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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
22/69

    友情と選択と悪女(5)

公爵令嬢であるアマンダ・アルドヴィッツ自ら声を掛けて来たので、ヴィクトリアはスッと立ち上がって姿勢良く頭を下げ

「こんばんは、アマンダ様」

ニッコリと微笑むので、その美しさにアマンダは瞬時に彼女を自分の取り巻きに加えたいと考える

以前の悪女ヴィクトリアは公爵令嬢相手ですら気を遣わずに傍若無人な振る舞いをしていたが、今のヴィクトリアなら誰もが自分達の派閥に取り入れようと目論む


「貴方はこの前、上位派閥に来ると言っていたわよね?それなのにどうして下位の派閥に居るのかしら?公爵に知り合いが居ないのなら、私の傍に居れば良いわ。貴方だったら大歓迎よ」

アマンダはニッコリ笑ってこっちに来いと誘う・・・しかも大歓迎とは特別待遇、優遇するという意味だ

ティナも流石にこれは行った方が良いわと緊張するが、ヴィクトリア公爵令嬢のアマンダを前にして考える

(もう二度と間違えない)

そう決意していたのだが、まさか公爵令嬢が自ら来るとは思わなかった・・・けれどそれは有り得た事だった


ヴィクトリは忘れているのだが、ティアノーズ侯爵家は侯爵の中で一、二を争う権力を持っている

まだ伯爵子息の立場であるルシフェルが引っ切り無しに侯爵の夜会に誘われるのは、まだ若い彼と親交を築く思惑が彼等に有るから

ティナの言っていた公爵令嬢に目を付けられているというのは、公爵を怒らせてもいるが、そのティアノーズ侯爵の令嬢で、社交界でも常に注目されているヴィクトリアを取り巻きに加えれば、他の公爵令嬢に対して大きく牽制出来るという目論見があるから


(ルシフェル・・・)

そんな思惑など判っていないヴィクトリアは、どうしようと考える・・・相手は公爵令嬢なので失礼があってはならない

『公爵達が何を言っても相手にしなくて良い』

彼の言葉を思い出し、ゴクンと唾を飲みその言葉を信じ・・・ヴィクトリアは笑って

「お誘いありがとうございます、アマンダ様」

お礼を言う彼女に、周りの令嬢達も緊張しながらそうだろうと頷く


ティナもこれでヴィクトリアは向こうに行くのだと、ホッとするが寂しい気持ちになった「でも、折角ですがお断りします」ヴィクトリアはティナ達を見て

「私は派閥とか権力とかそう言うしがらみ無しで、大切な友人達と付き合っていきたいと思っていますので」

驚いているアマンダに「もちろん、アマンダ様とも友好を築けられたら光栄です」美しいヴィクトリが可愛らしい笑顔を見せるので、周りの令嬢達はキュンッとなる


流石のアマンダもそう言われると悪い気はしないが

「それなら、何も伯爵令嬢とばかり話さなくても良いでしょう?私達と向こうで話しをしましょう」

彼女も引き下がらない、再度誘うので「そうですね。でも今は彼女達と話しをしているので」そしてアマンダに笑い掛け

「良ければご一緒しませんか?アマンダ様の話しもお聞きしたいです」

(流石にそれは嫌だ!!)と心の中で叫ぶティナと伯爵令嬢達(そうなったら自分達は逃げる!!)

公爵令嬢と話しをするなど冗談じゃないと、周りの伯爵令嬢達は青褪めながら誰もが嫌がった


「・・・悪いけど、それはまた今度にするわ」

伯爵令嬢などと話したくないアマンダは、ヴィクトリアに「もし本当に私と友好を築きたいのであれば、上位の派閥にも来て貰わないとね?」挑発、いやヴィクトリアの本心を探る

「ええ、勿論です。その時はぜひ、アマンダ様のお話しをお聞かせ下さい」

ヴィクトリアにとっても、公爵令嬢達とも仲良くなれたら良いと思っているのだから

アマンダはそのまま公爵令嬢の派閥が集まっている方へと戻って行った

(・・・これで良いのよね。公爵様とも友好を築きたいのは本当だもの)


ヴィクトリア達はソファーに座り直し、また四人で談笑を始める

「びっくりしたぁ、まさか公爵様が来るとわね・・・流石ヴィクトリア」

ティナの言う『流石』の意味が判らないが、笑っている彼女にホッとする

「私は怖かったです・・・公爵様はやはり迫力がありますわ・・・威厳が違いますもの」

シルメラは怖くて、どうなるのだろう?とドキドキしていた

「本当に。それにしても・・・」キャロルは尊敬するようにヴィクトリアに「よく、公爵令嬢様の誘いを断れましたね。凄いです」憧れの眼差しで目を向ける


ティナもてっきり上位派閥に行くだろうと思ったが、ヴィクトリアは顔を赤らめ

「ルシフェルがね、公爵様が何を言っても相手にしなくて良いと言ってくれたから」

「ああ、なるほどね」

ティナは(流石がルシフェル様)納得し、シルメラは顔を赤らめるヴィクトリアに、彼女の相手の婚約者はとても素敵な方なのだろうと思う


楽しく談笑している中、シルメラが「もうすぐ私の誕生パーティーを開くのだけど、良かったらティナも来てくれないかしら?」ティナを誘う

その言葉にズキンと、心臓が跳ねるヴィクトリア

それは何気ない一言だったがシルメラにとっては決して悪気は無く、ヴィクトリアを誘わなかったのはただ侯爵の彼女に遠慮しただけ

「ええ、もちろん」

ニコリと笑って返事をするティナを羨ましく思いながら、鋼を打つように心臓をドキドキさせながらヴィクトリアは「・・・その誕生パーティーに、私も呼んで下さらない?」思い切って尋ねる


(誰も私に招待状をくれない・・・)前回の夜会の所為で伯爵令嬢達からもまた嫌われただろう

(だから断られるかもしれない・・・)それでもヴィクトリアは、自分から歩み寄らなければと思ったのだ


「えっ?」

一瞬驚いたシルメラだが、すぐに笑顔で

「ええ、勿論ですわ。その、ヴィクトリア様が迷惑でなければ是非」

そう言ってくれ、ヴィクトリアは心から安心し嬉しそうに「良かった」心底ホッとした様に喜ぶ彼女に、周りの令嬢達もざわつく

侯爵令嬢が、伯爵令嬢の誘いに喜んでいる・・・その噂も瞬く間に広まっていく


ヴィクトリアにとっては第一試練といったこの派閥問題は、これからも根強く続いていく

それこそいずれ彼女が侯爵夫人となれば、例え彼女が望んでいなくてもより苛烈している貴婦人の派閥の渦へと巻き込まれる事になる

それでも本当に大切な、困った時には力になってくれる友人達が増えていけばヴィクトリアにとっては心強い味方となる


何とか問題も起きずに無事サロンから出るティナとヴィクトリア二人の後を、アマンダと取り巻きが追って来る

「ヴィクトリア」

アマンダに呼び止められ、振り返るヴィクトリア

「今度、私のお茶会に貴方を招待してあげるわ」

上から目線の彼女に、ヴィクトリアは驚く

(まさかそう来るか?)

ティナも驚きを隠せないが「ぜひ、いらしてね?」アマンダはにっこり微笑む

アマンダは何が何でもヴィクトリアを、自分の派閥に入れたいのだ


「・・・ええ、もし都合が付きましたら」

ヴィクトリアとしても一人で公爵のお茶会に行くのはあまり気乗りしないので、うまく断る魔法の言葉を使う

「予定は・・・シルメラの誕生パーティーと重なってしまいますが、来てくれるわよね?」

「えっ?」

その言葉に凍りつくヴィクトリアとティナ、そしてシルメラとの会話を聞いていた周りの令嬢達


アマンダの取り巻き、多分侯爵令嬢だろう一人が

「まさか、公爵様の誘いと断って、たかが伯爵の誕生パーティーを選んだりはしないわよね?」

追い討ちを掛ける様にヴィクトリアに詰め寄る

(これは・・・どういうつもりなの?)

ヴィクトリアは笑っているアマンダを見る


(シルメラとの話しを聞いていて、その日にお茶会を開くって事?)

嫌がらせだ・・・また、自分に嫌な選択を選ばせ様としている

(どうしてそんな事をするの!?)

ヴィクトリアは、このアマンダという公爵令嬢が嫌になってきた

そして何となくだが、もしかして悪女だった自分もこんな風に令嬢達を苛めて来たのか?そう思ってしまう


「それは残念です。先にシルメラ様の誕生パーティーに誘われていますので」

ヴィクトリアはアマンダにそう告げると「また、次の機会にお誘い下さい」頭を下げ断る

アマンダはまさかヴィクトリアが断わるなど、思いもしなかったので

「貴方、公爵の私の誘いを断って、まさか伯爵の方を取るつもり!?」

公爵令嬢の自分の誘いより、伯爵令嬢のシルメラの誘いを優先する・・・それがどれ程アマンダの自尊心を傷付け、恥を掻かされた事になるか


侮辱を受けたアマンダはワナワナと震える、ヴィクトリアに「そんな事、許さないわよ!?」立場を弁えろと言わんばかりに睨みつけ、彼女の怒りに取り巻き達も怯え

「貴方ね、立場を弁えなさい」

「そうよ。謝って、お茶会に参加するって言いなさい」

喚きたてるので、ヴィクトリアは目の前で自分を責める令嬢達の姿に溜息が出る

(これが公爵令嬢なの・・・)

自分の思い通りなる、誰もが言う事を聞く、そう思い上がっている子供だ・・・けれどそれは、周りがちやほやするからだろう


「先程も言いましたが、私は身分に囚われず親しくしたい友人と付き合っていきたいんです。ですから幾らアマンダ様の誘いであっても、優先する相手を身分で選びませんので、お断りさせて頂きます」

毅然と振る舞うヴィクトリアのその言葉に「なにを、生意気な・・・」顔を赤くし怒りを露にするアマンダ


「素晴らしいね、その考え方」

突然、透き通るような声がし、皆がその声の方を見て一斉に固まる

声を掛けて来た男性は、太陽の貴公子アルフレドだった

周りの硬直している令嬢や、憧れの眼差しを向けて来る令嬢達を無視し、アルフレドはヴィクトリアの傍まで来ると

「派閥に囚われず、身分に関係なく、友人を選び大事にするなんて、まさにフェアレディそのものだ」

にっこりヴィクトリアに微笑む彼の美しさに「きゃあ」と歓喜の声を上げ悶絶する令嬢達


「アルフレド様・・・」

ヴィクトリアも、突然のアルフレド出現に驚いていると

「ヴィクトリアが先日の夜会で泣いていたと聞いてね・・・とても心配していたんだ」

アルフレドは冷やかに、ヴィクトリアに絡んでいた公爵令嬢のアマンダに視線を向けると、アマンダは先程の怒りなど消えて、真っ青に固まっている


「どこかの公爵令嬢にでも、嫌がらせをされた?」

ヴィクトリアに尋ねるよう首を傾げる彼に、ビクッとするアマンダ

「いえ、そうじゃないんですが。でも、ご心配掛けたみたいで申し訳ないです」

ヴィクトリアはどうしてアルフレドが自分の泣いた事を知っているのだろう?彼に知られるほど噂になっているのか?と恥ずかしく思う

アルフレドは常にヴィクトリアの事を気に掛けているからで、ルシフェルがこの夜会に参加する事を知り、ヴィクトリアに会う為にわざわざ嫌いな社交の場に顔を出したのだ


「もし、公爵令嬢や他の貴族達に何か不愉快な目に遭わされたら、俺に教えてくれるかな?」

アルフレドはジロッとアマンダに冷たい目を向け「私が自ら、制裁を与えるから」その言葉に、アルフレドとヴィクトリアを興味津々で見ていた周りの貴族達は一斉にゾクッと身体を強張らせ、アマンダは恐怖で凍りつく

「いえ、そんな事は・・・アルフレド様も、この夜会に来られていたのですね」

アルフレドはヴィクトリアに優しく笑って

「ヴィクトリアに会いたくてね。この夜会に参加する事を知って・・・わざわざ来た甲斐があったよ」


怒りを露にルシフェルが自分達の方へ向かってく来るのをアルフレドは確認し、ヴィクトリアの手の甲にキスをすると

「それじゃあ、これで。俺の愛しいヴィクトリア」

そう耳元近くで囁くので「ん」彼の息が耳に当たり、顔を赤くするヴィクトリア

耳を触り恥ずかしそうにする彼女を名残惜しく思いながら、傍に駆け寄って来るルシフェルに「二度と彼女が泣く事の無い様、気を付けて欲しいね」冷やかな目を向ける

ルシフェルも『ヴィクトリアに近づくな!!』という眼で睨み返すので、その二人の遣り取りを見てティナは思った

ヴィクトリアは『二人の間は険悪じゃ無い』と言っていたが(・・・物凄く険悪じゃない)


「ヴィクトリア、大丈夫だったか?」

心配そうに尋ねてくるルシフェルにヴィクトリアは思わず抱きつくので、その瞬間周りの貴族達がざわつく

男性貴族の殺気立った眼と、その羨まし過ぎるポジションを変わってくれとの羨望の眼差しを一身に受けるルシフェル

「ええ、ルシフェルのお陰で」

「そうか」

ヴィクトリアが嬉しそうに答えるので、ルシフェルはホッとする

そんな二人の姿をチラッと見ながら、アルフレドはそのまま帰って行く


ヴィクトリアに抱きしめられながら、ルシフェルは「ラストダンスを踊って帰ろう」とダンスに誘う

そんな二人の遣り取りを見て、夜会でパートナーと抱きしめ合ってからラストダンスを踊る事が流行る

ダンスを踊りながらルシフェルは、アルフレドがヴィクトリアに囁いた言葉に不安を感じる

アルフレドはわざとルシフェルに聞こえるように『俺の愛しいヴィクトリア』と囁いたのだ


(ウェンヴィッツはヴィクトリアに、はっきり愛おしいとそう言った・・・)

言われたヴィクトリアはどう思っているのだろうか?心がザワつき自分に微笑んでいる愛しい婚約者に思い切って尋ねる

「・・・ヴィクトリア、さっきウェンヴィッツ公爵が言った事だが・・・どう思った?」

もしかして『嬉しいです』そう正直に答えるだろうか?内心穏やかでないルシフェルに、ヴィクトリアはキョトンとして

「アルフレド様が言った事ですか?」

ヴィクトリアは何だろう?という様に考えながら

「嫌な事をされたら、制裁を与えると言われたので・・・正直、そこまでして貰わなくてもと、思いました」

「はっ?」


ルシフェルはヴィクトリアの返答に困惑しながら

「いや・・・愛しいと言われただろう?」

話しが通じていないと思い、そう聞き返すとヴィクトリアは「ああ」と溜息とを吐く

「愛しいだなんて言って、からかっただけですよ?トーマス様も可愛い可愛いと、からかうじゃないですか」

流石にルシフェルもその言葉に凍りつく・・・まさかアルフレドの告白が、トーマスと同じレベルの扱いとは


「・・・ヴィクトリア、俺がどれだけ愛しているか判っているのか?」

余りの鈍感な彼女に、自分の愛情まで判っていないのでは?と不安になるルシフェル

(まだ嫌われていると思われていたら、泣くぞ)そう思いながら彼女を見る

「そ、それはもちろん・・・とても大事にしてくれてますから」

顔を赤くしながら頷く彼女に、心底ホッとするルシフェル

ヴィクトリアにとってはルシフェルが全てであり、他の男性の事は悲しい程に鈍感・・・というより無頓着なのだ


ダンスを終えティアノーズ邸へと帰路に着く馬車の中、ヴィクトリアはいつもの様にルシフェルに抱きしめられまがら

「ルシフェル・・・私が部屋に閉じ篭っていた間、いろいろと迷惑を掛けてごめんなさい」

アメニからルシフェルがランドルに怒られていた事を聞き、それから自分に何が遭ったのか色々と尽力を尽くしてくれた事も聞いた

「迷惑な事はないよ、ヴィクトリアの為だ」

そう言って笑い掛けてくれる彼に、ヴィクトリアはどれだけ感謝しているか

「ルシフェルが、私の婚約者で良かった」

心からそう思い、幸せそうに彼の胸に顔を埋めるヴィクトリアに、ルシフェルにとっても最高の言葉を告げて貰え

「俺も。ヴィクトリアが俺の婚約者で良かった」

愛おしそうに彼女の頭にキスをする



二日後、約束通りシルメラからの誕生パーティーの招待状がティアノーズ邸に届いた

「ああ、やっと来たわ!!」

嬉しそうに招待状を見つめる彼女に、アメニは「ヴィクトリア様がお待ちになっていた手紙とは、お友達からの招待状でしたか」心底ホッとしたように笑う

(そうですよね。ヴィクトリア様にはルシフェル様と言う、素敵な旦那様が居られますものね)頷くアメニ

まだ結婚していないが、すでにこの二人は屋敷内では夫婦認定なのだ


ヴィクトリアが自室に篭った時は屋敷全体が暗くなってしまったが、またこうして明るいティアノーズ邸に戻り、使用人達は心から安堵する・・・そしてますます、屋敷の温度も上昇していく

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