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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
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 24話 男装の麗騎士と悪女

ヴィクトリアは昨日の朝から今日の夕方近くまでずっと友人達と楽しく過ごし、夕方過ぎに漸くお泊り会から帰って来る

使用人達がキュアリスター邸から漸く戻って来た主人を嬉しそうに出迎え、ヴィクトリアは自室に戻りながらアメニに「昨日、お父様達はどうだった?」気になっていた事を尋ねる

アメニは首を傾げながら、昨日の朝のヴィクトリアとルシフェルの遣り取りを思い出し

「旦那様達は夜の二十二時過ぎ頃に帰って来まして、ご主人様の方がご機嫌の様に見えました」

ティアノーズの屋敷ではルシフェルを旦那様、ランドルをご主人様と呼んで区別している


「お父様の方が機嫌が良かったの?・・・ルシフェルは?」

ヴィクトリアが一番気になっている愛する婚約者の様子を尋ねると、アメニは気を遣いながら感じたままを伝える

「それが、少し深刻な面持ちで・・・あまり楽しくなかったのかも知れませんね」

「そう・・・」

(あんなに嬉しそうに出掛けて行ったのに、楽しくなかったのかしら?・・・まさか疾しい事をしたから、深刻な顔だったって事は無いわよね?)

そう、悪い方に考えたりして

(それにしても、お父様の機嫌が良かったって言うのが、何だか腹が立つわ。そもそも私がこんな心配する事になったのはお父様の所為じゃない!!)

ムウッと父、ランドルに腹を立てる



愛する婚約者が帰って来るのを待ちながら、いつもの様に一人ぼっちで夕食を済ませるヴィクトリア

(皆との食事はとても楽しかった・・・久しぶりに一人じゃない食事だったもの)

ティナ達と賑やかに過ごした時間を思い出し

(ルシフェルが王城勤務になる前は、二人で夕食を食べていたのに・・・)

その頃の事を思うと寂しくなる・・・今はルシフェルも父同様忙しくなり、夜遅くに帰って来ているから

(ルシフェルは少しの間だって言ってたのに、何時になったら忙しくなくなるの?・・・前に、忙しくなくなったら二人で出掛けようとも言っていたのに)

王城勤務になり、慣れない仕事で大変なのはヴィクトリアだって判っている

(ルシフェルも疲れているのよね・・・疲れて帰って来て、私が紳士クラブの事を問い質したりしたら余計疲れさせてしまうかしら?)

それでも気になって仕方がないのだけど、ヴィクトリアは我慢する事にする



夜、少し遅くいつもの様にルシフェルだけ先に帰って来て「お帰りなさい」笑顔で出迎えるヴィクトリア

「ただいま」

愛おしそうに頬にキスをしてくるルシフェルを見て(いつもと変わらないわよね?)そう確認しながら、一緒に彼の自室へと向かう

部屋に入って鞄を机に置くとルシフェルは「丸一日以上、会っていないな」ヴィクトリアをギュッと抱きしめる

ヴィクトリアも「そうね」と背中に手を回して来るので、ルシフェルはそのままキスをしてから「お泊り会は楽しかった?」と尋ねる

「ええ、とても楽しかったわ。また今度も集まろうって話しをしてるの」

ヴィクトリアは嬉しそうにそう答えると、ルシフェルも「そうか」と笑顔を向け婚約者を見る


『お前に公爵をくれてやる。婚約者をアルフレドに譲れ』

アルゲイドに言われたあの言葉を思い出し、嬉しそうに自分を見つめてくるヴィクトリアを抱きしめながら

(誰があいつにヴィクトリアを渡すか!!公爵の権力より、ヴィクトリアを手放す方がずっと辛いに決まってるだろう!!)

例え他の貴族達に、女一人の為に公爵の地位を諦めるなど愚か者のする事と嘲りを受けても、ヴィクトリアを手放すなど今のルシフェルには考えられない


寝室でも、嬉しそうにずっとお泊り会の話ししかしないヴィクトリアに「それで、紳士クラブの事は聞かないの?」ルシフェルがジッと見つめてくるので、ヴィクトリアは黙ってしまう

「昨日の朝は、あんなに心配してたくせに」

黙ったまま俯くヴィクトリアを抱きしめ「もう、どうでも良くなったのか?」そう尋ね顔を近づけて来るので

「だって、聞いたってどうせはぐらかすでしょう?それに、疲れて帰って来てるのに、その話しをするのは嫌だろうと思ったし・・・」


訴える様な目を向けると、ルシフェルはヴィクトリアの頬にキスをして

「確かにあのクラブには緘口令が敷かれているから、クラブ自体の事は話せないけど。如何わしくはなかったよ」

安心させる様にそう話すと、ヴィクトリアをベッドに寝かせ覆い被さりながら

「俺が心奪われているのはヴィクトリアだけだから、安心して」

優しくそう耳元で囁くので

「んっ・・・」

耳に息が掛かるのが苦手なヴィクトリアはビクッと身体を揺らし、そのままルシフェルに抱きしめられる



翌朝目を覚ましたルシフェルは、いつもの様に隣で幸せそうに眠っている婚約者の耳元に唇を近づけ「おはよう」と起こす

「んっ・・・」

ビクッと身体を反応させ眠たそうにゴロンと寝返りを打ち、囁かれた耳を触るヴィクトリア

ルシフェルは自分に背を向ける彼女のこめかみに優しくキスをして、ベッドから起き上がる

「・・・おはよう」

キスをされ、眠たそうに起きるヴィクトリアにルシフェルはシャツに腕を通しながら

「ヴィクトリアも早く着替えておいで」

そう言うと、ヴィクトリアは頷きながらシャワーを浴びに寝室を出て行き、それから身形を整えて寝室に戻り、二人で食堂へと向かう


食堂にはすでにランドルが席に着き、新聞を読んでいて「おはようございます」ルシフェルとヴィクトリアが挨拶をすると、ランドルも新聞をたたみながら「おはよう」と挨拶を返す

三人が揃いメイド達が手際よくテーブルに朝食を運び、そこへドルフェスが今朝届いた手紙をランドルに渡し、それからルシフェルへと順番に渡していく

ヴィクトリアも招待状を受け取り(あ・・・また、メリルシアナ様からのお茶の誘いだわ)彼女の名前を見て顔を曇らせる


珍しくランドルにも夜会への招待状が来ていて、その招待状の差出人を確認すると薄ら笑いし

「ルシフェル、アシド・ホルグヴィッツから夜会の招待が来た。お前とヴィクトリアも参加しなさい」

そう告げると、その名前を聞いてドキリとするルシフェル


アシド・ホルグヴィッツ。ランドルと同じ紳士クラブの幹部、円卓の賢者の一人だが紳士クラブに赴いた時には彼は不在だった

「判りました」

ルシフェルはすぐに頷くが「公爵様ですか・・・」不安気に顔を曇らせるヴィクトリア

まだ侯爵なら伯爵の令嬢も夜会に参加出来るが、公爵の場合は派閥に入って居ないと参加し辛い

ティアノーズの名で頼めば特別に参加出来るがその事をヴィクトリアは知らず、また知っていたとしてもその権力を使ってまでも友人を参加させたく無い

「夜会は一週間後だ」

ランドルはそう伝えるとそのまま黙って食事を始め、ヴィクトリア達も無言で食事を取る


朝食を終え鞄を取りに戻り、玄関ホールに向かいながらルシフェルが

「公爵の夜会は気が進まないだろけど、今回はランドルも居るし・・・それに公爵令嬢と関わりたくないのなら、ずっと俺の傍に居れば良い・・・そんなに不安にならなくても大丈夫だ」

浮かない顔をする婚約者をそう慰めると「ええ、そうね・・・」そう答えヴィクトリアは

(でも・・それじゃあまたルシフェルを頼る事になる)

自分でも情けないと思うが、メリルシアナのお茶会での一件で出来れば公爵令嬢達とあまり関わりたくない

(ずっとルシフェルの傍に居ても良いのかしら・・・)

公爵主催の夜会の事を思うと、気が重くなる


ルシフェル達を見送ると部屋に戻り、渡されたメリルシアナからの招待状を確認すると四日後のお茶会の誘い

(どうしよう・・・今回は都合が悪いと断ろうか)

『メリルシアナには気を付けなさい』『公爵令嬢達は貴方を手に入れて、利用しようと躍起よ』

カトリナーヴァに言われた事を思い出し、ヴィクトリアはずっと不安を抱いている

(私を手に入れるって・・・利用するってどういう意味?どうして公爵様達が・・・)

自分自身の美貌と周囲を惹き付ける魅力と色気を兼ね備え、常に注目を浴びている事に全く自覚が無いヴィクトリア



メリルシアナからの招待状を受け取ってから二日後に、シルメラとユアナとアリメラの三人とお茶をする約束をしていたので待ち合わせのカフェへ向う

今回の護衛騎士は紅の薔薇所属のイシュレイ・ディズガストと、リリー・アシュナイトの二人で「お久しぶりです、ヴィクトリア様」イシュレイが頭を下げ姿勢正しく挨拶をする

以前の彼女は髪を一括りにしていたが、今は短髪になっていてキリッとした男っぽい感じの風貌で、その所為かよく見目麗しい美青年と間違われている

「リリー・アシュナイトです。よろしくお願いします」

リリーも男勝りな感じの女性で、身分は男爵


馬車に乗り、約束のカフェへと向かう道中「カレンはどうしています?まだ忙しいのかしら?」いつまで経っても彼女が護衛に現れないので心配するヴィクトリアだが、その言葉にビクッとするリリーを他所にイシュレイはニコッと笑い

「カレン団長も残念がっていましたが、なにぶん事務処理など団長としての本来の仕事が立て込んでおりまして。ヴィクトリア様によろしくと託っておりました」

机いっぱいに山積みにされている書類に埋もれながら、カレンと副団長のナディアは必死に書類に目を通していて『助けて』と言う彼女の心の叫びはヴィクトリアには届かない

「そう、カレンも忙しいのね・・・残念だわ」

ヴィクトリアは寂しそうに溜息を吐き、そんな彼女の様子を見て本当にカレンに会いたいのだろうとイシュレイには心を痛める


約束のカフェに着くとまだ友人達は来ていない

「あら、私が先なのね・・・」

ヴィクトリアが案内された席に座ると騎士を二人も連れた侯爵令嬢、しかもそれがヴィクトリアだった事もあり店内はざわめきだす

(ううっ・・・この視線と陰口は、何時になったら無くなるの?)

貴族達から冷やかな視線と影口を叩かれていると思っているので、なるべく視線を合わさずに気持ちを落ち着かせながら、イシュレイ達に同席して貰い飲み物を頼むと

「わ・・・私、その、記憶を無くす前は、悪女として有名だったので、その所為でよく・・・好奇な目で見られるんです」

変な自己紹介だと思いながら(本当は冷たい、嫌悪の視線なのだけど)と俯くヴィクトリア


イシュレイは周りを見回すと、貴族専用の席に座っている来店客達は確かに皆ヴィクトリアにチラチラと目を向けて話している

ヴィクトリアの事を嬉しそうに連れと話しているだけだろうが、注目されるのが苦手なヴィクトリアは友人達が来るまで顔を赤くしながら俯いていて、なんだかその様子に可哀想にと思うイシュレイ

「・・・ヴィクトリア様が綺麗だから、注目を浴びるのではないですか?」

イシュレイの言葉にヴィクトリアは驚いて彼女を見るので安心させる様にニッコリと笑い


「女騎士を二人も連れているのですから、それは目立ちますよ」

そう慰めると、ヴィクトリアは顔を赤くしながら周りを見る

「人は綺麗な者に惹かれ、憧れるものですから。ヴィクトリア様はその美貌の所為で目立つんです」

イシュレイの言葉にヴィクトリアは「それは・・・あまり嬉しくありません」そう伝える

ヴィクトリアは『綺麗だ』『美人だ』と言われる事があまり好きではない(ルシフェルは別だが)それよりも中身を見て欲しいと思う


お茶を飲んでいると、ウェイターに案内されたシルメラが現れ「お待たせしました」と席に着き二人の騎士に目を向ける

待ち人が現れイシュレイ達がスクッと席を立つので、ヴィクトリアは慌てて

「あの、シルメラ・・・このお二人も同席して貰って良いかしら?」

そう尋ね驚く三人に「折角なので、皆でお茶を飲みましょう?」そう誘うと、シルメラも笑顔で二人の騎士に「私は構いませんよ」と了承し、後から来た二人も快く承諾してくれた

こうして二人の騎士を交えて友人達と楽しくおしゃべりの時間を過ごす事になる

貴族専用の席なので周囲の客層は貴婦人や令嬢達ばかりで、かっこいい端整な顔の騎士を交えて楽しく話しをしているヴィクトリアを、ますます憧れの眼差しを向け羨ましそうに見ている


「またメリルシアナ様からのお茶会ですか?」

彼女からの招待状が来た事を話すと、シルメラはこれからずっとお誘いが来るでしょう、困りましたねと顔を顰める

ヴィクトリアも憂鬱気に「今回は行く気がしないわ・・・」溜息を吐き「その方が良いですね」ユアナも頷くので、今回のお誘いは見送る事にして、話しはアリメラの婚約者の事になり

「私はあまり気が進まないのだけど・・・今度、彼の友達の夜会に招かれているの」

「あら、良いじゃないの。彼が友人を紹介してくれるのでしょう?」

恥ずかしそうにしているアリメラをユアナがからかうように尋ねると、彼女は顔を赤くし頷きながら

「それでその・・・私の友人も、彼が開く夜会で紹介しようかって話になってて」

「わあ、それは楽しみ」

ユアナが喜び、ヴィクトリアも安心した様に

「仲が良くなったようで良かったわ」

「ヴィクトリア様のお陰です。歩み寄りが大事だと言ってくれたから」

嬉しそうなアリメラに「アリメラが頑張ったからよ」と優しく笑うヴィクトリア


彼女達が楽しそうに話しをしているのを聞いて、イシュレイは自分が学生だった頃を思い出す

(私も令嬢だった頃は、こんな風に楽しく友人とお茶を飲みながら話しをしていたな・・・)

でも騎士になる事を選ぶと、住む世界が違うと言って次第に友人は離れて行った

(今、目の前で楽しくおしゃべりをしている彼女達も、いつかは連絡を取らなくなって別れて行くのだろうか?)

そんな事をイシュレイが思っていると

「最近、カレンから何か連絡とかない?どうしてるか知ってる?」

唐突にヴィクトリアがユアナに尋ね、その言葉にドキッとするイシュレイとリリー


「カレンですか?いいえ特には」

ユアナがそう答えるので、ヴィクトリアはがっかりする

騎士団長になり大変でも頑張っているカレンを心から尊敬しているヴィクトリアは、彼女を見習って自分も頑張らないと・・・とは思うのだが

「今度は出来る限り、団長が任務に就ける様に口添えしますので」

あまりにもヴィクトリアがカレンを心配するので、イシュレイがそう言うと

「い、いえ・・・ごめんなさい。ただ、カレンがどうしているのかが知りたかっただけなので・・・・カレンでないと嫌とか、そう事では無いの。ただ・・・少し心配なだけなので」


新しい騎士団の団長の任に就いた彼女が無理をしていないだろうか?それが心配なのだが、カレンは相当無理をしている

(まさか書類に埋もれて、死に掛けているとは言えない)

イシュレイもリリーも今のカレンの現状はとても教えられないと判っているが、ヴィクトリアは少しでも今のカレンの現状を知りたかった


それぞれの話しをする中で、ヴィクトリアは五日後に公爵の夜会に招待されている事を話す

「公爵様ですか・・・まあ、ヴィクトリア様ならそのレベルの夜会にも顔を出さなければならないのでしょうけど・・・」

「それは判っているんだけど、憂鬱で・・・顔見知りの伯爵令嬢が居れば良いのだけど・・・・」

「どちらの公爵様なのですか?」

伝手がある公爵ならと思ったシルメラだが「うーん、なんて名前だったかしら・・思い出せないわ」ヴィクトリアが思い出せずにいるので

「良ければ手紙で教えて下さい。もしかして伝手の有る方かもしれませんから」

「でも、もし伝手があったとしても・・・シルメラも行きたくないでしょう?」

ヴィクトリアがそう尋ねると「友達の為ですから」ニッコリ笑う彼女の優しさにヴィクトリアはキュンッとなる


「ただ・・・もし公爵様達がヴィクトリア様を巡って騒動を起こしたら・・・私では助けてあげられないと思います」

地位と権力が違い過ぎると、シルメラがそう告げるので「ええ、判ってるわ。そうならない様に気を付ける」ヴィクトリアはシルメラのその気遣いだけで十分嬉しかった

「ヴィクトリア様を巡っての、公爵様同士の争いか・・・何だか凄そうですね」

ユアナとアリメラも権力が違い過ぎてついていけないが(一体彼女達は何の話しをしているんだろうか?)その話しに騎士二人もいていけていない


そんな憂鬱な話しを終わらせ、ヴィクトリアは騎士二人の事についての話しを聞いてみたいと頼むと、友人達もその話しに興味があり是非聞かせて欲しいと目を輝かせる

「私は子供の頃、兄と兄の友人達とよく遊んでいまして。その・・・女性らしい淑やかな仕草と言うのが苦手でした。それに、騎士という存在にも憧れていましたし、それで入団したんです」

(最も入団してすぐ、幻滅したが)

どんなに頑張っても、イシュレイもまたお荷物扱いされて来たのだ


「わ・・私は二番目の兄も同じ騎士をしておりまして、それで憧れて入団しました。その・・・やっぱり、他の令嬢達と遊ぶよりは、男の子達と遊び回っている方が楽しい子供でしたので、母によく心配されてました」

リリーも恥ずかしそうに、緊張しながらそう話す

「それで、成長しても身体を動かすのが好きで、兄と同じ道に進む事にしたんです。ただ、兄には恥ずかしいから止めろと反対されました・・・その兄に認めて貰いたくて、日々精進しています」

「凄いわ!!騎士になって大変な苦労をしているのに、一生懸命頑張っているんだもの、本当に尊敬するわ」

ヴィクトリア達が尊敬の目で二人を見るので「自分がなりたくてなったので」そう謙遜するが、どれだけ辞めようかと思ったか知れない二人だからこそ思う。今の騎士団がどれだけ居心地が良いか・・・


紅の薔薇騎士団に入団し、お荷物と言われず日々仲間と呼べる女性騎士達と切磋琢磨している日常

訓練は辛くともお互いに支え合い、励まし合える仲間達が居るという事の心強さと、頼れる者が居る有り難さ・・・まさに充実した日々を送れている

例え誰からも期待されなくとも、正しいと思った事を責任を持って遂行し、自分達の遣れる事を精一杯頑張る

それが紅の薔薇騎士団のモットーなのだから


「私、騎士様はもっと厳格な感じがしましたが、お二人共とても話し易くて、イメージが変わりました」

シルメラが素直にそう伝えると

「本当に。私なんかがこうして騎士様と話しをするなんて、思いもしませんでした。こんな機会なんて普通ありませんから」

心から嬉しそうに、憧れの目で騎士二人を見るアリメラ

三人が騎士である二人を尊敬と憧れで見るので、イシュレイとリリーは少し気恥ずかしくなる

「騎士が厳格なのは間違っていません。ただ、私達紅の薔薇は少し他の団とは違って・・・あまり気負わない様、心掛けているのです・・・自分を追い詰めても、良い結果は生まれませんから」


そう、男性騎士の中に居る時はどうしても彼等に負けじと必死で食らい付いて、気負っていたのは事実で、そうして自身を追い込んで心が折れ、疲れ果てて去って行く女性騎士達を彼女達は黙って見送っていた

去って行く彼女達の後ろ姿を見る度に『自分だけは敗北者にならない』『明日は我が身か・・』そう思っていた

だからこそ、今所属している紅の薔薇で頑張っている彼女達は、敗北者に成らずに耐え抜いた精鋭とも言える

けれど、その精鋭である彼女達も以前の騎士団にそのまま所属していたら、その能力は発揮出来なかっただろう

アルフレドが女性騎士団を結成させたのは彼のファインプレー、英断だった・・・けれど、彼にその英断を決意させたのは他ならないヴィクトリアだ


「紅のモットーは自分の責務を果たすのは当然ですが、自身の信念で動く事が許されている為に、他の団より自由に出来るんです」

規律が厳しい騎士団の中で、自由が利く紅の薔薇騎士団は特殊と言えるとイシュレイが話すと

「オウガスト団長が、なるべく私達の存在意義を見出せる様にと考えての事で、有り難いです」

リリーも誇らしく伝えると「かっこいい・・」憧れるアリメラ

自分の信念で動くというのは、かつてカレンが女性から鞄をひったくった盗人を捕らえたにも拘らず、処罰を受けた理不尽さに対しての憤りがあったからだ

確かに、護衛対象者が居たにも拘らずに賊を捕らえようとする行動は褒められないが、あの場にはラインハルトも居たから動いたに過ぎない・・・カレン一人だったら、ヴィクトリアの頼みでも動かなかった


ユアナは溜息を吐きながら「私、最初カレンが騎士になると聞いた時、少し馬鹿にしてたんです」その言葉に皆がユアナを見る

「カレンは、親の決めた相手と結婚する事が嫌で騎士になったんですよ」

そんな事で普通、騎士になりますか?と尋ね

「オウガストは代々騎士の名門としての誇りが有りまして、親戚の男子は大抵騎士になっています。だからカレンも、結婚せずに済むならと選んだんだと思ってました・・・でも、女性でも騎士で居る為には、男の人と同じ血の滲む訓練をするんですよね?・・・正直言うと、そんな辛い思いをして騎士にこだわる彼女が、まるで女性である事を拒んでいるようにも見えて・・・理解出来なかったんです」

彼女のその言葉に凍りつくイシュレイとリリー


(確かに、男に交じり身体を鍛える鍛錬に励む私達は、令嬢の彼女達には異常に見えるかもしれない)

イシュレイも友人に言われた『住む世界が違う』と

でもイシュレイだって僅かだが、お洒落に気を遣った令嬢だった頃もあったし、自分が男だったらと悔しい思いもしたが、女性である事を拒んだ事など無い

ただただ必死に頑張って来ただけの事なのだが、他の女性から見たら異状なのかもしれないと遣る瀬無い気持ちになるイシュレイとリリーに

「でも、そうじゃ無いんですね。カレンも、皆さんも自分が望んだ生き方を・・・精一杯頑張ってるだけなですね」

ユアナは、自分は勘違いしていたと「女性騎士の人達は自分自身に信念を持って、素敵だと思います」と尊敬の気持ちを口にする

ヴィクトリアもシルメラ達もイシュレイとリリーを見て頷き、その言葉にイシュレイ達は救われた気がした


女を捨てていると言われた時はズキッと胸が痛んだが、頑張っている自分達を愚かではなく素敵だと言ってくれたのだ

「そう言って貰えて光栄です」

ニッコリと笑う男装の麗騎士の見惚れる笑顔に、周りの令嬢達が感嘆をあげる

勿論、シルメラ達もポーッと顔を赤くする(なんだか変な気持ち・・・女性にときめくなんて)そう思いながら

それからはシルメラ達の間でイシュレイは『男装の麗騎士』と呼ばれるようになり、ヴィクトリアは友人から出来る限りイシュレイを護衛に就けてと困ったお願いをされる事になる


カフェで楽しい一時を過ごし、ヴィクトリア達は帰宅する

「今日もありがとう、カレンによろしく伝えて・・・それから一度会いたいとも伝えてくれる?」

ヴィクトリアがイシュレイ達に伝言を頼むと、二人は頷き「必ずお伝えしておきます」と約束してくれる

帰路に着きながらリリーは「あれがヴィクトリア様ですか。何ていうか、以前噂で聞いた方とは全くの別人みたいな感じ」そう正直に口にする

「記憶を無くされてから、人が変わったそうだ」

「記憶を無くしてから・・・そんな事があるの?それにしても何ていうか・・・不思議な魅力を持っている人だったわ」

リリーもまた、ヴィクトリアに好意を持つ一人となる



任務から戻り二人は緊張しながらアルフレドの執務室に入ると、上司に書類を提出しぐったりと死に掛けているカレンが居て、二人は今日の護衛の任務報告書を提出する

「・・・随分とティアノーズ嬢は、カレン団長の事を気に掛けておりました」

そのイシュレイの言葉に「ヴィクトリア様・・・」泣きそうになるカレンと、ヴィクトリアに気を掛けて貰った彼女に冷やかな目を送るアルフレドは「彼女の話しの内容で、何か気になる事は無かったか?」尋ねると、緊張しながらイシュレイは

「特には・・・ただ、何でも、五日後に開かれる、公爵様の夜会に行くのが憂鬱だと仰っておりました」

その言葉に反応するアルフレド

(五日後に開かれる公爵の夜会・・・)


イシュレイはカレンに

「団長、ヴィクトリア様がよろしく伝えてくれと、それと一度会いたいと仰っていましたよ」

慰めるようにそう伝えると、死に掛けていたカレンはふわっと心が癒される様に嬉しくなり

「本当?それなら会いたい、ヴィクトリア様」

ヴィクトリアに会えたらきっとこの疲れも吹っ飛ぶ、そんな気持ちでカレンは喜ぶと、そんな彼女に冷たく「よかったな」ぼそっと呟くアルフレドのその言葉にイシュレイとリリーは凍りつく


喜んでいた、カレンさえもビクッと固まった

(えっ?何かすごく怖いんですけど・・・)

たった一言、アルフレドが発した言葉に三人は何故か恐怖を感じるが、それは『よかったな』と放ったその言葉に中には、彼の嫉妬が入っていたからだ

凍りつく三人を無視して、アルフレドは五日後に夜会を開く主催者が誰だったかを思い出す


カレンだけを残しイシュレイ達を下がらせたアルフレドに、残されたカレンは生きた心地がしなかった

「次のヴィウトリアの護衛にはオウガスト、お前が任務に当たれ」

「えっ?」

アルフレドの意外な言葉に驚くカレン

「ヴィクトリアが心配しているのなら仕方が無い。元気なお前の姿を見れば安心するだろう?」

そう冷たい目で見つめてくるアルフレドに、ゾクッとするカレン


『元気なお前の姿』とはつまり『死に掛けている姿など、見せるなよ』と圧を掛けているのだ

「・・・護衛の前日は、出来れば休暇を下さい」

震える声で、それでも勇気を振り絞って頼むカレンにアルフレドは何を言っている?と言う顔をすると「疲れた姿を見せない為です」ゴクンと唾を飲みながら勇気を振り絞ってそう頼むので、アルフレドは「良いだろう」とカレンも下がらせる



誰も居なくなった執務室で一人アルフレドはヴィクトリアを想う

ヴィクトリアが五日後のホルグヴィッツの夜会に現れると知り、何故今更ホルグヴィッツの夜会に?と思うが、彼女が来るのであれば自分も参加しようと決める

夜会など煩わしいが、そうでもしないと彼女に会えないのだから

ホルグヴィッツの夜会の事を考えると、いつもどこか冷めたアルフレドの心を珍しく高揚とした楽しみな気持ちにさせてくれた

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