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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
19/66

    友情と選択と悪女(2)

ヴィクトリアに一人の伯爵令嬢がニッコリと笑って声を掛けてくる

栗毛に涼しげな瞳をした綺麗な女性で「私、マリーヌ・バレイスターと申します」優雅に挨拶をする彼女に、ヴィクトリアも「こんばんは、マリーヌ様」笑顔で返すと彼女は得意げに

「私この度、この夜会の主催者であるディストノーズ侯爵様の嫡男、アシュム様と婚約致しましたの」

「それは、おめでとうございます」

ヴィクトリアは微笑んで祝辞を述べると、周りの令嬢達も「おめでとう」と祝福する

伯爵の令嬢が、侯爵の嫡男と婚約する・・・それは誰もが憧れる玉の輿だ


「ありがとうございます」

マリーヌはにこやかにヴィクトリアの傍に来ると「それで、ヴィクトリア様にお願いがありまして」羨ましそうにしている周りの伯爵令嬢達を得意げに見回し

「今後、私も侯爵婦人としての心得など、いろいろ学びたいと思いまして。ヴィクトリア様にご教授戴ければ、嬉しいですわ」

「えっ?」

困惑するヴィクトリア

「生粋の侯爵夫人の方々にとっては、私の様な婚姻を交わして侯爵夫人になる者を目障りに思うかも知れませんが、どうかよろしくお願い致しますわ」

含みのあるマリーヌの言い方に「ご教授も何も・・・私はまだ令嬢ですので・・」何を言ってるの?と、ますます困惑するヴィクトリア


「そうですわね。でもいずれは侯爵夫人となられるのですもの、その立場に相応しい貴婦人として振舞って行く為には・・・」

周りの令嬢達を見下す様に「ご友人は、選ばなければいけないと思いますわ」ヴィクトリアに言い聞かす様に

「ここに居るのは、伯爵や子爵の令嬢ばかりでしょう?これから私達が付き合っていかなければいけないのは」

離れた場所で自分達の様子を伺っている、公爵、侯爵の派閥の令嬢達に目を向ける

「あそこに居られる方々との、交友ですわ」

彼女の視線にヴィクトリアも上位派閥の令嬢達を見ると、冷ややかに、軽蔑するかの様な眼で自分を見ている侯爵以上の令嬢達にビクッとするヴィクトリア


「ヴィクトリア様もいずれは侯爵夫人になられますもの、付き合う友人に間違いがあってはいけないわ。でないと将来、夫にも迷惑が掛かるというものですわよ?」

「えっ!?」

その言葉に驚きマリーヌを見るヴィクトリアに、マリーヌは諭す様に

「だってそうでしょう?妻が公爵夫人達を蔑ろにし、伯爵婦人なんかとしか付き合わないなんて、夫には何のメリットも無いのですから」

クスクスと笑うと「伯爵夫人なんかとは、どういう事ですか?」それまで黙って聞いていたティナがマリーヌを睨む


ティナに睨まれてもマリーヌは動じず

「言葉通りだわ。私は侯爵夫人、貴方は伯爵夫人かしら?身分が違うと教えてあげてるのよ」

上から目線の物言いに、ティナはグッと我慢しながら

「・・・ヴィクトリアは身分で友達を選んだりしないわ、貴方とは違うの」

そうよね?とヴィクトリアを見るティナ

「ええ、そうよ。彼女もここに居る人達も、私の大切な友達です」

そう答えるヴィクトリアに、周りの伯爵令嬢達は少しホッとする様な表情をする


彼女達だって馬鹿ではない

マリーヌに対してさっきから何か不穏な感じがし不安を抱きながら様子を窺っているが、それはヴィクトリアも同じで、彼女に言われた事に心中穏やかではない

(ティナもここに居る皆も大事な友達なのは本当・・・でも、もし彼女達との付き合いでルシフェルに迷惑が掛かったら?)

それが何より怖かった


「何をしているの?」

ヴィクトリアとマリーナの遣り取りに、ヴィクトリアに負けない位美しいが目付きのキツイ艶やか美女が、不愉快そうに口を挟んで来る

「ジュ、ジュリアンヌ様・・・その・・」

ジュリアンヌと呼ばれたその女性は腹立たしげにマリーナを睨み付けるので、睨まれたマリーナは震えながら俯く

そんなマリーナからジュリアンヌは視線を外し、ヴィクトリアを一瞥し

「ヴィクトリア。貴方、記憶を無くしたらしいけど随分変わったわね」

小馬鹿にする様に笑う

彼女はジュリアンヌ・ヴァレイノーズ侯爵令嬢で、藍色の髪に黒い瞳の妖艶な美女だ


不安そうにジュリアンヌを見るヴィクトリアに「以前の貴方なら、こんな伯爵令嬢達など歯牙にも掛けなかったのに」煩わしいったらない、そんな表情で

「貴方を呼んで来る様にと言われたわ。公爵の令嬢達はお怒りよ、意味は判るわよね?」

チラッと俯いているマリーヌを睨み「役立たずと」と罵る


どうやら公爵令嬢の誰かがマリーヌにヴィクトリアを呼んで来る様命じたが、ヴィクトリアが来なかったので今度はジュリアンヌが呼びに来たのだろう

ヴィクトリアはどう断るかを考える

(どうしよう・・・向こうに行くのは怖い)

けれど自分より身分が上の公爵令嬢達が、自分を呼んでいるみたいだ

(行くのは嫌だけど、でも行かない訳にはいかないのかしら・・・?)

「・・・ヴィクトリア、大丈夫?」

心配そうにヴィクトリアに聞いてくるティナに

「貴方、伯爵令嬢の分際で格上の侯爵に向かって呼び捨てとは無礼にも程があるわ!!立場を弁えなさいっ!!」

そう叱責しティナを睨みつけるジュリアンヌは、綺麗な顔立ちだからこそ迫力がある


だがティナも負けていない

「そうですね、場所は弁えますわ。でも、ヴィクトリアは構わないと思いますけど?」

フンッという感じで、そうよね?とヴィクトリアに目で確認すると、ヴィクトリアは頷くだけだ

それを見て不愉快そうにジュリアンヌは「貴方の婚約者は伯爵子息よね?伯爵の身分から侯爵になるのは、とても大変でしょうね?」クスリと笑う彼女に、凍りつくヴィクトリア


「公爵様や侯爵を相手に、たかが伯爵出の彼がどこまで頑張れるのかしら?」

見物ね?と、まるでルシフェルを馬鹿にしている様でヴィクトリアは震える

「貴方が、これからも伯爵以下の身分の者としか付き合わないと言うなら、それでも構わないけど?それじゃあ公爵婦人達は黙ってないわよ?」

ジュリアンヌは、青褪めるヴィクトリアに追い討ちを掛ける様

「貴方はそれで良いでしょうけど、困るのは夫の・・・確かルシフェルとか言ったかしら?妻が上手く公爵夫人に取り入ってくれるとばかり思っているでしょうに、気の毒ね?」

意地悪そうに笑う


「愚かな妻は下位の者を友人とだと大事にして、大切にしなければいけない、上位の貴婦人達を蔑ろにする・・・そしてその報いは・・・可哀相に、夫が受ける事になるわね」

「やめて!!」

堪らずヴィクトリアが叫ぶと、ジュリアンヌは不適に笑い

「それじゃあ、どっちを取るか選んで頂戴」

彼女の選択は友情か婚約者かの二択だが、けれどヴィクトリアにとっては一択しかない・・・ルシフェルだ

「・・・そちらに、行きます」

それしか答えようが無く、ヴィクトリアが大人しくジュリアンヌと行こうとするのを見て「それじゃあ、さようなら。ヴィクトリア様!!」ティナはそう言うと、さっさとサロンを出て行く

ヴィクトリアは驚いてサロンから出て行く彼女を追い駆けると、ティナはトーマスの所へと向かっていた


トーマスはルシフェルと他の男性達と話していて、ティナは彼の手を取るとそのまま引っ張って帰って行く

その姿を見てヴィクトリアは彼女を怒らし、傷付けた事を後悔する

「ティナ!!」

謝ろうと彼女を呼び止めるがティナは振り返らずに帰ってしまい、トーマスもティナとヴィクトリアを困惑しながら交互に見ていたが、そのままティナと一緒に帰って行った


ルシフェルが自分の傍に駆け寄って来るが、ヴィクトリアは後悔で涙が零れる

泣き崩れる婚約者を心配しながら「一体に何が遭った!?」サロンから様子を見に出て来ていた令嬢達に尋ねるルシフェル

しかし伯爵令嬢達は無言で、チラッとヴィクトリアを一瞥するとそのままサロンに戻る

ジュリアンヌは二人がサロンから出て行ったので、フンッという感じでそのまま公爵令嬢達の居る派閥に戻って行き、マリーヌも彼女について行く


流石に女性専用室であるサロンにルシフェルは入れないので、泣き崩れるヴィクトリアに聞くしかないが、彼女は泣くだけで首を振って答えない

ヴィクトリアは心の何処かで思っていたのだ・・・ティナとルシフェル、二人を天秤にかけられた時、ルシフェルを選んでもティナなら許してくれると・・・けれどそれは、自分に都合のいい解釈だった

何故ならティナにしてみれば、ヴィクトリアは愛するルシフェルの為に自分との友情を捨てた・・・そういう事になるのだから

(ティナが怒って、当然だわ・・・)


帰路に着く馬車の中でルシフェルはずっとヴィクトリアを気遣い、一体何があった?と何度も尋ねるが

「私が悪いの・・・・私の所為で彼女を・・・ティナを傷つけてしまった・・・」

それしか答えず、屋敷に戻るとヴィクトリアは泣きながら「お願いだから一人にして・・・・」そう告げると自室に篭り、朝になっても出て来なかった


主人であるヴィクトリアが夜会から泣きながら帰って来た・・・当然の事だが、屋敷中は大騒ぎになる

(一体何があった!?)

使用人達がルシフェルを責める様に、いや問い詰める様な目を向けるが、何が遭ったのか一番知りたいのはルシフェルだ

彼はヴィクトリアの部屋の前に行き、開けてくれるよう頼み、アメニや他の使用人達も何度も声を掛けるが

「ごめんなさい、一人にしておいて」「放っておいて」

ヴィクトリアは泣きながらそう返すだけで、一向に出て来てくれない


ルシフェルを更に追い込んだのは、ランドルだった

「どういう事だ!?どうしてヴィクトリアが泣きながら帰って来る事になった!?」

顔を赤くし激昂する彼はルシフェルに怒鳴り付けるが、ルシフェルだって何が遭ったか判らないのだ

「友人と喧嘩した様です」

それしか答えられないルシフェルに、ランドルは

「その小娘を今すぐ連れて来い!!ヴィクトリアに謝らせろ!!」

そう喚くので、ルシフェルは「そんな事をさせたら、余計ヴィクトリアは傷付きます」と反対する

するとランドルは「明日は休みだ。この一件、明日までに解決しろ!!」と言い出す始末

(そんな無茶な!!)

とは思うが、ヴィクトリアが心配なのは確かなのでルシフェルは明日トーマスと共にティナに会う事にする

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