないわよね?」

夜会用のドレスを着ているカレンに尋ねると

「あ・・・あの・・その、ヴィクトリア様には申し訳ないのですが・・・その・・」

カレンは戸惑いながら、申し訳なさそうに「本当はこんな事、したくないのですが」突き当りの廊下、誰にも居ない筈の場所にヴィクトリアを連れて行くと、そこにアルフレドが立っていた


彼の姿を見た瞬間、ヴィクトリアはドキンと胸が飛び跳ねる程驚愕する

(え・・・どういう事?)

何故自分がここに連れて来られたのか判らずカレンを見ると、カレンは辛そうな表情で

「すみません、ウェンヴィッツ様に頼まれまして・・・でも、私も近くに居ますので、その・・」

頭を下げ気まずく俯いているカレンに、ヴィクトリアは戸惑いながらもアルフレドの傍へと向う


「久しぶりだね、ヴィクトリア」

自分の傍に来てくれたヴィクトリアに胸の高まりを抑えながら優しく笑い掛けるアルフレドに、ヴィクトリアも笑って

「お久しぶりです、アルフレド様。昨日はカレンを護衛に就かして下さり、ありがとうございます」

そうお礼を伝えると、アルフレドは嬉しそうに頷き「君があまりにもカレンを心配するからね」ヴィクトリアが首に掛けている大きなダイヤに目を遣る


「それは、ランドルにつけるよう言われたのか?」

今のヴィクトリアの趣味ではないだろうと、アルフレドが尋ねると「ええ、私には不相応な代物ですが」溜息混じりにダイヤに触れるヴィクトリアに「いいや、とてもよく似合っているよ」アルフレドはヴィクトリアに近づき

「そのダイヤも、他の宝石も、持ち主につけて貰ってこそ価値が有り光り輝く」

真っ直ぐにヴィクトリアの目を見つめ

「ヴィクトリアがそのダイヤを身につけてあげないと、折角の高貴な輝きが無駄になるよ?」

綺麗なオレンジの瞳に吸い込まれそうになりながら、ヴィクトリアはアルフレドを見る


側から見れば、まるで恋人同士の様に見つめ合う二人に内心カレンは不安を抱く

(もしこのまま、ヴィクトリア様がウェンヴィッツ様と恋仲になってしまったら・・・ややこしい事になる)

今更ながら、自分のしでかした事を恐ろしく思うカレン

「そう・・ですね」

顔を赤らめ、視線を逸らしたのはヴィクトリアだ

「でも・・・私にはこのダイヤをつける勇気はないわ」

申し訳なさそうに、光り輝く大きなダイヤに触れながらそう呟く。今回はランドルに言われ、仕方なくして来たに過ぎない


「そのダイヤは紛れもなく ヴィクトリアを選んでいるよ。美しく、優しい貴方をより輝かせてくれている」

アルフレドはそう褒め、ヴィクトリアをギュッと抱きしめたかと思うとすぐに離し「ヴィクトリアは誰よりも綺麗だ」そう伝えると、彼女の右手の甲にキスをし

「カレンを使って呼び出したのは申し訳ない。彼女には俺が無理に頼んだんだ。だから責めないであげてくれ」

寂しそうに笑い掛け、アルフレドは踵を返し去ろうとする

アルフレドにとっては、ヴィクトリアとの一時の逢瀬・・・そのほんの僅かでも、ヴィクトリアに会えれば彼にはそれで十分だった


「・・・アルフレド様」

ヴィクトリアが呼び止め、振り返るアルフレドに「今日は会えて良かったです。でも・・・」一瞬、顔を曇らせるヴィクトリアに、アルフレドは『もう二度と会わない』と言われるのだろうと悟る

だからそう覚悟をすると、ヴィクトリアは優しく笑い「こういう形ではなく、もっと普通に会いませんか?」その伝えて来て、その言葉に驚くアルフレド


「これでは何か悪い事をしているみたいですので・・・友達として、こんな場所で隠れたりしないで、普通に話しませんか?・・・その、アルフレド様が良ければですが」

アルフレドにしてみればヴィクトリアに迷惑が掛かると思い、こんな形を取ってカレンに連れて来て貰った

けれどヴィクトリアは、堂々と会おうと言ってくれたのだ

「そうか・・・ヴィクトリアがそう言ってくれるなら、そうしよう」

嬉しそうに笑顔を向けるアルフレドに、ヴィクトリアも「よかった」と微笑む


そんな二人を見ながらカレンは何となくこの二人の間に言葉では言えない、二人だけの絆が有る様に感じる

ドロッとした不快な関係ではなく、お互いに大事で、大切な存在として、愛情と友情が混ざったそんな想い合う関係

ただこの関係で一番辛い思いをする事になるのは、間違いなくアルフレドなのだが



パーティー会場に戻るヴィクトリアとカレン

「申し訳ありません、ヴィクトリア様を騙す様な事をしました」

カレンが謝るので、ヴィクトリアは首を振って

「アルフレド様が無理に頼んだのでしょう?言ってたわ、貴方を責めないでやってくれと」

クスッと笑い「本当に優しい人よね?ちゃんとをカレンの事も庇って」嬉しそうなヴィクトリアに(え・・・ウェンヴィッツ様が・・・優しい?)凍りつくカレン

(普段は無表情で、無口で、無駄口を叩かず、常に完璧で、部下に容赦しないって言うか、部下を人と思ってないのでは?と思う時もしょっちゅうあるし、冷徹、鉄火面、人の皮を被った魔王・・・いろいろと言われているあの人を・・・優しい?)

心の中で叫びまくりながら、カレンはその思いをゴクンと飲み込む


「私は、カレンとアルフレド様に会えて、この夜会に来て良かったわ。でも、これからはあんな風に、こそこそ隠れる様な会い方はしたくない。カレンだって嫌でしょう?」

自分を騙す様に呼び出すなんてと、カレンを見ると「はい、辛かったです」カレンだって嫌だった・・・でも、アルフレドに頼まれた時に『すまない』と謝られ、彼の気持ちを思うと断り切れなかったのだ


「私・・・彼の気持ちには答えてあげられないけど、彼を傷つけない様にしたいとも思うの・・・ずるいかしら?」

不安そうにヴィクトリアはカレンに尋ね、カレンは辛そうに自分を見るヴィクトリアに

「それは・・・ずるいのではなく、ヴィクトリア様の優しさですから・・・でも、優しさが仇になる事もあります。悲しい事ですが」

カレンはそう答えるしか無く「そうね・・・」ヴィクトリアも深い溜息を吐く

(恋愛には正解も間違いも無い。気持ちの分だけ、想いの分だけ、人それぞれに、答えがあるだけだから)そう考え(私にはルシフェルが全て・・・それが私の答えだわ)



パーティー会場に戻り、ヴィクトリアをルシフェルの傍に連れて来るとカレンは二人に頭を下げ去って行く

カレンの後ろ姿を見送りながらルシフェルが「それで、彼女は何だったんだ?」心配そうにヴィクトリアに尋ねる

「その事なんだけど・・・帰ってから話しても良い?」

アルフレドと会ってた事をルシフェルに黙っているのは良くないと思うが、どう話そうかと考えるヴィクトリア

「・・・深刻な話し?」

ルシフェルはジッとヴィクトリアを見つめ聞いて来るので「大事な話しだから」そう答えると父ランドルを探しながら

「そろそろ・・・帰りたいわ」

「それならラストダンスを踊ろうか?」

ダンスホールへとヴィクトリアを連れて行く


ヴィクトリアはルシフェルを見つめながら、ラストダンスを踊り

(・・・もし、アルフレド様と会っていた事を知って、これからは普通に会って話しをすると言ったら・・・)

優しく笑い掛けてくれているルシフェルに、ヴィクトリアも笑い返しながら

(ルシフェルは怒る?それとも傷付く?・・・どちらにしても良い顔はしない)

ヴィクトリアは顔を曇らせる

(でも・・・あの時、アルフレド様にああ言ったのは・・・彼があまりにも・・・)

「ヴィクトリア?」

心配そうに自分を見るルシフェルに、ヴィクトリアはズキッと心を痛めながら微笑むしかなかった


ラストダンスは楽しめなったが注目を浴びた二人に再び拍手が起こり、拍手を浴びながらヴィクトリアは苛立つ

(どうして拍手するの?そんなに楽しそうに踊ってるように見えたの?)

ファーストダンスの時も皆の視線が嫌で、ルシフェルをずっと見ていただけだった

(それは良かった・・・彼を見つめながらのダンスは楽しかったわ)

けれど、一々に自分達に注目が集まるのがヴィクトリアには堪らなく嫌なのだ


「うんざりだわ・・」

思わず本音を漏らしてしまうヴィクトリアに、ルシフェルはドキッとして婚約者を見る

ルシフェルがあのヴィクトリアが戻ったのか?と、青褪めた表情をするのでヴィクトリアは悲しそうに

「ごめんなさい・・・皆一々に注目して・・・私達に拍手をするんだもの・・・」

ルシフェルに縋る様に「もう、帰りたい・・・」そう一言だけ言うと、後は黙り込んでしまう


ルシフェルは、アルフレドの事をどう話すかを考え込んでいるヴィクトリアをエスコートしながら、アシドと一緒に居るランドルにそろそろ帰ろうと告げる

頷くランドルに、アシドはヴィクトリアの様子を見ながら彼に耳打ちをしてほくそ笑む

耳打ちされたランドルは驚きながら娘の様子を見て「そうか・・・」そう呟き、アシドに「お前の悪趣味に、二度と娘を利用するな」そう忠告する

そんなランドルを見て公爵に向かってと驚くルシフェルだが、当のアシドは笑っているだけだった

そして馬車の中、三人は黙ったままティアノーズ邸へと帰路に着く



ヴィクトリアはルシフェルの自室で、彼の衣服を受け取ると

「先に着替えてから・・・寝室で話しても良い?」

「構わないよ・・・それより、大丈夫か?」

心配そうに抱き寄せ尋ねるルシフェルに、ヴィクトリアはズキンッと胸を痛めながら頷き服をハンガーに掛け部屋を出る


アメニが用意してくれたバスタブのお湯につかりながら、どう話そうかと思案し胸が押し潰されそうになる

(話せばきっとルシフェルは傷付く・・・でも、隠す方がもっと傷付ける事になる)

それでも話さないといけないと覚悟して寝室に入ると、ルシフェルはベッドに座り髪を乾かしながらヴィクトリアを待っていた

「それで?彼女の話しは何だったんだ?」

隣に座る愛する婚約者を心配する様に尋ねるルシフェルに、ヴィクトリアは彼の手を握って覚悟を決め

「話しをしていたのは・・・カレンじゃないの」

申し訳なさそうに「カレンについて行った先に、アルフレド様が居て・・・彼と少し話しをしただけなの」ヴィクトリアのその告白に衝撃を受けるルシフェル


「はっ?なんで・・・あいつが」

(あの女を使って、ヴィクトリアを呼び出したという事か?)

ショックを受けるルシフェルに、ヴィクトリアは

「ルシフェルが、私が他の男の人と話しをするのを嫌なのは判ってる。それは彼も・・・だから気を遣って、人目の付かない所に呼び出したの」

でも・・・と、ルシフェルに訴える様に

「隠れて会う様な、そんな事は嫌だから。それなら、夜会で会った時とかは・・・普通に声を掛けて話しをして欲しいと、そうお願いしたの」

ヴィクトリアのその言葉に、ルシフェルはジッと彼女を見つめる


「大切な友達の一人として、話しをするだけだから」

「・・・それは、あいつが特別な友達という事?」

ルシフェルが聞き返すと、ヴィクトリアは驚いて

「大切って、そう言う事じゃないわ!!トーマス様やティナと同じ、そう言う意味の大切よ!?」

「そうか・・・」

ヴィクトリアの説明に、ルシフェルは頷き「それなら、ヴィクトリアの好きにしたら良いよ」そう告げるとヴィクトリアの頭にキスをして、そのまま部屋を出て行こうとする

「待って、どこへ行くの?」

驚いて尋ねるヴィクトリアに、ルシフェルは「おやすみ」寝室を出て行く


ヴィクトリアは出て行ってしまった彼の後を急いで追い駆け

「ルシフェルッ、どうして出て行くの!?怒ってるなら謝るわ。酷い事を言ってるって判ってるけど・・・でも」

泣きそうになりながらルシフェルにしがみ付き、寝室に戻ってと頼むが「俺が一人になりたいんだ」辛そうにしがみ付いて来るヴィクトリアを離し、ルシフェルは自室に向かう


「ルシフェル・・・」

しがみ付いた腕を離され、それでもヴィクトリアは後を追い駆け

「ねえ、もう少し話し合いましょう?私も言葉が足りなかったわ。ルシフェルを傷付けるのは判ってたのに、ごめんなさい」

必死でルシフェルに謝るが、ルシフェルはヴィクトリアの顔を見ずそのまま自室に入ってしまう

「ルシフェル、開けて!!」

中から鍵を掛けられヴィクトリアがドア越しに開けてくれる様、頼んでいると「ヴィクトリア様、どうされました?」使用人達が騒がしいので様子を見に来た


「ルシフェル・・・ごめんなさい」

泣きながら謝るヴィクトリアだが、ルシフェルはドアを開けなかった・・・いや開けられなかった

「ヴィクトリア・・・」

ルシフェルは頭を抱え、泣き崩れる


(ヴィクトリアがウェンヴィッツと二人きりで会っていた・・・これからも友人として話したい、会いたい。そう、はっきりと言われた)

それはつまり、ヴィクトリアはアルフレドとこれからも付き合っていくという事

(俺がそれを嫌がると判っていても、あいつを選ぶんだな・・・)

『自分よりもアルフレドを選んだ!!』そう解釈してしまう


(恐れていた事が、現実に起きようとしている・・・)

そう、ルシフェルは確信する

今は友達としてだろうが、それは何時か愛情へと変貌する・・・その確信

ルシフェルは嗚咽と共に、何度も愛する婚約者の名前を口にしながら泣き崩れる

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