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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
14/66

     太陽の貴公子と悪女(2)

突如現れた容姿端麗な青年に群がって来る男達から助けて貰い、ヴィクトリアは顔を赤くしながらも優しく穏やかな笑みを自分に向けれくれる彼に(この人は一体何者なのだろう・・・?)と思う

(ルシフェル様の笑顔も素敵だけど、この人の笑顔は何て言うんだろう、吸い込まれそうな感じ・・・?それに輝きが違う・・光のオーラを感じる)

彼の周りだけ一際輝きを放っている、そうヴィクトリアは感じドキドキする

それにルシフェルと居た時は男達が寄って来たが、彼には誰も近づいて来ない・・・それも不思議でならなかった


「随分感じが違いますね。優しい穏やかな雰囲気で、まるで別人の様だ」

興味深げにそう言われ、ヴィクトリアは驚いて

「私を知っているの・・・でしょうね」

知っているのですか?と聞こうとして止めたのは、悪女の時と比べられたからだ


(この人も、私の事を嫌っているのかしら?)

顔を曇らせる彼女の表情を見て

「私はアルフレド・ウェンヴィッツ。よろしく、ヴィクトリア嬢」

美声で挨拶をしてくる彼にのその笑顔に、ドキッとしながらヴィクトリアは思わず顔を赤くする

(うわぁ、なんて綺麗な笑顔・・・お、男の人なのに、美人って言うのは可笑しいけど・・・)

周りでは令嬢達から感嘆の声やどよめきが起こる


ヴィクトリアは顔を赤くしなが「あ、あの、よろしくお願いします、ウェンヴィッツ公爵様」恥ずかしそうに言うと、彼は笑って頷く

彼の気遣いや穏やかな話し方、爽やかでスマートな笑顔に凛とした優雅な佇まい・・・全てにおいて、ヴィクトリアは素敵だと思った

金の髪にオレンジの瞳を持つ、見目麗しく輝くオーラを放つ彼は貴族の社交界の間で『太陽の貴公子』そう呼ばれている


「先程は助けて下さって、本当にありがとうございました・・・凄く怖かったので、どうしようかと・・・」

ヴィクトリアは先程の恐怖を思い出し、涙目になっている

そんな彼女を見て

(・・・以前に何度か見かけた時とは本当に随分雰囲気が違う・・・記憶を無くしているらしいが、それでも・・・)

記憶を無くす前の悪女ヴィクトリアを知っているアルフレドにとって、今のヴィクトリアは容姿は同じでも全くの別人にしか見えない


「貴方が一人で夜会に来れば、彼等がエスコートしようとあんな風に群れがるのは仕方がない事ですよ。貴方が嫌がっていたから助けましたが、少し注意が足りないですね・・・ティアノーズ侯爵はよく貴方を一人で夜会に行かせてものだ」

アルフレドが責める様に忠告すると

「いえ、婚約者と一緒に来ているのですが、彼が主催者の方と大事な話しがあるので、サロンに行くよう言われたのですが・・・」

だがミディアルに捕まってしまい、あんな事になったのだ


(成る程・・・)

アルフレドは納得してヴィクトリアを見る

(確か、彼女の婚約相手は伯爵子息だったな・・・)

ルシフェルと悪女ヴィクトリアとの関係が最悪な事は、アルフレドも知っている


彼は滅多に社交の場に姿を見せないが、この夜会の主催者ゼオン・アルバノーズ侯爵とは旧知の仲なので義理で顔を出していた

そして男達に囲まれ、迫られ怯えているヴィクトリアを目撃し紳士として助けに入った

周囲の注目を浴びながら、二人は楽しそうに話しをする

妖艶な色気を漂わす美しいヴィクトリアと、見目麗しい容姿に輝くオーラを放つ太陽の貴公子と呼ばれているアルフレド

そんな二人が並ぶと誰もが「素晴らしくお似合いの二人だ」と、その場の貴族達は羨望の眼差しを向けて見守っている


ヴィクトリアの話しを聞きながら、優しい眼差しで見つめてくるルシフェル

そんな彼にドキドキしながらも、一生懸命カレンの事を話す

「それでですね、この前そのカレンが、見事にその泥棒を捕まえたんです」

嬉しそうに語ると「・・・泥棒をですか?」それを聞いてアルフレドはふと思い出す

一人の女騎士が、こそ泥を掴まえた事により任務放棄したと見なされ処罰されたのだ


「ええ、次の日の新聞にも載ったんですよ」

城下街では、民衆の力になった騎士としてカレンは賞賛された

「私、出来れば女性の騎士をもっと起用して欲しいと思っているんですが、なかなか難しいみたいなのです。アルフレド様はどう思われますか?」

アルフレドから名前で呼ぶ様に言われ程、ヴィクトリアは彼に好感を持たれドキドキしながら尋ねる


「そうですね。はっきり言いますが、女性の騎士の需要はあまり無いですね」

アルフレドからもあまり言い返事を貰えず、ヴィクトリアはがっかりした

何となく、彼なら女性の立場を少しでも考えてくれるのでは?と思ったからだ

「でも、騎士になる女性が増えれば、また状況は変わって来るかもしれませんね」

なので、彼のその言葉に「本当ですか!?」思わず嬉しそうにアルフレドを見るヴィクトリアは、眼を輝かせる

屈託の無い子供の様なキラキラしたその瞳に、アルフレドは思わずドキッとする


「・・・ヴィクトリア?」

自分を呼ぶ声に、アルフレドを見ていたヴィクトリアは声のする方をに目を向ける

ルシフェルが驚いた表情で立ち竦んでいる

(どうしてヴィクトリアがウェンヴィッツと居る?しかも楽しそうに・・・・)

ルシフェルは愛する婚約者が、一番会わしたくなかった男と一緒に居るのを目の当たりにして不安に駆られる


「ルシフェル様」

ルシフェルの姿を見た瞬間、嬉しそうにヴィクトリアはルシフェルの方に駆け寄って行き、満面の笑顔を見せて心底ホッとした顔をする

「!!」

ヴィクトリアが自分に向けるその心底嬉しそうな笑顔を見て、ルシフェルは抱いていた不安が取り除かれ心が和んだ


「漸くお出ましか」

アルフレドは二人、いやルシフェルに近づき「君はもう少し、婚約者に対して気を付けるべきだな」そう、忠告する

驚いたルシフェルはヴィクトリアを見る

ヴィクトリアは困った顔をし、アルフレドに余計な事を言わないでと訴える様な目を向けるが、そんな彼女の表情を無視しアルフレドは「今の彼女の魅力なら、幾ら追い払っても虫が集ってくるだろう」そう言ってヴィクトリアを優しく見つめ

「彼女に虫が寄って来るのは仕方が無い事だけどね。彼女が大事なら、もっと気を付けてしっかり護ってあげないと」

仄めかす様に「・・・でないと、誰かに奪われてしまうよ?」ルシフェルの眼を真っ直ぐに見据え忠告し、その言葉に瞠目するルシフェル


アルフレドはヴィクトリアの首元に、指で弧を描く素振りを見せて

「私なら、彼女の首にウェンヴィッツの家紋が入った首飾りを付けさせ、虫が寄って来ない様にするね」

自分にはその権力チカラがあると、ルシフェルを挑発する

絶大な権力を持つウェンヴィッツ公爵の婚約者には、誰も手を出さない

アルフレドとヴィクトリアの傍に誰も近づかなかったのは、皆、彼が怖いからだ


「それなら、貴方の婚約者にそうして差し上げれば良い。ヴィクトリアが身につける事はありませんので」

ルシフェルはそうニッコリ笑うと、ヴィクトリアに「悪かったね、一人にして」と謝ってくるのでヴィクトリアは首を振り

「いえ、アルフレド様が助けてくれましたから」

その言葉にルシフェルは頷き「私の婚約者を助けて下さり、ありがとうございます。ウェンヴィッツ公爵」そうお礼を伝え、ヴィクトリアを抱きしめる


「いや、愚かな婚約者の代わりをしたまでだよ。アルガスター伯爵子息」

にっこりと笑い、ルシフェルに抱きしめられているヴィクトリアの顔に近づき

「先程のカレンについて大事な話があるのでね、近いうちにお会いしましょう」

そう優しく笑い掛ける彼の笑顔は、有無を言わせない様な圧があり、ヴィクトリアは顔を赤くしながら思わず頷いてしまう


彼女が頷いた事でアルフレドは承諾を得たと満足し、ルシフェルを見やり

「そう言う事だからアルガスター。私と会う彼女を問い詰めたり責める様な、みっとも無い事はしないでくれ」

身分は自分の方が上だからとルシフェルにわざと敬称を付けず、ヴィクトリアを庇う言い方をするアルフレドに、ルシフェルは無言のまま婚約者を連れて会場を後にする



ルシフェルとアルフレド、それにヴィクトリアの遣り取り、その一部始終を見ていたミディアルは腹立たしさに震えていた

アルバノーズ侯爵の夜会にルシフェルが行く事を知った彼女は、ヴィクトリアの元恋人だった侯爵に近づき、主催者である侯爵のパーティーに、たかが子爵令嬢では参加出来ないので彼に自分も夜会に参加出来る様、根回しをした

そしてルシフェルの眼を盗んで、彼女が一人になった時を狙い罠を仕掛けるつもりでいた

そして運良くその機会が訪れる・・・ルシフェルがヴィクトリアに、女性専用室に行くようにと傍を離れたのだ


(チャンスだ)

ミディアルはヴィクトリアに笑顔で近づき、彼女を専用室から離れるよう誘導し、そして今までの不満を彼女にぶつけてやると、彼女は顔を強張らせる

(いい気味だ)

ミディアルから離れようとする彼女を(逃がさない)そう思いながら叫ぶ

「何方かと踊ったら宜しいんじゃないですか!?」

それが合図だ


自分をこの夜会に連れて来てくれたヴィクトリアの元恋人、そして他にもあの女と仲の良かった男達が一斉に彼女に群がった・・・そしてその光景を見て、ミディアルはほくそ笑む

(今度こそ上手くいく。そのまま男共の餌食になれ!!)

恐ろしい事を心の中で叫びながら、嫌がり怯えるヴィクトリアの姿を見れてミディアルには小気味良かった


だが、そこにとんでもなく端正な顔立ちに輝くオーラを放った、思わず息を飲む美形の男性が現れた

(だれ!?)

子爵であるミディアルは、見知らぬその男性に一瞬で心奪われるが、それは彼女だけではない

その場に居た女性達全員が、彼に熱い視線を送り見つめている


そして今さっき、あの忌々しい女に群がっていた男達は何故か一斉に逃げて行き、そして泣きそうなあの女をよりによって彼は優しく微笑み掛けて助け出す様に連れて行く

(なによこれ!?何なのよ!!あの素敵な方が、どうしてあの女を助け、傍に居るの!?)

体中から怒りが溢れるのを感じるミディアル

(あの女っ!!ルシフェルが居るというのに、どうしてその人と楽しそうに話しをしてるの!?ふざけんなっ、その人から離れろ!!)

彼と楽しげに話しをしているヴィクトリアに、激しい憎悪と嫉妬の感情が込み上がる


そこへ漸くルシフェルが驚いた表情で現れた時、彼女はイラッとしながら

(来るのが遅い!!あの女があの方とどれだけ楽しそうにしていたか・・もっと早く来なさいよ!!)

最早ルシフェルに対する思い等どうでもいいかの様に悪態吐くミディアルに対し、愛する婚約者の姿に安堵し嬉しそうに駆け寄るヴィクトリア

そしてヴィクトリアを巡って婚約者と貴公子、かっこいい男性二人による牽制

見るに耐えない光景に、ミディアルはどうしていつもあの女が良い思いをするのか!?と怒りに満ち歯軋りをする

すでにルシフェルの事などどうでもいい、アルフレドの事しか眼中に無いというのに



ルシフェルとアルフレドの遣り取りを黙って見ていたヴィクトリアは、二人が自分の所為で険悪になっている事に気づいてはいた

ただその理由は判らなかったが、自分が怖い思いをした事でアルフレド也に、ルシフェルに気を付けるよう忠告してくれたのだろうと解釈する

実際は、ヴィクトリアを巡ってお互いに牽制し合っていたのだが


馬車の中でヴィクトリアは

「あ、あの。ごめんなさい。カレンの事で話しがあると言われて・・・」

ルシフェルが他の男性と話す事を嫌がるのは判っていて、アルフレドと会う約束をしてしまった事を謝る

ヴィクトリアは、自分を見るルシフェルの不機嫌な顔に不安を抱き「本当に、ごめんなさい」声を震わせながらもう一度ルシフェルに謝る


「・・・カレンと言うのは誰なんですか?」

知らない名前だが、女性だという事は判る・・・アルフレドが知っていて自分は知らない、その事に腹が立つルシフェル

「あ、カレンはいつも護衛に就いてくれている、女性の騎士です」

泣きそうになりながら、不機嫌なルシフェルに教え「・・・ルシフェル様、あの、アルフレド様と会うのは・・・駄目でしょうか?」不安げに尋ねる


機嫌の悪い彼を余計怒らせるのは判っているが、これはチャンスだと思うヴィクトリア

もしかしたら女性騎士が活躍出来る場が作れるかもしれないと、彼女は考えていた

アルフレドは女性騎士が増えれば、状況が変わるかもと進言してくれたから、その事を判って貰おうと一生懸命ルシフェルに話すので、彼は溜息混じりに「その為に会うの?」と尋ねると、頷くヴィクトリア


(ウェンヴィッツに好意を持っている訳ではなく、ただ純粋にカレンという騎士の為に・・・)

「・・・ウェンヴィッツ公爵の事をどう思う?」

思い切って単刀直入に聞くルシフェルに、ヴィクトリアは

「とても素敵な方だと思います。穏やかで、傍に居てくれた時も安心感みたいなのが感じられて、それにあの眼に見つめられるとドキドキします」

ヴィクトリアは正直に思った事を伝える

「・・・そうか」

(ウェンヴィッツ公爵・・・あの男が本気になれば、ヴィクトリアも夢中になるだろう・・・)

ルシフェルは(だから会わせたくなかったんだ)と、心の中で叫び頭を抱える


太陽の貴公子と呼ばれているアルフレドが、令嬢だけでなく貴婦人でさえ虜にしている事は誰もが知っている

しかも彼は今だ独身で婚約者も居ない為、虎視眈々とその座を狙っている令嬢は多い

そしてその一人が、悪女ヴィクトリアだった

彼女もまた、見目麗しく絶大な権力を持つアルフレドを人目も気にせず誘惑していたのだから

だが、アルフレドはそんな彼女に嫌悪を抱いて毛嫌いしていた

その事は上位貴族の間では有名で、ルシフェルも知っている

その彼が、今のヴィクトリアに好意を抱いている事にルシフェルの心がざわつく


「でも、私はルシフェル様が好きなので、嫉妬しなくても大丈夫です」

ヴィクトリアの言葉に「えっ?」と驚いて彼女を見る

ヴィクトリアはルシフェルが、アルフレドに嫉妬している事には気づいていた

「だって、ルシフェル様は嫉妬深いですから」

そう言うとにっこりと笑う


彼女のその愛らしい笑顔に「・・・ウェンヴィッツだけではないので」そう告げるとルシフェルは

「ヴィクトリアに言い寄って来る、男達全員にだ」

ヴィクトリアの唇に、自分の唇を激しく重ね

「・・・出来れば、貴方を誰の眼にも触れさせず、閉じ込めておきたいぐらいだ」

自分の婚約者がどれだけ男を魅了するか、嫌という程判ったルシフェル

あのアルフレドでさえ、ヴィクトリアに好意を持ったのだから

(でなければヴィクトリアに会う約束など、取り付けないだろう・・・油断のならない相手だ)

ルシフェルは自分の腕の中にいる、愛する婚約者を見て思う



後日談として、夜会で勃発したアルフレド公爵とルシフェル伯爵子息の、ヴィクトリアを巡っての恋のバトル(牽制)の噂が、途轍もない速さで広まった

「あのアルフレド公爵が、記憶を無くし、性格が真逆になったヴィクトリアのそのギャップの違いに心を奪われた!?」

「アルフレド様が、婚約者の居ない所でヴィクトリアを口説いていた」

「ヴィクトリアは、妖艶な色香を漂わせて男達を釘付けにしていた。やっぱり悪女のままなのでは?」

「アルフレド様とヴィクトリア様のツーショットは、とても絵になっていて見惚れる程だった。あの二人はお似合いだな」

「アルフレド様とルシフェル様では比べようも無いんじゃない?公爵様と伯爵子息だもの」

など、貴族達の様々な憶測の噂が流れ、当人達の気持ちを全く無視して社交の場で盛り上がる


恋の三角関係がどのような展開になるのか、無責任な貴族達は目が離せないと大いに盛り上がってしまい、三人にとっては・・・いや、ヴィクトリアとルシフェルにとっては迷惑極まりない噂だ

誤字の報告、ありがとうございました

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