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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
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 13話 友人とお茶をする悪女

アルバノーズ侯爵の夜会以来、ヴィクトリアの元に次々と夜会やお茶会の招待状が届く様になるが、ヴィクトリアはその招待状が脅迫の類ではないか?とトラウマになっていて、不安で中を確認出来ないでいる

執事のドルフェスは

「封筒にはきちんと差出人が書かれておりますし、なにより封に家紋の印が押してあります。大丈夫でございますよ」

脅迫状にそんな事をする馬鹿は居ないと断言して、山ほどの招待状を彼女の部屋の机に置く


「・・・これ全部、私を招待してくれてる人達からなのよね?」

ヴィクトリアには記憶が無いのだから当然だが、送り主は知らない名前ばかりだ

「これを・・・どうしろというの?」

手紙の送り主を確認しながら、途方に暮れるヴィクトリアにアメニが

「ルシフェル様に相談されてみては?」

「そうね、それしかないわよね。私では処理出来ないわ」

(ルシフェルが帰って来たら、相談しよう・・・)

机の山積みにされてある知らない人達からの招待状を見ながら(・・どうしよう)と憂鬱になる



夕方過ぎにルシフェルが仕事から帰って来ると、ヴィクトリアは届いた招待状の事を相談する

「疲れているのに本当にごめんなさい。でも、私ではどうしたら良いのか」

「構わないよ」

ルシフェルはヴィクトリアの部屋に山積みにされている招待状を見ながら「これか」と黙々と選別しだした

凄い速さで選別しているその姿にヴィクトリアは(すごい・・・)と感心しながら見守る


招待状の選別をしていたルシフェルが、ヴィクトリアに「招待状の中を見ても良いかな?」と聞いてくるので、一瞬構わないと答えそうになり、以前の手紙の内容を思い出す

「それは、一応私に送られて来た招待状なので・・・あ、相手にも悪いので、ちょっと、見ないで欲しいです」

脅迫状では無いとドルフェスに言われても、万が一手紙にまた寝取ったなどの文章が書かれていたら、それをルシフェルに読まれるのは絶対に嫌だった


「そうか」

ヴィクトリアが嫌がるのでルシフェルは選別した招待状、六通をそのまま彼女に渡す

「その招待状が、夜会への誘いだったら捨てて。お茶の誘いだったら、ティナに相談するといい」

ルシフェルが招待状の中を見たかったのはそれを確認する為だったのだが、ヴィクトリアは頷き(頼りになる)そう思いながら

「ありがとうございます」

ルシフェルのこめかみにお礼のキスをすると「どうせなら唇の方が良いんだけど」そう言うと抱きしめヴィクトリアにキスを返す


「あと、これは燃やして・・俺からドルフェスに渡しておく」

残りの大量の招待状にルシフェルは不快感を露にするので、その手紙の送り主を見てみると男性の名前ばかりだった

(なるほど)と納得したが、ふと

「・・・女性の名前のもありますよ?」

燃やされる招待状の中に、女性の名前を幾つか見つけるヴィクトリア


不思議そうにルシフェルを見ると「・・・君は目敏いな」苦笑し

「学生時代の時に、俺に好意を持ってくれてた女性ヒト達からのなんだよ。行きたくはないだろう?」

オルテヴァール王国では十歳から貴族の子供は男女別で四年間学園で勉強するが、十四歳からの四年間は男女共学の学園に通う

ルシフェルはその共学の時に親しかった、好意を持たれていた令嬢達の事を言っているのだ


「ルシフェルはモテるものね」

自分の事を棚に上げ不安そうに言うと「ヴィクトリア程ではないけどね」自覚を持ってくれと言わんばかりに言い返すルシフェル

ふとヴィクトリアは、知ってる名前を燃やされる招待状の中から見つけ「これっ!!トーマス様からじゃないですか!?」驚く彼女に彼は冷たく

「燃やしていい」

「駄目ですよ!!もう、私が見つけてから良かったけど」


ルシフェルを責めるように「彼は私の数少ない、大事な友達なんです。邪気にしないで下さい」そう訴えるので、ルシフェルは溜息を吐く

「とっくに期限は過ぎてるよ。夜会は先日あったんだ」

「どうして教えてくれなかったんですか!?」

「忙しかったから」

彼の都合が付かなければ、夜会へは行けない


納得するヴィクトリアは「後でお詫びの手紙を出します」とルシフェルを抱きしめ

「お疲れ様です」

そう労うと、ルシフェルは複雑な気持ちで

(どうしてあいつは、いつも変に人の心を掴むんだろうな?)

愛する婚約者が、自分の友人を気に入っている・・・その事実に納得のいかないルシフェル



ヴィクトリアは早速ティナと連絡を取り合い、彼女をティアノーズ邸へと招待する

使用人達は記憶を無くしてからのヴィクトリアの初めての友達が来るという事で、張り切っておもてなしの準備をする

「ティナの好きなものは何かしら?好物を聞いておけば良かった」

ヴィクトリアもそわそわしている


悲しい事にティアノーズ邸を訪れる客人は滅多に居らず、そもそもランドルが人を呼びたがらず、悪女ヴィクトリアも今まで令嬢を屋敷に呼んだ事は無かった

婚約者のルシフェルですら、悪女ヴィクトリアに会いに来る事がなかった(一度義理で会いに来た時、門前払いされた)

客人慣れしている使用人なら急なおもてなしであっても卒なくこなせるが、悲しいかな、ティアノーズの使用人達は慌てふためいている

「ヴィクトリア様の大切なお客人様。ご友人の方が来られるのです、粗相の無い様に」

メイド長もピリピリしている


本当にティアノーズの屋敷は、ヴィクトリアが記憶を無くした時から変わった

主であるランドルが娘を溺愛してるのは相変わらずだが、使用人に対して小言を言わなくなった

なぜならヴィクトリアが止めて欲しいと頼んだから

主人であるランドルに直接叱れると皆恐怖で萎縮してしまう為に、使用人への注意はメイド長かドルフェルに伝え、彼等から使用人へ注意される事になった・・・使用人達へのヴィクトリアなりの配慮だ

お陰で使用人達にとっては、給料が破格な上とても働き易い仕事場となる

そしてティアノーズ邸の変化の極めつけは、ルシフェルが屋敷に住む事になり屋敷の温度が上昇した事は言うまでもない



昼過ぎに、ティアナベル・ホレイスターがティアノーズ邸へとやって来る

ティナにとっても、侯爵の屋敷に招待される事など滅多に無いのでドキドキしていた

身分第一主義のオルテヴァール国では、侯爵より上か下かで得られる特権がかなり違うので、あまりにも広大なティアノーズ邸を目の当たりにして(・・・オペラに、あの部屋を用意されるのも判るわ)馬車から大きな屋敷と敷地眺め納得する


屋敷に着いた時、メイドがすでに門で待機していてその事にも驚くティナ

ヴィクトリアは侯爵令嬢、自分は伯爵令嬢にすぎないのに、門の前でメイドが待機とは最高級のおもてなしである

メイドの案内で中庭に通されると、薔薇が施されたとても立派ガゼボが眼に入った

ガゼボは雨宿りの場所や日陰を提供する事が目的で、テーブルとイスなどを設けて休息や展望の場として使われる場所

中庭でのティータイムにはとても良いのだが、綺麗な形で維持するのが大変なのだ・・・折角立派なガゼボを立てても、雨風でドロドロに汚れてしまったガゼボはみっとも無く、景観が削がれるのでそれなら初めから無い方が良い


「わあ、素敵・・・・」

思わずティナが感嘆の声を上げるとメイド達はホッと嬉しそうな顔をし、ガゼボでヴィクトリアはティナが来るのを待っていたが彼女を見つけ嬉しそうに駆け寄る

「ティナ、今日は忙しい中わざわざ来て下さってありがとう」

「こちらこそ、お招き下さってありがとうございます」

お互い令嬢らしく挨拶する


テーブルにはすでに沢山のケーキやクッキー等の焼き菓子が用意されていて、それを見たティナは

「あら、お招きは私だけかと思ったわ。他には誰が来るの?」

席に着きながらヴィクトリアに尋ねると、ヴィクトリアは「いいえ、ティナだけよ」と答える

その言葉に「えっ?私だけ!?」思わず声が上がってしまった


その声に紅茶を入れていたメイドが驚きティナを見るが、ヴィクトリアも何?と驚く

「いや、だって・・私だけでこんなにもケーキや焼き菓子なんて必要ないでしょう?」

テーブルにこれでもかっという位に並べられているお菓子に

「こんなに・・食べられないわよ・・・」

ティナは目の前の食べ物を目の当たりにし、これが侯爵のもてなしか?と驚く・・・何もかも規格外なのだ


しかし、残念な事にそうではない

ただ単にティアノーズの使用人達はおもてなしに慣れてい為に、思いつく限り用意しただけに過ぎなかった

つまり、やり過ぎなのだが、ティナの反応にヴィクトリアは困ったように

「・・・ティナに喜んで貰おうと思っての事だから」

使用人達も、出来る限りのおもてなしをと張り切ってティナを迎えているのだ

「私は友達だから、そこまで気を遣ってくれなくても大丈夫なのに・・・」

ティナも、ここの使用人達が自分の為に気を遣って用意してくれている事は判るので、ヴィクトリアにありがとうとお礼を言う


お茶をしながら、ヴィクトリアは件の招待状をティナに見せる

「この三人に知り合いは居る?もし居たら、一緒に参加して欲しいのだけど」

渡された招待状は三通で、送り主を見てティナは

「私とは交友がない人達ね。そもそも私は、侯爵令嬢の方達との交友があまりないのよ・・・他の人はどうなの?同じ侯爵令嬢の誰かに相談してみたら?」

当たり前の提案をするティナに、ヴィクトリアは

「私はその、お友達が少ないので・・・トーマス様とティナ、それとアルフレド様だけなのよ。後は、騎士だったカレンね」

その言葉にグフッと紅茶で咽るティナ


「え・・・?」

アルフレドの名前が出た事も驚きだが「私達だけなの?」困ったように頷くヴィクトリアに、メイド達も心配そうに二人を見守る

「ええっ?だって夜会に顔を出しているでしょう?その時に他の令嬢と話したりするでしょう?」

「ずっとルシフェルの傍に居てるので、他の令嬢の方とは話した事がないわ」

ヴィクトリアがそう答えるので(ルシフェル様!!)ティナは『なんて事!!』という様に、目の前の友人を見る


本来、夜会とは交友を深める為の社交の場である

もちろんダンスや娯楽を楽しむ為でもあるが、貴族達がお互いの利益や思惑で友好を築く場所でもある

男性の場合は基本は友好関係を築く為の人付き合い、利益の為の人脈作り等を目的とし、貴婦人は派閥による有利な立ち位置を手に入れる為や、夫を出世させる為に上位貴族に媚を売ったりと画策する

令嬢は最近のドレスの流行や美容の情報収集、男女の色恋沙汰の噂話など少し低俗な行いもあるが、それらを楽しむ為に夜会に現れているのだ

ティナだって、夜会に行けば気の合う友人とおしゃべりをして楽しんでいる

常にトーマスの傍に居ないのはそれが理由なのだけど、ヴィクトリアはそれを全くしていない

ただルシフェルの傍に居て、彼と一緒に挨拶回りをするだけで終わっていたのだ


「・・・ヴィクトリア、それはかなりまずいわ」

深刻な表情でティナがそう告げると、不安な顔をするヴィクトリア

「貴方はいずれ候爵夫人になるのよ。もっと人脈を作って、自分の味方になってくれる友人を作らないと」

有象無象の貴族の中で生きていくのだ、いつまでも箱入り侯爵令嬢では居られない

「夫になるルシフェル様を支えるのも、貴方の大事な役目なのだから」

それを言われてヴィクトリアはハッとする

「ティナの言う通りだわ。私、いつもルシフェルに頼るだけで・・・自分でも、それでは駄目だと判っているのだけど」

どうしたら良いのかが、判らないのだ


本来なら母親が令嬢、貴婦人の心得を娘に教え込むのだが、ヴィクトリアには母親が居ない・・・親戚との付き合いも何故か全く無い

使用人達が救いの眼をティナに向ける(この令嬢ヒトに掛かっている!!)そう判っているのだ

(え?なんか訴えるような目で見られてるんですけど?)

ティナは使用人達の視線を感じながら


「いいわ!!取り敢えず、お茶会を開きましょう。お膳立ては私がするから。友人や、知り合いを招待するから、貴方は頑張ってそこで、出来るだけ多く友達を作るのよ?貴方の為に開くんだから」

ティナの提案に、ヴィクトリアは心底有り難かった

「ええ、もちろんよ。ありがとう、ティナ」

ティナの様な頼りになる友人を持った事がヴィクトリアには幸運だったが、ただ、ふと不安要素がある事を思い出す

「その、呼ぶ友達の事なんだけど・・・ミディアル様も呼ぶのかしら?」

ヴィクトリアが不安そうに尋ねると


「ミディアル?ミディアル・アンガストの事?いいえ、彼女は呼ばないわ。私はそんなに親しくないの。まあトーマスと、ルシフェル様の幼馴染だから、会った時位は少し話す位はするけど」

そう話し、少し言い及びながら

「ルシフェル様に対しての執着は凄いわね。まあ、彼女にとっては理想の王子様みたいだから、仕方がないんだろうけど・・・何かされたの?」

深刻な面持ちで聞いてくるので、ヴィクトリアは一瞬戸惑うが「・・・大した事ではないんだけど、今後気を付けようと思って」その言葉に頷くティナ

「嫌な事があっても、助けてくれる友達が居れば心強いでしょう?だから、頑張って友達を作りなさい。ねっ?」

その言い方は、まるで姉が妹に言い聞かせるようだった


その後は色々とお互いに近況について楽しくおしゃべりが始まり、ティナは当然なぜアルフレドと友達になったのか経緯を興味津々で尋ねる

そして使用人達はティナに最高のおもてなしをするので「これじゃあ、太るわ」嘆くティナに、ヴィクトリアは心から感謝する

二人は楽しく過ごし

「それじゃあ、近いうちにお茶会を開くから」

ティナはそう約束し、沢山のお土産を抱えて嬉しそうに帰って行った



ヴィクトリアは帰宅したルシフェルに、今日のティナとの事を話していると

「・・・ウェンヴィッツ公爵が友達?」

顔を顰める彼に「はい、そう言ってくれたので」隠すと余計ややこしくなるだろうと、ヴィクトリアは正直に伝えた

(まずは友達からという事か?)

ムスッとしながら、油断のならないという表情をするルシフェル


「私、いつもルシフェルに頼ってばかりなので、これからはもっと頑張って、貴方に頼られるようにします」

そう伝えてくるヴィクトリアに、ルシフェルは笑って「ヴィクトリアはいつも頑張ってるよ」愛しい婚約者を抱きしめる

アルフレドの存在は目障りだが、こうしてヴィクトリアは自分の傍に居てくれる

それが彼を安心させてはくれるが、同時に不安にもさせる

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