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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
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 14話 お茶会に行く悪女

ティナが開くお茶会の日

招待状を持ってドキドキしながらホレイスター家に着いたヴィクトリアは、メイドにオープンテラスへと案内される

すでに五人の令嬢がティナと楽しく話しをしていて、ティナはヴィクトリアの姿を見つけると

「ヴィクトリア、いらっしゃい」

笑顔で呼んでくれ、ヴィクトリアは緊張しながら傍に行く

先程まで楽しそうに話していたティナの友人五人は、ヴィクトリアが傍に来ると話しを止める


「ヴィクトリア、私の友人達よ」

ティナは一人ずつ紹介してくれる

「キャシー・コウドスター、マリーナ・シュルガスター、ディジーアナ・フェイスター、アナベル・ジルガスター、エルザベス・ディスガスト、学生時代からの友人なの」

紹介されヴィクトリアは「ヴィクトリア・ティアノーズです。よろしくお願いしますね」緊張しながら笑顔で挨拶すると、五人も笑顔で「こちらこそ、よろしくお願いしますね、ヴィクトリア様」以外にも好印象で挨拶してくれる

事前にティナがヴィクトリアの事を話していて、仲良くしてくれるよう頼んでいたのだ


オルテヴァールでは苗字で爵位が判別出来る様になっていて、公爵は苗字の最後にヴィッツが付き、侯爵はノーズ、伯爵はスター、子爵はガストを最後に付き、男爵だけ指定が無い


オープンテラスには飲み物や焼き菓子が沢山用意されていたので、ヴィクトリアはティナに「まだ、他にも誰か来るの?」と尋ねるとティナは頷き

「ええ、沢山来るわ。これはお茶会と言う名の、人脈作りだから。貴方が居ると、眼の色変えて取り入ろうとする伯爵令嬢も居るでしょう」

「えっ?」

不安そうな表情でティナを見る彼女に

「大丈夫よ。じっくりと付き合えば、相手の人となりが判ってくるもの。その時に自分がその相手と、これからどう接するかを決めればいいの。初めから相手の事が判る訳ないんだから」

ティナの大人のアドバイスに、感心するヴィクトリア

友人は大勢居る方が良いに決まっているが、友情を持続させる為の付き合いや気配り等、とても大変で面倒でもあるので、なるべく気の合う友人達と付き合って行きたい


暫くすると本当に大勢の令嬢達が集まり、ティナは招待客への挨拶に忙しくする

(ドキドキする・・・不安だけど、がんばってここに居る人達に少しでも好印象を持って貰いたい)

自分はもう、悪女ヴィクトリアではないのだと、それを解かって貰えたらティナの様な素敵な友達が出来る・・・ヴィクトリアはそう期待している


「あの、ヴィクトリア様」

恐る恐るヴィクトリアに声を掛ける三人の令嬢が現れ、周りの令嬢達は彼女達とヴィクトリアに視線を向ける

皆、ヴィクトリアを意識していたが、なかなか声を掛け辛かったのだ

声を掛けて来たのは、シルメラ・キュアリスター伯爵令嬢だった

「初めまして、私はシルメラ・キュアリスターでございます」

銀髪の長い髪がサラッと靡く、綺麗な令嬢だった

「初めまして、シルメラ様」

優しく微笑みシルメラに挨拶するが、内心はドキドキだった


(どうしよう・・声を掛けて貰えたのは嬉しいけど・・・)

するとどよめきが起こりヴィクトリアは(何事!)と周りを見ると、ティナを含め皆が自分達を見ている


因みに先程のどよめきは微笑んだヴィクトリアがあまりにも綺麗だったからと、格下のシルメラに様を付けたからで、悪女ヴィクトリアなら絶対にしない

「あの、こちらはユアナ・オウガストです」

紹介され、赤毛の女性が恐る恐る頭を下げる

「よ、よろしくお願い致します。ユアナ・オウガストです」

「よろしくお願いしますね、ユアナ様」

彼女にも微笑み掛け、その笑顔に見惚れ顔を赤くするユアナ


「それから、彼女が・・・」

シルメラが最後の一人を紹介しようとして「あの・・」とヴィクトリアがユアナに

「オウガストと言うと、もしかしてカレン・オウガストを知ってるかしら?」

「はい、知っています。彼女とは従姉妹なんです。実はカレンから、ヴィクトリア様の事を聞いていたので、ここでお会い出来たのも縁のような感じがしたので・・」

カレンの事を尋ねられ嬉しそうにそう答えると、シルメラに目を遣ると「ですから、まず私が声を掛けさせて貰ったのです」ニッコリ笑いシルメラが説明する


この国の貴族での行動やマナーは、全てにおいて上位の身分が優先される

目上の爵位の者に数名で声を掛ける時、声掛けは爵位が一番上の立場の者と決まっている

彼女達の場合は三人の中で伯爵令嬢であるシルメラが一番上の爵位だった為、子爵令嬢のユアナではなくシルメラが最初にヴィクトリアに声を掛けた

この国の貴族のマナーは、とても面倒くさい


「そう、声を掛けてくれて嬉しいわ。これから彼女がティアノーズに来てくれる事になっているから、とても楽しみにしているのよ」

「ええ、カレンも夢のようだと言ってました」

ユアナもカレンが嬉しそうにしていると伝えると

「ヴィクトリア様、彼女はアリメラ・ジルクガストです」

シルメラが最後の一人を紹介し、アリメラは茶色い髪を一つに括った大人しそうな女性で

「ア、アリメラ・ジルクガストです・・よろしくお願いします、ヴィクトリア様」

顔を赤らめながら挨拶する彼女は、どこかアメニに似ていると思うヴィクトリアは「こちらこそ、よろしくお願いしますね。アリメラ様」ニッコリと微笑む彼女に、三人は不快にさせなかったと心底ホッとした


伯爵令嬢はシルメラだけであとの二人は子爵の三人だが、令嬢同士といっても派閥がある

身分での派閥は公爵と侯爵の上位貴族、伯爵と子爵と男爵の下位貴族に分かれている・・・そして公爵令嬢の派閥もあり、侯爵や伯爵だけでなく子爵の令嬢も、公爵令嬢の取り巻きになる事を重要視している

ただ派閥でのマナーでは幾ら公爵令嬢の派閥に入っているとしても、身分の低い子爵は気安く公爵と侯爵の令嬢と口を利く事は許されず、彼女達の世話をする役割として控えている立場で、それに比べて伯爵令嬢はまだ対等ではいられるが、それでも取り巻きとして、公爵と侯爵の令嬢の機嫌を常に伺わなければならない


可哀相なのは使用人扱いされる子爵令嬢で、それでも公爵令嬢の派閥に入るのは殆どが立場の弱い家の為と自分達の地位向上のため

子爵の身分で公爵令嬢の取り巻きになれるのは、ほんの一握りだけ(気位の高い公爵令嬢は、子爵令嬢を取り巻きに置きたがらないから)運が良いのか?公爵の取り巻きに選ばれた子爵令嬢は嫌われない様、気に入られ様にと必死に仕える

権力主義のオルテヴァールは身分によっての差別など当たり前なのだが、もちろん貴族の中には身分を気にしない上位貴族達も少なからず居るのだけど


このティナのお茶会も、侯爵令嬢はヴィクトリアの他に誰も居ない・・・侯爵は上位派閥だから

本来ならヴィクトリアが友達を作らなければならないのは、公爵と侯爵の令嬢なのだがその術がまだない

上位貴族の令嬢達から招待状は来ているのだけど、ヴィクトリアは知らない令嬢の誘いを受ける勇気がまだない



ヴィクトリアと三人が楽しそうに話しをしているのを見て、他の令嬢達もここぞとばかりに挨拶をしてくるので、その度にヴィクトリアは嬉しそうに笑顔で答え、安心感を与える

そしてお茶会が盛り上がっていた頃、一人の令嬢が調子に乗って「アルフレド様との恋はどうなんですか?」と聞いてきた

その場に居た令嬢達は誰もが気になっていて、ヴィクトリアに興味津々の目を向けてくる

ヴィクトリアは困った顔をして

「アルフレド様とは友達です。噂では、私との事で婚約者のルシフェルと険悪だったというけれど、そんな事はないのよ」

(あまり仲良くもないようだけど)

言葉を選びながらヴィクトリアは「なので、あまりその、二人について悪い噂が流れているのは困るわ」ルシフェルの立場だってあるのだ


「でも、噂ではアルフレド様はとても素敵な方なのでしょう?気持ちが揺らいだりしませんか?」

アルフレドを見た事はないが噂と名前だけは知っているその令嬢は、きっと素敵な人だろうとドキドキしながら尋ねる

皆も目を輝かせ、期待するような瞳をヴィクトリアに向けるが、彼女達はただ面白がっているだけで悪気はないのだろう

それ程の素敵な人が近くに居れば、婚約者が居てもときめかない訳がない・・・そう思っているのだ


ヴィクトリアは溜息を吐いて

「確かにアルフレド様は素敵な方だけど」

「きゃあっ」

と、きめきの悲鳴を上げる何人かの令嬢を無視し「私はルシフェルを愛しているので。彼を傷付ける事はしないし、したくないの」そう断言し

「だから、私達とアルフレド様との事で根も葉もない噂を流されて、二人の立場や名誉が傷付くのは困るわ」

悲しそうに笑って見せると、ヴィクトリアのその表情に令嬢達は少しはしゃぎ過ぎたと思い、その話しはそこで終わった


ヴィクトリアが下位の身分である自分達に気さくに話しをしてくれるので、令嬢達は彼女のイメージ、見方が変わる

悪女だった時はただただ怖い存在、決して近づいてはいけない相手だった

常に男性との噂が絶えず、それを楽しんでいた彼女と、今、目の前で優しく笑っている彼女を同一人物とは誰も思わない

(彼女は記憶を無くして、人格が変わった。そう、別人に変わったみたい)

ここに居る誰もがそう思う


ティナが開いてくれたお茶会のお陰でこの場に居る令嬢達の殆どがヴィクトリアに好意を持ってくれたようで、ヴィクトリアとしても楽しい一時を過ごせた

(これなら、大切な友達を作っていける。困った時に相談に乗ってくれる、手を差し伸べてくれる、そんな大切な友達)

その友達が誰なのか、ヴィクトリアはドキドキしながら早く見つけたいと思う


ティナが開いてくれたお茶会は、ヴィクトリアにとって大成功だった

彼女達は今後、誰もヴィクトリアを悪女と思わないし、もし悪い噂を聞いたらきっと訂正してくれるだろう

『今の、ヴィクトリア・ティアノーズ様はとても優しい方よ』と

しかし、伯爵以下の令嬢達とのお茶会、伯爵家の夜会にヴィクトリアが現れた噂は、公爵、侯爵の令嬢達の耳にも入り、その事でヴィクトリアを巡って令嬢達による一騒動が起こる事になってしまう


「ティナ、今日は本当にありがとう。とても楽しかったわ」

ヴィクトリアは心から感謝し、ティナにお礼を言うと

「貴方が頑張ったからよ。これから沢山の友達が出来るかどうかは、貴方次第だからね?」

本当の友達は、誰かのお膳立てでなく自分自身で友情を築いて紡いでいかなければならないのだ

ヴィクトリアは「頑張る」と笑って答える

(これからの夜会やお茶会の誘いには、今日仲良くなった人達からの招待状が届くかしら?)

ドキドキしながら期待するが、ヴィクトリアは甘かった


今日集まった令嬢は皆伯爵以下、下位の派閥の令嬢だ

伯爵令嬢ですら侯爵令嬢のヴィクトリアに招待状を送るのに、派閥が違う為勇気がいる

身分での上下関係の在り方は、幼い頃から親に徹底して教え込まれる・・・そして子爵、男爵の地位はとても低い

そしてその上下関係の差別は、男性社会よりも貴婦人、令嬢の方が根強く、特に貴婦人になると爵位の地位で得る権力に対し執着心が強くなり、権力の有る公爵夫人を神ように心酔する取り巻きの婦人達の姿がたまに見られる


記憶が無いとはいえ、ヴィクトリアも下位と上位の派閥の事は知っている

それでも、今日会った彼女達とは打ち解けられたと思ったのだ・・・けれど長年培われてきた悪しき制度は、若い令嬢達に大きな壁となって立ちはだかる

つまり

『ヴィクトリア様は良い人みたいだけど、流石に侯爵令嬢様をお茶会に誘う勇気など持てない』

それが彼女達の本音・・・そこまでまだ、本当の友達にはなれていないのだ

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