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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
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 18話 悪女、誕生日プレゼントを買う

ティナと一緒にシルメラの誕生日プレゼントを買いに行く約束をしているヴィクトリアは、いつもの様に護衛の騎士が来るのを待っている

カレンが団長を務めている騎士団の騎士を派遣して欲しいとドルフェスにお願いすると、現れたのは知らない女性騎士二人で、彼女達は緊張しながら

「この度ヴィクトリア様の護衛を任されました、紅の薔薇騎士団所属のリザ・コウルガストです」

「同じく、イシュレイ・ディズガストです。よろしくお願いします」

姿勢を正し、自己紹介をしてヴィクトリアに挨拶してくる


ヴィクトリアはカレンが来てくれると思っていたので

「カレンは団長になったものね、もう護衛をして貰えなくなったのね」

少し寂しく感じながら二人に「よろしくお願いします」と挨拶を返す

「い、いえ!!オウガスト団長は、その、まだ新設したばかりで、大変忙しく・・・護衛に就けないだけでして」

用意された科白を言うように、考えなが話すリザに対し

「落ち着きましたら団長自らヴィクトリア様の護衛を優先的に務めさせて頂きますので、ご安心下さい」

イシュレイはニッコリと笑い、ヴィクトリアを安心させる様そう告げる


「そうなの?それなら嬉しいんだけど」

ヴィクトリアは嬉しそうに優しく微笑むので、その美しさに二人は見惚れる

(この人がヴィクトリア・ティアノーズ様・・・本当に綺麗な人だ)

リザとイシュレイは、ヴィクトリアを見てウェンヴィッツやカレンが彼女に好意を持つ理由が判った・・・ヴィクトリアの優しい穏やかな微笑みに、心が癒されるのだ


馬車に乗り込み、ティナと約束しているいつものカフェへと向いながらリザは今朝の事を思い出す

一騎士でしかないリザとイシュレイにとって、アルフレド・ウェンヴィッツは雲の上の存在だが、そんな彼に執務室に呼ばれたので、彼女達は途轍もなく緊張した

「ティアノーズから護衛の騎士要請を受け、オウガストの人選で君達二人に行って貰う事になった」


アルフレドは自分を前に、強張っている女性騎士達を見定め

「・・・彼女は護衛がカレンではない事を、心から残念に思うだろう」

その時は彼女を安心させるようにと、先程イシュレイがヴィクトリアに言った言葉を伝え

「くれぐれもカレンの事で、ヴィクトリアに心配を掛けさせる事が無いよう、心掛けてくれ」

圧力を掛ける様に二人にそう言い聞かせ「彼女の護衛をくれぐれも頼む」と、二人を下がらせる


一人になったアルフレドは、ヴィクトリアに告白したあの日の事を思い出す

(どうしてあんな事を言ってしまったのか・・・秘めた想いを押し殺していれば良かったが、彼女との二人きりの部屋に箍が外れた。言わなくてもいい事を言ってしまい、その所為で彼女を困らせてしまった)

アルフレドは自嘲する。自分がこんな事で苦しむとは思いもしなかったからだ


『ルシフェルを愛している・・・』

(彼女のあの言葉に心がざわつき、あの男への激しい嫉妬が沸き起こった。だから彼女に、それでもこの気持ちは抑えられない、許して欲しいと告げた)

ヴィクトリアが優しく笑い掛けてくれた事を思い出す

(ヴィクトリアは優しい)

アルフレドは、馬車にヴィクトリアを乗せた時『それでは、また』と告げた

(もう、会ってはくれないだろうと思ったから。でも、彼女は笑って頷いてくれた)

「ヴィクトリア」

思わず口にする愛する女性ヒトの名前に、アルフレドは切に思う(彼女の愛する男が、自分だったら良かったのに)と



約束しているカフェにすでにティナは来ていて、その席に他に二人の令嬢が座って居り楽しそうに談笑していた

ヴィクトリアが来ると、ティナが嬉しそうに

「ヴィクトリア、ユアナとアリメラも一緒なんだけど良いかしら?」

「あ、あのお久しぶりですヴィクトリア様」

「こんにちは、ヴィクトリア様」

子爵令嬢の二人は緊張しながら立ち上がって頭を下げて挨拶してきたので、ヴィクトリアも嬉しそうに「こんにちは、ユアナ様、アリメラ様。もちろん、構わないわ」挨拶を返し席に座るので、二人はホッとする


アニメラはヴィクトリアのネックレスに目を遣り「そのネックレス、綺麗ですね」虹色に光り輝く木彫りのネックレスを褒める

(でも・・・木のネックレスよね?)

あまり侯爵令嬢には相応しいと思わないが、ヴィクトリアが身につけると木彫りでも安っぽくなく素敵に見えるから不思議だ

「ありがとう。これね、ルシフェルが初めて買ってくれたネックレスなの」

嬉しそうにネックレスを触る彼女に「へぇ・・」としか言えなかったアリメラに、ティナも(まあ、そういう反応するわよね・・・)とお茶を飲む

(愛する婚約者に贈る初めて買ってあげたプレゼントが木彫りって・・・)

アリメラは、ヴィクトリアが自分で買ったと思ったから褒めたのだ・・・婚約者からの贈り物では話しが変わってくる

「まあ、あれよね。それって現地の名産品だしね。ヴィクトリアが気に入ってるんだから」

ティナがそう言うとアニメラとユアナも「そうですね」と頷くしかなかった


シルメラのプレゼントをユアナ達も買いに来ていて偶然ティナに会い、一緒にお茶をする事になりそこで四人で買い物をしようと、ヴィクトリアを待っていた

「ヴィクトリア様もシルメラの誕生パーティーに行かれるなんて、驚きです」

侯爵のヴィクトリアが、伯爵のシルメラのパーティーに参加する事を知って驚くユアナ達に

「私は身分に囚われず、仲良くしたいと思った友達を大事にしていきたいの」

「ルシフェル様のお陰よねぇ」

ティナがからかうので顔を赤くするヴィクトリアを見て、ユアナ達二人は(可愛い・・・)と見惚れる

「ええ、本当にルシフェルのお陰だわ」

嬉しそうに頷くヴィクトリアに、二人はまだ会った事のルシフェルに興味を持つ


「あの、ヴィクトリア様の婚約者ってどんな方なんですか?」

すっかり意気投合した感じで、ユアナはヴィクトリアに尋ねる

「とても優しくて頼りになる人よ・・・私には勿体無いくらいの」

「わぁ、それじゃあ、一緒にパーティーに来られるんですか?」

その時に会えるかも!?とユアナが騒ぐので「ええ」と頷く

誕生パーティーは夜に催される為に、ルシフェルにエスコートしても貰わないと一人では行けない

「じゃあ、その時にルシフェル様に会えるんですね?」

ユアナとアニメラが『楽しみー』とはしゃぐのを見て(ルシフェルはモテるのよね・・・)自分を棚に上げて、少し不安に感じるヴィクトリア



さっそくプレゼントを買いに店を見て回る四人は「どれにする?」と楽しそうに話し合う

「去年は私、蝶のブローチをあげたのよね・・・今年はどうしよう」

ユアナは悩みながら品物を物色する

「いろんな物があるけど、何がプレゼントに最適なのかしら?」

ヴィクトリアの言葉にティナが「最適って、自分がその人に良いなって思う物を選べば良いんじゃない?」そう笑うと、ヴィクトリアは困った様に

(トーマス様の時はルシフェルと選んで、彼がコップが良いって決めてくれたのよね・・・)

今回は一人で決めなければならない


「私、(一人で)プレゼントを買うの初めてだから・・・何を選んだら良いか判らないわ。シルメラ様が何を望んでいるかも判らないし」

(どうしよう・・・・)と悩むヴィクトリアの言葉に、三人は固まる

「あ、そうか。ヴィクトリアは記憶を無くしているから。今までどんなプレゼントをしてきたか忘れてるのね」

一瞬固まったが、記憶喪失の事を思い出し納得するティナに、ヴィクトリアは頷き「私・・・誰にどんなプレゼントしていたのかしら?」記憶を無くしてから、誰も自分を気に掛けてくれる人は居なかった

大怪我を負ったと言うのに、心配の手紙も、お見舞いも無かったのだ


(・・・プレゼントをあげる程の、仲の良い人なんて居なかったような気がする)

品物を見ながら、嫌われていた時の自分を想像しながら

(今こうしてティナ達とプレゼントを選べるなんて・・・以前の私なら考えられない事かもしれない)

そう思うとつくづく友達の存在が、今のヴィクトリアには心から嬉しかった


「私は香水にしようかしら?トーマスには毎年それを送ってるの。考えずに済むから楽なのよね」

ティナはプレゼントを選ぶのが悩むのが苦手の様で、そうしようかと考えていると

「トーマスって婚約者?どんな人」

ユアナが聞いてくるので「調子の良い奴よ」と素っ気無く答える

ヴィクトリアは思わず「そんな」と、ティナとトーマスは言いたい事が言い合え仲が良いと教えてあげると、アリメラが「ヴィクトリア様はご存知なんですか?」と興味津々で聞いてくる


「ええ、友達よ。とても明るくって楽しい人だけど、よくからかわれるわ」

ティナを見て「ティナを大事にしているのは、よく判るわ」そうフォローする

それを聞いて「良いですね、二人とも素敵な婚約者で」ユアナは羨ましがり「私はまだ相手が居ませんから」と、溜息を吐くと、アリメラも溜息を吐きながら


「・・・私はあまり、そこまでではないかしら・・政略結婚ってそんなものだと思ってました。お二人が羨ましいです」

「私は政略結婚じゃないけど、親同士が決めた相手になるのよね」

アリメラとティナ話しを聞き、ヴィクトリアは考える

(ルシフェルも最初そう言っていたわね。自分達は政略結婚だからと)

「私もそう。政略結婚だから愛情は無いって、言われたわ」

ヴィクトリアは思い出した様に言うと、その言葉に三人は凍りつき「えっ?ヴィクトリア、それは・・・本当?」何か勘違いしていないだろうか?ティナが驚いて尋ねる


「嫌われていたのだから仕方が無いのだけど、婚約破棄は出来ないと言われて・・・それならお互いに歩み寄るしかないって思って、彼に少しでも愛して貰えるように努力するって伝えたのよ」

アリメラはジッと、ヴィクトリアの話しを聞いている

「そしたら、トーマス様の夜会に誘われて、夜会ではずっと私を気遣って傍に居てくれて、それで嫌っている筈の私を・・・何故かルシフェルも、私を好きだと言ってくれて・・・」

首を傾げながらも、その時の話しをするヴィクトリアに「それは、ヴィクトリア様が綺麗だからですよ」アリメラはそう言うと「私では無理です」悲観的になる


アリメラの言葉にヴィクトリアは

(・・・私が綺麗だから?それだけで・・・ルシフェルは私を好きになったの?)

ルシフェルが何故、自分を好きになってくれたのかは判らないが

(そんな事はない筈、だって悪女だった私は嫌われていたもの)

「それは違うわ。ルシフェルは記憶を無くす前の私の事を、嫌っていたもの」

そうよね?とティナに確認すると「まあ、悪女だったヴィクトリアにはあまり好意は持っていなかったかもね」なるべく当たり障りが無い様にティナは答える


「そう・・・なのかしら」

アリメラは婚約者の事が好きではないし、向こうもそうだろう・・・けれど結婚しなければならない為、その事がとても憂鬱だった

(好きになる努力をしないと駄目なの?そうしたら彼もそうしてくれる?)

不安で仕方が無いが、歩み寄らないとこの先ずっと辛い結婚生活を送る事になるのは判っている。アリメラもまた、幸せになる為の努力をしないと駄目なのだ


ティナは香水を、ユアナは水色の花の髪飾りを、アリメラは水晶のネックレスを購入する

「どうしよう・・・私だけ決まらないわ」

焦るヴィクトリアにティナが「彼女の似合うものを考えてみたら?」アドバイスしてあげる

(彼女の似合うもの・・・)

考えながら店の商品を眺め、ふと彼女の綺麗な髪を思い出し「・・・櫛なんて駄目かしら?」ヴィクトリアが聞くとティナ達がどうして櫛なの?と首を傾げる


「シルメラ様は綺麗な銀髪だったので、その髪を梳かすのに」

どうかしら?と三人の意見を聞くと「・・・シルメラの髪が綺麗ですか?」アリメラが複雑そうにヴィクトリアに聞き返すと「シルメラは自分の銀髪が好きじゃないから・・」そう教えてくれ、ユアナも頷く

「そうなの?とても綺麗なのに」

「子供の頃に、男の子達から白髪ってからかわれていた事があって・・・ずっと髪にコンプレックスがあるんです」

ユアナは可哀想にと話してくれ「・・・そう」と美しく細工されたツゲ櫛を手にして「これにするわ」ヴィクトリアはシルメラに櫛を贈る事に決め誕生日カードを添える



それぞれが誕生日プレゼントを用意出来たので、街の散策を楽しむ四人。そしてその後ろには、しっかりと離れずについて来る騎士二人

「・・・さっきから気になっていたのだけど」

アリメラが後ろをチラッと気にしながら「あの、騎士の人達は何だか常に傍に居るみたい・・・気のせいかしら?」まさかヴィクトリアの護衛とは思わずに不信がる

「そうなのよね、何か付き纏われてるみたいでしょう?女の騎士だから、カレンに不信な騎士が居るって伝えた方が良いのかしら?」

ユアナも首を傾げるので、そんな二人にティナは笑いを堪える


「あれは、私の護衛なの」

恥ずかしそうにヴィクトリアが教えると「えっ!?」っと驚く二人に

「どうしても外出する時は、騎士を護衛に就けないと駄目なので・・・恥ずかしいのだけど」

それを聞いてアリメラ達は「侯爵様って凄いのね・・・」憧れを見る様に騎士達に目を向ける

ティナもだが、子爵や男爵では滅多に騎士などお目に掛かれない。実際、女の騎士というだけでもリザ達は物凄く目立つ

周りからジロジロと好奇の目を向けられリザとイシュレイも居た堪れないが、これも試練だと思い耐えている


四人は再びカフェでお茶を飲みながら楽しいひと時を過ごし、また誕生パーティーでと別れる

ヴィクトリアにとって、友人達と過ごす時間は夢のようだった

(やっぱり、ティナやアリメラ様達は大切な友達だわ。それは侯爵夫人になっても変わって欲しくない)

ヴィクトリアは馬車に乗り、帰路に着きながらそう思う

(もしかしたら公爵様や同じ侯爵の令嬢の中にも、大切な友達が出来るかもしれない。そして出来れば、私と同じ身分に関係なく、友情を育んでくれたら嬉しいのだけど・・・)

ヴィクトリアはそう期待する



屋敷に戻り、ヴィクトリアは騎士二人に護衛のお礼を伝える

「今日は本当に、ありがとうございました。カレンにもよろしくお伝え下さい」

「こ、こちらこそ。失礼します」

漸く護衛という責任の重い任務が無事に終わりリザが頭を下げ去ろうとし、イシュレイもそれに続こうとして

「・・・ヴィクトリア様、この度は我が紅の薔薇の新設に貢献して頂いて、ありがとございます」

ヴィクトリアに頭を下げ「その期待をけして裏切らず、ご尽力に答える様努力致します」そう伝えて顔を上げるので、リザも同じく「ご尽力、ありがとうございました」頭を下げる


ヴィクトリアはそんな二人に

「私はただカレンの騎士としての行動を見て、彼女の努力に尊敬を抱いただけです。カレンだけでなく、きっと他の女性騎士も同じ様に頑張っているのだろうと。紅の薔薇の騎士団は、そんな貴方方の努力と頑張りが認められたからこそ作られたのです。私は何もしてません。アルフレド様だってそう仰いますよ?」

そう二人に告げると、ニッコリ笑い

「貴方方の今までの苦労が報われる為、女性騎士への期待で紅の薔薇は作られたんです。ですから私に礼を言う必要はありません」

(これが、ヴィクトリア・ティアノーズ様)

オウガスト団長が『彼女に関われば、誰だって好意を抱く』そう言った意味が判った

その通りだと二人は、優しく笑う美しいヴィクトリアを見て思う



ヴィクトリアは自室に戻りシルメラの誕生日プレゼントを大事に机の引き出しに仕舞うと、アメニに裁縫道具を持ってきて貰う

「裁縫道具で何をなさるのですか?」

不思議そうにヴィクトリアに尋ねると、彼女は笑って「刺繍をしようと思って」テーブルのイスに座り、今日買った白いハンカチに刺繍をする

「刺繍ですか・・・」

何をしても絵になる主人に、アメニは見惚れながら黙って控えている


夕方にいつもの様にルシフェルを出迎え、彼の部屋へと向かいながら

「シルメラ様の誕生パーティーの日は、出来るだけ早く帰ってきて下さいね」

心配そうにお願いすると「ああ、判っている」そう答えるルシフェルは(これで何度目だ?)と苦笑する

「それで、プレゼントは何を買ったんだ?」

「櫛です」

「櫛?」

「シルメラ様の綺麗な銀髪が印象的でしたから」

嬉しそうにそう答えると「そうか」ルシフェルはいつも通り、鞄を机に置き

「明日からいよいよ王城務めだから、少しの間遅くなると思う」

愛する婚約者を抱きしめ

「俺を待たずに、先に夕食を済ましておいていいよ」

「お父様と同じですね・・・」

ヴィクトリアは寂しそうにする


父、ランドルは忙しい人だ・・・ヴィクトリアが幼い時から夕食を共にする事は僅かしかない

どんなに豪華な料理でも、一人の夕食は味気ない

ルシフェルがこの屋敷に来てからは二人で食事をしていたけれど、また一人になるのかと思うと寂しくなる

「暫くの間だから」

ルシフェルは慰める様にキスをして「俺も寂しい」愛おしそうに婚約者を見つめる

「大丈夫ですよ、ルシフェルが食事している時は、ジッと見ててあげますから」

冗談っぽく笑う彼女を抱きしめ、ルシフェルは明日の事を思う


(いよいよ明日だ、ウェンヴィッツ。ヴィクトリアに何をしたか聞きだしてやる!!)

ルシフェルはずっと、ヴィクトリアとアルフレドの間に何があった?その事だけを考えていたのだから

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