16話 女性騎士の必要性を説く悪女
ランドルは少し遅く帰宅すると珍しくに娘に部屋へ来るようにドルフェスに伝え、ヴィクトリアは(何だろう?)と急ぎ父の部屋に赴き、父の話しを聞いて困惑する
以前から頼んでいたカレンの雇用の件で、何故だかアルフレド・ウェンヴィッツから少し待つよう要請が入っていたのだが、漸く目途が付いた為、ヴィクトリアに騎士団の総本部に来るようにと父の口から命じられる
「・・・私が何故総本部へと出向なければいけないのでしょう?騎士を辞めさせられたカレンを雇用するだけですよ?」
(騎士による嫌がらせかしら?でもアルフレド様が関わっているなら・・・違うのかしら?)
たかが侯爵令嬢の身分しかないヴィクトリアに登城せよとは、一体何を考えているのか?流石のランドルも困惑する
「なんでも、新しい試みに何かをするつもりらしいのだが、その事についてお前の意見を聞きたいそうだ」
そう告げるとランドルは最愛の娘に
「ウェンヴィッツ公爵の命だ。明日、私と一緒に登城する事になった。いいな?」
不安に思いながらも頷くしかないヴィクトリア
憂鬱な気持ちで寝室に戻ると、ルシフェルがベッドに座って書類に目を通して待っていた
「ランドルの話しはなんだったんだ?」
ヴィクトリアが寝室に戻って来たので、書類を片付けながら尋ねると「・・・明日、王城に来るようにと言われたわ」意味が判らないヴィクトリアはそのまま伝える
「はあっ!?」
驚くルシフェルに、ヴィクトリアは彼の横に座り溜め息を吐く
「アルフレド様は何を考えているのかしら・・・?」
(新しい試みってなに?私の意見を聞くとはどう言う事?私は騎士の人達とは関わりたくないのに・・・)
グレン・アルドヴィッツの事を思い出し、騎士に幻滅したと言った事を思い出す
「・・・ウェンヴィッツに呼ばれたという事か?」
ルシフェルが眉間に皴を寄せながら自分を見るので「貴方はあまりいい気はしないでしょうけど、私だってそうよ」王城など、不安でしかない
けれどそれはルシフェルも同じだ
隣に座っている最愛の婚約者に、アルフレドも好意を抱いている事をルシフェルは知っている
判っていないのはヴィクトリアだけだ
翌日、ヴィクトリアは父ランドルと共に馬車に乗って王城へ向かう
王城へ出入りする馬車は城門で厳密な取調べを受けなければならないが、貴族の証である家紋がある馬車はそのまま止められる事無く出入り出来る
馬車から降り、ヴィクトリアは憂鬱な気持ちを抱きながらランドルに連れられて騎士の総本部へと案内される
「私はこのまま執務室に向かうが、何かあればすぐ上層部へと連絡してきなさい」
ランドルは険しい顔をしながら、大丈夫だろうが万が一を考えそう教えると行ってしまう
(上層部って、どうやって連絡するのかしら?)
ヴィクトリアはさっさと行ってしまった父の後ろ姿を見送りながら思う
目の前の大きな扉は、まるでヴィクトリアを威圧しているみたいにどっしりと構えており、扉の癖に威風堂々とした威圧感すら感じ、扉の左右端に騎士が一人ずつ立って居る
(・・・この人達に声を掛ければ良いのかしら?)
恐る恐る、右側の男性騎士に
「ヴィクトリア・ティアノーズです。アルフレド・ウェンヴィッツ様に呼ばれて来たのですが」
そう伝えると男性は笑顔で頷き「お待ちしておりました、ティアノーズ様」彼は扉の片方右を、左に立っていた男性は左の片方の扉の取っ手を掴むと、重そうに扉を開ける
(この扉・・・鉄で出来てるの?)
有事の際はここが司令塔の拠点になるのだ、扉は頑丈に出来ていて当たり前なのだがヴィクトリアは
(この部屋の人を閉じ込める為かしら?)何て事を思ってしまう
部屋の中には相変わらず輝くオーラを放っているアルフレドが、ヴィクトリアを笑顔で迎えてくれる
「おはよう、ヴィクトリア。朝、早くに来てくれてありがとう」
にこやかに笑う彼に、緊張していたヴィクトリアは少し安堵して「おはようございます、アルフレド様」頭を下げて挨拶をする
目の前のソファーに移動すると、大きな背もたれに隠れて見えなかったが「カレン!?」が、ソファーに青褪め震えながら座っていた
驚いて彼女とアルフレドを交互に見るヴィクトリアに「座って話そうか」にこやかなアルフレドは、自分と対照的に震えているカレンの前に座る
ヴィクトリアはカレンの隣に座り「大丈夫?カレン」青褪めている彼女を気遣う
「ヴィクトリア様・・・」
久しぶりの再会なのにカレンは何故だか生きた心地がしない様で震えており、そんな彼女を優しく笑って手を握ってあげるヴィクトリア
そんなヴィクトリアを見ながらアルフレドは「以前、ヴィクトリアは言ったよね?騎士団には幻滅したと」微笑みながら確認し、その言葉にギョッとするカレン
「ええ、言いました。事実ですから」
ヴィクトリアは頷くと、青褪めていたカレンが「ヴィ・・・ヴィクトリア様」泣きそうに、チラッとアルフレドの顔を見ながら首を振る
「何?」
ヴィクトリアは、カレンが何か訴えたそうな表情をしているので首を傾げる
「その言葉に俺も反省してね、どうすべきか考えたんだよ」
「?反省ですか?アルフレド様が?」
どうして?という顔でヴィクトリアはアルフレドを見るが、カレンは最早、下に敷かれている絨毯しか見ていない
「それは俺が騎士団総司令部、最高司令官として任されているからだよ」
ニッコリ笑う彼に、ヴィクトリアは首を傾げる
令嬢の彼女にはあまりピンとこないが、アルフレドは騎士団の中で一番偉い総統の地位に居るという事
以前、オウガスト邸にヴィクトリアがアルフレドを連れて来た時、カレンが震えたのはその為だ
「ヴィクトリアは女性騎士の地位が低い事を問題視してるが、実際彼女達が際立って優れた実績をもたらしているかと言うとそうではない。むしろ男性騎士の足を引っ張るケースが多いと報告がある。お荷物だとはっきり言う団員も居るのだが」
黙って聞いているヴィクトリアに「それでも、女性騎士は重要かな?」試すように尋ねるアルフレド
ヴィクトリアは隣のカレンを見ると、カレンは下を向いたままだ
「確かに女性は腕力では男性に劣るかもしれません。でも女性ならではの気配りは出来ます」
「気配りね」
「それに、護衛対象が女性なら、同性の騎士の方が安心するでしょうし、男性では同行出来ない場所でも同行出来ますから」
「それだけ?」
「それに、腕力では劣ると言いましたが、彼女は盗人を捕らえた実績もあります。刃物を持った男に対して、怯まない強い精神力は、女性にもあります」
その言葉にカレンは顔を上げ、ヴィクトリアを見る
「私は騎士の訓練を知りません。ですが、カレン達女性にも、男性と同じ位厳しい訓練を課しているのでしょう?それなら彼女達は男性に負けずに懸命に、その訓練について行けているという事でしょう?それなのに、そんな必死で努力をしている彼女達を認めもせず、お荷物だなんて・・・よくもそんな事が」
だんだん涙が出てきそうになるヴィクトリアに、カレンもその言葉を聞いて泣きそうになる
どれだけ訓練が苦しく辛いか、それは自分達にしか判らない・・・けれど、ヴィクトリアはそれを代弁してくれたのだ
「確かに女性騎士にも、男性と同じ訓練を課しているね。その訓練について来れている努力は認めよう」
アルフレドはカレンを見て
「それでも彼女達は、団にとってお荷物でしかない。団長達全員一致の評価を受けている」
ヴィクトリアは淡々と告げるアルフレドに
(この人は一体私達をどうしたいの?断罪のつもり?そんな風には思いたくない・・・)
それとも幻滅したと言った事を怒っているのか?大体反省とはどういう事だろう?・・・ヴィクトリアはアルフレドの意図が判らない
彼は涼しい顔をして
「これでは女性騎士に対して、正当な評価は出来ない。そうだろう?」
ヴィクトリアはムッとしながら「・・・私はどうして呼ばれたのでしょうか?」カレンもだ
騎士団において、女性は軽視されているのはヴィクトリアも判った。だからカレンは騎士に戻らせず、屋敷で雇うのだ
なのにどうしてわざわざアルフレドは自分達を王城に呼んで、更に女性騎士を侮辱するような事を伝えるのだろう
『もうカレンは騎士じゃない、ほっておいてよ!!』
ヴィクトリアはそう叫びたかったが、グッと我慢して尋ねた
「俺はね、新たに騎士団を設けようと思っている」
アルフレドはニッコリと笑い「女性だけの騎士団をね」その言葉にヴィクトリアとカレンは驚く
「はっきり言って女性だけの騎士団など、前代未聞だからね。他国にも例の無い試みだから、上手くいくかどうか判らないが・・・それは彼女達、女性騎士の活躍に期待しようと思う」
アルフレドの言葉にカレンは固まり、ヴィクトリアは驚くが「それは、素晴らしい試みだと思います」嬉しそうに賛同するかのように喜ぶ
だが、カレンは(え、でもどうしてそれで私は呼ばれたの?もう私は騎士じゃないのに?)複雑な疑問を持ちながらも、自分の所為で立場を悪くしてかもしれない彼女達の居場所が新たに出来るのならと安心する
「それで、その新設する女性だけの騎士団団長を、カレン・オウガスト、貴方に任命する」
「えっ!?」
衝撃を受けるカレンに、ヴィクトリアも驚きながら
「アルフレド様、カレンはもう騎士ではありません!!彼女はティアノーズで雇うんです!!」
ヴィクトリアは抗議するようにアルフレドに訴えるが「騎士に戻すよ」あっさり、とんでもない事を言う彼に
「お荷物だと放り出したのにですか!?」
ヴィクトリアは、カレンにした仕打ちが許せないでいる
「なに?ヴィクトリアはオウガストを騎士に戻すのは反対?」
可笑しそうに笑うアルフレドに「それは、カレンが決める事ですから。でも・・・」心配そうにカレンを見て
「・・・もしまた騎士に戻って、カレンが辛い思いをするのは嫌なのです」
それならティアノーズで雇われている方が良いのでは思うヴィクトリアに「ヴィクトリア様・・・」カレンも思い悩む
(騎士に戻れる。しかも新たに作られる騎士団の団長・・・責任重大で重圧が強過ぎる。自分では無理だ)
「その心配は無いと思うよ」
アルフレドの言葉に、ヴィクトリアは「どうしてですか?」と尋ねると
「その騎士団の団長はオウガストだけど、団の一切の責任は俺が負うから」
そう言い切るアルフレドに二人は驚くが「オウガストには新団長として、自分の遣りたい様にしてくれて良い。勿論相談にも乗る」そう告げると
「団の名前とエンブレムを考えておいてくれ。女性騎士全員をその団に入れるから」
「・・・どれだけ居るのでしょうか?」
カレンが尋ねたのは、それぞれ所属している団が違うので、女性騎士の人数までは知らないから
「オウガストを含め八名だ、それぞれの経歴が記された名簿がある」
(八名・・・二桁もいかないのか)
たった八名の騎士団、しかも女ばかり・・・これは相当大変だと思うカレンに、ヴィクトリアは心配そうに彼女を見つめる
カレンは考える・・・男社会の騎士の中で今までずっと我慢してきた。意地で騎士として在り続けてきた。それは何の為だったか?
(政略結婚が嫌だから?それもある。でも、一番の理由は、あの騎士の男共を見返してやりたかったからだ)
しかし、それは無理なのだと諦めた
でも、それでも、あの女を馬鹿にした目、お荷物と平然と言う彼等に、自分達が出来る事を知らしめたかった・・・その機会を与えられようとしている
グッと歯を食い縛り、覚悟を決める。他の女性騎士達と共に、男の騎士達と戦う覚悟を
「判りました、その任命。謹んでお受け致します」
ヴィクトリアは、彼女がそう決めたのならと笑って祝福する
アルフレドは頷き「大変だろうが力になるから頑張って。期待している」そう告げると、机に山済みにされていた書類を彼女の前にどんと置き
「これ、今日中に全部目を通してサインしておいて」
真顔でそう言ってくるので、彼が両腕に抱えて置かれた書類の山を見てカレンは「はっ?」っと驚愕する
アルフレドは部屋の重い扉を開け、外で待機していた一人の騎士に「彼女を執務室へと案内してくれ」そう命じると、一人の騎士がカレンの書類を半分持ってやり、彼女を連れて出て行く
「・・・大丈夫でしょうか?」
膨大な書類だった・・・ヴィクトリアはカレンを心配すると「あれぐらいの書類、大した事無いよ」平然と言うアルフレド
部屋にはヴィクトリアとアルフレドの二人だけになり、扉は再び閉じられている
太陽の貴公子と二人きりの部屋、普通の令嬢だったら正常ではいられないだろう・・・心拍数が上がって悶え死ぬ所だ
「アルフレド様はもしかして、ずっとカレンの事を考えてくれていたんですか?」
ヴィクトリアが尋ねると「貴方が女性騎士の価値について、熱く語った時からですね」アルフレドはそう答え、その時の事を思い出しながら
「最初は・・・俺が騎士団総括の立場を知っていて、それで騎士の話しをしているのかと邪推したが」
アルフレドは、ヴィクトリアの傍に近づき
「貴方は本当に嬉しそうにオウガストの話しをしながら、女性騎士の価値について熱く語っていたね。俺が、女性の騎士が増えれば状況が変わるかもと言ったら、嬉しそうに眼を輝かせた」
そう話しながらアルフレドが真っ直ぐにヴィクトリアを見つめてくるので、ヴィクトリアはその端整な顔立ちの彼に顔を赤らめ思わず眼を逸らす
そんな自分に近づいて来るアルフレドと、少し距離を置こうとするが「あの嬉しそうな眼が、俺を捕らえたんだろうな」アルフレドはヴィクトリアとの距離を縮めて来るので
「あ・・・あの」
婚約者の居る女性に無闇に近づくのは、紳士としてあるまじき行為なので困惑するヴィクトリアに「本当はずっと、秘めておくつもりだったんだが」アルフレドはヴィクトリアの眼を真っ直ぐに見つめ
「俺は貴方を愛している、ヴィクトリア」
アルフレドの告白に驚愕するヴィクトリア
(えっ?何を言って・・・)
アルフレドのオレンジの眼に吸い込まれそうになりながら
「わ・・・私はルシフェルを愛しているので・・・」
震える声でそう伝えると、アルフレドは辛そうに微笑み
「判っているよ、ヴィクトリアが婚約者しか見えていないのは」
アルフレドはヴィクトリアの背中に腕を回しそっと手を置き
「それでも、この気持ちは抑えられそうに無い。それだけは許して欲しい」
そう苦しい胸の内を訴えると、愛しそうにヴィクトリアの額にキスをして「馬車の所まで、送ろう」優しく微笑むと、二人は部屋を出る
馬車を止めている厩へ向う道中、二人は無言で歩く
(アルフレド様が私の事を愛している・・・・)
彼の告白にヴィクトリアは、彼がどんな思いでそれを伝えたのだろうと考える
(でも私にはルシフェルが居る。彼の気持ちには答えられない)
それが判っていても、伝えずにはいられなかったのか?ヴィクトリアは申し訳ない気持ちでいっぱいだった
(私はルシフェルに愛して貰っているけど、もし彼が他の人を好きになったら・・・彼の愛が他の人に向けられたら)
ズキット胸が痛む
(そんなの嫌だわ・・)
そう思うとルシフェルに愛されている事がどれだけ幸せな事かと、改めて思い知る
「・・・今日はありがとう。わざわざ王城に呼び付けて悪かったね」
アルフレドは穏やかに笑い掛けてくるので、ヴィクトリアも笑っては首を振り
「いいえ、カレンを騎士に戻して下さってありがとうございます。彼女の事、女性騎士団の事、よろしくお願いします」
大切な友人をよろしくお願いします・・・そんな気持ちで彼に頭を下げる
「ああ、上手くいく事を祈っていてくれ」
(・・・もしかして、女性の騎士団を作ったのも私の為?)
ヴィクトリアはアルフレドの好意をどう受け止めて良いか判らないまま、彼に馬車に乗せて貰い「それでは・・・また」アルフレドが少し寂しげに告げるので、ヴィクトリアは笑って頷く・・・それしか出来なかった
ティアノーズ邸へと帰る道中、ヴィクトリアはアルフレドの事を思う
彼の気持ちを思うと申し訳ない気持ちで胸が痛み、涙が零れる
人を好きになるのは時に辛い事でもある
ルシフェルに嫌われていた時はその恋心を必死に隠そうとしたが、それでも思わず好きだと告げてしまった時は、もう駄目だと思った
でも、彼も自分を愛していると言ってくれ、奇跡が起きたのだと思った・・・だって彼は自分を嫌っていたのだから
だからアルフレドの気持ちに答えて上げられない事が、本当に申し訳無く思う
(早く、私以上に好きになる女性が見つかって欲しい)・・・そう願わずにはいられない
夕方、少し遅くルシフェルが帰って来る
「お帰りなさい」
笑顔で出迎えるヴィクトリアに「ああ、ただいま」愛おしそうに頬にキスをするルシフェル
そして二人はいつもの様にルシフェルの部屋へ向かいながら「王城はどうだったんだ?」ルシフェルはずっと気になっていた事を、ヴィクトリアに尋ねる
「・・・案内された部屋に、アルフレド様とカレンが居たわ」
「カレン?」
どうして騎士をクビになり、ティアノーズで雇う筈の彼女が?と驚くルシフェルに
「ええ。アルフレド様は新しく女性の騎士団を作るので、その団長にカレンを選んだの」
二階の階段を上がり、右側にあるルシフェルの部屋へ入る
「・・・そうか、それは思い切った事をしたな」
ルシフェルは部屋へ入ると鞄を机の上に置き、ヴィクトリアを抱き寄せ「それで?どうしてヴィクトリアを呼んだんだ?」一番肝心な事を聞いてきた
ルシフェルにとってはその事が一日中気になっていて、心配で仕方が無かったのだから
「・・・女性騎士に対しての重要性を私に聞きたかったみたい・・・以前、夜会で助けて貰った時、私が女性騎士の価値について語ったから」
「ああ」
記憶を無くしたヴィクトリアが、アルフレドと出会ったアルバノーズの夜会での事を思い出す
「・・・それだけで呼ばれたのか?」
婚約者の質問に、ズキンッと胸が痛む・・・ヴィクトリアはルシフェルに嘘は付きたくないが、アルフレドの告白の事は言いたくない
「一応、カレンはティアノーズで雇う筈だったから、その事もあってだと思うわ」
そう答えるヴィクトリアをジッと見つめるルシフェルに(ルシフェルは何か怪しむかしら・・・?)そう不安を抱きながら
「・・・ルシフェル?」
心配そうに自分を見つめてくるヴィクトリアに、ルシフェルは「いや、それだけなら良いよ」ヴィクトリアを離し、二人で食堂に向かう
ホッとするヴィクトリアだが(何かあったな・・・)勘の良いルシフェルは、問い詰めるならアルフレドだと判っている
ただ彼は、ヴィクトリアが自分に何かを隠している事に不安を抱く
「・・・ヴィクトリア」
ルシフェルはヴィクトリアを抱きしめると、自分の唇を彼女の唇に重ねる
「ん・・」
ヴィクトリアは、ルシフェルのキスをそのまま受け入れる
ルシフェルは確認したかったのだ、彼女がキスを拒むかどうか・・・それでまだ、自分に愛情があるか試している
そして、急に彼がこんな風にキスをしてくるは何か自分に対して不安があるからだと、ヴィクトリアも判っている。それで自分を求めてくるのだと
ルシフェルはキスを嫌がらずに受け入れてくれた婚約者に愛しげな目を向け、そのまま寄り添いながら食堂に向かう
二人のそんな遣り取りをアメニはよく目にするが、そういう時は後ろを向いて見ない様にして気を遣う
(俺が王城務めになる前に、ヴィクトリアを呼び出したのか?)
ルシフェルはもうすぐ王城勤務になるので、その前にヴィクトリアを呼び付けたのでは?と、勘の鋭い彼はそう推測する
アルフレドの聡明さと思慮深さは、役所勤務のルシフェルでも知っている
わずか二十三歳の若さでウェンヴィッツ一族の当主になり、現在は二十五歳。公爵の地位に甘んずる事無く、寧ろ着実に己の地位を確立していく切れ者
手腕に長けた人物で、見た目の麗しさと所作の美しさで人を惹き付ける魅了を持ちながら、それを裏切るほど血も涙も無い冷徹振りとも聞いている
(絶対に何があったか聞き出してやる!!)
ルシフェルはヴィクトリアの事となると、相手が公爵でも関係ない




