21話 悪女は忙しくする
ここ最近のヴィクトリア宛てに夜会やお茶会の招待状が届くと、友人達に相談する様になる
ティアノーズ邸に集まったり、友人達の屋敷に出向いたり、カフェで会ったりと忙しい日々を送っているヴィクトリアだが、それは彼女にとってどれ程憧れ、待ち望んでいたか判らない幸せな一時だ
とは言え、夜会はルシフェルと一緒でなければ参加出来ないので、お茶会の招待のみ友人達と共に出掛ける事になる
「うーん、どれも交友の無い侯爵様のお茶会ばかりね。あ、公爵様からも来てる」
ティナは招待状に押されている家紋の印に小さくラードヴィッツの文字を見て「はい」と、招待状をヴィクトリアに渡す
三十通もの招待状をティナとマリーナとシルメラとユアナに手伝って貰いながら、今はティアノーズの屋敷で誰のお茶会に参加するかを選別している
「公爵様から・・・どうしよう・・・」
ヴィクトリアはまだ公爵と侯爵の令嬢に、親しい知り合いが居ない・・・知り合いが全く居ない訳ではないが、好きになれない相手なのだ
アマンダ・アルドヴィッツ・・・わざとシルメラの誕生パーティーの日にお茶会を開き、ヴィクトリアを誘った公爵令嬢
アマンダのお茶会を断わり、彼女を怒らせてしまったが、何故か突然現れたアルフレドのお陰でその場は収まり、そしてあれから彼女とは社交の場で会わずに済んでいる
(アルフレド様は私を心配して、わざわざ夜会に参加した様な事を言ってたけど・・・)
ヴィクトリアは、アルフレドが自分を愛していると告白して来た事に申し訳ない気持ちを抱いている。そして
(・・・もしかしてルシフェルはその事を知ってる?)
この前の夜、ルシフェルは自分に『他の男を好きになれないでくれ!!』そう訴え掛けて来た
(あれは・・・アルフレド様の事を言ってるの?)
他の人を好きになる、そんな事ある筈が無いのだが・・・けれどルシフェルは不安を抱いている
「ヴィクトリア?」
考え事をしているヴィクトリアに、皆がどうしたの?と見てくるので「あ、ごめんなさい。この公爵様の招待・・・受けるか考えていたわ」ヴィクトリアはそう誤魔化し
「メリルシアナ・ラードヴィッツ様ってどんな方なのかしら?」
招待状を確認するヴィクトリアに、その名前を聞きティナ達の顔色が変わる
「え、ラードヴィッツって、メリルシアナ様からだったの!?」
「わあ、すごい!!そんな方からだなんて、流石ヴィクトリア様」
驚く彼女達に、ヴィクトリアは首を傾げ「そんなに凄い方なの?」と尋ねる
「凄いも何も、四大美女の一人よ!!」
「きゃあ」
大騒ぎするマリーナとユアナを見て「四大美女・・・凄いのね」ヴィクトリアが感心すると、四人の友人達は何言ってんの?と「・・・その四大美女に、ヴィクトリア、貴方も入っているのよ?」ティナが呆れながら教えてくれ、他の三人も当然よね?と頷く
「えっ?私!?ええっ!?」
驚くヴィクトリアに四人は溜息を吐く
(この子は本当に、自分の容姿を鏡で見た事がないの!?どれだけ自分の美貌に無頓着なの?)
(普通、その反応が反って嫌味になるけど、ヴィクトリア様の場合、本気だからなあ)
友人達は、ヴィクトリアが己の美貌に無頓着な事を知っている
彼女が何故そうなのか判らないが、記憶喪失による何らかの障害が出ているのかもしれないと思う程だ
「四大美女はまず、ヴィクトリアでしょう。それからメリルシアナ様、アルメラーナ王女・・」
「まぁ、王女様も入っているのね」
ヴィクトリアが流石だわ、と感心すると
「アルメラーナ様の場合は、忖度ね。正直、他の三人に比べれば目劣りするわよ」
フンッという感じでマリーナが不快そうにすると、ティナ達も頷き「自分も美女に入れろって、普通言わないわよね?」呆れる彼女達に、ヴィクトリアは(自国の王女様に厳しい言葉・・・)と驚く
最初はオルテヴァール王国三大美女だったのだが、アルメラーナ王女が自分も入れて無理やり四大美女にしたのだ
それは貴族の間では失笑な出来事の一つだが、相手が王女なので公では控えたが『忖度四大美女』『三大美女、おまけ付き』と陰口は散々叩かれた
「それからもう一人」
ィナは不愉快と顔を顰め「この前の夜会で、私達に絡んで来た侯爵令嬢、ジュリアンヌよ」その名前を聞いて、ドキンッと心臓が飛び跳ねるヴィクトリア
(彼女も・・・確かに綺麗な人だと思ったけど・・・)
自分を敵視して来たジュリアンヌを思い出すヴィクトリアは、彼女に言われた事が恐怖として蘇る
「・・・私、ルシフェルにいつも迷惑を掛けているわね」
申し訳なく呟くヴィクトリアの言葉に、ティナは
「ジュリアンヌの言った事は間違いじゃないのよ。公爵様達を蔑ろには出来ない」
それは頭では判っているのだけれど(このお茶会を受ける勇気が、私には無い・・・)ヴィクトリアは情けなく思う
「・・・噂では、そのメリルシアナ様って、まだ公爵の中ではマトモな人らしいわ」
「鼻持ちならない公爵令嬢達の中では、まだ付き合い易いらしいわよ?噂に聞いただけだけど」
マリーナが慰める様に噂で聞いた事を教えると、シルメラも思い出した様に「その方、確か最近アルフレド様と噂があったわよ?」その言葉にドキッとするヴィクトリア
「ああ確かに、前に参加した伯爵家の夜会で噂を聞いたわ!!公爵主催の夜会で二人がダンスを踊ってたって」
マリーナも頷きながら「四大美女と太陽の貴公子・・・それは見たかった」ウットリする彼女に「そうね、見てみたいわね・・」と同意する友人三人
(アルフレド様と、そのメリルシアナ様が恋仲っていう事?)
ヴィクトリアは以前、王城でアルフレドに言われた事を思い出す
『この気持ちは抑えられそうにない。許してくれ』
アルフレドの悲痛な気持ちが、伝わってくる・・・それでも
(ごめんなさい、その気持ちには答えられない。私はルシフェルが好き)
だからヴィクトリアにとって、アルフレドは友人でしかない
(もし、彼女に心変わりしたのなら良かった)
ヴィクトリアはアルフレドに、新たに想う相手が出来たなら良かったと心から安堵する。ヴィクトリアにとっては、ルシフェルが全てなのだから
(アルフレド様が好意を持っている女性。それなら会ってみても大丈夫かも?)
ヴィクトリアとしても、出来れば公爵の令嬢とも仲良くしたい、メリルシアナのお茶会はその歩み寄りの一歩かもしれないと期待が膨らむ
「メリルシアナ様のお茶会のお誘い、受けてみるわ」
ドキドキしながらヴィクトリアが決意すると、四人は驚きながらも「そう。私達はついて行けないけど、大丈夫?」心配そうにティナが尋ねると、ヴィクトリアは「不安だけど、頑張ってみる」(だって、アルフレド様が好意を持ってる方だもの、悪い人ではないと思う)そう結論を出すヴィクトリア
他にも参加出来そうな招待状を選別しながら、シルメラの誕生パーティーの事を楽しく話す友人達
「ヴィクトリア様の婚約者のルシフェル様、素敵でした」
「あんな方に溺愛されて、羨ましいです」
シルメラの誕生パーティーにルシフェルと参加した時に、彼を紹介したヴィクトリア
「自分の婚約者を紹介するのって、あれはとても恥ずかしいわね」
顔を赤くしながらそう言うと、ティナは「そう?私はぜんぜん・・・・ああ、でもあのお調子者を紹介するの、別の意味で恥ずかしいわね」さらっと酷い事を言う
「あら、トーマス様も素敵じゃない。優しいし、あの可愛らしい笑顔は魅力よ?」
マリーナは「なんだかんだ言って、仲良いくせに」とからかうと、ヴィクトリアも頷く
そんなヴィクトリアを見てティナは「腐れ縁ってやつだから。仲が良いのはヴィクトリアでしょ?いつまでもイチャイチャして」そう指摘すると、皆が「確かに・・」と笑って頷く
それを聞いてヴィクトリアは顔を真っ赤にしながら
「えっ!?い・・・イチャイチャしてる!?えっ・・・そんな風に見られてるの?うそっ!!」
(本当に!?)
そんなつもりなど全く無かったので、そう指摘されて軽く動揺するヴィクトリアに
「いや、もう二人でずっと寄り添ってくっついてるから・・・ルシフェル様がヴィクトリアを離さないし、ね?」
ティナが何言ってんの?と呆れながら友人達に同意を求めると
「お二人の仲の良さは、見ただけで判りますよ」シルメラも赤くなりながら頷く
「幸せオーラが出てますからね」ユアナも羨ましそうにする
「逆にあれで、イチャついて無いって言う方が凄いです」とマリーナ
四人にそう言われて、ヴィクトリアは初めてその事に気付く
(恥ずかしい!!・・・そうなの?皆にそう思われていたの!?)
ルシフェルとイチャイチャしていると思われていた事に、この上なく恥ずかしい思いをするヴィクトリア・・・自覚していないからこそ出来たイチャつき振りに
「そんなつもりは・・なかったので・・・き、気を付けるわ・・・・」
真っ赤になっているヴィクトリアのその反応に四人は(・・・自覚が無かったのか)あんなにも二人寄り添いながら、夜会に現れているというのに・・・と苦笑する
途轍もなく恥ずかしい事実を知ってかなり動揺してしまうヴィクトリアだが、オペラやお芝居の話しでも盛り上がる
「私、お芝居にはまだ行った事がないの。音楽や、他の催しにも行きたいんだけど、ルシフェルがまだ忙しくて」
ルシフェルは王城勤務になり今は義父になるランドルの秘書として侯爵の仕事を学んでいるだのが、いつも遅く帰って来る
ルシフェルがティアノーズの屋敷に居る事は、当然友人達は知っている
「それなら、今度皆で出掛けましょうよ。空いてる日時を決めて」
「どうせなら、そのままお泊り会を開くのも良いわね?」
最近令嬢達の間で仲の良い友人同士でのお泊り会、パジャマパーティーと呼んだりする催しが流行っている
「お泊り会・・・」
友人が居なかったヴィクトリアにとって、誰かの屋敷に呼ばれるだけでも嬉しいのに
「私、お泊り会してみたいわ」
ドキドキしながらヴィクトリアが目を輝かせるので、シルメラが笑って
「それなら私の屋敷でどうかしら?広い応接間があるから、そこにベッドを運んで皆で一晩過ごすの」
『それ良いわ!!』と賛成し、皆で話し合いながらプランを立てる
ルシフェルは最近より忙しくなり、帰宅がランドルと一緒になる
「お疲れ様」
いつもの様に出迎えるヴィクトリアに「ただいま」と愛する婚約者の頬にキスをするルシフェル
その瞬間、ヴィクトリアはチラッと周りの使用人達の様子を見ると、使用人達はいつもの事なので気にも留めていない感じだった
(・・・こういうのがイチャついてるって事なのかしら?)
ヴィクトリアにとってはこれが普通だと思っていたので、ティナ達の言葉に意識してしまう
顔を赤くしながら、ヴィクトリアはそのままルシフェルの部屋へ向かう
「どうかしたの?」
部屋に入るといつもと態度が違う婚約者にルシフェルが尋ね、ヴィクトリアは恥ずかしそうに
「ティナ達に言われたの・・・その、私達が、その・・・」
顔を赤くして、俯きながら「いつもその・・・イチャついてるって・・」その言葉に(なんだ?)という顔をするルシフェル
そんな反応をする彼にヴィクトリアは
「じ・・・自覚が無かったので、そうなのかなって?思うんだけど・・・そんな事・・・ないわよね?」
ドキドキしながらも確認する様にルシフェルに尋ねると、彼は溜息を吐き
「イチャついていたら駄目なの?それならヴィクトリアは俺と距離を置きたい?」
ルシフェルの言葉に驚くヴィクトリア
「そ・・・そう言う訳じゃないけど・・・二人の時は良いけど、人が居るのにそんな・・」
まさかルシフェルがそんな言い方をすると思っていなかったヴィクトリアは、困った様に
「ル・・ルシフェルも恥ずかしいんじゃないかと思って」
(そんな、人前でイチャつくなんて、そんな事・・・してると思ってなかったもの)
ヴィクトリアにとっては、途轍もなく恥ずかしい事なのだ
「俺は恥ずかしくないけど?ヴィクトリアを愛してるし、大事だと周り(の鬱陶しい虫共)に教えてるだけだ」
自分をジッと見てくるルシフェルに、顔を赤らめながら彼の傍に近づくと「嬉しいんだけど・・・やっぱり恥ずかしい」そう言って抱きつく
「愛し合っているんだから、恥ずかしがる事はないだろう?トーマス達や、他の連中だって仲良くしている・・・俺達だけじゃない」
ヴィクトリアは気にし過ぎだと抱きしめるが、ティナとトーマスはヴィクトリア達ほど人前ではくっついてはいない
後日、お泊り会の日程が決まり参加者は泊まる屋敷を提供してくれるシルメラ、ヴィクトリア、ティナ、ユアナ、マリーナの他、キャシーとキャロルとアリメラが参加する事になる
その日にはまずシルメラの屋敷に集まり、それぞれの荷物を置いてからお芝居を見に行って、買い物をして帰宅・・・そこからお泊り会がスタートする、そういう流れだと話し合う
話し合いながら、ヴィクトリアはドキドキしている
(こんな風に友達と色んな事が出来るなんて・・・以前の私には考えられない事だわ)
誰からも招待状が届かず、手紙も来ず、当然来客など一人も来ない・・・いつも一人ぼっちだった自分が、ティナとの友情を得て今ではこんなに沢山の友人に囲まれている
(この友達を大事にしていきたい・・・派閥という身分なんかで壊されたくない。この幸せが壊れない為にも派閥に飲み込まれず、頑張るしかない・・・)
ヴィクトリアはそう覚悟する
そしてお泊り会の前にヴィクトリアは、メリルシアナのお茶会に知っている友人が居ないのでとても不安なのだが、それでも勇気を振り絞って参加を決めた
(ルシフェルは公爵と付き合わなくて良いと言ったけど、そういう訳にはいかない。彼に頼ってばかりじゃなく、自分も頼って貰わないと・・・その為にはやっぱり公爵様達とも上手く付き合わなければ・・・)
そう、彼女なりに頑張ろうとしているのだ
「・・・メリルシアナ・ラードヴィッツのお茶会に参加する?」
「ええ、噂ではその方、他の公爵様とは違って、優しい人みたいだし・・・」
(アルフレド様とも仲が良いみたいだけど・・・それは言っても大丈夫かしら?)
ルシフェルが何となく、自分とアルフレドの事を不安視しているみたいだと気付いているヴィクトリアは、下手にアルフレドの名前を出さない様に気を付けている
「・・・優しい?会った事もないのに噂を鵜呑みにして、違ったらどうする?」
ルシフェルはあまり良い顔をしないので「ルシフェルは、メリルシアナ様を知ってるの?」不安になり尋ねる
「俺は伯爵子息の立場だし次男だから、公爵連中とは最近関わりがあるっていうだけで・・・メリルシアナ嬢の事は四大美女の一人としか知らないな」
もしかして夜会で会った事があるかも知れないが、覚えていないと言う
「・・・四大美女」
ルシフェルからその言葉が出て、ヴィクトリアは不安そうに
「その四大美女に、私も入っているんです。知ってました?」
信じられないですよね?と訴えると「・・・本当、信じられないな」ルシフェルがそう呆れる
「本当にそうですよね・・・誰の嫌がらせでしょう?」
泣きそうな彼女に、ルシフェルは苦笑し「嫌がらせって・・・ヴィクトリアは自分が美女だと思わないのか?」自分の美貌に無頓着な婚約者に尋ねると、彼女は首を傾げ
「悪女だった私が美女だと言われても・・・自分で言うのは嫌ですけど、綺麗な顔ではあると思います・・・でも美女と言われると恥ずかしいです」
そう伝えると、ルシフェルは「ヴィクトリアは綺麗だよ、誰よりも」ギュッと抱きしめてキスをする
「ん・・・ルシフェルにそう言って貰えるのが一番嬉しい」
キスをされ、嬉しそうに彼の胸に顔を埋めるヴィクトリアは、優しく抱きしめてくれる愛する婚約者に
「・・・でもどうしよう?折角お誘いを受けようと思ったのに」
(ルシフェルが良い顔をしないのであれば、やっぱり辞めようか?)決心が揺れる
「まあ、ヴィクトリアが行くと決めたんなら参加してみたら?嫌だったらすぐ帰って来たらいい」
ルシフェルがそう言うので、ヴィクトリアも「そうね・・・」と頷き「折角誘って貰ったのだし、やっぱり行ってみるわ」
そして、ルシフェルに甘えるように「あのね、今度ティナ達とお泊り会をするの」嬉しそうに話すと「えっ?」と驚くルシフェル
「シルメラのお屋敷に集まって、皆で一緒の部屋で寝るの。今、令嬢の間で流行ってるのよ」
楽しみ!!と、嬉しそうに笑うヴィクトリアに「・・・そうか」ルシフェルは愛する婚約者をまじまじと見つめ「それじゃあ、その日は寂しいな」ギュッと抱きしめる
念願の大切な友人達が出来て、ヴィクトリアは忙しい日々を送る事になる
でもその忙しい日々が、彼女にとって掛け替えのない、幸せで、大切な生活の一部なっていく




