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記憶を無くした悪女  作者: 浅海
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 10話 オペラを見に行く悪女(1)


「・・・ヴィクトリア様、本当にそのネックレスをして行かれるのですか?」

困ったようにアメニが尋ねる

「そうよ」

格式高いオペラを見に行くのだから、それなりの正装でなければ入場出来ない

もちろんヴィクトリアだってそれは心得ているから、黒に赤のラインが入ったシックなドレスを着て髪をアップにし、ルビーの髪留めと大人な雰囲気で仕上げているが・・・ネックレスが木彫りとは、流石にアメニも止める


「あら、この黒に虹色のネックレス、素敵じゃない?」

確かにドレスとネックレスは色的には合っている。悪くはない・・・でも、素材が木材だ

「それは・・・色合いはとても素敵ですけど・・・ドレスに木のネックレスは・・・このルビーのネックレスで統一された方が」

おずおずとルビーのネックレスを差し出す


ヴィクトリアは胸元で虹色に輝いている木彫りのネックレスを手に取り、鏡で自分の姿を確認する

「駄目かしら?とても素敵だと思うのだけど」

アメニは困ってしまう

(そのネックレス、ルシフェル様が初めてヴィクトリア様に買って下さった物ですから、身に付けたいのは判りますが・・・ルシフェル様、どうして木彫りなんでしょか?もっと他に、高価な宝石とは言わなくても・・・何故それなりの物を買った下さらなかったのかしら?)

そのネックレスの購入に至った経緯を知らないアメニは、ルシフェルの行動が理解出来なかった


「まあ、いいわ。駄目だと注意されたら外すだけだから」

「そう・・ですか」

(ヴィクトリア様は何をつけても素敵に見えるから良いですが)

そう思い主人の姿を改めて見直す・・・ヴィクトリアは美貌に一段と輝きが増した感じがし、妙に色っぽかった

「何だか、いつもと雰囲気が違うように思います」

アメニやメイド達はホウッと、妖艶な色気を漂わす美しい主人に見惚れる


実際、ヴィクトリアは少女コドモから女性オトナへと変わった事は事実だ

ルシフェルと愛し合った時、実はヴィクトリアはまだ処女だった

その事を知ってルシフェルは驚いたが、自分が彼女の初めての男だと知った時は大いに喜こび、ヴィクトリアも心底安堵した


気位の高い悪女ヴィクトリアはまだ十九歳だった事もあってか、異性とは遊ぶが身体の関係までは持ちたくなかった様で、けれど男達の方は見栄もあり、男女の関係にあると嘘を吐き悪女ヴィクトリアもまた否定しなかった

ルシフェルに愛され、大人の色気が出て来たヴィクトリアは一段と色っぽくなり、より美貌に磨きが掛かる


二日前、ルシフェルと一晩過ごしたヴィクトリアは幸せな心地で朝を迎える

その日に帰るつもりだったがルシフェルがもう一晩一緒に過ごそうと甘えて来るので、もう一晩泊まる事にして彼が仕事に行くのを見送る

次の日も

「ティナとの約束も、ここから出掛ければ良いだろう?必要な物は取りに戻るか、持って来て貰えば良い」

帰るのを引き止めるルシフェルに、ヴィクトリアは流石に帰らないとと困った様にそう告げると「俺と離れて平気なのか?」ルシフェルの試すような眼差しに揺らぎそうになる

けれど自分が居るとルシフェルは、仕事から疲れて帰って来ても無理をしてしまうのは判っているので「また今度の夜会で」そう言って彼にキスをして、ティアノーズの屋敷へ帰って行った



オペラは昼過ぎからなので、以前ティナ達とお茶をしたレストランで待ち合わせをして軽く食事をする事になっている

今日の護衛も、カレンとラインハルトだった

ヴィクトリアは溜息を吐き「お父様にお願いしたのに」相変わらず騎士を伴う事への不満をドルフェルに向ける

「三人から、二人になったのです。我が侭言わないで下さい」

そう言うと逆に攻める様に

「ご不満なら、出掛けなければ宜しい。そうすれば旦那様や、私共も御身を心配せずに済みますし、この方々の手も煩わせる事もなく、平穏な一日が送れるので御座いますが?」

「・・・いつもありがとうございます、今日もよろしくお願いします」

騎士二人に頭を下げる


「私は、ヴィクトリア様に会えるのが嬉しいですよ」

カレンが笑いながらそう言うと「おい」気安いぞと、彼女を嗜めるラインハルトにカレンは真顔になり「失礼致しました」と頭を下げる

「どうして謝るの?私もカレンに会えるのを楽しみにしてるのよ」

ニッコリ笑うヴィクトリアの漂う色香に、思わずドキッとして赤くなるラインハルトは

(何だ?この前会った時と雰囲気がちがう・・・?妙に色っぽいというか・・)

気を付けようとするがついヴィクトリアに目がいってしまい、ドキドキと落ち着かない


三人は馬車に乗り込み、ティナとの待ち合わせのレストランへと向かう

「今日は随分と雰囲気が違いますね。とても大人っぽくて、その・・何だかドキドキします」

女性であるカレンがそう言うので、ラインハルトも心の中で激しく同意する。ヴィクトリアは笑い

「ドレスアップしているからかしら?今日のオペラには、お二人も同席して下さいね。ドルフェスに頼んで人数分お願いしているので」

そう言われて驚く二人だが「いえ、私達は護衛ですから、外で待機しております」ラインハルトがそう言うと

「もう用意してますので」

有無を言わさない様に微笑む彼女に(従うしかないか)そう思いラインハルトはヴィクトリアを見て

(それにしても・・・さっきから何なんだろう、この女性ヒトの色気は・・妙に意識してしまう)

美しく色気漂う彼女に可哀想にラインハルトは任務中、ずっと意識してドキドキと落ち着かない事になる



レストランに着き、予約の席に案内されるがティナはまだ来ていない

三人は先に飲み物だけ注文して彼女が来るのを待つのだが、少し遅れてティナが現れる

「お待たせしてすみません」

騎士二人に頭を下げ、ヴィクトリアに「お待たせ」と笑い掛け席に着く


ヴィクトリアは友達とこうして食事をしたり、出掛けたりする事にずっと憧れを抱いていたから嬉しかった

実はティナが居なかったので、すっぽかされて来ないのでは?と内心不安になりドキドキしていたのだ

「良かった、来てくれて」

ヴィクトリアが嬉そうにそうするので「そりゃあ来るわよ?約束してるんだから」と笑うティナ


四人で食事をしながら

「・・・ヴィクトリア、気になってたんだけどそのネックレス・・・」

誰も何も言わないので、騎士達二人は知ってるのかしら?と思いながらティナが尋ねると

「これね」

ヴィクトリアはネックレスに触り「ルシフェル様に買って貰ったの、素敵でしょう?」嬉しそうに笑う

「まあ、そうかな?って思ったけど・・・どうして木彫り?」

(普通宝石でしょ?どうして木彫りを・・・ルシフェル様もちょっと変わってるのかしら?)

なにせトーマスの友人なのだからとティナは思うが、ルシフェルも宝石を買おうと提案したのに断わられてしまった事を・・・この三人が知る由もない


「このネックレスは、連れて行って貰った海の周辺でしか栽培出来ない特別な木で作られてるの。虹色に輝いて凄く綺麗でしょう?だからこのネックレスを見るたび、初めてのデートの事を思い出せるし、何よりルシフェル様が初めて買ってくれたプレゼントだから、どんな宝石よりとても大切なの物なの」

嬉しそうに話すヴィクトリアに、そのネックレスがどれ程大切な物なのか三人はよく判った


ヴィクトリアの話しを聞き、ティナはふと考える

(・・・トーマスとの初デートって何処だったんだろう?)

幼い頃からよく一緒に遊んで、お供を連れて二人で出掛けたりしていたから、デートっていう感じがしなかったティナ

(今ではデートらしい事はしてるけど、それはいつからだったかしら?)

そんな事を考えながら、ティナはヴィクトリアとルシフェルの関係が羨ましかった


仲睦まじく寄り添って、お互いを思い遣って大事にしている二人を見ていると、自分もヴィクトリアの様に接すれば、トーマスはルシフェルの様になるのか?そう考え・・・(無理ね)と冷静に分析した

(結局私はヴィクトリアじゃないし、トーマスもルシフェル様ではないのだから)



食事を終え、オペラハウスに着きチケットを係りの人に見せると予約席へと案内してくれる

『えっ、嘘!?』

思わずティナとカレンは感嘆の声を上げる

このオペラハウスに十室しかないビップ席、いや、部屋だったからだ


三階に五部屋(下段と呼ぶ)四階に五部屋(上段と呼ぶ)設置されている特別個室で、軽く六人は入れるだろう広さ

舞台から一番後ろの真正面にドンっと設置されている為、舞台からは離れているが正面から舞台全体が見通せて圧巻だ

特別個室から両横にも個室ではないが、ズラッと二、三人用のビップ席が連なっている


このオペラハウスはオルテヴァール王国が誇る最大の劇場で、一階はフロントにレストランやパンフレット等のグッズ売り場等で、二階から観客席になっていて一般人は一階と二階のみ利用出来る

三階と四階が貴族しか利用出来ないのは一般人と区別する、それだけの理由でどれ程の大富豪でも二階しかオペラの席は取れない

貴族第一主義のオルテヴァール国だからこそ、こんな横暴が通るのである


「ここなの?こんな凄い所で見るの?」

カレンとティナは震えるが、四人が居る部屋は真ん中、下段で一番良い部屋だからだ

因みに上段の部屋は王族、公爵だけが利用出来る

ラインハルト、ティナ、ヴィクトリア、カレンと並び、イスではなく高級ソファーにゆったりと座って寛ぎながらオペラを見れる仕様になっている

人数分のオペラグラスだけでなく、飲み物のシャンパンや何故か軽食まで用意されていて

(なにこれ・・・一体、何処のホテルの部屋ですか?)

突っ込みを入れたくなるティナとカレン(部屋と言っても、舞台側には何も隔てるものはないのでボックス席と変わらない)


記憶を無くしているヴィクトリアにとっては、初めてのオペラなのでドキドキしていると

「・・・ヴィクトリア」

浮かれ過ぎて我を忘れてしまっていたティナは、少し顔を曇らせながら

「こんな凄い部屋を用意してくれたのは嬉しいんだけど、私には贅沢過ぎるわ。とても支払える金額じゃないもの」

伯爵令嬢のティナには、オペラを見るのに何百万も払いたくない・・・というか、払えない


「そんな、ここは私が用意した席だもの、支払いは私の方で・・・」

「それだと困るのよ?」

ティナは諌める様に

「貴方はティアノーズの名でここを借りただけでしょうけど、私は友達をして負い目を感じるの、困るの、判る?」

そう告げると驚くヴィクトリア


「これから何処か出掛ける度、またこうしてお金を掛けて豪華にされたら困るの。私達は友達でしょ?こんな事されたら、もう一緒に出掛ける事なんて出来ない」

ティナのその言葉にヴィクトリアは固まる

(えっ?なに、喧嘩?)

ヴィクトリアとティナの遣り取りを、折角今からオペラを楽しもうというのに?と思いながらジッと固唾と飲んで見守るカレンとラインハルト


「貴方にとってこの部屋を用意するのは、何て事無いのだろうけど・・・私は贅沢をしたい為に、貴方と付き合うんじゃないわ。対等な友人として付き合いたいの、貴方の取り巻きとしてじゃなくね」

ティナの言葉にズキンッと胸を痛めるヴィクトリア


取り巻きとは権力の有る者に媚諂って、その者から恩恵、利益を受ける者達の事でその関係性は主従に等しい

きっと悪女ヴィクトリアには居たのだろう、そしてそれをティナは目の当たりにしていたのだろうか?

『彼女達と自分を一緒にしないで欲しい』それはティナにとって屈辱以外無いのだから


「ご、ごめんなさい」

ヴィクトリアは、ティナに申し訳なく感じつつ

「貴方は初めて出来た友達だから、取り巻きだなんて思ってないわ。ただ・・・この部屋は、オペラの席を取るよう執事に頼んだら、この部屋になっただけなの」

ドルフェスも令嬢が利用するレベルの席を用意しようとしたが、親馬鹿のランドルが手を回しこの部屋になったのだ


「これからは気を付けるわ、貴方は私の大切な友達だもの」

ヴィクトリアの言葉にティナも「私も、貴方とも大事な友人の一人として、付き合って行きたい」だからこそ、ティナは苦言を呈したのだ

二人を見てカレンはホッとし、そしてティナに対しても好意を抱く


友情とは本音でぶつかり、お互いの気持ちを吐き出して解かり合えて初めて芽生えるもの

出来れば利益等の損得無しで付き合うのが一番良いのだが、貴族ではなかなかそれは難しい

だからこそティナはヴィクトリアに対し、侯爵令嬢と見るのではなく、大事な友人の一人として付き合おうとしている

これから二人は、お互いに大事な親友として友情を育んでいくのだから


ティナは気が強く、思った事を口にする性格

もちろん相手に気を遣うし言葉も選ぶが、それでも彼女を苦手と思う令嬢も居て、彼女自身それは仕方が無いと判っている

それでも、そんな自分の事が好きだと言ってくれる友人は沢山居る

そしてそんな友人達が、ヴィクトリアと友達になったと知ってティナを心配したのだ


トーマスの誕生パーティーの時も、ヴィクトリアが帰った後

『取り巻きになったりしないわよね?もしそんな事したら、友達を辞めるわ』

友人達は心配してそう牽制して来たのだ

ティナはただ記憶を無くしたヴィクトリアと接して、自然と友達になったのだが、何人かの友達はまだ記憶を無くしてからの彼女を知らない


(トーマスの誕生パーティーに来ていた友人達は、マルクとの遣り取りを見てヴィクトリアの見方は変わった)

だから、ヴィクトリアに忠告したのだ『自分は取り巻きでは無いから、今後、侯爵の権力を使って、贅沢な待遇は必要ない、困るのだと』と

この忠告はヴィクトリアを思っての、ティナの思い遣りと優しさだ・・・とは言ったものの、下段の部屋一人分の金額を伯爵令嬢のティナが全額払える訳はない


ティナは一般の指定席の金額をヴィクトリアに支払う事で許して貰う

「とてもじゃないけど、この席一人分支払うのは無理だわ。お父様に殺される」

月末の請求書を見て震える父を想像し、ティナは申し訳無い気持ちでそう伝えると

「もちろん、それで構わないわ。本当ならその金額も支払って貰わなくても大丈夫なのよ?」

ヴィクトリアも申し訳なさそうにそう伝えると「それは駄目、払える金額分はきちんと支払うわ」ティナはきっぱりと断る

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